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【本編】浮気男に別れを切り出したら号泣されている。
そして怒られた。
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夏川との経緯を説明した。
話し終わった後で公平的な意見が聞きたかったとと思い出し、かなり自分の主観が入ってしまったと思った。
「えっと暴力はなかったよ」
「「・・・」」
「暴論はあったけど暴言もなかった」
「・・・ハードルが低すぎるよ・・・紅葉君」
マスターは呆れながらおつまみを作って出してくれた。
それをつまみながら苦笑を浮かべる。
「それに暴力ならあっただろう」
そう言う四季は本当に怒っていて、気まずそうに紅葉は視線を逸らす。
「あー・・・いや。そうなんですけど。
一方の話を聞くのと言うのは違う気がして。
・・・今の僕は苦手意識が強くてそういう話方になってしまうと思ったんだ」
「そんなこと気にしなくても良いんだよ」
「・・・。それで・・・大学に入ったらどうなったんだ」
不機嫌そうな声。
こんな話つまらないだろう。
それ以前に四季も夏川の肩を持つ側の人なのかもしれない。
「すみません。つまらないはなし話でしたね、この話は」
「っごめん。・・・紅葉君を責めてるんじゃ無いんだ」
そういうといつもの四季でホッとした。
心配してくれたからこそ怒ってくれたらしい。
「続きを聞きたい」
「本当に楽しい話しじゃないんです。
・・・高校、大学に続いて進路を告げなかったんですけど、それが不愉快だったらしくて、大学を勝手に調べてきた挙げ句横柄になっていったんです。
通学は一緒。家に帰ってきても一緒。
サークルは禁止だって言ってきました。
今から思えばおかしいって分かるんですけど、当時はそれでも浮気されるよりも嫉妬されてる方が愛情が分かりやすかったので受け入れていました」
なんだか自分で言っていても信じられなかった。
「従順に聞いてれば良いとも思う反面。
なんだかプログラミングまでいずれ取られそうな気がしてた。
就職先も同じ所に決めさせられて、同じ仕事させられるんじゃないかって」
「・・・、」
「実際、僕が在学中にフリーランスで仕事をし始めたとき滅茶苦茶怒ってた」
「随分お子様だな」
「・・・、すみません。
けど3年になったら就職が始まるし、何としてもあの時じゃないと駄目だったんだ」
「違う違う!・・・紅葉君は立派だよ。
そうじゃなくて、君が頑張ろうとしているのに足を引っ張るような真似をしているのが子供って言ってるの」
本当に腹立たし気に言うマスターに苦笑した。
「少なくともうちは事情を聞いて駄目だとは思ってない。
うちの技術者たちもOK出しただろう?」
初めて四季から仕事をもらう前に面談をした際、そこには四季のほかに四季の会社の開発部に所属する、冬海昴(ふゆうみ すばる)36歳と春野すみれ(はるの すみれ)29歳がいた。
彼らは面談までスキルシートを見せてもらっていなかったようで、年齢や技術を聞いて難色を示していた。
それでも必死にアピールして、出来ることを話したが信じてもらえなかった。
そこで春野がこんな時どうするか?と、質問を繰り返してきた。
冬海もそれに続き質問をしてきてある程度質疑をし納得したようだった。
その結果。
1週間朝の8時から15時まで時間を作れるか?という質問に無理やり時間を作った。
勿論、夏川を怒らせるというのはわかっていた。
けれど、知ったことではない。
母親に言っても碌なことにならないことは目に見えているので父親に20歳も越えたことだし、1週間泊まりこむことを告げた。15時以降は時間が空くのでそれから大学も行くことを伝え何とか時間を作った。
父親には母親と夏川にはどこにいるか絶対に教えないでほしいと伝えると、思うことがあるのか何も言わずに頷いてくれた。
約束の1週間は大変だったけど本当に楽しかった。
社会人としてのマナーを教えらたり、情報の管理の仕方やコンプライアンスなどの研修を受けた。
そして、2日目から早速開発に携わる。
1日目の様子から春野からは『新人研修と変わらないわね』と言われたが、2日目からの作業は驚かれた。
『同じ環境なの?』と、尋ねられるくらいにほとんど聞かずにできた。
どうやら質問できる人間かを確かめたかったようだ。
確かに古いアプリケーションではあったが、興味があって触ったことがあったと話した。
わからないことはすぐに聞きますといい、結果しばらくして困難にぶち当たったら直ぐに聞いた。
どこにデータがあるのか?とか、ルールなどだ。
楽しかったけれどそんな1週間はあっという間に過ぎてしまった。
結果、四季の勤める「Rnism」開発部の末席にフリーランスとして席を置くことができた。
それからは力量を確かめるためと称して、結構意地悪な案件を振られた。
それを時には質問をしながらこなしていき、在宅に切り替え1年がたつ頃には『まぁどこに出してもフリーランスとしてやっていけるんじゃない?』と春野に言われたときはうれしかった。
同時に見てくれていた冬海には『うちに就職してくれれば口利きしてあげるよ』とまで言ってくれた。
一瞬、大企業である「Rnism」に就職なんてすごい!と、心が揺らいだ。
しかし、それを断りまずは自分で出来るところまでやってみたいと話し、フリーランスとして独り立ちしたのだ。
だが。
「僕が四季さんのところで働くようになってから夏川はそれまで以上にしつこくなりました」
「何があったんだ」
「夏川に知られたくないので、父にしか教えませんでした。母は夏川に何か吹き込まれているのか厳しく当たってきます。『親に言えない仕事は何なの』とか、父親には言っていることを伝えると『子供みたいに仲間外れして!』と怒られることも。
学校でもそういうことを周りに風潮し始め、挙句僕の部屋に入り浸るようになってしまった。
耐えられなくなって僕は一人暮らしをしようと心に決めたのですが、そしたら・・・家を出えるなら夏川が一緒でなければだめだと親に言われてしまったのです。
父親に訴えましたが父親はこれ以上騒ぐと母親がおかしくなると、だから仕事部屋に鍵をつけてほしいと言われました。
父親には夏川が心配で過干渉になっているように見えているようでした。
実際、集中するとそれが切れるまでずっとパソコンに向かい続けます。
平気で12時超えることもあって、両親がそれを心配しているのを笑ってごまかしていたのも僕です。
僕も説明してなかったからいけなかったのかもしれないです。
正直夏川が付いてきては意味がないのですが、仕事部屋には入らないという約束を守ってくれて、母親という問題が一つ減るならそれも良いと思ってしまいました」
「はぁ・・・20歳を超えた大人がそれくらいで」
「ずっと幼いころから何でしょう?親が心配するのもわかるよ」
「だが、ならその2人暮らしの家から出たんだ」
最もな質問だ。
紅葉は言いたくはなかったがあの時のことを思い出す。
★★★
夏川と同居開始。
2人で始まった暮らしは最初は思ったより良かった。
勿論、最初だけ。
初めての四季からの仕事をもらう時に、コンプライアンスについて指導があったのだ。
まず部屋の出入りは自由にしないことや、PCのつけっぱなしにしない事を言われている。
だから、部屋の出入りを夏川も禁止にしたのだが、その辺りから口うるさくなった。
やたら誰と出かけたとか気にするようになってきた。
仕事だと言っても『学生に仕事をさせるなんて碌な会社じゃない』とか、紅葉にGPSを持たせてきた。
口うるさいと思いつつ紅葉はこれをのんだ。
紅葉はGPSをつけても怪しいところに出入りはしていない。
夏川は仕事部屋に入ってこない事だけは守っていた。
ここの契約費用も家賃も水道光熱費も全て支払っているのに本当に五月蝿い。
しかし、それも紅葉が心配という理由だから無視は出来なかった。
そのうちに夏川も仕事をするようになり、それで言われた言葉「一日1回寝れないのはお前の仕事回しが出来ないからじゃねぇの」と、言われたのはムカついたけれどその通りだだとも思った。
夏川は言った後に謝ってきたけれど。
聞けば仕事でタスク管理と業務中の仕事のあり方について言われていて、紅葉の仕事の進め方や2人の時間が取れないのは可笑しいと思うようになったそうだ。
なによりも紅葉の体調が心配だと言われた。
フリーランスの開発者なので、会社勤めの開発者より後がなく、無理をしないというのは難しい話であった。
だから、完全に徹夜をなくすだとかは出来るだけ夏川の要望に沿うようにした。
強引に話を進められなし崩しのように付き合っている関係だったが、紅葉も夏川を嫌いなわけじゃない。
勿論、今は恋人としての愛情は無いに等しく、幼馴染としての友情とかの方が強い。
でももし、夏川が心を入れ直してくれたなら、過去は気付いてない事にして、夏川を受け入れようと思う。
それからは家事も2人でやって休日には出掛けたりもしていた。
私生活が満たされ仕事も順調だった。
そんなある日。
その日は徹夜明けだった。
フラフラとリビングに行くと開けられた寝室。
手前には脱ぎ捨てられた衣服が散らばっていた。
「・・・?」
眠い頭でそれを拾っていき寝室を覗いた瞬間時が止まった。
紅葉の目に飛び込んできたのは、2人の男が絡み合って寝ている姿だった。
それをみても紅葉は「あー治ったわけではなかったんだな」と、思いつつも自分を含んだ3人前の昼食を作った。
その間に起きてきた間男?は紅葉に気付くと今度は紅葉にベタベタと触れてきて、その手を外す。
「あまり触らないで」
「汚物扱い?じゃ風呂入れてよ」
「その扉をでて右の部屋の左側が浴室」
「そうじゃないって。入れさせろって言ってんの」
そう言った腰を抱き寄せてきた。
「??あんたその歳になっても1人で風呂にはいれないのか」
男はニヤニヤと笑いながらうなづいた。
「そうそう」
「悪いけど夜勤明けで疲れてるんだ。そんな面倒くさいことしたくない」
そう言いながら寝室にいる夏川を起こした。
「渉。おきて」
夜勤明けでいつもよりも乱暴に揺り起こした。
その後ろについてきた間男は紅葉の腰に腕を回してくる。
一度外してもしつこいそれに面倒くさくて放置して、まだ起きない夏川を揺さぶる。
「渉!」
「しばらく寝かしてやんなよ。
そいつ昨日は馬鹿みたいに腰振って俺の中に出してたから疲れてんだよ」
「・・・」
あけすけな言い方に眉を顰める。
「こんな美人がいて浮気するとか信じらんねぇけど。
お前もさせてやってねぇんじゃねぇの?」
「!やっめっ」
間男の手が紅葉の尻を鷲掴み、そのまま夏川の隣に押し倒された。
その瞬間初めて夏川に押し倒された日のことがフラッシュバックしてしまった。
「ぁ・・・ぁ・・・」
逃げようともがこうとするもおびえているからか、うまく力が入らない。
それどころか男を触発させてしまう結果にしかならなかったようで、紅葉の体は簡単に組み敷かれた。
恐怖で動けないのを勝手に勘違いして服に手を伸ばされた瞬間。
手が伸びてきた。
「なにして、・・・!」
夏川の抱きしめてくる腕が強くなって咄嗟に振り解いていた。
「っ・・・、今日は帰るから」
突き飛ばすようにベッドから飛び出る。
「っ紅葉!お前の家はここだろう!!!」
そんな声にも止まらずに紅葉は実家に帰った。
実家に帰り夏川贔屓の母親に手短に「夜勤明け。渉また浮気した。来ても呼ばないで」と、説明した。
言葉少なく言っただけだが、両親は理解してくれたようでその日は何も言われなかった。
どうやら夏川の浮気癖を知っていたような2人に腹が立ったが、心配気な両親の顔を見て紅葉は何も言わずに休んだ。
それから1日たって、部屋に戻った。
部屋には夏川は出勤しているらしく居なかった。
それから仕事部屋に籠る日が続いた。
夏川のお願いで夕飯は一緒にしたり、朝は顔を合わせたりした事も全てパス。
仕事を言い訳に部屋から一歩も出なかった。
夏川は営業のために昼間はいないから丁度いい。
そしたら家の中でやたら間男が泊まるようになった。
間男はこの前の男とは、・・・いや。
毎回違う男だった。
最初は威勢が良く『渉は俺の方が好きみたい。アンタはお払い箱。いや、ATMかな』などといってくるのに、『そんなに具合が悪いのか?俺が試してあげるよ』などと言いながら、体を擦り寄らせてくる。
あの時は徹夜明けで、それもこんな事されるとは思わなかったから抵抗が遅れてしまったが、あれからは家の中で遭遇しても適度に距離が取れるようになった。
自分の家にいても休まらない日が続いた。
そんなある日。
家の中に気配がなかった為に、タスクの切れ目に昼間に風呂に入った。夜は夏川と顔合わせたく無いからだ。
風呂を出てさっぱりしてビール片手に仕事部屋に戻ろうとすると、そこにはどうやったのか少し空いたまま仕事部屋の扉が。
「っ」
嫌な予感がして駆け寄ればパソコンに触ろうとしている見知らぬ男がいて、今まで感じた事のない怒りが湧き出た。
男は例に漏れず擦り寄ってきてそんな男の腕を掴み玄関の外に放り出した。
靴とか財布とか知ったことではない。
玄関の鍵を閉めいつもはかけない内鍵もかけた。
チャイムの音を最小音にし、ヘッドフォンをつけて仕事を再開させた。
それからもう我慢できなくなった紅葉は賃貸を探したのだ。
今振り返ってみてると、快適な生活にホッとする。
学生の頃にハッキリと断れば良かったのだと思う。
紅葉がもっと言えていれば、夏川もこんなことにはならなかったのかもしれない。
紅葉が家を出る理由は夏川だ。
それなのに、普通のマンションはダメだとか事務所にしろだとか言ってきた。
ふざけるなと思ったが、これ以上の出費は痛手ある。
だから、紅葉はウィクリーマンションでベッドも置けないくらいの小さな部屋を借りた。
マンションを借りた当初、在宅の紅葉に食事以外の家事全般も紅葉に継続しろというので、2つ返事返した。
勿論、紅葉自身ではなくハウスキーパーに依頼している。
ウィークリーマンションで仕事をしていることを知っているが、それからは夏川は文句を言わなくなった。
きっとハウスキーパーが部屋を片付けているから、それを紅葉の気配と勘違いしているのだろう。
★★★
「想像以上のクズだな」
「だね」
四季とマスターは頷きあっている。
「そうですね」
「クズだってわかっているんだ」
「それはまぁ」
「ならもっと拒絶をしないと」
マスターの言いたいことはわかる。
しかし、それが面倒に感じて眉をひそめた。
「僕の言い方では足りませんかね・・・」
「確かに普通だったら嫌がっているとわかっているが。
あの男は紅葉君を支配したがっている」
「そうだね。聞いているだけだけど。・・・部屋を片付けているのがハウスキーパーだって気づいたらやばいんじゃない?」
「!!」
まさかハウスキーパーを襲うなんてこともあるのだろうか。
クズ男ではあるが夏川は大企業の営業部に所属する人間だ。
そんな男がそんなうかつなことをするだろうか?
だが下半身の緩さにひやりとしたその瞬間。
四季は少し考えた後、こちらを見てくる。
「1か月。うちに出社して仕事をしないかい?」
「え」
「今入っている仕事をメインにしてくれて構わないから。
紅葉君が依頼を半月で仕上げているのはタイムスタンプでわかるからね」
「・・・・・、すみません」
「いや。フリーランスとはそういうものだろ?
それに、ほかの仕事をしてるんじゃないのか」
その通りでこくりとうなずいた。
「でも・・・出社してどうするんです?」
「その間にうちの寮に入ってもらおうかなって」
「寮・・・ちょっと待ってください。よくわかりません」
「オートロックで部屋には鍵付き。
食事も出るしお風呂も好きな時間に入っていい。
それでセキュリティの高いところにいられるならよいだろう?」
駅前でのことや今の話を聞いて心配をしてくれているのだろう。
「でも」
「あ。表向きは契約社員ね。さすがに」
「四季さんにそこまで迷惑をかけられません!」
「なに言ってるんだ?君はもう君だけのものじゃない」
「・・・うわぁ・・・」
マスターが意味ありげにドン引きしている。
紅葉の方はよくわからなくて眉をひそめた。
「こちらは君が担当してくれるという業務がいくつも列をなして待っているんだ。
その予定を崩されたら困る」
「!・・・っけどあれくらいなら冬海さんや春野さんが」
「彼らならできるけど若くて君みたい理解能力が高い人は今うちにいないんだ。
せめて来年度新人がくるまでいてくれないと」
とは言ってくれるが、そういう場合は契約社員を雇えばいいだけではないか。
だが・・・まさに渡りに船だった。
オートロックであることや、「Rnism」の社員寮とならば簡単に侵入しようとは思わないだろう。
「・・・お願いします」
そう言うと四季はようやくほっとしたようだった。
「職権乱用だよねぇ」
「・・・本当に大丈夫なんですか?四季さんの立場は・・・」
経験の浅い紅葉にも通常ではありえないことがわかる。
心配してそう尋ねるもにこやかに微笑まれた。
「大丈夫だよ。
・・・それよりも紅葉君はもう成人しているんだ。
嫌なことや駄目なことははっきり断る。
面倒だからと楽な方に逃げない。それはいずれ仕事にも影響するとわかっただろう?」
「ぅ・・・はい」
「君は仕事となればできる子なんだからしっかりしないと」
「はい」
これまでも『心配』とこんこんと説得されることはあった。
四季はそんな人と何ら変わらないはずなのに信用したいと思えるのだった。
┬┬┬
一人称が崩れてました。
紅葉→僕
四季→俺
四季は社外では紅葉のことを紅葉君と呼び社内では秋山さん呼びです。
話し終わった後で公平的な意見が聞きたかったとと思い出し、かなり自分の主観が入ってしまったと思った。
「えっと暴力はなかったよ」
「「・・・」」
「暴論はあったけど暴言もなかった」
「・・・ハードルが低すぎるよ・・・紅葉君」
マスターは呆れながらおつまみを作って出してくれた。
それをつまみながら苦笑を浮かべる。
「それに暴力ならあっただろう」
そう言う四季は本当に怒っていて、気まずそうに紅葉は視線を逸らす。
「あー・・・いや。そうなんですけど。
一方の話を聞くのと言うのは違う気がして。
・・・今の僕は苦手意識が強くてそういう話方になってしまうと思ったんだ」
「そんなこと気にしなくても良いんだよ」
「・・・。それで・・・大学に入ったらどうなったんだ」
不機嫌そうな声。
こんな話つまらないだろう。
それ以前に四季も夏川の肩を持つ側の人なのかもしれない。
「すみません。つまらないはなし話でしたね、この話は」
「っごめん。・・・紅葉君を責めてるんじゃ無いんだ」
そういうといつもの四季でホッとした。
心配してくれたからこそ怒ってくれたらしい。
「続きを聞きたい」
「本当に楽しい話しじゃないんです。
・・・高校、大学に続いて進路を告げなかったんですけど、それが不愉快だったらしくて、大学を勝手に調べてきた挙げ句横柄になっていったんです。
通学は一緒。家に帰ってきても一緒。
サークルは禁止だって言ってきました。
今から思えばおかしいって分かるんですけど、当時はそれでも浮気されるよりも嫉妬されてる方が愛情が分かりやすかったので受け入れていました」
なんだか自分で言っていても信じられなかった。
「従順に聞いてれば良いとも思う反面。
なんだかプログラミングまでいずれ取られそうな気がしてた。
就職先も同じ所に決めさせられて、同じ仕事させられるんじゃないかって」
「・・・、」
「実際、僕が在学中にフリーランスで仕事をし始めたとき滅茶苦茶怒ってた」
「随分お子様だな」
「・・・、すみません。
けど3年になったら就職が始まるし、何としてもあの時じゃないと駄目だったんだ」
「違う違う!・・・紅葉君は立派だよ。
そうじゃなくて、君が頑張ろうとしているのに足を引っ張るような真似をしているのが子供って言ってるの」
本当に腹立たし気に言うマスターに苦笑した。
「少なくともうちは事情を聞いて駄目だとは思ってない。
うちの技術者たちもOK出しただろう?」
初めて四季から仕事をもらう前に面談をした際、そこには四季のほかに四季の会社の開発部に所属する、冬海昴(ふゆうみ すばる)36歳と春野すみれ(はるの すみれ)29歳がいた。
彼らは面談までスキルシートを見せてもらっていなかったようで、年齢や技術を聞いて難色を示していた。
それでも必死にアピールして、出来ることを話したが信じてもらえなかった。
そこで春野がこんな時どうするか?と、質問を繰り返してきた。
冬海もそれに続き質問をしてきてある程度質疑をし納得したようだった。
その結果。
1週間朝の8時から15時まで時間を作れるか?という質問に無理やり時間を作った。
勿論、夏川を怒らせるというのはわかっていた。
けれど、知ったことではない。
母親に言っても碌なことにならないことは目に見えているので父親に20歳も越えたことだし、1週間泊まりこむことを告げた。15時以降は時間が空くのでそれから大学も行くことを伝え何とか時間を作った。
父親には母親と夏川にはどこにいるか絶対に教えないでほしいと伝えると、思うことがあるのか何も言わずに頷いてくれた。
約束の1週間は大変だったけど本当に楽しかった。
社会人としてのマナーを教えらたり、情報の管理の仕方やコンプライアンスなどの研修を受けた。
そして、2日目から早速開発に携わる。
1日目の様子から春野からは『新人研修と変わらないわね』と言われたが、2日目からの作業は驚かれた。
『同じ環境なの?』と、尋ねられるくらいにほとんど聞かずにできた。
どうやら質問できる人間かを確かめたかったようだ。
確かに古いアプリケーションではあったが、興味があって触ったことがあったと話した。
わからないことはすぐに聞きますといい、結果しばらくして困難にぶち当たったら直ぐに聞いた。
どこにデータがあるのか?とか、ルールなどだ。
楽しかったけれどそんな1週間はあっという間に過ぎてしまった。
結果、四季の勤める「Rnism」開発部の末席にフリーランスとして席を置くことができた。
それからは力量を確かめるためと称して、結構意地悪な案件を振られた。
それを時には質問をしながらこなしていき、在宅に切り替え1年がたつ頃には『まぁどこに出してもフリーランスとしてやっていけるんじゃない?』と春野に言われたときはうれしかった。
同時に見てくれていた冬海には『うちに就職してくれれば口利きしてあげるよ』とまで言ってくれた。
一瞬、大企業である「Rnism」に就職なんてすごい!と、心が揺らいだ。
しかし、それを断りまずは自分で出来るところまでやってみたいと話し、フリーランスとして独り立ちしたのだ。
だが。
「僕が四季さんのところで働くようになってから夏川はそれまで以上にしつこくなりました」
「何があったんだ」
「夏川に知られたくないので、父にしか教えませんでした。母は夏川に何か吹き込まれているのか厳しく当たってきます。『親に言えない仕事は何なの』とか、父親には言っていることを伝えると『子供みたいに仲間外れして!』と怒られることも。
学校でもそういうことを周りに風潮し始め、挙句僕の部屋に入り浸るようになってしまった。
耐えられなくなって僕は一人暮らしをしようと心に決めたのですが、そしたら・・・家を出えるなら夏川が一緒でなければだめだと親に言われてしまったのです。
父親に訴えましたが父親はこれ以上騒ぐと母親がおかしくなると、だから仕事部屋に鍵をつけてほしいと言われました。
父親には夏川が心配で過干渉になっているように見えているようでした。
実際、集中するとそれが切れるまでずっとパソコンに向かい続けます。
平気で12時超えることもあって、両親がそれを心配しているのを笑ってごまかしていたのも僕です。
僕も説明してなかったからいけなかったのかもしれないです。
正直夏川が付いてきては意味がないのですが、仕事部屋には入らないという約束を守ってくれて、母親という問題が一つ減るならそれも良いと思ってしまいました」
「はぁ・・・20歳を超えた大人がそれくらいで」
「ずっと幼いころから何でしょう?親が心配するのもわかるよ」
「だが、ならその2人暮らしの家から出たんだ」
最もな質問だ。
紅葉は言いたくはなかったがあの時のことを思い出す。
★★★
夏川と同居開始。
2人で始まった暮らしは最初は思ったより良かった。
勿論、最初だけ。
初めての四季からの仕事をもらう時に、コンプライアンスについて指導があったのだ。
まず部屋の出入りは自由にしないことや、PCのつけっぱなしにしない事を言われている。
だから、部屋の出入りを夏川も禁止にしたのだが、その辺りから口うるさくなった。
やたら誰と出かけたとか気にするようになってきた。
仕事だと言っても『学生に仕事をさせるなんて碌な会社じゃない』とか、紅葉にGPSを持たせてきた。
口うるさいと思いつつ紅葉はこれをのんだ。
紅葉はGPSをつけても怪しいところに出入りはしていない。
夏川は仕事部屋に入ってこない事だけは守っていた。
ここの契約費用も家賃も水道光熱費も全て支払っているのに本当に五月蝿い。
しかし、それも紅葉が心配という理由だから無視は出来なかった。
そのうちに夏川も仕事をするようになり、それで言われた言葉「一日1回寝れないのはお前の仕事回しが出来ないからじゃねぇの」と、言われたのはムカついたけれどその通りだだとも思った。
夏川は言った後に謝ってきたけれど。
聞けば仕事でタスク管理と業務中の仕事のあり方について言われていて、紅葉の仕事の進め方や2人の時間が取れないのは可笑しいと思うようになったそうだ。
なによりも紅葉の体調が心配だと言われた。
フリーランスの開発者なので、会社勤めの開発者より後がなく、無理をしないというのは難しい話であった。
だから、完全に徹夜をなくすだとかは出来るだけ夏川の要望に沿うようにした。
強引に話を進められなし崩しのように付き合っている関係だったが、紅葉も夏川を嫌いなわけじゃない。
勿論、今は恋人としての愛情は無いに等しく、幼馴染としての友情とかの方が強い。
でももし、夏川が心を入れ直してくれたなら、過去は気付いてない事にして、夏川を受け入れようと思う。
それからは家事も2人でやって休日には出掛けたりもしていた。
私生活が満たされ仕事も順調だった。
そんなある日。
その日は徹夜明けだった。
フラフラとリビングに行くと開けられた寝室。
手前には脱ぎ捨てられた衣服が散らばっていた。
「・・・?」
眠い頭でそれを拾っていき寝室を覗いた瞬間時が止まった。
紅葉の目に飛び込んできたのは、2人の男が絡み合って寝ている姿だった。
それをみても紅葉は「あー治ったわけではなかったんだな」と、思いつつも自分を含んだ3人前の昼食を作った。
その間に起きてきた間男?は紅葉に気付くと今度は紅葉にベタベタと触れてきて、その手を外す。
「あまり触らないで」
「汚物扱い?じゃ風呂入れてよ」
「その扉をでて右の部屋の左側が浴室」
「そうじゃないって。入れさせろって言ってんの」
そう言った腰を抱き寄せてきた。
「??あんたその歳になっても1人で風呂にはいれないのか」
男はニヤニヤと笑いながらうなづいた。
「そうそう」
「悪いけど夜勤明けで疲れてるんだ。そんな面倒くさいことしたくない」
そう言いながら寝室にいる夏川を起こした。
「渉。おきて」
夜勤明けでいつもよりも乱暴に揺り起こした。
その後ろについてきた間男は紅葉の腰に腕を回してくる。
一度外してもしつこいそれに面倒くさくて放置して、まだ起きない夏川を揺さぶる。
「渉!」
「しばらく寝かしてやんなよ。
そいつ昨日は馬鹿みたいに腰振って俺の中に出してたから疲れてんだよ」
「・・・」
あけすけな言い方に眉を顰める。
「こんな美人がいて浮気するとか信じらんねぇけど。
お前もさせてやってねぇんじゃねぇの?」
「!やっめっ」
間男の手が紅葉の尻を鷲掴み、そのまま夏川の隣に押し倒された。
その瞬間初めて夏川に押し倒された日のことがフラッシュバックしてしまった。
「ぁ・・・ぁ・・・」
逃げようともがこうとするもおびえているからか、うまく力が入らない。
それどころか男を触発させてしまう結果にしかならなかったようで、紅葉の体は簡単に組み敷かれた。
恐怖で動けないのを勝手に勘違いして服に手を伸ばされた瞬間。
手が伸びてきた。
「なにして、・・・!」
夏川の抱きしめてくる腕が強くなって咄嗟に振り解いていた。
「っ・・・、今日は帰るから」
突き飛ばすようにベッドから飛び出る。
「っ紅葉!お前の家はここだろう!!!」
そんな声にも止まらずに紅葉は実家に帰った。
実家に帰り夏川贔屓の母親に手短に「夜勤明け。渉また浮気した。来ても呼ばないで」と、説明した。
言葉少なく言っただけだが、両親は理解してくれたようでその日は何も言われなかった。
どうやら夏川の浮気癖を知っていたような2人に腹が立ったが、心配気な両親の顔を見て紅葉は何も言わずに休んだ。
それから1日たって、部屋に戻った。
部屋には夏川は出勤しているらしく居なかった。
それから仕事部屋に籠る日が続いた。
夏川のお願いで夕飯は一緒にしたり、朝は顔を合わせたりした事も全てパス。
仕事を言い訳に部屋から一歩も出なかった。
夏川は営業のために昼間はいないから丁度いい。
そしたら家の中でやたら間男が泊まるようになった。
間男はこの前の男とは、・・・いや。
毎回違う男だった。
最初は威勢が良く『渉は俺の方が好きみたい。アンタはお払い箱。いや、ATMかな』などといってくるのに、『そんなに具合が悪いのか?俺が試してあげるよ』などと言いながら、体を擦り寄らせてくる。
あの時は徹夜明けで、それもこんな事されるとは思わなかったから抵抗が遅れてしまったが、あれからは家の中で遭遇しても適度に距離が取れるようになった。
自分の家にいても休まらない日が続いた。
そんなある日。
家の中に気配がなかった為に、タスクの切れ目に昼間に風呂に入った。夜は夏川と顔合わせたく無いからだ。
風呂を出てさっぱりしてビール片手に仕事部屋に戻ろうとすると、そこにはどうやったのか少し空いたまま仕事部屋の扉が。
「っ」
嫌な予感がして駆け寄ればパソコンに触ろうとしている見知らぬ男がいて、今まで感じた事のない怒りが湧き出た。
男は例に漏れず擦り寄ってきてそんな男の腕を掴み玄関の外に放り出した。
靴とか財布とか知ったことではない。
玄関の鍵を閉めいつもはかけない内鍵もかけた。
チャイムの音を最小音にし、ヘッドフォンをつけて仕事を再開させた。
それからもう我慢できなくなった紅葉は賃貸を探したのだ。
今振り返ってみてると、快適な生活にホッとする。
学生の頃にハッキリと断れば良かったのだと思う。
紅葉がもっと言えていれば、夏川もこんなことにはならなかったのかもしれない。
紅葉が家を出る理由は夏川だ。
それなのに、普通のマンションはダメだとか事務所にしろだとか言ってきた。
ふざけるなと思ったが、これ以上の出費は痛手ある。
だから、紅葉はウィクリーマンションでベッドも置けないくらいの小さな部屋を借りた。
マンションを借りた当初、在宅の紅葉に食事以外の家事全般も紅葉に継続しろというので、2つ返事返した。
勿論、紅葉自身ではなくハウスキーパーに依頼している。
ウィークリーマンションで仕事をしていることを知っているが、それからは夏川は文句を言わなくなった。
きっとハウスキーパーが部屋を片付けているから、それを紅葉の気配と勘違いしているのだろう。
★★★
「想像以上のクズだな」
「だね」
四季とマスターは頷きあっている。
「そうですね」
「クズだってわかっているんだ」
「それはまぁ」
「ならもっと拒絶をしないと」
マスターの言いたいことはわかる。
しかし、それが面倒に感じて眉をひそめた。
「僕の言い方では足りませんかね・・・」
「確かに普通だったら嫌がっているとわかっているが。
あの男は紅葉君を支配したがっている」
「そうだね。聞いているだけだけど。・・・部屋を片付けているのがハウスキーパーだって気づいたらやばいんじゃない?」
「!!」
まさかハウスキーパーを襲うなんてこともあるのだろうか。
クズ男ではあるが夏川は大企業の営業部に所属する人間だ。
そんな男がそんなうかつなことをするだろうか?
だが下半身の緩さにひやりとしたその瞬間。
四季は少し考えた後、こちらを見てくる。
「1か月。うちに出社して仕事をしないかい?」
「え」
「今入っている仕事をメインにしてくれて構わないから。
紅葉君が依頼を半月で仕上げているのはタイムスタンプでわかるからね」
「・・・・・、すみません」
「いや。フリーランスとはそういうものだろ?
それに、ほかの仕事をしてるんじゃないのか」
その通りでこくりとうなずいた。
「でも・・・出社してどうするんです?」
「その間にうちの寮に入ってもらおうかなって」
「寮・・・ちょっと待ってください。よくわかりません」
「オートロックで部屋には鍵付き。
食事も出るしお風呂も好きな時間に入っていい。
それでセキュリティの高いところにいられるならよいだろう?」
駅前でのことや今の話を聞いて心配をしてくれているのだろう。
「でも」
「あ。表向きは契約社員ね。さすがに」
「四季さんにそこまで迷惑をかけられません!」
「なに言ってるんだ?君はもう君だけのものじゃない」
「・・・うわぁ・・・」
マスターが意味ありげにドン引きしている。
紅葉の方はよくわからなくて眉をひそめた。
「こちらは君が担当してくれるという業務がいくつも列をなして待っているんだ。
その予定を崩されたら困る」
「!・・・っけどあれくらいなら冬海さんや春野さんが」
「彼らならできるけど若くて君みたい理解能力が高い人は今うちにいないんだ。
せめて来年度新人がくるまでいてくれないと」
とは言ってくれるが、そういう場合は契約社員を雇えばいいだけではないか。
だが・・・まさに渡りに船だった。
オートロックであることや、「Rnism」の社員寮とならば簡単に侵入しようとは思わないだろう。
「・・・お願いします」
そう言うと四季はようやくほっとしたようだった。
「職権乱用だよねぇ」
「・・・本当に大丈夫なんですか?四季さんの立場は・・・」
経験の浅い紅葉にも通常ではありえないことがわかる。
心配してそう尋ねるもにこやかに微笑まれた。
「大丈夫だよ。
・・・それよりも紅葉君はもう成人しているんだ。
嫌なことや駄目なことははっきり断る。
面倒だからと楽な方に逃げない。それはいずれ仕事にも影響するとわかっただろう?」
「ぅ・・・はい」
「君は仕事となればできる子なんだからしっかりしないと」
「はい」
これまでも『心配』とこんこんと説得されることはあった。
四季はそんな人と何ら変わらないはずなのに信用したいと思えるのだった。
┬┬┬
一人称が崩れてました。
紅葉→僕
四季→俺
四季は社外では紅葉のことを紅葉君と呼び社内では秋山さん呼びです。
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