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執着旦那と愛の子作り&子育て編
人の悪い笑み。
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ハイシア領の執務室。
あんなことがあっても領主の仕事は止めることもなく執務をこなしていた。
勿論ガリウスも城に出勤である。
進捗を確認するためにセレスを執務室に呼び詳しい内容を確認していた。
人と話していないと、ミクラーシュやアンジェリーンの事が気になってしまい、領の仕事に集中が出来ないからだ。
「昨日シャリオン様が村はどこかになくなったのではなく、姿が見えないだけかもしれないって言ったでしょう?」
「僕っていうかルーがだけど」
「その情報をシャリオン様が持ってきてくれなかったら気付くのもう少し遅かったよ~。
だって僕は記憶改ざんでもされているのかと思ったもん」
それは物体の姿を消すよりも難しいのではないだろうか。
ちょっと高等な魔術師の考えることは分からない。
「まぁそれでね。ずっと悩んでたこともわかったんだ」
一旦様子を見に行った時も確かに悩んでいたのを思い出す。
いつもの軽い感じのセレスが無くなり、ただひたすら地図を見て『この距離くらいならアリかな』とかぶつぶつ言っていて、ちょっと怖いくらいだった。
「転移の魔法道具は・・・ねぇ。その前にシャリオン様」
「ん?」
「名前変えない~?長い」
「あー・・・商品化したら考えようかと思ってたけど」
確かにシャリオンも毎回そう言うのは長いと思っていた。
今で回っているの転移の魔法道具はどこ産か知られていないが、『転移の魔法石』と言うとそれが連想される。
その差文化を図るためにも名前は考えようと思っていたのだ。
そうシャリオンが答えるとセレスがニパっと笑顔を浮かべた。
「何かいい案ある?」
「僕?ん。じゃあ・・・ワープゲートとワープリングで良いんじゃない?」
「ぷっ安直~!」
「・・・じゃぁセレスが決めて良いよ」
笑ったセレスにそう言うとまだケラケラと笑いながらもコクリと頷いた。
「いいよ。ワープリングで。
で、話しを戻すね?
ワープリングは村を指定したなら、村の入口に飛ぶと想定してたんだ。
けど、実際いってみたら村が無かったというのは可笑しいんだよね。
村が無いなら隊員たちはばらけて到着したはずなんだけど、良く聞いたら彼等は皆同じところに到着したっていう。
それがどうも引っかかってたんだけど。
でも村や砦がまだそこにある状態なのなら説明がつくんだ」
「そうなんだ。それで?セレスは結局何の作業をしてたの」
シャリオンが事情を聞こうとしたとき、セレスは時間がかかるからと
「隠れていても魔力は視えるからね。一番魔力の強い所にガツンと一発」
「駄目」
そんなことしたら村民がどうなるかわからない。
何言っているんだという気持ちで睨むとへらりと笑った。
「だよねぇ」
しかし、そう言われるのは分かっていたようで、別の案を提示してくれた。
「お子様達がヒントなんだけど。魔力吸っちゃえばいいんじゃないかなって」
「・・・。それは・・・住人は大丈夫なの?それに本当に魔力が集まっているところが原因なの??」
「確かめてないから分からないよ」
「・・・、」
「けどね。姿を消すなんてこと魔法以外で出来る?」
確かに魔法しか無くて、そう言われてしまうと困ってしまう。
「勿論。魔力の発生源が無かったらやらないけど」
「村民たちが確実に助かる方法は・・・」
「中が見えない以上、判断するのは難しいね」
「そう・・・」
「試しても良いと思うけど。・・・・実行するかどうかはシャリオン様に任せる」
「うん」
人の命がかかることに、判断は難しい。
けれどなるべく早く答えを出さなければならいの分かる。
今度はシャリオンが悩む番だった。
・・・
・・
・
その事を考えていたいが、そうも行かない。
他の作業を進めていると執事に来客の知らせを受けた。
思わずゾルを見ると小さくため息をついた。
「ルーク殿下がお見えです」
「わかった」
今日も知らせなしで来たのは、余程慌てているのだろう。
シャリオンは待たせているサロンへと向かった。
☆☆☆
サロンの扉を開けシャリオンを見るなり、ルークは立ちあがり頭を下げるルーク。
「ごめんっ」
「王太子がそんなに気安く頭を下げちゃ駄目でしょう?」
苦笑を浮かべながらシャリオンは止める。
この場が非公式の場ではないからと言うのもあるが、今回のことはルークの所為ではないだろう。
「シャリオンにそんなの関係ない。悪いことしたら謝るのは当然だ。
・・・そう言ったのはシャリオンでしょう?」
「・・・。いったっけ・・?」
「言ったよ」
本当に記憶が無くて尋ねればルークは苦笑した。
『悪いことをしたら謝る』は当然なことなので、もしかしたらそんなことを言ったのかもしれない。
「まぁ。でもルーが謝ることじゃないでしょう?」
それよりも詳しいことが気になる。
だが、聞いていいものかと聞きあぐねているとルークは答えてくれる。
「ミクラーシュの術は無事とくことができた」
「よかった」
絡まれた時は頭にきたが、操られていたなら別だ。
ホッと息をつきミクラーシュの無事に肩を撫でおろした。
だが、・・・何故あんなことになってしまったのだろうか。
アンジェリーンはどうなったのだろう?
昨晩はガリウスとそのまま帰ってしまったため、詳しいことは聞いていないのだ。
「あまりよくはない・・・」
どういう事だろうかと眉を顰めてルークに尋ねる。
「何故?」
「術が解けたミクラーシュに尋ねたが・・・結局わからないままだった」
「・・・そっか」
誰に掛けられたかわからないのは心配だが、つまりそれはアンジェリーンの所為ではないと言う事だ。
そんなことを思っているとルークの声色がワントーン下がる。
「・・・。あんな風になるのは・・・二回目なんだそうだな」
「え・・・?あ、・・・聞いたんだ」
「・・・言ってていったじゃん」
なんの事かわかったシャリオンに、ルークは拗ねたようにつぶやいた。
ルークはどちらかを選ぼうと進めているのだ。
そのうちミクラーシュに興味があるのは明らかで、それなのにミクラーシュを候補から外すようなことはしたくなかったのだ。
だから、ミクラーシュがハイシア家の成り立ちを尋ねることを怪しんだルークが、シャリオンに何があったのか聞かれた時に『特に何もない』と答えたのだ。
「次の日にはすぐに謝罪してくれて。それに今までにないくらい普通だったんだ」
豹変ぶりはとても驚くものだが、疎ましそうに睨まれる事がなくなるならこれからのことは良いと思ったのだ。
彼はルークをちゃんと愛してくれているところをシャリオンは応援したい。
勿論、ルークがそれをどう思うかわからないが、少なくとも何か思っているから、アンジェリーンと準備段階に入っていた結婚を一旦やめてでも、婚約者候補にしたのだと思う。
「でも、これでミクラーシュの疑いも晴れたし問題ない訳だね」
しかし、ルークの顔が曇る。
「どうかした・・・?」
「立候補を辞退するって。ニ度にわたってハイシア家に無礼を行ったことの責任をとるそうだ」
「それは・・・。
・・・僕はもうあんなことが無いなら良いよ」
「本人もまた操られるのが怖いんだってさ。
・・・周りの皆は気付いていたけど、本人はシャリオンにきつく当たっていたっていう自覚がないみたい。
話していると次第に憎悪が沸き上がってきて自分でも制御できなくなるって」
「・・・これまでも?」
「あぁ」
それはつまり、そんなに長い間洗脳状態にあっているという事ではないか。
「っ・・・やっぱり駄目だよ。婚約候補を外す話しちょっと伸ばせない?」
「・・・。どーしてそんなに推すの?アンジェリーンは駄目だと言うこと?」
「そういう事ではなくて。
どちらが結婚相手になっても僕は祝福するよ?」
「・・・、」
「けど、ミクラーシュが操られれていたのがずっとと言うのが、これから何かあったら困るじゃない」
「そうだけど」
問題に対して先延ばしにするのはルークは珍しい。
何を考えているかわからなくて、ジッとルークを見つめていると苦笑を浮かべられた。
「わかった」
そう言って苦笑を浮かべるのだった。
☆☆☆
【別視点:ルーク】
ミクラーシュを気に入っていたはずなのに、シャリオンに暴言を吐いた瞬間、怒りが振り切れそうになった。
シャリオンを見れば驚愕し、次第に苛立っていくのがルークにでもわかる。
俺とシャリオンの子供?
そんなのいくらでも欲しい。
けれどそんなことを口にするわけにもいかないし、何より後ろの男が凄い目でこちらを見てきた。
そんな事無いのは、子供達をみてもわかると言うのに。
その視線は仕事が遅いことに対しての文句だ。
婚約者の話が出た後、ガリウスはすぐにミクラーシュとアンジェリーンに見張りを付けた。
その最中の結果も聞いていたのにこの様だからだ。
だったらミクラーシュがリオにしていたことも教えてくれればいいのに
十分にミクラーシュの奇行だと思うが、シャリオンが止めたのだろう。
正直ミクラーシュが可笑しな様子を取っていると聞いた時は信じられなかった。
確かにミクラーシュがシャリオンに対して厳しい目で見ていたのは知っていた。
だが、それはルークに寄せる恋心故の嫉妬だと思っていた。
だから、問題ないとも思った。
シャリオンは領地に専念していた頃であったし、シャリオンへの睨視以上のことは出来ないと思っていたからだ。
だが、念には念をと思い、王族直下の特殊部隊を使って調べるが何も出てこなかった。
出てきていたならとっくに候補者から外してただろう。
そもそも、ハイシア家のガリウスの手の者でもわからなかったことを、簡単に突き止められるわけないと思うのだが、随分と無茶を言ってくれる。
情報活用できなかったのは申し訳ないともうが、精神をコントロールされているとはわからなかったのは、ガリウスの方も同じである。
アンジェリーンとの結婚は息がつまりそうで、それならミクラーシュの方が良いと思っていた。
操られているという事実はホッとする。
問題は誰がミクラーシュを陥れたか?と言う事だ。
取り調べを受けるために、連れて行かれたアンジェリーンの部屋を見る。
婚約者候補。
王太子である自分がどうにかしなければならなかった。
勿論自分が王太子だからと言うのもあるが、これ以上ライガーに余計な苦労をさせたくない。
ルークがいつまでも誰かを決めなければ、ライガーにもそれが及ぶだろう。
どんなにライガーが嫌がっているか知っているのに、皆それも忘れ『もうファングス家はいない』と、身勝手にも話を進めるのだ。
それだけは何としてもさせたくはない。
だから、相手は誰でも良かった。
それに・・・。
一番なってほしい人はもう選べない。
急を要した中で、アンジェリーンを選んだのは知り合いの貴族に勧められただけ。
勧められたなら一度は声を掛けておかなければならないため、断られると分かっていながらもアンジェリーンに話を持ち掛けた。
前婚約者候補が決まる前に打診した時は即拒否をしてきたから、まさか受けられるとは思っていなかった。
勧められた事も考えると、公爵家だが後継ぎになれない彼を家に置いておくのに何か問題が出たのかもしれない。
アルカス家は次期公爵が決まっているが、一番最初に名前が出るのは王族の特徴と美しさも持ったアンジェリーンだ。表面上では仲睦まじい兄弟と聞いているが、本当は良くないという声も裏の情報からは入っているからそれもあるのかもしれない。
まぁ相手が決まればそれでいい。
今は候補としてミクラーシュもいるのだから、どっちでも良かった。
しいて言うならミクラーシュの方が面白いと言うだけだ。
アンジェリーンは幼いころからルークとライガーに態度が悪かった。
親が男爵と言う事もあるが、それ以上に彼の不興を買っていたのは別の理由だと何となく気付いている。
「・・・」
その理由のことで、今回のことを起こしたなら話が変わってくる。
もし「壊そうとしている」だとか、そんな理由だったら到底許すことは出来ない。
取り調べを行っている部屋の扉を睨んでその時を待っていると漸く扉が開いた。
中から出てきた捜査の立会人はルークがそこにいることに驚いた
「殿下!・・・お待たせいたしました。・・・どうぞお帰り下さい」
男はそう言いながらすぐにアンジェリーンを通した。
「えぇ。ありがとう」
「はい!」
どんな心境の変化なのか今までは一切しなかった愛想を周りに振りまいている。
拘束されていなかったという事は、誓約書が無実を証明したのだ。
「アンジェリーンおかえり」
「殿下。お待たせを致しました」
「信じていたよ」
「ありがとうございます」
茶番のような会話をすると、2人はルークの部屋へと向かった。
☆☆☆
部屋に入り2人きりになった途端、2人から表情が無くなり自然と2人は離れた。
「白だったようだね」
「残念そうですね」
「そんな事無いよ。君が犯人じゃないならシャリオンが喜ぶ」
シャリオンも距離を置いていたはずなのに、何故かここ最近仲が良さそうだ。
連れて行かれるときでさえも、視線はアンジェリーンを心配していた。
情が深い彼は一度懐にいれたものには甘い。
「君はそうは思わなかったと、言う事でいいんだね?」
「当たり前です。シャリオンがあんな馬鹿みたいに顔を緩ませてほほ笑む相手がいるのに、貴方と関係を持てるほど器用ではありません」
「本当にミクラーシュに俺とシャリオンの子とそそのかしてないんだね」
「それで簡単にそそのかれるのも困った事ですけど。
・・・私が彼に言ったのは一回。使用人に金髪碧眼と聞いた話をしただけです」
「なぜそんな話をしたの?」
「逆になぜしては駄目なのです?」
責めた口調にアンジェリーンも腹が立ったのだろう。
しかし、その言い分はもっともだ。
ルークはアンジェリーンを見る。
「私は王配の座を譲りませんよ」
「・・・そう」
「殿下こそ私を引きずり下ろしたいが為にあの男を操ったんじゃないでしょうね」
「はは。疑って悪かった。けど・・・俺はシャリオンを苦しませることはしない」
それはあり得ないことだ。
「その言葉、信じてよいのですね」
「あぁ」
その返事に暫く見定める様にこちらを見てきたが、彼はらしくもなく頭を下げた。
「申し訳ありません」
「いいよ。俺も悪かった」
「そうですか。では早く犯人を特定してシャリオンを安心させてください」
ガリウス同様に無茶を言ってくる男に小さくため息をつく。
「そんなことを出来たならとっくにしているし、事前にミクラーシュを止めている」
「そうでうすか」
人がいない前だからなのか不愛想にそう答えるとくるりと踵を返した。
「・・・。殿下は私を一度は結婚相手にと選んでくださいましたが」
それはすすめられたからだ。とは言わずアンジェリーンに視線をやる。
「私は貴方を抱けませんが、・・・私を抱けるのですか?」
「・・・、」
言い淀んだルークにアンジェリーンは笑った。
「良かった」
「何が」
「いいえ。でも、決まりましたね。子は体外から魔力を与えましょう」
それは体内に入れて核組織に子を宿し体内で成長させるのではなく魔法でと言う事だ。
ルークもそれはありがたくはあるが、そこまで嫌いな男とよく結婚する気になったものである。
「組織を差し上げることも魔力を与えることも構いません」
アンジェリーンはそう言うと、早々に部屋を出て行った。
・・・
・・
・
困った奴だ。そう思いつつもホッとしている自分もいた。
あの男を素面で抱くのは無理だ。抱かれるなら勝手にやってもらえばいいことだが、拷問の様に思える。
だが、それをシャリオンに知られのが嫌だなと思っていると部屋にノックが響く。
兄であるライガーかと思ったがそれは別の来訪者だった。
「・・・ミクラーシュ」
顔面蒼白で沈痛な面持ちをしている。
自分がしたことを聞かされたのだろう。
入り口付近から入ってこずにミクラーシュは頭が膝につくくらいに頭を下げた。
「っ・・・申し訳ありません・・・!」
「お前がなんともないと聞いてよ」
『良かった』そう言おうとした言葉をミクラーシュが遮った。
「っ責任をもって・・・婚約者候補と言う立場を自体させていただきます!!」
「・・・、」
「私は・・・あの方に無礼を働くのは2度目なのです・・・」
普段の態度の悪さを覗いて他にもあったと聞いて驚く。
そしてその表情を見て、よく理解をしたのか、ミクラーシュは辛そうに顔をゆがめた。
「っ・・・ルーク様の大切な方を傷つけてしまい、申し訳ありません」
「・・・、・・・。シャリオンは謝ったなら」
「またあのようにしてしまうのが怖いのですっ!」
「・・・、」
「・・・っ・・・あの方が心優しき方だと言うのは存じています・・・しかし、だからこそ、もう」
「・・・ミクラーシュ」
「・・・。殿下・・・」
頭を下げていたミクラーシュは頭を上げると、ルークに視線を合わせじっと見つめた。
「・・・貴方様を心の底から愛しております」
「・・・、」
「だからこそ、これ以上貴方に迷惑をかける訳には行かないのです。
・・・言いたいことはそれだけです。後日正式に書状を持たせますのでお待ちください」
そう言うと、言い捨てる様にミクラーシュは出て行ったのだった。
☆☆☆
【シャリオン視点】
ミクラーシュは再び何かをしてしまうのを恐れているのだ。
ルークを想うからこそ、離れようとしている。
シャリオンにもそれが分かる。
「・・・ルークのことを想っているんだね」
「王配には難しいけどね」
「普通の状態なら問題ないんでしょう?」
「そうでもない」
ルークは何かを思い出しているのか、クスクスと笑った。
余程気に言っているように見えるのに・・・何故だろうか。
「本当に辞退を受け取ってしまっていいの?」
「聞いただけ」
「なにが?」
「だから聞いただけだよ。『辞退する』って。
正式に辞退するって言っているけれど、受け取れないかもしれないじゃない~?」
そういうルークは意地が悪そうに笑った。
何故だろうか。
シャリオンの目論見通り、断っていないはずなのに、ミクラーシュが気の毒に思えたのだった。
あんなことがあっても領主の仕事は止めることもなく執務をこなしていた。
勿論ガリウスも城に出勤である。
進捗を確認するためにセレスを執務室に呼び詳しい内容を確認していた。
人と話していないと、ミクラーシュやアンジェリーンの事が気になってしまい、領の仕事に集中が出来ないからだ。
「昨日シャリオン様が村はどこかになくなったのではなく、姿が見えないだけかもしれないって言ったでしょう?」
「僕っていうかルーがだけど」
「その情報をシャリオン様が持ってきてくれなかったら気付くのもう少し遅かったよ~。
だって僕は記憶改ざんでもされているのかと思ったもん」
それは物体の姿を消すよりも難しいのではないだろうか。
ちょっと高等な魔術師の考えることは分からない。
「まぁそれでね。ずっと悩んでたこともわかったんだ」
一旦様子を見に行った時も確かに悩んでいたのを思い出す。
いつもの軽い感じのセレスが無くなり、ただひたすら地図を見て『この距離くらいならアリかな』とかぶつぶつ言っていて、ちょっと怖いくらいだった。
「転移の魔法道具は・・・ねぇ。その前にシャリオン様」
「ん?」
「名前変えない~?長い」
「あー・・・商品化したら考えようかと思ってたけど」
確かにシャリオンも毎回そう言うのは長いと思っていた。
今で回っているの転移の魔法道具はどこ産か知られていないが、『転移の魔法石』と言うとそれが連想される。
その差文化を図るためにも名前は考えようと思っていたのだ。
そうシャリオンが答えるとセレスがニパっと笑顔を浮かべた。
「何かいい案ある?」
「僕?ん。じゃあ・・・ワープゲートとワープリングで良いんじゃない?」
「ぷっ安直~!」
「・・・じゃぁセレスが決めて良いよ」
笑ったセレスにそう言うとまだケラケラと笑いながらもコクリと頷いた。
「いいよ。ワープリングで。
で、話しを戻すね?
ワープリングは村を指定したなら、村の入口に飛ぶと想定してたんだ。
けど、実際いってみたら村が無かったというのは可笑しいんだよね。
村が無いなら隊員たちはばらけて到着したはずなんだけど、良く聞いたら彼等は皆同じところに到着したっていう。
それがどうも引っかかってたんだけど。
でも村や砦がまだそこにある状態なのなら説明がつくんだ」
「そうなんだ。それで?セレスは結局何の作業をしてたの」
シャリオンが事情を聞こうとしたとき、セレスは時間がかかるからと
「隠れていても魔力は視えるからね。一番魔力の強い所にガツンと一発」
「駄目」
そんなことしたら村民がどうなるかわからない。
何言っているんだという気持ちで睨むとへらりと笑った。
「だよねぇ」
しかし、そう言われるのは分かっていたようで、別の案を提示してくれた。
「お子様達がヒントなんだけど。魔力吸っちゃえばいいんじゃないかなって」
「・・・。それは・・・住人は大丈夫なの?それに本当に魔力が集まっているところが原因なの??」
「確かめてないから分からないよ」
「・・・、」
「けどね。姿を消すなんてこと魔法以外で出来る?」
確かに魔法しか無くて、そう言われてしまうと困ってしまう。
「勿論。魔力の発生源が無かったらやらないけど」
「村民たちが確実に助かる方法は・・・」
「中が見えない以上、判断するのは難しいね」
「そう・・・」
「試しても良いと思うけど。・・・・実行するかどうかはシャリオン様に任せる」
「うん」
人の命がかかることに、判断は難しい。
けれどなるべく早く答えを出さなければならいの分かる。
今度はシャリオンが悩む番だった。
・・・
・・
・
その事を考えていたいが、そうも行かない。
他の作業を進めていると執事に来客の知らせを受けた。
思わずゾルを見ると小さくため息をついた。
「ルーク殿下がお見えです」
「わかった」
今日も知らせなしで来たのは、余程慌てているのだろう。
シャリオンは待たせているサロンへと向かった。
☆☆☆
サロンの扉を開けシャリオンを見るなり、ルークは立ちあがり頭を下げるルーク。
「ごめんっ」
「王太子がそんなに気安く頭を下げちゃ駄目でしょう?」
苦笑を浮かべながらシャリオンは止める。
この場が非公式の場ではないからと言うのもあるが、今回のことはルークの所為ではないだろう。
「シャリオンにそんなの関係ない。悪いことしたら謝るのは当然だ。
・・・そう言ったのはシャリオンでしょう?」
「・・・。いったっけ・・?」
「言ったよ」
本当に記憶が無くて尋ねればルークは苦笑した。
『悪いことをしたら謝る』は当然なことなので、もしかしたらそんなことを言ったのかもしれない。
「まぁ。でもルーが謝ることじゃないでしょう?」
それよりも詳しいことが気になる。
だが、聞いていいものかと聞きあぐねているとルークは答えてくれる。
「ミクラーシュの術は無事とくことができた」
「よかった」
絡まれた時は頭にきたが、操られていたなら別だ。
ホッと息をつきミクラーシュの無事に肩を撫でおろした。
だが、・・・何故あんなことになってしまったのだろうか。
アンジェリーンはどうなったのだろう?
昨晩はガリウスとそのまま帰ってしまったため、詳しいことは聞いていないのだ。
「あまりよくはない・・・」
どういう事だろうかと眉を顰めてルークに尋ねる。
「何故?」
「術が解けたミクラーシュに尋ねたが・・・結局わからないままだった」
「・・・そっか」
誰に掛けられたかわからないのは心配だが、つまりそれはアンジェリーンの所為ではないと言う事だ。
そんなことを思っているとルークの声色がワントーン下がる。
「・・・。あんな風になるのは・・・二回目なんだそうだな」
「え・・・?あ、・・・聞いたんだ」
「・・・言ってていったじゃん」
なんの事かわかったシャリオンに、ルークは拗ねたようにつぶやいた。
ルークはどちらかを選ぼうと進めているのだ。
そのうちミクラーシュに興味があるのは明らかで、それなのにミクラーシュを候補から外すようなことはしたくなかったのだ。
だから、ミクラーシュがハイシア家の成り立ちを尋ねることを怪しんだルークが、シャリオンに何があったのか聞かれた時に『特に何もない』と答えたのだ。
「次の日にはすぐに謝罪してくれて。それに今までにないくらい普通だったんだ」
豹変ぶりはとても驚くものだが、疎ましそうに睨まれる事がなくなるならこれからのことは良いと思ったのだ。
彼はルークをちゃんと愛してくれているところをシャリオンは応援したい。
勿論、ルークがそれをどう思うかわからないが、少なくとも何か思っているから、アンジェリーンと準備段階に入っていた結婚を一旦やめてでも、婚約者候補にしたのだと思う。
「でも、これでミクラーシュの疑いも晴れたし問題ない訳だね」
しかし、ルークの顔が曇る。
「どうかした・・・?」
「立候補を辞退するって。ニ度にわたってハイシア家に無礼を行ったことの責任をとるそうだ」
「それは・・・。
・・・僕はもうあんなことが無いなら良いよ」
「本人もまた操られるのが怖いんだってさ。
・・・周りの皆は気付いていたけど、本人はシャリオンにきつく当たっていたっていう自覚がないみたい。
話していると次第に憎悪が沸き上がってきて自分でも制御できなくなるって」
「・・・これまでも?」
「あぁ」
それはつまり、そんなに長い間洗脳状態にあっているという事ではないか。
「っ・・・やっぱり駄目だよ。婚約候補を外す話しちょっと伸ばせない?」
「・・・。どーしてそんなに推すの?アンジェリーンは駄目だと言うこと?」
「そういう事ではなくて。
どちらが結婚相手になっても僕は祝福するよ?」
「・・・、」
「けど、ミクラーシュが操られれていたのがずっとと言うのが、これから何かあったら困るじゃない」
「そうだけど」
問題に対して先延ばしにするのはルークは珍しい。
何を考えているかわからなくて、ジッとルークを見つめていると苦笑を浮かべられた。
「わかった」
そう言って苦笑を浮かべるのだった。
☆☆☆
【別視点:ルーク】
ミクラーシュを気に入っていたはずなのに、シャリオンに暴言を吐いた瞬間、怒りが振り切れそうになった。
シャリオンを見れば驚愕し、次第に苛立っていくのがルークにでもわかる。
俺とシャリオンの子供?
そんなのいくらでも欲しい。
けれどそんなことを口にするわけにもいかないし、何より後ろの男が凄い目でこちらを見てきた。
そんな事無いのは、子供達をみてもわかると言うのに。
その視線は仕事が遅いことに対しての文句だ。
婚約者の話が出た後、ガリウスはすぐにミクラーシュとアンジェリーンに見張りを付けた。
その最中の結果も聞いていたのにこの様だからだ。
だったらミクラーシュがリオにしていたことも教えてくれればいいのに
十分にミクラーシュの奇行だと思うが、シャリオンが止めたのだろう。
正直ミクラーシュが可笑しな様子を取っていると聞いた時は信じられなかった。
確かにミクラーシュがシャリオンに対して厳しい目で見ていたのは知っていた。
だが、それはルークに寄せる恋心故の嫉妬だと思っていた。
だから、問題ないとも思った。
シャリオンは領地に専念していた頃であったし、シャリオンへの睨視以上のことは出来ないと思っていたからだ。
だが、念には念をと思い、王族直下の特殊部隊を使って調べるが何も出てこなかった。
出てきていたならとっくに候補者から外してただろう。
そもそも、ハイシア家のガリウスの手の者でもわからなかったことを、簡単に突き止められるわけないと思うのだが、随分と無茶を言ってくれる。
情報活用できなかったのは申し訳ないともうが、精神をコントロールされているとはわからなかったのは、ガリウスの方も同じである。
アンジェリーンとの結婚は息がつまりそうで、それならミクラーシュの方が良いと思っていた。
操られているという事実はホッとする。
問題は誰がミクラーシュを陥れたか?と言う事だ。
取り調べを受けるために、連れて行かれたアンジェリーンの部屋を見る。
婚約者候補。
王太子である自分がどうにかしなければならなかった。
勿論自分が王太子だからと言うのもあるが、これ以上ライガーに余計な苦労をさせたくない。
ルークがいつまでも誰かを決めなければ、ライガーにもそれが及ぶだろう。
どんなにライガーが嫌がっているか知っているのに、皆それも忘れ『もうファングス家はいない』と、身勝手にも話を進めるのだ。
それだけは何としてもさせたくはない。
だから、相手は誰でも良かった。
それに・・・。
一番なってほしい人はもう選べない。
急を要した中で、アンジェリーンを選んだのは知り合いの貴族に勧められただけ。
勧められたなら一度は声を掛けておかなければならないため、断られると分かっていながらもアンジェリーンに話を持ち掛けた。
前婚約者候補が決まる前に打診した時は即拒否をしてきたから、まさか受けられるとは思っていなかった。
勧められた事も考えると、公爵家だが後継ぎになれない彼を家に置いておくのに何か問題が出たのかもしれない。
アルカス家は次期公爵が決まっているが、一番最初に名前が出るのは王族の特徴と美しさも持ったアンジェリーンだ。表面上では仲睦まじい兄弟と聞いているが、本当は良くないという声も裏の情報からは入っているからそれもあるのかもしれない。
まぁ相手が決まればそれでいい。
今は候補としてミクラーシュもいるのだから、どっちでも良かった。
しいて言うならミクラーシュの方が面白いと言うだけだ。
アンジェリーンは幼いころからルークとライガーに態度が悪かった。
親が男爵と言う事もあるが、それ以上に彼の不興を買っていたのは別の理由だと何となく気付いている。
「・・・」
その理由のことで、今回のことを起こしたなら話が変わってくる。
もし「壊そうとしている」だとか、そんな理由だったら到底許すことは出来ない。
取り調べを行っている部屋の扉を睨んでその時を待っていると漸く扉が開いた。
中から出てきた捜査の立会人はルークがそこにいることに驚いた
「殿下!・・・お待たせいたしました。・・・どうぞお帰り下さい」
男はそう言いながらすぐにアンジェリーンを通した。
「えぇ。ありがとう」
「はい!」
どんな心境の変化なのか今までは一切しなかった愛想を周りに振りまいている。
拘束されていなかったという事は、誓約書が無実を証明したのだ。
「アンジェリーンおかえり」
「殿下。お待たせを致しました」
「信じていたよ」
「ありがとうございます」
茶番のような会話をすると、2人はルークの部屋へと向かった。
☆☆☆
部屋に入り2人きりになった途端、2人から表情が無くなり自然と2人は離れた。
「白だったようだね」
「残念そうですね」
「そんな事無いよ。君が犯人じゃないならシャリオンが喜ぶ」
シャリオンも距離を置いていたはずなのに、何故かここ最近仲が良さそうだ。
連れて行かれるときでさえも、視線はアンジェリーンを心配していた。
情が深い彼は一度懐にいれたものには甘い。
「君はそうは思わなかったと、言う事でいいんだね?」
「当たり前です。シャリオンがあんな馬鹿みたいに顔を緩ませてほほ笑む相手がいるのに、貴方と関係を持てるほど器用ではありません」
「本当にミクラーシュに俺とシャリオンの子とそそのかしてないんだね」
「それで簡単にそそのかれるのも困った事ですけど。
・・・私が彼に言ったのは一回。使用人に金髪碧眼と聞いた話をしただけです」
「なぜそんな話をしたの?」
「逆になぜしては駄目なのです?」
責めた口調にアンジェリーンも腹が立ったのだろう。
しかし、その言い分はもっともだ。
ルークはアンジェリーンを見る。
「私は王配の座を譲りませんよ」
「・・・そう」
「殿下こそ私を引きずり下ろしたいが為にあの男を操ったんじゃないでしょうね」
「はは。疑って悪かった。けど・・・俺はシャリオンを苦しませることはしない」
それはあり得ないことだ。
「その言葉、信じてよいのですね」
「あぁ」
その返事に暫く見定める様にこちらを見てきたが、彼はらしくもなく頭を下げた。
「申し訳ありません」
「いいよ。俺も悪かった」
「そうですか。では早く犯人を特定してシャリオンを安心させてください」
ガリウス同様に無茶を言ってくる男に小さくため息をつく。
「そんなことを出来たならとっくにしているし、事前にミクラーシュを止めている」
「そうでうすか」
人がいない前だからなのか不愛想にそう答えるとくるりと踵を返した。
「・・・。殿下は私を一度は結婚相手にと選んでくださいましたが」
それはすすめられたからだ。とは言わずアンジェリーンに視線をやる。
「私は貴方を抱けませんが、・・・私を抱けるのですか?」
「・・・、」
言い淀んだルークにアンジェリーンは笑った。
「良かった」
「何が」
「いいえ。でも、決まりましたね。子は体外から魔力を与えましょう」
それは体内に入れて核組織に子を宿し体内で成長させるのではなく魔法でと言う事だ。
ルークもそれはありがたくはあるが、そこまで嫌いな男とよく結婚する気になったものである。
「組織を差し上げることも魔力を与えることも構いません」
アンジェリーンはそう言うと、早々に部屋を出て行った。
・・・
・・
・
困った奴だ。そう思いつつもホッとしている自分もいた。
あの男を素面で抱くのは無理だ。抱かれるなら勝手にやってもらえばいいことだが、拷問の様に思える。
だが、それをシャリオンに知られのが嫌だなと思っていると部屋にノックが響く。
兄であるライガーかと思ったがそれは別の来訪者だった。
「・・・ミクラーシュ」
顔面蒼白で沈痛な面持ちをしている。
自分がしたことを聞かされたのだろう。
入り口付近から入ってこずにミクラーシュは頭が膝につくくらいに頭を下げた。
「っ・・・申し訳ありません・・・!」
「お前がなんともないと聞いてよ」
『良かった』そう言おうとした言葉をミクラーシュが遮った。
「っ責任をもって・・・婚約者候補と言う立場を自体させていただきます!!」
「・・・、」
「私は・・・あの方に無礼を働くのは2度目なのです・・・」
普段の態度の悪さを覗いて他にもあったと聞いて驚く。
そしてその表情を見て、よく理解をしたのか、ミクラーシュは辛そうに顔をゆがめた。
「っ・・・ルーク様の大切な方を傷つけてしまい、申し訳ありません」
「・・・、・・・。シャリオンは謝ったなら」
「またあのようにしてしまうのが怖いのですっ!」
「・・・、」
「・・・っ・・・あの方が心優しき方だと言うのは存じています・・・しかし、だからこそ、もう」
「・・・ミクラーシュ」
「・・・。殿下・・・」
頭を下げていたミクラーシュは頭を上げると、ルークに視線を合わせじっと見つめた。
「・・・貴方様を心の底から愛しております」
「・・・、」
「だからこそ、これ以上貴方に迷惑をかける訳には行かないのです。
・・・言いたいことはそれだけです。後日正式に書状を持たせますのでお待ちください」
そう言うと、言い捨てる様にミクラーシュは出て行ったのだった。
☆☆☆
【シャリオン視点】
ミクラーシュは再び何かをしてしまうのを恐れているのだ。
ルークを想うからこそ、離れようとしている。
シャリオンにもそれが分かる。
「・・・ルークのことを想っているんだね」
「王配には難しいけどね」
「普通の状態なら問題ないんでしょう?」
「そうでもない」
ルークは何かを思い出しているのか、クスクスと笑った。
余程気に言っているように見えるのに・・・何故だろうか。
「本当に辞退を受け取ってしまっていいの?」
「聞いただけ」
「なにが?」
「だから聞いただけだよ。『辞退する』って。
正式に辞退するって言っているけれど、受け取れないかもしれないじゃない~?」
そういうルークは意地が悪そうに笑った。
何故だろうか。
シャリオンの目論見通り、断っていないはずなのに、ミクラーシュが気の毒に思えたのだった。
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