浮気男に別れを切り出したら号泣されている。【番外編更新準備中】

みゆきんぐぅ

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【本編】浮気男に別れを切り出したら号泣されている。

想像以上の歓迎に驚いている。

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クライアントである四季に誘われて訪れたBAR『黄昏』。
そこで、彼氏?元彼・・・?へのうやむやの対応について叱られた紅葉。
だがそれは最初だけで話せば話すほど四季とマスターに慰められていった。
『言いなりにならず、自分の場所を作ろうとするのは良いことだ。頑張った』とか『逃げる事は時に重要だ』とか。
けれど、同時に『やはり何も言わなければ変わらない』と、窘められた。
そんな言葉に時間が経つほどにやはり話すのではなかったと後悔した。
四季やマスターが夏川寄りの発言をしたわけではない。
紅葉は面倒くさがりだが人の顔色をよく見る。
故に、2人が何かを感じ取ったように感じた。

・・・失敗したな。

矛盾しているかもしれないが、夏川や周りに言ったことが正しく伝わらず曲げられることを不満だと思っていることを聞いて欲しいが、同情してほしい訳ではないのだ。
2人の様子を思い返すとそんな風に思ってしまった。

「・・・これならいつもの会話の方が楽だったかも知れない」

四季はおしゃべりでオンラインミーティングになると話が止まない。
勿論約束された時間枠が30分ならその時間内なのでだが、要件が話し終わっても時間が終わるまでずっと話しているのだ。
クライアントである四季を無下にすることもできずに話は止まないことに、徹夜明けだったりするとうんざりすることもあるのだが、哀れみの目で見られるよりもマシに感じてしまったのだ。
しかし、だ。

「・・・はぁ。・・・何言っているんだ・・・これから好意に甘えるのに・・・僕は勝手だな」

ため息をつくと無意識にパソコンデスクに掛けて電源を入れようとした自分にハッとした。
今の紅葉にはプログラミングをして気を晴らそうとできるそんな時間がない。

数分前に四季に渡された段ボール箱をちらりと見る。
早く引っ越しのために荷物を纏めなくては。
下には四季が待っているのだから。

★★★

契約社員を勧められ社員寮の話が出たのは金曜日の夜。
社員寮の部屋に空きがあったとしても事務手続きがあるのは当然で、それがシステム開発部の部長がすぐさまどうこう出来るわけがない。
かろうじて部長であるため契約社員の手続き若干早いかもしれないが、どちらにしても金曜の夜に話を受けて土曜日の朝に通っている筈がないのだ。
冷静に考えればそうだろうが頭が働いていなかったようだ。

昨日は心配した2人に、ウィークリーマンションもオートロックであり大丈夫だと言ったが、逆上した男がどういう手段をとるかと懇々と説明された。
2人があまりにも過保護にするので自分も男だと訴えたところ、今度は「自分が優位に立っていると思っている男が振られた場合」と言い換えられてしまった。
それは四季だけでなくマスターにまで『四季はお金持ってるから大丈夫だよ』と謎のフォローを受け、『コレに遠慮するよりも自分の体第一優先に考えた方が良い』と言われた。
高校生の時に襲われたときはまだ子供と言えたが、愛人(?)を連れ込み一緒に襲ったのは言い逃れ出来ないという。この話も2人に言われるまで夏川と愛人に襲われそうだったなんて気づかなった。

そういわれると確かに恐怖もあるし、『絶対無い』と言い切れないのが今の夏川である。
そんなこんなで2人に言いくるめられた紅葉は昨晩はビジネスホテルに泊まったわけだ。
そしてチェックアウトギリギリまで寝ようとしていた紅葉は朝5時に起こされた。
何事かと思ったら夏川が居ないであろうこの時間に、早々に引っ越しをするように勧められたのである。

眠い頭で考えても確かに昨日はマンションに張られることを懸念し帰らなかったのに、昼間呑気に引っ越しをしていたら、避けようとしていたことに最悪、ぶち当たってしまうかもしれない。
そんなわけで酒の勢いで同情を引くようなことを言ってしまった自分に自己嫌悪しながらも、引っ越しを急いだわけだ。

で・・・寮の手配が進まない今。
決まったのは準備が出来るまでは四季の家の空いている一室に寝泊まりすることになったのだ。
荷物を鍵付きの部屋に置き終わり四季を見上げ、ここにくるまで何度となく聞いた言葉をもう一度訪ねてしまう。

「あの・・・本当に良いんですか?」
「別に構わない。・・・と言うか俺の方が社員寮を勧めたのに悪いな」
「そんな。金曜日にお話をいただいて、土曜の朝なんて無理ですよ。それに僕は部外者なんですから」
「部外者じゃない。契約社員だろう?
それと昨日も言ったがうち以外の仕事もして貰って構わない。一応出社の時は後ろに人が通らない位置に配置するし、俺の家にいる間は紅葉君にあてた部屋に俺は近寄らないから」
「それは心配していません」

正直なところ、同じ屋根のしたに暮らしていた夏川よりも四季の信頼度は高い。
しかし、即返事をした紅葉に四季は苦笑した。

「普通は気にすることだよ。
正直なところを言えばうちの仕事を『HRYM』の社員がいる家でされていたのは困る」
「!」

そういわれてサーっと血の気が引いた。

「大丈夫。
紅葉君がそんなことをするような人間じゃないし、パソコンのセキュリティはちゃんとしてくれていると思っている」

『Rnism』と『HRYM』は様々な業種を手掛けているがかぶっている所もある。
紅葉も夏川がどこのなんの営業なのかわかっていないが、もしかしたら四季とライバルなのかもしれないのだ。
信用問題には気を付けていたはずだが、同居人にも配慮が欠けていた。

そんな時にふと夏川の連れ込んだ男が仕事部屋に入っていたことを思い出す。

紅葉は印刷をしたりしないし、あの時パソコンはロックが掛かったままだった。
男が何か媒体を持っているようには見えなかったしパソコン本体は机の奥に隠すように設置してあり、
簡単に届かない。・・・はずだ。
でも『もしも』を考えると体が冷えていった。

「っ・・・も・・・申し訳ございませんっ」

そう言って頭を下げた。
どうしよう。
打算的になってしまうが、ここで仕事を切られてしまっては安定が揺るぐのは必至だ。
それにもし四季が他社に情報セキュリティの認識が甘い人間だと知らせた場合、確実に仕事はなくなる。
昨日までウィクリーマンションに戻って平気だと思っていたのは、それなりに収入が安定して外に出なければ問題がなかったからだ。
途端に目の前が真っ暗になった気がした。

「紅葉」
「っ」

いつの間にかそばに来ていた四季にそっと背中を撫でられる。
咄嗟に上を見ると心配気な眼差しに、恐怖はなかったが焦りが生じた。

「紅葉!」
「ご・・・め」
「謝らなくていい」
「!」

きっと抱き寄せてくれようとしたのだろう。
しかし、四季はその手を引っ込めそばを離れた。
どうしていいか分からなくなって、視線が自然と下に向いてしまう。
それはこちらに四季が戻ってきても上げられなかった。
すると。
パサリと毛布を掛けられる。

「あぁ。おなかがすいたな。昼はデリバリーで構わないか?」
「っ」
「ここはなんでもあるぞ」

そういいながら四季は部屋を入っていく。
先ほど案内をされたリビングに向かったようで、どかりとソファーに座り込んだ音がした。

「おーい。そんなことしていると特上寿司か鰻にするぞ?」

それは間違いなく紅葉を気遣ってくれた行動だった。
こみ上げてくるものにを必死に抑えながら、大きく深呼吸をする。

「はい。ごちそうさせてください」
「ばーか。引っ越し祝いなんだ。俺が出すに決まっているだろう?」
「いいえ。家賃だと思ってください」

そちらに向かうと四季の前に掛けた。

「あの。さっきの・・・すみません。配慮が足りませんでした。気を付けます」
「ん?
あぁ。そうだな。まぁそんなわけで社内で働くときは支給パソコンもそうだけど持ち込みパソコンの管理もしっかりしておくんだぞ」
「はい」
「・・・。・・・まぁ・・・そんな失敗をして他社から信用が得られなくなったらうちで雇ってやるから」
「・・・、」
「冬海も春野も紅葉を・・・っと・・・紅葉君を気に入っているから」
「別に呼び捨てでも構いません。年上ですし」

本心からそういったのだが四季は少し不満げに眉間にしわを寄せる。

「会社では『さん』呼びがマナーだ。・・・それに、そんな年は離れていないはずだ」
「えっと・・・四季さんはお幾つ・・・あぁ・・・年齢を聞くのはダメなんでしたね」

昨今何で〇〇ハラスメントになるかわからない。
とりあえず共通して言えるのは、人が不快になることはしないは最もだが仕事に関係がないことは話さないが大切だったりする。・・・そうだ。
これはコンプライアンスで習った。
だが、今はプライベートと仕事の中間であろう。
ジッと四季を見ていると不満そうに話してくれた。

「31だ。25からしたらオッサンだろうが」
「31歳」
「なんだ」
「落ち着いて見えますね」
「・・・それはオッサンに見えると肯定しているわけか」

ジト目で見てくる夏川に噴出したが慌てて否定をする紅葉。

「ち・・・違います!」
「ふん。紅葉。お前にはたんまり面倒な仕事を割り振ってやるから覚悟しておけ」

なんだか怒らせてしまったようだ。
その後も謝ったが結局引っ越し祝いと称した寿司は奢らせてもらえなかった。

★★★

それから『Rnism』に出勤をしたのは2日後のことだった。
久しぶりに来た会社。
数年前、胸を躍らせて初出社した時のことがよみがえる。
懐かしさもあるが、今日は別の意味で緊張している。

四季に案内されて入ったオフィスは以前と少し間取りと人も変わっていた。
中には冬海と春野以外にも顔見知りがいて、紅葉に気づくと喜んでこちらに手を振ってくれる。
それに会釈をしながら中に入っていく。

それから朝礼で四季に契約社員だと紹介をされ、紅葉は皆に挨拶をした。

「秋山紅葉です。こちらでは数年前にインターンシップとしてお世話になっておりました。
また皆さんとお仕事出来ることを嬉しく思います。
短い期間ですがよろしくお願いいたします」

そう言って頭を下げると、以前お世話になった先輩が手を挙げた。

「入社はしないのか?」

揶揄うように言われたがそれに悪意を感じなかった。

「えっと」
「俺は是非してもらいたいんだがな」

そう四季が答えると『部長には聞いてないですー』という声が聞こえてくる。
相変わらずここの開発部は仲がよさそうでクスリと笑った。

「今はまだ経験を積みたいと思っています。
それに、私の技術では皆さんに追いつけないかもしれませんし」
「あのD社の汚・・・じゃなくて、独自のコーディングをされたパッケージをたった数日で根幹部分だけでも理解した癖によく言うわ」

今度は別の先輩がケタケタと笑った。
それは褒め言葉でありなんだか気恥ずかしい。

「まぁ。また一緒に仕事出来るのが嬉しいな」
「あぁ」
「一緒に頑張ろうぜ!」

そんな風に言ってくれる先輩方に紅葉は嬉しくなる。
紅葉はそんなみんなに挨拶をしながら内心『コネかよって思われてないみたいで安心した・・・』と、ほっとするのだった。

┬┬┬
急激にお気に入りとしおりをいただいて驚いております。
(めっちゃ偶然にもタイトルと一致・・・いや。本当に偶然)

ありがとうございます!
モチベが上がります。
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