婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

割れたガラス玉。

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目覚めた次の日には帰国する事になった。
起きたら状況確認や弁明やら何やらが待っていると思っていたのだがシャリオンが休んでいる間に、ライガーが全て話を済ませてくれたそうだ。
相談もせず勝手に決めて乗り込んだというのに、面倒なことをさせて申し訳ない気持ちになる。
どう話を進めたのか、神獣を失った事をアルアディアやハイシアには意義を唱えない代わりに、こちらもガリウスの誘拐につい問題にしない事になった。
また、驚くことにガリウスも戻れることになった。
聖人でもないシャリオンは『神獣が居なくなってもいいのだろうか・・・?』と、思ったがそれを訪ねることは出来なかった。ならばガリウスを差し出せと言われるのが怖かったのだ。

今もそういわれるのではないかと、思うと不安になりそうだが隣にガリウスがいて微笑み掛けられるだけでその恐怖は不思議と薄まる。

あと少ししたらもう聖堂を発つのだがディアドラ達に少しだけ時間が欲しいということで、呼び出された部屋に訪れ席に座ったところだったのだが、呆れたため息をつかれた。

「シャリオン様。そろそろ引き締めて頂けますかニヤニヤするな
「っ・・・そんな顔してた?」

厳しい声を掛けてきたのはゾルで思はず自分の両頬に手を当てた。
口角が上がってしまう自覚はあって、気を付けているつもりだったのだが恥ずかしい。
するとそんなシャリオンにクスクスと笑いながらライガーがゾルを止める。

「それは無理だ。ゾル。むしろお前の方がよくわかっているだろう?」

シャリオンは幼いころからの躾のおかげで表情が出にくいが、身内のことになると別だ。
特に今はガリウスのことになるとシャリオンはいっぱいいっぱいになる。

「それではシャリオン様が少々困るのです」
「さすがにシオドリック様にお会いするときは」
「レオン様にです」

もうすでに王都に戻っていると思っていたのだが、レオンはシャリオンが戻るまでのカルガリア城に残っているそうだ。
今回ライガーが話をうまく持って行けたのも、レオンが国王と話を詰めたこともある。
心配と苦労も掛けたことに、確かにふざけた態度では失礼だ。
勿論ちゃんと誠心誠意、謝罪と感謝を伝える。
そう思っているとガリウスがクスリと笑った。

「レオン様は気付かれていると思いますよ。
逐一報告していたのでしょう?」
「それはそうだが」
「何も考えがないなら、策を練りこの地にとっくに来ているはずです」

確かにそうかもしれないが、ここはカルガリアだ。
そんな事を思いながらガリウスを見上げればクスリとほほえまれた。

「シャリオンがお礼を言ったっら絶対に感激しますよ」
「事態はそんな簡単ではないと思うけど・・・」
「シャリオンの身が本当に危険に晒されているなら、この国を潰すのに躊躇いはないですよ。
あの方は」
「そ、それは無いんじゃないかな」

過保護なレオンだが、いかにせ貴族の家を取り潰すことはないと思っていた。
しかし、最近それもあり得るかもしれないと思うようになってきた。
口だけでなく、まさか国まですると言うのだろうか。

「たしかにシャーリー様が止められたらそうかもしれません。
ですが、私は止められません」
「っ・・・僕は争い事は好きじゃないよ」

ガリウスの言う通り、愛息子のシャリオンには暴走気味だがシャーリーの制止にだけはレオンは止まる。
だがガリウスもそうなってしまえば、止めるすべは先に言っておくしかない。
その視線が笑顔なのに本気に見えてそう言ったのだがにこりと微笑まれた。

「シャリオンがいない世界なんて、無いのと同じです」

すでに何度か言われていることなのだが、その言葉にシャリオンが息を呑む。
するとライガーがあきれた視線をガリウスに向けた。

「ガリウス。お前らしくも無いな」

シャリオンがびくついたことに気が付いたらしい。
流石ライガーだ。
ガリウスほどではないがシャリオンを良く見ているから気づくことで、

「もっと慎重に行動してほしいことを、そんな脅しめいて言っては怯えるぞ?
それに今回いなくなったのはお前だ」
「それを言われると痛いところですが。
脅しではなないですよ」
「わかっているよ」

そんな風に笑いあっているが事実なのだろう。
神獣にも立ち向かったガリウスには、そう言っているようなものだ。

「はぁ。まぁ実際害をなすなら俺は止めない。
ルーも止めないだろうけど。
・・・今回の主犯、じゃなかった。
キュリアスの神官長殿の前でする話では無いだろう?」

ここを発つ前に、神官達が集まってきていた。
当然その中にはヴィスタは居ない。
事態を完全に把握しているもの、していない者。
まだ理解できない者の方が割合が多そうだ。
それはヴィスタのこともそうだが、シャリオンやガリウスの正体に加えて、アルアディアの王族であるライガーがここにいることが大きかった。

「構いません」

そう答えたのは、神官長であるディアドラで、アルアディアの言葉で返してきた。

「出発のお時間に差し掛かる前に、お話してもよろしいでしょうか?」

その視線はシャリオンに向かってきていた。
ガリウスやライガーに視線を向ければ構わないと合図を送ってくれたので、シャリオンは彼女にそのよう返す。

「はい」
「さっさとしてください。あなた方が止めるからここに足止めされているのです」
「・・・。あなたは本当にこの方以外には態度が悪いですね」
「事実を述べたまでです」
「が・・・ガリ・ウス」

ディアドラが言うように態度が悪いガリウスをたしなめる。
ガリウスの態度もわからないでもないが、案を出したのは部屋で休む前のガリウスだがそれをライガーがうまく収めたのだ。悪化するようなことはしてほしくない。
シャリオンが止めるとガリウスは不服そうにしながらも止めた。
すると、ディアドラは立ち上がると此方に歩み寄り頭を下げてきた。
この様子に神官達から制止が入るかと思ったが、神官達もそろってこちらに頭を下げてきていることに、シャリオンは困惑をした。
助けを求められて洗脳を解いたことは手柄がほしくてしたわけじゃない。
それに1人ではとても出来なかった事で、シャリオンが感謝されるということは想像してなかった。

「この度は申し訳ございませんでした」
「!・・・、頭を上げてください」

その言葉にディアドラは頭を上げると、その表情にはあの強気な表情ではなく恐縮そうにこちらを見てきた。
最後の瞬間を思い出しても、何か理由があるような気がした。

「私は彼が帰ってきたならそれでいいです。だから」

そこまで言いかけて、ふとヴィスタの『お前は知ろうとしないのか』という言葉が蘇った。
それを聞いたときは反感しかなかったが、だが思ってみればこういう時さほど深く理由を聞いていない。
シャリオンにとっては過ぎたことだからだ。
きっと相手は何かあってそれをしたのだろうし、たとえそれを聞いても考え方の違いで理解ができないこともあるだろう。
それに、今はガリウスが帰ってくるなら良いという感情になってしまっているせいで、謝罪をくれたディアドラ達に特に責めようという気持ちにはなれなかった。

「・・・、・・・ひとつ良いでしょうか」
「はい」
「ガリウスが神獣ではないとわかっているのに攫ったのですか」

状況から見てそう見えていた。
有耶無耶なまま話を進められなくて、シャリオンが尋ねるとその問いかけにディアドラは言い淀むことすらなかった。

「はい」
「っ・・・なぜ」
「・・・ハイシア様にはお怒りになることと存じますが・・・。
彼が丁度良かったのです」
「・・・、何故ですか」
「いえ。『丁度いい』どころではありません。
何もかもが彼ほど適任はいません。
アルアディアの応接の間で、彼を見た時、ヴィスタが変装してそこにいるのではないかと思ったほどです。
あと、魔力が高い事」

そう言われて苛立ちと共にヒヤリとする。
子供達はヴィスタを含め合わせない様にしようと思っていたが、それは間違っては居なかったらしい。
神獣にそっくりだということが危険になりうるならば、ガリウスの生家であるガディーナ家にも知らせて置いた方がよいのではないだろうか。
産みの親のガウディーノは魔力が高く、ガリウスは彼によく似ている。

「現在はヴィスタの人型の顔はここの神官達しか知らないはずです。
過去の写し絵などが外の世界にないとも限りりませんし、キュリアスを出た後にヴィスタ自身が神獣と名乗り見せていれば別ですが」

世界にはヴィスタの姿を知りうるものは少ないらしい。
だが、それはつまりここの人間を欺きたかったと聞こえる。
続きを待つ様にディアドラを見ると、彼女は話し出した。

「ヴィスタは人間を玩具だと思っているのです」
「・・・、」
「その原因は神官達が切っ掛けの様ですが」
「どういう、ことですか」
「私と彼はある事から、信頼関係がありません。
そのため、・・・詳細は聞けていないのです。申し訳ありません」

その理由はシャリオンより余程彼女達の方が知りたいだろう。

「推測でよろしければ」
「教えて下さい」
「彼は大昔に何人か親しい神官がいた様なのです。
それは神官長だけではなく、神官も含めです。
しかし、その者達に裏切られ、次第に人間が信じられなくなったと」
「人間は良く嘘を吐くと、確かに言っていました」

ディアドラはその言葉に頷いた。

「彼がしたい様になんでもさせていました」
「なんでも・・・?」
「はい」
「・・・ヴィスタはここで我慢を強いられていたと」
「そんなことはっ!」

とんでもない!と、奮起する。

「ヴィスタからしたらここに縛り付けられてることは全てそうなるだろうね」

シャリオンの言葉にディアドラは押し黙った。
実際にそうだと気付いたのだろう。
認めはしたが、どうやら少々事実とは違う様だ。
もう少し詳しく聞いてみる。

「確かに、外に出ることは制限していました。
ここら辺はそれなり魔物もでますから、戦い方を教えていないヴィスタを外に出すことは出来ないと、代々言われています」

『キュリアスのトカゲ』の言われの通り、過保護に守られていたのだろう。

「しかし、絶対に出てはいけないということではありませんでした。
外からの来客は大抵事前に知らせが来ますので、それを避けた日であれば」

状況をみていないからなんとも言えないが、どちらが虚偽なのだろうか。
気になるが今はどちらが正しいかは問題では無い。

「人型を禁止し人との対話を制限していたときいたけど、それも嘘?」
「それは、・・・事実です。
・・・彼はゲームをするかの様にここの人間を洗脳し、堕落させるようなことを指示しました」

そういうとディアドラは視線を下げた。
膝の上で交差された堪える様に手が震えている。
ここを収める長としては被害になりうる行為にヴィスタに対しそう命令をしたのだろうか。
ディアドラの動向はまだわかるが、ヴィスタがおとなしく従った理由が分からない。
忘れがちだが、・・・キュリアスにいたことは逆らうことができなかった?
しかし、どうしてもイコールにはならない。

「何故・・・」
「ヴィスタなりに理由はある様ですが、・・・良くはわかりません。決まって『嘘を吐いた』としか。
どう嘘を吐いたのかたずねましたが、『嘘に大小などない』と」
「どの口が言うのでしょうね」

ガリウスの言う通りだ。
でも、そうなるとヴィスタと結んだ約束事が心配になる。
あの時は神官達を人質に取られたため、あまり考える時間はなかった。
それでもガリウスが調整してくれた条件は、
『人間に害をなさない事、神を名乗れなくなる事、シャリオンが真実の愛でガリウスを愛し続ける事』。
それが出来なかったら、
『ヴィスタの伴侶になるか、ましそのまま願いが叶わなく命尽きたら、死後はヴィスタと共になる事』だ。

提示したその条件はふざけて居るようにも感じる。
人の命を天秤にかけることではないだろう。
そう思っても、そんなことで人間に手を出さないならいい。
だが、ガリウスが誓約付きの言霊を言質としてとったが、神獣が人如きの約束を守るのだろうか。
まず、人間を嘘つき呼ばわりするヴィスタは人を信じていない。
シャリオンを気に入っているとは言ったが、人間の中では多少と言う扱いだろう。

現状を整理してみるが、ヴィスタが反故して人間に反逆を起こさないか不安になってくる。

「大丈夫です」

不安を察知したのか、シャリオンを慰めるガリウスに視線を上げた。

「あんなのでも、神獣です。
それに、・・・です」
「そんなの解らないじゃないか」

そういうと、ガリウスは困った様に笑みを浮かべた。

「大丈夫。なんとかします」
「・・・、無理をするならしなくていいよ」
「分かってます」

ガリウスの『なんとかします』は絶対だ。
きっと大丈夫なんだろうが、それは無理しないと言うわけでは無い。
今回のことや、神獣相手に無理をしたセレスを思い出すと怖くて堪らない。

「ヴィスタは約束には拘ります。
出来ないことは出来ないと言った方がいい。
その点、約束が守れている間はそれを破ることはない、はずです」

ディアドラがそういうならそうなのだろうか。
信用できるかはまだ不安しかない。

「・・・分かりました。
それで、何故ガリウスを連れ帰ったのですか。
あの時は既にヴィスタはキュリアスから発っていたのにも関わらず、ガリウスを連れ帰る必要があったのですか。
居なくなったことはむしろ都合がよかったのでは?」

ディアドラは口惜しそうにつぶやいた。

「洗脳された者達の素行が日に日に悪くなっていったのです。
初めは虚偽の申告をする様になりました。
警備巡回を当番制で行っているのを、『もう終わった』と言ったりするものが増えたのです。
それくらいはまだ良かった。
この聖堂内で盗難や武力による他者の支配を行い、自らの欲求を発散するものが増えました」
「・・・、」
「また、決まった量しか仕入れていない筈の酒を勝手に手をつけ酔っ払いが増え、より一層治安が悪くなって言ったのです。
そこで、考えたのが代役を置くことでした。
最近では人型になる事を禁止しましたが、ヴィスタに皆会っていますし、誰もガリウス様に不審には思っていないように見えました。
・・・洗脳をかけられた者たちも最初はガリウス様をヴィスタだと認識していたようですが・・・。
しばらくしてガリウス様を疑うようになりました。
確信は持てないため、過度なことはありませんでしたが。
ヴィスタではないと疑いがあっても魔力の差や、確実ではないことから洗脳がかけられた神官達の素行が落ち着き始めた。
想定以上の出来事でした。
なんとしても、私はこの聖堂を正常化しなければならなかった」

嘘偽りがないのだろう。
しかし、『ちょうど良いから』で、片付けられない。
上に立つ者として正しいのかもしれない。
それでもだ。
不満に満ちているとガリウスが呆れた声で口を挟む。

「そんな建前はいいのです」
「建前ではないです」
「1番の理由ではないでしょう」
「今言おうとしたところに貴方が口を挟んだからでしょう」
「私にあの男を重ねないでいただけますか。不愉快です」
「っ・・・申し訳ありません。
・・・駄目ですね・・・。
その顔を見てるとイライラしてしまう」
「不愉快極まりないですが、事実似ているので仕方ないですね」

ガリウスとディアドラの刺々しい会話にシャリオンが驚いていると、ディアドラがシャリオの視線に、暴走に気づいた様だ。

「先日のことでヴィスタが洗脳をすることをご存じかと思いますが、
・・・ヴィスタが初めに洗脳したのは私の大切な人だったのです」
「・・・、」

それを聞いてシャリオンは『だとしても、人を攫うなんて駄目だと思う』という感情が、そうだと言い切れなくなってしまう。
大切な人が洗脳されて辛いのはシャリオンも痛いほど良くわかるからだ。
もし、シャリオンが再びガリウスを攫われたとして、誰かを攫ってこいなどと言われたら・・・どうするのだろうか。

「最初は洗脳なんてこと。・・・ましてやヴィスタがそんなことをしているとは想像もつきませんでした」

神を信じるということがよくわかっていないシャリオンだがどの国の宗教の聖書には大抵神は人を正しく導くものとなっており、シャリオンもそれは信じられなかった。

「私の声が届かなくなった彼は平気で嘘をつき暴力や盗みをするようになり、日に日に素行が悪くなりました。
ある時、私にまで暴力を振るうようになり、遠ざけなければならなくった。
成長していくにつれて、彼は悪行を働き人を侍らせ、この施設の中で派閥を作るほどの人物になってしまった。
純粋に人が支持しているなら私も退きますがそんな状態ではなかったのです。
これではいけないと、元に戻す方法を探しました。
時には本を読み漁り、海外からきた者たちに話をきいたり、それでも答えを見いだせず、途方に暮れていました。
私の周りにいる者たちも見るに見かねて様々な案を提示してくれました。
その中の一つが『神獣に助けを求めてはどうか?』という提案でした。
それは本当に藁にも縋る思いでした。
・・・ヴィスタはもうそのころには人を魅了し堕落させるようなことをしていたので、私は彼を信用していなかったのですが、神獣は神獣。
おかしなことをしますが、この状況を打破してくれるのではないかと願ったのです」

そこで区切ったディアドラに皆が視線を向ける。

「すると・・・彼は・・・『随分遅かったな』と言ったのです」
「!」
「最初なんのことか解らなかった。
しかし、聞けば彼がこの聖堂の人間を洗脳していることが分かった。
治して欲しいことを願いましたが、彼は元はと言えば全員嘘を吐いたからだと言いました。
・・・私は頭に血が昇ってしまい、正しい判断が出来ず、つい『人の自由を奪って楽しむなんてそれでも神獣なのかと』言ってしまった」

ディアドラの言葉から後悔が伝わってくる。
大切な人を可笑しくした張本人に対峙して普通でいられなくなるのは当然だろう。

「その時は何もなかった。
しかし、次の日。
・・・数名の神官達が亡くなっていたのです」
「!」
「その日から毎日人が死んでいく。
流行り病なのかとも思いましたが、前日までは元気だったことからそれは考えられなかった。
それよりも、亡くなる人間は素行が悪い人間。
それを見た時、これはヴィスタの仕業だと解ったのです」
「っ」
「彼は悪気もなく『素行が悪い人間が増えて大変そうだから奴らを「休ませた」』と言いました。
私が投げつけた言葉が、彼の気に障ったのは明白。
しかし私が与えられるものは一つしかないと、それを差し出そうとしましたが、彼は受け取りませんでした」
「何を差し出したのですか?」
「命です」

ここの正常化のために、命を差し出す覚悟だ。
それ程ここを守りたかったのだろう。
しかし、それを拒否をしたというのはヴィスタが殺すのをやめたということなのだろうか。

「ヴィスタは許してくれたということですか・・・?」
「・・・いえ」

言いにくそうにするディアドラに、ガリウスが遠慮もなく尋ねる。

「身体でも求められましたか」
「!」
「・・・、・・・私ではありません。
ヴィスタは私の信頼する者達を指定し、・・・そして蹂躙したのです」

とても悔しそうに言うディアドラ。
それを聴いていたシャリオンの感情が振れると、ガリウスが宥める様に手に手を乗せた。

「私では駄目だとあの男は言った」
「っ」
「貴女を生かしたのは貴女の命が重過ぎるからではありません。
死んでしまっては貴女に見せられないでしょう。
人間の裏切りや堕落を。
そして、貴女を傷つけるなら貴女の親しい友人に目を付けたといったところではないでしょうか」
「・・・、やはり、そう考えますか」

ガリウスに言われたディアドラは驚きもしなかった。
そのことを考えたのだろうか。
ディアドラのことを幼い頃は可愛げがあったと言ったヴィスタ。
あれはシャリオンを欺くための芝居だったのだろうか。

「殺すより楽しめるほうを選んだ。
ヴィスタは退屈に辟易し、快楽を求めているようです。
長らくこの地に縛り付けられた事により、貴方達に恨みがある故だと思いますが。
人が居なくなれば解放されるわけですし」
「っ彼女達は、・・・子孫じゃないか」

ヴィスタをここに縛り付けたのは、先祖である。
頭ではわかっているのに、シャリオンは思わずそう言ってしまう。

「シャリオン。子孫だからとか関係ないのですよ。
シャリオンもわかっているでしょう?
それに、祖先が決めた事に壊す勇気彼女にあったとはおもえません」
「!」

ディアドラの方を見れば肯定するかの様に、視線を落とした。
今壊れているのは結果で、そもそも壊したのは、この地とは関係がないシャリオンだ。

「ガリウス様の仰る通りです。
神官達の洗脳はやめてもらいたかったですが、ヴィスタが居なければと思うことはあっても、実際に開放するということに至りませんでした。
彼が、この聖堂から姿を消すまで。
・・・実際彼が姿を消したことにより、この聖堂内は荒れましたが、それでもガリウス様がこちらに来て、ヴィスタが姿を現すまでは比較的にまともな時間が流れていたように思えます」

その割にはとらえたシャリオンを無理やりいたそうとした者がいたが、あれでもまともというのならば、荒れていた時はどんな状態だったのだろうか。
だが、これで彼女達は安心した時間がすごせるだろう。

「神官長様がどの様な経緯で、ガリウスを捕らえたのかわかりました。
私にとって最愛の伴侶をお返しいただきありがとうございます。
・・・それで、大切な方は助けられたのでしょうか。
もう話はできる状態なのですか?
もし、私の魔法でどうにかなるなら治療しますが」

そうシャリオンが訪ねた途端驚いた様に目を見開くディアドラ。

「・・・お気遣いありがとうございます。
ですが、大丈夫です」
「そうですか。
・・・それと、あなた方の秘術の封印にご協力頂きありがとうございます」
「・・・?」
「私を操っていた秘術のことです」
「ぁっえぇ。いえ。
あの技術は廃れたものを掘り起こしたものなのです。
ですから構いません」

秘術というものが、どういうものか良く理解出来ていないが、ウルフ家の者達は禁止された後も、自分の家とハイシア家の物にしか使っていないが、その技を捨てようとしない。
単純に護衛に向いてるのもあるだろうが、誇りがある様に見える。
彼女達はどうやら違うようだ。
なんにしても、洗脳の秘術(?)を使えない様に出来たのは安心出来た。

それから、最後にもう一度謝られた。
何度も繰り返す謝罪はわからないでもないが、困ってしまう。
シャリオンは話を切り上げる様に、今度はその大切な人とハイシアに来て欲しい事を告げて、キュリアスを立った。


☆☆☆


キュリアスから1番近い町までは、急な山道にも対応している馬車に乗った。
ディアドラ達が山道を徒歩で登ることもあるが、多くの場合は魔物の襲撃に備え馬車だそうだ。
その馬車を数台借り、シャリオン達はレオンの待つカルガリアの王都へと向かう。

その、馬車の中はシンと静かだった。
乗車して暫くするとライガーが話さなくなったのだ。
ただでさえ大公として忙しくしていると聞いている。
それなのに、シャリオンが暴走してしまった所為で苦労を掛けた。

「ごめんね。僕らの所為で」
「?なぜリオが謝るんだ?
アルアディアの国民で俺の友人でもあるガリウスが攫われたんだ。動かないわけがないし、
寧ろあの中で適任は俺しか居ないだろう」

ライガーはアルアディアの外交を全面に受け持っている。

「申し訳ありません」
「ガリウスも。それに俺には謝罪は必要ないって言っただろう?」

そういうライガーは苦笑を浮かべた。

「・・・ありがとう。
まだ時間はあるし、休んでてもいいよ?」

気を遣ってくれているのだろうか。
それに恩義を感じながらライガーを労る。

「・・・。
仲が良いことはいいことだし、神獣との約束もある。
だが、俺を寝かせてなにをするつもりだ?」

疑いの眼差しを向けられてよくわからなかったが、
暫くしてようやくわかった。

「っそんなんじゃないよ!
ライがっ疲れてるようだから、そう言ったの!
ひ、人前でそんなはしたないことしないよっ」

首まで真っ赤に染めて怒るシャリオンに、結構人前でいちゃついているぞ?と、思ったがライガーは苦笑を浮かべた。

「ごめんごめん。
疲れてたわけじゃない」
「本当に?」
「あぁ」

その表情は何か隠そうとしているのが分かる。

「そう。
まぁ、でももしなにか気悩む事があったら言ってね。
僕じゃ頼らないかも知れないけど話を聞くよ。
ガリィもきっと助けてくれる。ね?」
「えぇ」

視線で返事を求めるとガリウスはコクリとうなづいた。

「リオ程頼りになる人間はいないと思うが?」

次期公爵でハイシア領の領主であるシャリオンは、
国内唯一海に面しているハドリー領は勿論、
サーベルやシディアリアとも懇意にしている。
それに加えて、情が深く身分に関係なく手助けをすることで有名である。

しかし話そうとしないライガー。
昔とは違うと信じながら話題を逸らす。

「それにしても、よく父上がここに来る事を許してくれたね」

王太子どころか王位継承権すらないライガーだが、王から愛されているの明白だ。
どの行事にも出席させ、ルークと変わらない愛を注いでいるのがわかる。
大切にされているライガーは外交を担う者として表に出るのはわかるが、ここまで来るのを陛下の親友であるレオンが止めそうなものだが。
しかし。

「言ってないからな」

そうケロリというライガーにシャリオンは呆気に取られた。

「言ったら止められると思ったからな。
レオン殿には正面にからぶつかっても、正論で捩じ伏せらるだろうし、既にシャリオンが立ったこと知られて居たら機嫌が悪くなって、下手したら国に返されてたな」
「・・・」
「そうでしょうね」

シャリオンが思わずガリウスを見上げると苦笑を浮かべる。

「私が言えた柄じゃないですが。
本当に困った方々です」
「ぅ」

王族であるライガーの軽率な行動を非難できる立場ではないと、暗に言われていてシャリオンは居ずらい。
一方のライガーはガリウスに助けを求める。

「そんな事言わずにレオン殿のフォロー頼む。
・・・本当に怒らせるとお小言が長いんだ」
「それは仕方がありません。
貴方は友人の愛息子であり少なからず縁も情もあるでしょうから」

成人し婚約破棄をしてからは無いが、家族ぐるみで懇意にしていた。
陛下とレオン、ルーティとシャーリーが仲が良いから当然だ。
レオンもライガーが自分の母親の生家に悩まされていたのを知り、出来うる限り手助けをしたいたが、それはシャリオンの婚約者だからとか親友の子供だからと言うわけだけじゃ無い。
幼い頃から成長を見てるレオンはライガーのこともまた可愛いと思っているのだ。
もし、ライガーの中身がどうしようも無い人間であったなら、婚約を認めなかったしもっと早い段階で断っていた。

「ですが、今回貴方方が来て頂けたおかげで、私もたすかったわけですし、ライガー様のフォローもさせて頂きます」
「頼む」

なおシャリオンをフォローするのは決定事項だ。
折角元に戻ったのだ。
長くレオンにシャリオンを拘束されるのは面白くない。

「もしかして、それで落ち込んでたの?」
「はは!それは無い」

クスクスと笑うライガーは観念したようにこちらを見てくる。
誤魔化しは駄目だと思ったのだ。
そういう風に他人を心配するところは、昔から変わらないと思うライガー。

「いや。
先程の話を思い出してた。
信頼している人物に裏切られたら・・・と」
「・・・あぁ・・・うん。
辛いよね・・・」
「シャリオンの信頼する者・・・
たとえばウルフ家の者が裏切るような事があったらとわうする?」

ゾル達が裏切るなんて事、想像もしたことが無かった。しかし、今回のことを含めいつだって彼らには
世話になっている。

「んー。怒るとは・・・思うけど」

そう答えるとライガーが苦笑を浮かべた。

「いや、リオは許すな」

そんな風に言い切られるが、自分はいったいどれ程お人好しだと思われているのだうか。

「それは最終局論だよ。ちゃんと怒る」
「時には許す必要がない時もあると思いますが」

ガリウスからしたら、シャリオンを害する輩は漏れなく処分したいのが本音だ。

「理由があるかもしれないでしょう?」
「理由があるならなにをしても良いわけではありません」

確かにそうだ。
理由があるからと言って、ヴィスタのした事も、ディアドラがした事も簡単にはゆるせる事では無い。

「貴方が傷つけられる所を見たくないのです」
「ガリィ・・・」

そう言うガリウスの眼差しは真っ直ぐシャリオンを見ている。
ヴィスタの事を許すなと言っているのだろうか。

「・・・。
何も知らないままはダメだと思う。
裏切られたら・・・それは悲しいし辛い。
けど、わからないままはもっと気になる。
その考えが理解出来ないとしても」
「・・・」
「それに人はずっと怒って居られないというし。
僕にはガリィや子供達が居るから」
「家族だけいれば良いのか?」
「勿論、ライもだよ。
ルーやアンジェリーンにミクラーシュもね」

そう言って微笑むシャリオンに、2人も笑顔を浮かべて居たが、その笑顔の下には怒りが満ちて居た。
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