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【本編】浮気男に別れを切り出したら号泣されている。

もう自由にしていいよ。俺もするから。

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新宿駅の改札前。

見た目はモデル級のイケメンが僕こと秋山紅葉(あきやま もみじ)にしがみついてくる。
ただでさえ利用客の多い駅で金曜日の終電間近に人が溢れかえっているこの場で最悪だ。

「俺はっお前だけだ!知っているだろう!!」
「・・・」
「本当だ!いつも紅葉しか考えていない!!」

随分勝手なことを言ってくれる。

これが土地柄そう言うお店の人物ならまだしもこの男は大企業の営業だ。
ため息しか出てこない。
男は紅葉の幼馴染の夏川渉(なつかわ わたる)。
つい先日までは同棲までしてい恋人だった。

いや・・・紅葉はそんなことは一切思っていなかったのだが、夏川に外堀を埋められて訂正が面倒になってしまい諦めてしまった。

夏川の紅葉への執着は愛情ではない。
幼い子供からおもちゃを取り上げるような執着だ。
少なくとも紅葉にはそうとしか思えない。
でなければ、片手・・・いや。両手両足の指以上に浮気なんてしないはずだ。

今この時でさえ、紅葉の足に縋り付いてくる夏川の隣でみっともなさからやめさせようとしている男は、夏川と一緒にホテル街から出てきた。

「渉っちょ・・・やめなよ!」
「煩い!もう抱いてやったんだから帰れよ!」
「なっ・・・っ・・・ねぇ。こいつから誘ってきたんだからね」

夏川の言葉にムッとしたようだったが、それからすぐに立ち上がると紅葉に告げ口をするように耳元で囁いてきた。

「どっちでも」
「あれ。いいの?」
「だって僕たち付き合ってないし」

これまではっきりと言わなかった言葉。
紅葉がそういうと夏川は顔から色が抜け落ち呆然とこちらを見てくる。

「え」

そんな夏川の反応よりも驚いたのは夏川の連れだ。
紅葉と夏川を交互に見ている。

「はぁぁぁ!?えっ・・・なに?どういうこと?」
「っ煩い!お前はもう帰れ!
っ紅葉!!どういうことだよっ」
「そのままの意味。僕は最初の浮気から夏川には思いはないよ」
「っ」

『最初の浮気』とすでに10年以上も前。
高校生の時のことである。

「あぁ・・・そうか。初めての浮気の時は一応許したんだっけ。
なら2回目からだよ」
「は・・・それって・・・」
「さぁ自分で数えたら。・・・じゃぁ僕これから予定があるから」

呆然として力なく足にしがみついている夏川を振り払おうとしたのだが、紅葉が去ろうとしているのに気が付いたのかガッシリと掴んでくる。

「っ・・・悪かった。俺が悪かったから。
なんでもする・・・!だから別れたくない」

そんなことをされると紅葉の悪い癖である面倒で適当に終わらせたくなってくる。
するとそんな紅葉の腕を引き留めてきたのは四季透(しきとおる)。
これから待ち合わせをしていた男で、紅葉は大きく目を見開いた。

「いい加減にしたらどうだ」
「四季さん」
「誰だこいつ!浮気か!?」

思わずそんなことを叫ぶ夏川にあきれた眼差しを送った。
こちらは幼馴染と称して付きまとわれている気はしているが付き合っているつもりはなく、それも先ほどを言ったにも限らずこんなことを言われたからだ。
それに、浮気三昧なのは夏川の方だ。
常に違う男女がいて、下半身が渇くことがない男と言われている人間と一緒にしてほしくない。

「紅葉くん。君も悪いんだぞ」

ちらりとこちらを見てくる視線になにも言えなくなる。
四季の言葉が真実だからだ。
これまで夏川に付きまとわれているのを抵抗や訂正をするのが面倒になってしまって、ちゃんとしてこなかったから今こんなことになっているのだ。

夏川は外堀を埋めるのがとことんうまい。
紅葉を構う以上に周りには行動をするのだ。
それは紅葉の両親にも及ぶ。
だから、両親はいまだに夏川とは高校の時から付き合いが続いていると思っているだろう。
その時も面倒で放置してしまったわけだが。

「・・・すみません」
「仕事ではちゃんとできているのにね」

そういう四季は紅葉のクライアントである。
仕事では些細なことでも報告し相談し時には訂正をしたりしているのだが、私生活ではそういうのが面倒になってしまっているのだ。
恥ずかしいところを見せてしまったと思っていると苛立ったような声を出したのは夏川だ。
立ち上がり紅葉のもう片方の腕をつかんだ。

「誰だよこのくそジジイ!」

その反動で夏川の連れは後ろにコロンと転がってしまった。
あっけにとられていたようだがすぐにブチ切れて立ち上がった。

「ちょっ・・・はぁ・・・俺もう帰るから。二度と連絡してくんな!」

夏川の連れはそういうとフン!とその場を去って行ってしまう。
そんな男には目をくれず夏川はジロリと四季を睨んでいる。
付き合っていたとしても、誰だとしたって夏川には関係ことだろうに。

今日は金曜日。

とても楽しい気分でいたのだが。

「夏川に説明する必要がないよ。行きましょう。四季さん」

ぐっと腕を押すも夏川が離してくれない。
良い加減面倒くさくなって振り払った。

「もう、終わってるんだ。『あの日』から」
「違う・・・俺が愛してるのは紅葉だけだ!なんで、・・・なんで分かってくれないんだ!」

聞いてて不愉快になる言葉に固まっていると、四季が腰に手を回し抱き寄せてくる。

「そんなに愛してるなら何故大切にしなかった」
「していたさ!」
「だったらこんなことになっていないだろう」
「!」
「あまりしつこいなら警察に行こうか?
君の会社にも報告が行くと思うが」
「っ」

夏川は紅葉をこちらを睨んでくる。
悪いが紅葉は何も言っていない。
だが、夏川が追ってこないことを見届けて2人は歩き出すのだった。

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