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8.鈴蘭のひみつ
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混乱しつつ、あたしは職員室にいる先生に状況を伝えに行く。ぬいぐるみのことは伏せて、鈴蘭と野澤がもめごとを起こして、鈴蘭が教室を飛び出したとだけ話す。
いくらみんなが「ぬいぐるみくらい」って言っていても、本人が秘密にしたいなら勝手に言うべきじゃないよね。
「そんなことが……。ありがとう委員長、教えてくれて」
お母さんよりはだいぶ若い担任の松井先生は、困ったように眉をひそめていた。このあと松井先生は、家に電話するのかな。
あたしは職員室を出て、昇降口の下駄箱をチェックする。
鈴蘭の靴はなく、上履きが乱暴に押し込まれていた。
家に、帰っちゃったのかな。
あたしは、ふぅとため息をつく。
自分の行動が正しかったのか、わからなくなってきた。
状況の確認をして、松井先生に伝えて、自分は何食わぬ顔で教室に戻って真面目に午後からの授業を受ける。鈴蘭がどこかで泣いていると、うすうすわかっているのに。
鈴蘭のために、学校を飛び出そうかな。
そこで、もうひとりのあたしがささやく。
『委員長が、授業をサボっていいの?』
……よくないかも。
それに、あたしが鈴蘭の側にいたところで、鈴蘭の心は癒されるのだろうか? かえってジャマなんじゃないか?
言い訳をして、どうやっても動かない足を見て、自分にがっかりしてしまった。
「陽乃葉?」
顔をあげると、桐ケ谷が不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「あ、桐ケ谷」
「さっき、クラスの人……れいら? って子が走って外に出ていったけど、なんかあった?」
桐ケ谷もようやく鈴蘭の名前を覚えたらしい。
「あれ、桐ケ谷は教室にいなかったの?」
「なんか、給食食べたら大きい方したくなってトイレに」
がはは、とわざとらしくおじさんみたいな笑い方をする。
あたしは、ぬいぐるみのことは伏せてさっきの出来事を桐ケ谷に話した。
「いいのかよ陽乃葉。追いかけなくて。泣いてたよ」
桐ケ谷は、不思議そうな顔であたしを見つめてくる。
やっぱり、泣いてるんだ……。
「どう、しよう……」
自分がどうしたいのかわからなくて、頭の中が混乱している。なにをしたら正解なの? なにをすれば鈴蘭は笑顔になってくれるの?
「委員長だから、授業サボれないって?」
桐ケ谷に言われて、思わず身体が震える。
友だちより肩書きが大事なんじゃないかって、桐ケ谷に見透かされている気がした。
でも責めるような口調ではなく、あたしの気持ちに寄り添うような優しい声ではあった。しめつけられるような感覚のノドをむりやり開いて、あたしは言葉を発する。
「それもある……けど、とくべつ仲が良かったわけでもないし。今の鈴蘭にとって、あたしの存在が必要かわからなくて」
「必要でしょ」
きっぱりと、桐ケ谷は言った。
あたしは驚いて顔をあげる。
「こんなに心配して、真面目な委員長であることよりも友だちのために動くかどうか悩んでる陽乃葉が来てくれて、うれしいって思わない人じゃないでしょ、あの人」
「え、桐ケ谷って鈴蘭の友だちなの?」
名前もうろ覚えのくせに?
桐ケ谷はいや、と首を振った。
「俺のカン」
「カンかよ」
そのカンははたしてあてになるのか?
わからないけど、あたしの意思は固まった。
「ありがと、桐ケ谷!」
あたしは一度教室に戻る。
教室にやってきた松井先生に「早退します!」と告げ、ランドセルを持って教室をふたたび飛び出す。
「え、委員長!?」
驚いた松井先生の声には振り向かず、あたしは昇降口へ。
廊下を走っている途中、すれ違った桐ケ谷にピースサインをした。
桐ケ谷は、笑顔で「かっこいいぞ、陽乃葉!」と言ってくれた。
かっこいいって言われるのは、やっぱりうれしい。
いくらみんなが「ぬいぐるみくらい」って言っていても、本人が秘密にしたいなら勝手に言うべきじゃないよね。
「そんなことが……。ありがとう委員長、教えてくれて」
お母さんよりはだいぶ若い担任の松井先生は、困ったように眉をひそめていた。このあと松井先生は、家に電話するのかな。
あたしは職員室を出て、昇降口の下駄箱をチェックする。
鈴蘭の靴はなく、上履きが乱暴に押し込まれていた。
家に、帰っちゃったのかな。
あたしは、ふぅとため息をつく。
自分の行動が正しかったのか、わからなくなってきた。
状況の確認をして、松井先生に伝えて、自分は何食わぬ顔で教室に戻って真面目に午後からの授業を受ける。鈴蘭がどこかで泣いていると、うすうすわかっているのに。
鈴蘭のために、学校を飛び出そうかな。
そこで、もうひとりのあたしがささやく。
『委員長が、授業をサボっていいの?』
……よくないかも。
それに、あたしが鈴蘭の側にいたところで、鈴蘭の心は癒されるのだろうか? かえってジャマなんじゃないか?
言い訳をして、どうやっても動かない足を見て、自分にがっかりしてしまった。
「陽乃葉?」
顔をあげると、桐ケ谷が不思議そうな顔でこっちを見ていた。
「あ、桐ケ谷」
「さっき、クラスの人……れいら? って子が走って外に出ていったけど、なんかあった?」
桐ケ谷もようやく鈴蘭の名前を覚えたらしい。
「あれ、桐ケ谷は教室にいなかったの?」
「なんか、給食食べたら大きい方したくなってトイレに」
がはは、とわざとらしくおじさんみたいな笑い方をする。
あたしは、ぬいぐるみのことは伏せてさっきの出来事を桐ケ谷に話した。
「いいのかよ陽乃葉。追いかけなくて。泣いてたよ」
桐ケ谷は、不思議そうな顔であたしを見つめてくる。
やっぱり、泣いてるんだ……。
「どう、しよう……」
自分がどうしたいのかわからなくて、頭の中が混乱している。なにをしたら正解なの? なにをすれば鈴蘭は笑顔になってくれるの?
「委員長だから、授業サボれないって?」
桐ケ谷に言われて、思わず身体が震える。
友だちより肩書きが大事なんじゃないかって、桐ケ谷に見透かされている気がした。
でも責めるような口調ではなく、あたしの気持ちに寄り添うような優しい声ではあった。しめつけられるような感覚のノドをむりやり開いて、あたしは言葉を発する。
「それもある……けど、とくべつ仲が良かったわけでもないし。今の鈴蘭にとって、あたしの存在が必要かわからなくて」
「必要でしょ」
きっぱりと、桐ケ谷は言った。
あたしは驚いて顔をあげる。
「こんなに心配して、真面目な委員長であることよりも友だちのために動くかどうか悩んでる陽乃葉が来てくれて、うれしいって思わない人じゃないでしょ、あの人」
「え、桐ケ谷って鈴蘭の友だちなの?」
名前もうろ覚えのくせに?
桐ケ谷はいや、と首を振った。
「俺のカン」
「カンかよ」
そのカンははたしてあてになるのか?
わからないけど、あたしの意思は固まった。
「ありがと、桐ケ谷!」
あたしは一度教室に戻る。
教室にやってきた松井先生に「早退します!」と告げ、ランドセルを持って教室をふたたび飛び出す。
「え、委員長!?」
驚いた松井先生の声には振り向かず、あたしは昇降口へ。
廊下を走っている途中、すれ違った桐ケ谷にピースサインをした。
桐ケ谷は、笑顔で「かっこいいぞ、陽乃葉!」と言ってくれた。
かっこいいって言われるのは、やっぱりうれしい。
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