上 下
54 / 77
8th stage

逃げちゃダメなんだけどお茶がない

しおりを挟む
そりゃ、、、
栞里ちゃんのことは、なんとかしてやりたい。
心の底からそう思う。
でも、ぼくにはどうしてやる事もできない。
彼女の両親の離婚を止めさせる事も、お姉さんと仲直りさせてやる事も、裏サイトへのいじめの書き込みをやめさせる事も、なんの力もないぼくなんかに、できるわけがない!

『おまえは栞里ちゃんの人生に、責任持てるのか?』
『その子がDVとか、家庭内不和で家出してるとして、おまえに、それをちゃんと解決してやる覚悟と力は、あるのか?』
『中途半端にやさしくされて、その後に見捨てられる方が、余計に傷つくだろ』

今さらながら、ヨシキの言葉が心に突き刺さる。

『だれも信じられない!』

そう叫んだ栞里ちゃんが、ぼくの事を信じてくれて、こうしてすべてを打ち明けてくれてるってのに、ぼくにはそれを解決してやる力もないし、彼女に真っ正面から向き合う根性すらない。

なんてダメな人間なんだ。ぼくは!
こうして好きな女の子に頼られても、いっしょになってズルズルと、その子の闇に引きずり込まれてしまう!

「あ、あっ。やっぱりお茶買ってくるよ。なんか、喉が渇いちゃって…」

長い沈黙にいたたまれなくなり、そう言って素早く立ち上がると、すがる様に目で追う栞里ちゃんを見ないふりして、急いで財布を取り出し、ぼくは玄関を飛び出した。

そう。

逃げ出したのだ、、、orz

あまりの重圧に耐えかねて、ぼくは栞里ちゃんから逃げたのだ!

『逃げちゃダメだ!』
『逃げちゃダメだ!』
『逃げちゃダメだ!』
『逃げちゃダメだ!』

そんなアニメの主人公みたいなモノローグが、頭のなかでグルグル回ってるけど、気持ちとはうらはらに、からだは栞里ちゃんからどんどん遠ざかってく。

どこまでもヘタレな自分。

いや。
『ヘタレ』なんて言葉じゃすまない。
なんかもう、、、 ぐしゃぐしゃ。
人間として最低!

そんな自分に、恋とかできるわけがない。
人を愛する、資格なんかない!



 マンションを出たぼくは、向かいのコンビニにフラフラと足を運んだ。

店内は別世界だった。
意味もなく明る過ぎるコンビニのなかは、商品のCMが軽快な音楽に乗って陽気に垂れ流され、本棚には流行の服が載ったファッション誌やコミック雑誌なんかが置いてあり、ゲーム雑誌の表紙にはアニメタッチの高瀬みくが、こちらを向いて誘う様に微笑んでる。
悩みなんかなんにもない様な人たちが、店内でのんびりと時間をつぶしたり、買い物をしたりしてる。
レジのなかの店員はちょっと気だるそうに、でもキチンと仕事をこなしてて、穏やかな日常の風景がそこには、ある。
冷たくまたたく蛍光灯あかりが灯るこの雑多な空間は、重圧に潰されかけてたぼくに、ひとときの安らぎを与えてくれた。
ここにいると、なんだかホッとする。
とりあえず思考をストップさせ、本棚に並んでた『リア恋plus』の攻略本をパラパラとめくったあと、ぼくは機械的にドリンクの置いてある冷蔵庫を開け、いつも買う麦茶を手に取って、レジに持っていく。

いつものルーチン。
今はそんな日常が、愛おしかった。


 買い物をすませ、コンビニを出ても、すぐに部屋に戻る気力は起きなかった。
大通りをノロノロと歩き、時々立ち止まっては自分のマンションを見上げ、ぼくはボケ~っと考えてた。

『天使?』

はじめて栞里ちゃんを見た時、マジで思った。
彼女の寝顔は清らかな天使そのもので、いっさいのけがれなんてなかった。
14歳の彼女の中に、ぼくはまるでマンガのヒロインみたいな、清らかさを見てた。
それは自分勝手な妄想なんだけど、心のどこかで彼女がまだ清らかな、『バージン』だってのを、期待してた。

バージンって、なに?
だれも足を踏み入れてない、雪の積もった道路みたいな、綺麗なもの?
そこに自分がはじめて足跡つけられるみたいな、優越感?

正直に言おう。

栞里ちゃんが『ビッチ』になったいきさつを聞いた時、ぼくは一瞬、彼女に裏切られた気分になってしまったんだ。
ぼくが夢見てた、求めてた、佐倉栞里の『天使の様な清らかさ=バージン』を、彼女自身が簡単に捨て去ったという事が、許せなかったんだ。

つづく
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

二兎に追われる者、一兎に絞るのは難しい。

イカタコ
ライト文芸
 ある日突然、ごくごく普通の高校生・石口至のもとにクラスメイトの今見まみが泊まることとなる。  その数日後、至とクラスメイトの相坂ミユは、至とまみの関係を疑うようになり、急接近する。  その後に知り合ったミユの姉、マヤによって関係はさらに捻じれてゆく。  果たして、至は最終的にまみとミユのどちらを選ぶのか? それとも、違う女子に目移りしてしまうのか?  日常かつドロ沼なラブコメここにある。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

隣の人妻としているいけないこと

ヘロディア
恋愛
主人公は、隣人である人妻と浮気している。単なる隣人に過ぎなかったのが、いつからか惹かれ、見事に関係を築いてしまったのだ。 そして、人妻と付き合うスリル、その妖艶な容姿を自分のものにした優越感を得て、彼が自惚れるには十分だった。 しかし、そんな日々もいつかは終わる。ある日、ホテルで彼女と二人きりで行為を進める中、主人公は彼女の着物にGPSを発見する。 彼女の夫がしかけたものと思われ…

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

JC💋フェラ

山葵あいす
恋愛
森野 稚菜(もりの わかな)は、中学2年生になる14歳の女の子だ。家では姉夫婦が一緒に暮らしており、稚菜に甘い義兄の真雄(まさお)は、いつも彼女におねだりされるままお小遣いを渡していたのだが……

処理中です...