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それぞれの思惑~後編~
#19
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♪゜・*:.。. .。.:*・♪
「あー、もー、良かったぁ。要が戻ってくる前に泣きやんでくれてぇ……。けど、いきなり泣き出しちゃうんだもん、びっくりしちゃったよぉ」
急に泣いてしまった私のことをなんとか泣き止まそうと、終始必死に慌てふためいていた優しい譲さん。
やっと泣き止んで涙を拭う私の姿に、心底ホッと胸を撫で下ろしているご様子だ。
私を泣かせたからといって、副社長にホルマリン漬けにされちゃったりする訳ないのに。
きっと、泣かしてしまった私のことをなんとか泣き止まそうとしてくれた、譲さんなりの優しさなんだろうと思う。
副社長にホルマリン漬けにされることはないとしても、もし、泣かしちゃったのが私じゃなく、美優さんだったら、どうだったんだろう……。
ふと、そんなことが頭の中に浮かんできてしまい、そんなことを考えてしまう自分が可笑しくなってきた。
そんなこと比べるまでもないというのに……。
だから、
「……ごめんなさい。なんかちょとジーンときちゃって」
へへッなんて自嘲気味に、何でもない風に答えた筈なのに。
「だったら、いいんだけどさぁ……。なんだかなぁ。要もそうだけど、美菜ちゃんも。二人ともなーんか遠慮がちっていうのかなぁ。お互い気持ちを抑えちゃってるように見えちゃうんだよなぁ?」
ついさっき思った通り、こういうことに関して鼻が利くらしい譲さんから飛び出した、きっと何気なく放ったのであろう言葉に、内心穏やかじゃない私は、それでもここで取り乱す訳にはいかなくて。
「……そうですかね?」
なんでもない風を装うって頑張ってはみたものの、結局は、こんなことくらいしか返せなかった。
「うん、そうだよ。……まぁ、付き合ってまだ日も浅いって言ってたし、仕方ないのかなぁ? でも、美菜ちゃんが泣くほど要のことを想ってくれてるのが分かって、安心したよ。色々あったけど、雨降って地固まるで結果オーライかなぁ……。あっ、そうだ。これ、渡しとこうと思ってたんだった」
さっきからずっと嫌な音をたて続けている鼓動が限界を訴えかけた頃、神のご加護か、何かを思い出した風な譲さんの関心が違うものに逸れたようで。
言いながら、白衣の左右にあるポケットに手を突っ込んでなにやら漁りはじめた譲さんが、小さな白い紙のような物を取り出したかと思えば、それを私に向けて差し出してきた。
譲さんが最後に言ってた『色々あったけど』というくだりが気にはなったものの。
とりあえず差し出されたものをなんだろうと受け取ると、それは譲さんの名刺で。
「まぁ、元は赤の他人なんだし。お互い言い辛いこととか、言葉が足りなくてすれ違っちゃったりして、不安になっちゃうこととかあると思うけどさぁ……。そんなの乗り越えて、二人には幸せになってほしいって思ってるんだ。
だから、もし困ったこととか不安なこととかあったら、いつでも相談にのるから。お守りだと思って持っててよ。ね?」
どこかはにかむような優しい笑顔を浮かべた譲さん。
そんな優しい笑顔を向けてくれる譲さんに優しく見詰められて、身構えていたせいで凝り固まっていた心が解《ほぐ》れてゆく。
さっきまで嫌な音をたてていた筈の心臓の鼓動までが穏やかさを取り戻して凪いでゆく。
「あー、もー、良かったぁ。要が戻ってくる前に泣きやんでくれてぇ……。けど、いきなり泣き出しちゃうんだもん、びっくりしちゃったよぉ」
急に泣いてしまった私のことをなんとか泣き止まそうと、終始必死に慌てふためいていた優しい譲さん。
やっと泣き止んで涙を拭う私の姿に、心底ホッと胸を撫で下ろしているご様子だ。
私を泣かせたからといって、副社長にホルマリン漬けにされちゃったりする訳ないのに。
きっと、泣かしてしまった私のことをなんとか泣き止まそうとしてくれた、譲さんなりの優しさなんだろうと思う。
副社長にホルマリン漬けにされることはないとしても、もし、泣かしちゃったのが私じゃなく、美優さんだったら、どうだったんだろう……。
ふと、そんなことが頭の中に浮かんできてしまい、そんなことを考えてしまう自分が可笑しくなってきた。
そんなこと比べるまでもないというのに……。
だから、
「……ごめんなさい。なんかちょとジーンときちゃって」
へへッなんて自嘲気味に、何でもない風に答えた筈なのに。
「だったら、いいんだけどさぁ……。なんだかなぁ。要もそうだけど、美菜ちゃんも。二人ともなーんか遠慮がちっていうのかなぁ。お互い気持ちを抑えちゃってるように見えちゃうんだよなぁ?」
ついさっき思った通り、こういうことに関して鼻が利くらしい譲さんから飛び出した、きっと何気なく放ったのであろう言葉に、内心穏やかじゃない私は、それでもここで取り乱す訳にはいかなくて。
「……そうですかね?」
なんでもない風を装うって頑張ってはみたものの、結局は、こんなことくらいしか返せなかった。
「うん、そうだよ。……まぁ、付き合ってまだ日も浅いって言ってたし、仕方ないのかなぁ? でも、美菜ちゃんが泣くほど要のことを想ってくれてるのが分かって、安心したよ。色々あったけど、雨降って地固まるで結果オーライかなぁ……。あっ、そうだ。これ、渡しとこうと思ってたんだった」
さっきからずっと嫌な音をたて続けている鼓動が限界を訴えかけた頃、神のご加護か、何かを思い出した風な譲さんの関心が違うものに逸れたようで。
言いながら、白衣の左右にあるポケットに手を突っ込んでなにやら漁りはじめた譲さんが、小さな白い紙のような物を取り出したかと思えば、それを私に向けて差し出してきた。
譲さんが最後に言ってた『色々あったけど』というくだりが気にはなったものの。
とりあえず差し出されたものをなんだろうと受け取ると、それは譲さんの名刺で。
「まぁ、元は赤の他人なんだし。お互い言い辛いこととか、言葉が足りなくてすれ違っちゃったりして、不安になっちゃうこととかあると思うけどさぁ……。そんなの乗り越えて、二人には幸せになってほしいって思ってるんだ。
だから、もし困ったこととか不安なこととかあったら、いつでも相談にのるから。お守りだと思って持っててよ。ね?」
どこかはにかむような優しい笑顔を浮かべた譲さん。
そんな優しい笑顔を向けてくれる譲さんに優しく見詰められて、身構えていたせいで凝り固まっていた心が解《ほぐ》れてゆく。
さっきまで嫌な音をたてていた筈の心臓の鼓動までが穏やかさを取り戻して凪いでゆく。
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