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「モデルなんて、本当にわたしにできるのでしょうか?」
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「モデルにならない?」
「え?」
「凛子ちゃん、モデルを目指してみないか? プロの」
「プロのモデル… ですか? わたしが!?」
いきなりなにを言い出すのだろう?
訝《いぶか》しげに見返すわたしに、ヨシキさんはいつになく真面目な表情で続けた。
「はじめて撮影したときから、感じてたんだ。凛子ちゃんには『華』があるって」
「オーラ?」
「凛子ちゃんはモデルの素質があるよ。背も高くてスタイルもいいし、容姿にも恵まれてる。日舞やバレエをやってただけあって、姿勢もいいし仕草も洗練されてる。運動神経もモデル勘も、抜群にいい。礼儀正しくて人当たりもいいのに、負けん気も強い。
なにより、そこにいるだけでパッと周りが輝くような、オーラがある。それは、努力じゃどうにもならない、天性のものなんだよ。
凛子ちゃんならきっとやれる。プロのモデルとして!」
「そんな… わたしなんか」
「絶対できるって。今度スタジオで撮らせてくれないか」
「え? スタジオですか?」
「オレの勤め先のスタジオ。社長に頼めば空いてるときにでも借りれるし、白ホリで凛子ちゃんをキチンと撮ってみたい」
「はい。それは嬉しいですけど」
「うちはモデル事務所とのつき合いもあるし、いちばんふさわしい事務所に凛子ちゃんを紹介することだってできる。モデル事務所だって、凛子ちゃんを見れば欲しがると思うよ。絶対モデルになれるって」
「そ、そうですか?」
「じゃあ約束な。日取りはまた連絡するよ」
「はっ… はい」
返事を確認して、ヨシキさんはお別れのキスをくれた。
モデル?
プロ?
わたしが?!
こうして、バカンスの最後は思いがけない展開となった。
突然のできごとに戸惑ったまま、わたしはヨシキさんに見送られながら家に入っていった。
そして、ヨシキさんのこの言葉は、そのあとのわたしたちを、大きく変えることになったのだ。
『モデルかぁ。ヨシキさんはああ言っていたけど、本気かな?
モデルなんて、本当にわたしにできるのかな?』
居間で荷物の整理をしながら、わたしはさっきのヨシキさんとの会話を、何度も何度も思い返していた。
『モデル』とひと口に言っても、いろいろなジャンルがあるはず。
華やかなファッションショーのステージに立つモデルから、イベント会場で案内をするモデル。テレビコマーシャルのモデルに、雑誌のモデル。
雑誌にしても、いろいろな年齢向けのファッション誌や情報誌があるし、男性向け雑誌でエッチなポーズをとっているグラビアモデルも、モデルには違いない。
いったいわたしには、どんなモデルが向いているのだろう?
そもそも本当に、わたしはモデルになれるの?
雲を掴むような話に、全然現実味が湧いてこない。
「凛子、旅行どうだった?」
そんなことを考えながら、グズグズと片づけをしているところに、母がやってきた。
はたと思い出して、わたしはバッグのなかから、おみやげの箱を取り出す。
昨日ヨシキさんからもらった、天城産のわさびの漬け物だ。
「あら、ありがとう。まあ、『藤喜の大吟醸わさび漬け』ね。お父さまの大好物なのよ。喜ぶわよ」
そう言っておみやげを受け取った母は、旅行の感想を訊いてきた。
つづく
「え?」
「凛子ちゃん、モデルを目指してみないか? プロの」
「プロのモデル… ですか? わたしが!?」
いきなりなにを言い出すのだろう?
訝《いぶか》しげに見返すわたしに、ヨシキさんはいつになく真面目な表情で続けた。
「はじめて撮影したときから、感じてたんだ。凛子ちゃんには『華』があるって」
「オーラ?」
「凛子ちゃんはモデルの素質があるよ。背も高くてスタイルもいいし、容姿にも恵まれてる。日舞やバレエをやってただけあって、姿勢もいいし仕草も洗練されてる。運動神経もモデル勘も、抜群にいい。礼儀正しくて人当たりもいいのに、負けん気も強い。
なにより、そこにいるだけでパッと周りが輝くような、オーラがある。それは、努力じゃどうにもならない、天性のものなんだよ。
凛子ちゃんならきっとやれる。プロのモデルとして!」
「そんな… わたしなんか」
「絶対できるって。今度スタジオで撮らせてくれないか」
「え? スタジオですか?」
「オレの勤め先のスタジオ。社長に頼めば空いてるときにでも借りれるし、白ホリで凛子ちゃんをキチンと撮ってみたい」
「はい。それは嬉しいですけど」
「うちはモデル事務所とのつき合いもあるし、いちばんふさわしい事務所に凛子ちゃんを紹介することだってできる。モデル事務所だって、凛子ちゃんを見れば欲しがると思うよ。絶対モデルになれるって」
「そ、そうですか?」
「じゃあ約束な。日取りはまた連絡するよ」
「はっ… はい」
返事を確認して、ヨシキさんはお別れのキスをくれた。
モデル?
プロ?
わたしが?!
こうして、バカンスの最後は思いがけない展開となった。
突然のできごとに戸惑ったまま、わたしはヨシキさんに見送られながら家に入っていった。
そして、ヨシキさんのこの言葉は、そのあとのわたしたちを、大きく変えることになったのだ。
『モデルかぁ。ヨシキさんはああ言っていたけど、本気かな?
モデルなんて、本当にわたしにできるのかな?』
居間で荷物の整理をしながら、わたしはさっきのヨシキさんとの会話を、何度も何度も思い返していた。
『モデル』とひと口に言っても、いろいろなジャンルがあるはず。
華やかなファッションショーのステージに立つモデルから、イベント会場で案内をするモデル。テレビコマーシャルのモデルに、雑誌のモデル。
雑誌にしても、いろいろな年齢向けのファッション誌や情報誌があるし、男性向け雑誌でエッチなポーズをとっているグラビアモデルも、モデルには違いない。
いったいわたしには、どんなモデルが向いているのだろう?
そもそも本当に、わたしはモデルになれるの?
雲を掴むような話に、全然現実味が湧いてこない。
「凛子、旅行どうだった?」
そんなことを考えながら、グズグズと片づけをしているところに、母がやってきた。
はたと思い出して、わたしはバッグのなかから、おみやげの箱を取り出す。
昨日ヨシキさんからもらった、天城産のわさびの漬け物だ。
「あら、ありがとう。まあ、『藤喜の大吟醸わさび漬け』ね。お父さまの大好物なのよ。喜ぶわよ」
そう言っておみやげを受け取った母は、旅行の感想を訊いてきた。
つづく
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