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8.鈴蘭のひみつ
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勢いよく学校を飛び出したものの、鈴蘭の家を知らないことに気づいた。
が、そこは委員長経験を生かす。五年生のとき、鈴蘭が体調不良で学校を休んだ日に急ぎの要件が書かれたプリントを持って行ったことがあるんだ。一年前の話だけど、記憶を頼りに歩いてみる。学校からさほど離れていなかったような……。
まだ学校がある時間だから、道を歩く小学生はいない。これまで皆勤賞だったから、はじめての「学校がある時間に街をうろうろしている」という状況に、どきどきしてしちゃうな。
通りがかった公園には、まだ幼稚園にも行っていないような小さな子とママが遊んでいた。たのしそうに遊んでいるけれど、そのママは自分の子どもではなく、別の方をちらちら見ていた。その視線を追ってみると……近くのベンチに、鈴蘭が座っていた。
「鈴蘭……!」
今にも消えてしまいそうな鈴蘭は、ランドセルをひざの上に置いて、ぼんやりと遠くを見ている。そして、顔を手でゴシゴシをこすって、ふぅと息をついていた。
話しかけていいか、ここまで来てもまだためらってしまう。でも、もう迷わない。鈴蘭に、必要ないって言われたら帰ろう。もし必要なら、隣にいたい。
あたしは大きく息を吸ってから公園に入り、鈴蘭に近づく。
「鈴蘭、だいじょうぶ……?」
だいじょうぶなわけないだろう、と自分でツッコミつつ、それしか声をかけられなかった。
「え、陽乃葉ちゃん!?」
めずらしく大きな声を出して、鈴蘭が立ち上がる。
「心配で、早退してきちゃった」
「陽乃葉ちゃん、無遅刻無欠席無早退なのに……」
なぜか残念そうに言う。あたしが皆勤賞なの、知ってたんだ。
「いや、この状況であたしの皆勤賞の心配しなくても」
鈴蘭のとぼけっぷりに、あたしはおもわず笑ってしまった。
でも、鈴蘭は笑わずに顔を伏せた。
「ごめん、陽乃葉ちゃん。私のせいでめいわくかけて。委員長だもんね、仕方ないよね」
どうやら、鈴蘭はあたしが委員長だから来てくれたと思ったらしい。
「違うよ、あたしが鈴蘭の側にいたかったから来ただけ。ジャマなら帰るから、遠慮なく言ってね」
あたしの言葉に、鈴蘭ははっと顔をあげる。
「ありがとう、陽乃葉ちゃん……ジャマなわけないよ」
鈴蘭はそう言ったきり、目をぎゅっと閉じて黙ってしまった。
「まぁまぁ、座って」
あたしはベンチに鈴蘭を座らせる。あたしも、隣に座った。
四月からこんなに暑くてだいじょうぶかなぁと関係ないことを心配しつつ、薄手の長袖のソデをまくった。
そのとき、さっき鈴蘭の様子をちらちら見ていたママが、子どもを連れて公園から出ていこうとしていたタイミングで目が合った。
ママは少し微笑んで、あたしに会釈してくれた。あたしも、反射的に会釈を返す。親子は公園を出て、のんびり歩いて帰っていった。
ただならぬ様子でひとり公園にいる鈴蘭を心配して、見守ってくれていたのかもしれない。でも、あたしが来たから安心して帰っていったんだ。
が、そこは委員長経験を生かす。五年生のとき、鈴蘭が体調不良で学校を休んだ日に急ぎの要件が書かれたプリントを持って行ったことがあるんだ。一年前の話だけど、記憶を頼りに歩いてみる。学校からさほど離れていなかったような……。
まだ学校がある時間だから、道を歩く小学生はいない。これまで皆勤賞だったから、はじめての「学校がある時間に街をうろうろしている」という状況に、どきどきしてしちゃうな。
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「鈴蘭……!」
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話しかけていいか、ここまで来てもまだためらってしまう。でも、もう迷わない。鈴蘭に、必要ないって言われたら帰ろう。もし必要なら、隣にいたい。
あたしは大きく息を吸ってから公園に入り、鈴蘭に近づく。
「鈴蘭、だいじょうぶ……?」
だいじょうぶなわけないだろう、と自分でツッコミつつ、それしか声をかけられなかった。
「え、陽乃葉ちゃん!?」
めずらしく大きな声を出して、鈴蘭が立ち上がる。
「心配で、早退してきちゃった」
「陽乃葉ちゃん、無遅刻無欠席無早退なのに……」
なぜか残念そうに言う。あたしが皆勤賞なの、知ってたんだ。
「いや、この状況であたしの皆勤賞の心配しなくても」
鈴蘭のとぼけっぷりに、あたしはおもわず笑ってしまった。
でも、鈴蘭は笑わずに顔を伏せた。
「ごめん、陽乃葉ちゃん。私のせいでめいわくかけて。委員長だもんね、仕方ないよね」
どうやら、鈴蘭はあたしが委員長だから来てくれたと思ったらしい。
「違うよ、あたしが鈴蘭の側にいたかったから来ただけ。ジャマなら帰るから、遠慮なく言ってね」
あたしの言葉に、鈴蘭ははっと顔をあげる。
「ありがとう、陽乃葉ちゃん……ジャマなわけないよ」
鈴蘭はそう言ったきり、目をぎゅっと閉じて黙ってしまった。
「まぁまぁ、座って」
あたしはベンチに鈴蘭を座らせる。あたしも、隣に座った。
四月からこんなに暑くてだいじょうぶかなぁと関係ないことを心配しつつ、薄手の長袖のソデをまくった。
そのとき、さっき鈴蘭の様子をちらちら見ていたママが、子どもを連れて公園から出ていこうとしていたタイミングで目が合った。
ママは少し微笑んで、あたしに会釈してくれた。あたしも、反射的に会釈を返す。親子は公園を出て、のんびり歩いて帰っていった。
ただならぬ様子でひとり公園にいる鈴蘭を心配して、見守ってくれていたのかもしれない。でも、あたしが来たから安心して帰っていったんだ。
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