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◆番外編◆ 消えないもの~side要~
#5
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一日一日が過ぎていく間、俺は仕事の忙しさを理由に、美菜に触れることから逃げていた。
秘書室にいる美菜も俺の忙しさを知っているから、特に何を言ってくるでもないが、美菜と一緒に眠るときも、先に眠ってしまう俺は、
きっと寂しい想いをさせてるんだろうことが分かっているのに、どうしても触れてしまうのが怖かった俺は気づかないフリをしてしまっていた。
自分でもヘタレだなとは思うが、そう簡単には性格なんて変わるもんじゃない。
美菜が夏目を好きなんじゃないかって思っていた時も、核心に触れてしまうのが怖くて逃げてたくらいだ。
やっと、美菜に好きだと言ってもらえたっていうのに、いつまでウジウジしているつもりだ?
今の世の中、バイなんて珍しくもないんだし、気にせずさっさと済ませちまえ。
美菜の知らないヤツならともかく、相手は夏目なんだぞ? お前は平気なのか?
そうやって、頭の中で自問自答を繰り返すことしかできない俺は、この日も副社長室に閉じこもって仕事に逃げていた。
溜まっていた書類もひと段落して、新商品の試作品やら来年オープン予定の商業施設への新店舗の進出やら戦略やら企画書やらに目を通している時だった。
いつもは美菜が持って来てくれる筈の午後の休憩時のコーヒーとチョコを夏目が運んで来て。
どういう訳だか中央に置かれた応接セットの革張りのソファへと腰を下ろして脚を組んでふんぞり返ってしまった夏目。
夏目がこういう態度を見せる時というのは、俺に何か言いたいことがある時だ。
夏目が言いたいことのおおよその見当がついていた俺は、重い脚取りで夏目の正面のソファへと同じように腰を下ろして、平静を装いつつ脚を組んでコーヒーのカップへと手を伸ばしてみれば……。
「要、いつまで美菜ちゃんのこと放置しておくつもりだ?」
「……なんのことだ?」
夏目に予想していたことを言われてしまい、やっぱりそうか、と思いながらも、コーヒーを口に含みつつ誤魔化すようなことしか言えなくて。
「『なんのことだ?』じゃねーよ。美菜ちゃんがどれだけ寂しい想いしてるか分かってんのか?
仕事中も溜息ばっかついてて、傍で見てるこっちの身にもなれよな。
今、木村にモーションかけられたら、美菜ちゃん、コロッと行っちゃうぞ?」
「……っ」
そんなどこまでもヘタレで情けない俺に向けて、夏目の容赦ない言葉が次々に胸に突き刺さってきて、痛くて痛くてしょうがない。
夏目の言う通りだって分かっていても、返す言葉が見当たらないから、唇を噛み締めることしかできない。
そんな俺に対して、夏目は休むことなく、弱めることなく強い口調で追い討ちをかけてくる。
「分かった。要がそんなんだったら、美菜ちゃんは俺が貰う。要が居るから遠慮して言わなかったけど、俺、美菜ちゃんのこと好きだし。木村にとられるくらいなら俺が貰う。それでいいんだよな!?」
そう言われて、『やっぱりそうだったのかよ』と、どこかで納得している自分が居て。
けれど、とるとか貰うとか、美菜を物みたいに言う夏目のことが無性に癇に障ってしまった俺は、コーヒーカップをガシャンとソーサーに乱暴に戻してしまっていて。
――美菜のことを簡単にどうにでもなるような女だと思っている夏目に、美菜がどうにかなって堪るか!
「……好きにしろ!」
ムシャクシャした俺は、口からも吐き捨てるように、低い声で放ってしまっていた。
秘書室にいる美菜も俺の忙しさを知っているから、特に何を言ってくるでもないが、美菜と一緒に眠るときも、先に眠ってしまう俺は、
きっと寂しい想いをさせてるんだろうことが分かっているのに、どうしても触れてしまうのが怖かった俺は気づかないフリをしてしまっていた。
自分でもヘタレだなとは思うが、そう簡単には性格なんて変わるもんじゃない。
美菜が夏目を好きなんじゃないかって思っていた時も、核心に触れてしまうのが怖くて逃げてたくらいだ。
やっと、美菜に好きだと言ってもらえたっていうのに、いつまでウジウジしているつもりだ?
今の世の中、バイなんて珍しくもないんだし、気にせずさっさと済ませちまえ。
美菜の知らないヤツならともかく、相手は夏目なんだぞ? お前は平気なのか?
そうやって、頭の中で自問自答を繰り返すことしかできない俺は、この日も副社長室に閉じこもって仕事に逃げていた。
溜まっていた書類もひと段落して、新商品の試作品やら来年オープン予定の商業施設への新店舗の進出やら戦略やら企画書やらに目を通している時だった。
いつもは美菜が持って来てくれる筈の午後の休憩時のコーヒーとチョコを夏目が運んで来て。
どういう訳だか中央に置かれた応接セットの革張りのソファへと腰を下ろして脚を組んでふんぞり返ってしまった夏目。
夏目がこういう態度を見せる時というのは、俺に何か言いたいことがある時だ。
夏目が言いたいことのおおよその見当がついていた俺は、重い脚取りで夏目の正面のソファへと同じように腰を下ろして、平静を装いつつ脚を組んでコーヒーのカップへと手を伸ばしてみれば……。
「要、いつまで美菜ちゃんのこと放置しておくつもりだ?」
「……なんのことだ?」
夏目に予想していたことを言われてしまい、やっぱりそうか、と思いながらも、コーヒーを口に含みつつ誤魔化すようなことしか言えなくて。
「『なんのことだ?』じゃねーよ。美菜ちゃんがどれだけ寂しい想いしてるか分かってんのか?
仕事中も溜息ばっかついてて、傍で見てるこっちの身にもなれよな。
今、木村にモーションかけられたら、美菜ちゃん、コロッと行っちゃうぞ?」
「……っ」
そんなどこまでもヘタレで情けない俺に向けて、夏目の容赦ない言葉が次々に胸に突き刺さってきて、痛くて痛くてしょうがない。
夏目の言う通りだって分かっていても、返す言葉が見当たらないから、唇を噛み締めることしかできない。
そんな俺に対して、夏目は休むことなく、弱めることなく強い口調で追い討ちをかけてくる。
「分かった。要がそんなんだったら、美菜ちゃんは俺が貰う。要が居るから遠慮して言わなかったけど、俺、美菜ちゃんのこと好きだし。木村にとられるくらいなら俺が貰う。それでいいんだよな!?」
そう言われて、『やっぱりそうだったのかよ』と、どこかで納得している自分が居て。
けれど、とるとか貰うとか、美菜を物みたいに言う夏目のことが無性に癇に障ってしまった俺は、コーヒーカップをガシャンとソーサーに乱暴に戻してしまっていて。
――美菜のことを簡単にどうにでもなるような女だと思っている夏目に、美菜がどうにかなって堪るか!
「……好きにしろ!」
ムシャクシャした俺は、口からも吐き捨てるように、低い声で放ってしまっていた。
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