婚約破棄され売れ残りなのに、粘着質次期宰相につかまりました。

みゆきんぐぅ

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執着旦那と愛の子作り&子育て編

うちの子達を紹介しよう。

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ハイシア領の領主城。
城内には騎士館に併設して、武術と魔術の訓練場がそれぞれある。
その魔術訓練場が、所属する高等魔術師の結界に包まれていた。
集まる兵士達は皆、神妙な面持ちである。
中央にたくさんの人の兵士にセレスは囲まれポツンと立っている。
シャリオンは魔術訓練場の中にもう一つ作られた結界の中で、セレス達を見守っていた。

実験の為である。

セレスの実力は信じている。
何度も助けられたし、ワープゲートもワープリングの実績もある。
だが、やはりただの村民がいるところに試験せずに試すのはどうしてもできなかった。

ならば自分で確かめればいい。ワープリングも他の人間も試した後だが、シャリオンも使用感を確かめた。
それと同じである。
不可思議な現象の対抗策で作られた魔力吸引の指輪アスピルコアリングの性能試験を自らやることを名乗り出た。

当然、皆がざわつき普段声を掛けてこない者達まで止めに入ってくる。
特にゾルとセレスには「お前がやる必要はない」だとか「何かあったらお子様達どうするの~?」などと、止められたのだが、頑なに「セレスが作ったんだから大丈夫」とシャリオンは受け付けなかった。

説得しても情に訴えても止められないと察した彼等はついにガリウスに相談してしまう。
薄々ガリウスに話が行くだろうと思ってはいても、彼に説得されても譲らない気持ちでいたのだが、城にいるはずのガリウスから思考共有で痛恨の一言「シャリオンの気持ちは十分よくわかります。・・・しかし、貴方では魔力が低すぎて試験にはならないのでしょうか」と、言われぐうの音も出なかった。

確かにそうだ。
その為、渋々諦めたのだが、・・・そこで名乗りを上げたのはセレスだ。
ガリウスの理論から言うと、ハイシア領の兵士で一番魔力があるのはセレスだからである。
何時だってシャリオンを助けてくれたセレスの魔法道具。
もう一度言うが、その力を信じている。
だからこそ、出力多めでセレスが大丈夫か心配になったが、心配を上げたらきりがない。
それに指揮官がいつまでも不安がっては進まない。

そんな中始まった試験。
体験したことが無い恐怖な出来事に困惑しているが、こんな状況にしたものに対して即攻撃をしたいわけではなく、
何者なのかを特定するのも目的である。
その為、弱い出力から徐々に出力を上げることを想定しており、試験も今7回目だ。
指輪の効力が徐々に落ち着いていくと、ついにふらついたセレスは兵士に支えられた。

「っセレス!・・・すぐに治療を!」

無意識に駆け出そうとしたシャリオンの腕はしっかりとゾルに捕まれていた。
そんなゾルに直ぐに指示をする。

「ふふ。・・・大袈裟だよ。・・・シャリオン様は。
大丈夫。ちょっと吸われただけ。
・・・流石ボクが作った魔法道具って感じ?」

その言葉にホッとしつつも、にこやかに笑うセレスにやせ我慢なんじゃないかと疑ってしまう。
早く試験を終わらせるためにも、周りの兵士達に視線を向けた。
兵士達は村民の役で居てもらっている。
彼等の魔力が著しく座れるようなら、それが目途である。

「・・・兵士の皆はどう?」
「はい!無事であります!」
「そう・・・ありがとう」

その言葉にホッと胸をなでおろした。
そしてシャリオンはまっすぐと視線をあげた。
もう、その瞳に迷いはない。

「皆協力をしてくれてありがとう。村への調査のやり方は先に説明した通り、アスピルコアドレインで実施する。
実行はセレスの魔力が戻ってからになるから、・・それまで十分に皆も体を休めてほしい」
「「「ハ!」」」

シャリオンの命令に敬礼を示す兵士達。
セレスは笑っているがそれでも疲労感はあるようで、言葉も少ないまま部屋に戻っていった。
同行はしないが、彼の魔力が回復しない限り調査に行かせるわけにはいかない。
この作戦の要はセレスでもある。

早期に決着がつけばいいと、シャリオンは村のある方角の空を見上げた。

☆☆☆

調査は思う様に進んでおらずあまりいい結果ではない。
初日に調査隊からの一方は、頭をより悩ませた。
セレスの目論見通り村のあたりから高魔力が検知され、引き続き調査を行ったが中心部方向にいくら進んでも村はない。それどころか突き進んでいくと、元の場所に戻ってきてしまうという事が分かった。
その間、人の気配も生き物の気配さえもないと言う状況だったらしい。
あたりの調査を一旦やめると、予定通りにアスピルコアリングに寄る魔力吸引に作戦は移行した。
それから毎日良い知らせを待って、・・・8日と言う時間が流れた。

その件に集中していたいが、調査隊を指示した後のシャリオンが出来ることは少ない。
であれば、領主としてそのほかの執務をこなしながらも、今はルークの婚約者であるミクラーシュが洗脳を掛けられていたことに関しても動かなければならなそうだ。

アルアディアの貴族として、国の事も重要である。

正常な状態なら見守るだけで口を出したりなどはしないが、今回はシャリオンにも関係が出来てしまったから仕方がない。
本来のミクラーシュは生真面目なようで、洗脳中とは言えシャリオンへの暴言を猛省し彼はルークの婚約者を辞退すると言い出してしまった。

シャリオンとしては誰が王配になろうとも、ルークのパートナを支え応援する。
だが、ルークが気に入っているなら、ミクラーシュの方が良いのではないかと思う。
口では『王配には向かないかもね』などと言っていたが、明らかに気に入っているように思えたのだ。

・・・そうなるとアンジェリーンの事が気になるけれど

彼はルークのことをあまり好ましいと思っていない様子だが、本気で王配になりたい様だ。
以前の彼にだったらなんとも思わなかった。
王配を選ぶのはルークであり、シャリオンは祝福するだけ。
しかし、ほんの少しだが親しくなったアンジェリーンに少しだけ情も沸いている。

「・・・はぁ」

もし選ばれなかったなら愚痴くらいは聞いてやろうと思う。
シャリオンの立場ではどちらか一方に肩入れするのは余り良いことではない。
サーベル国へ発つときにの会話で、ハイシア家はアルカス家を支持していると言う話が流れているらしい。
王配になりたいと言うアンジェリーンには申し訳ないが、ルークが気に入っているであろうミクラーシュをこのまま辞退させるにはいかない。
そこまでお節介をやく気は無いが、ハイシア家は何とも思っていないことくらいは伝えて良いだろうと思っている。

そんな風に考えたシャリオンは2人をハイシア領主城に招待した。
2人からの返事は承諾で共に今日に時間を取ることが出来た。

シャリオンは2人の来訪の知らせにサロンに向っている、そんな時だった。
使用人が扉に手を掛けたところで、声を掛けられる。

「っ・・・シャリオン様」
「ん?・・・セレス?」

焦った様子にシャリオンはそちらを見ると、事態があまり良いものじゃないものだと分かる。

「ちょっと、・・・いいかな」

付き添ってくれているゾルもどこか緊張した面持ちで、もしかしたらもう知っている事なのかもしれない。

「どうしたの」
「・・・兵士が、1人・・・消えたみたい」
「・・・、」
「でも、心配しないで生きてる」
「どういう事?」
「向かった調査隊の兵士達の気配は予め追ってるんだ」
「!・・・そう」
「ごめんね。たぶんシャリオン様はそういうのすぐ知りたいと思ったから」

心配気な表情に気を遣ったのだろう。
シャリオンは首を横に振った。

「早く教えてくれてありがとう」
「・・・、あのそれでシャリオン様」
「ん?」
「ボク、・・・見てきて良い?」

セレスは報告と言うよりも、その許可が欲しかったのだろう。
確かにセレスが行ってくれたら心強い。
けれど、不安もある。
だが、シャリオンは悩んだ末コクリと頷いた。

「わかった。じゃぁ気を付けて行ってきて」
「気を付けるも何もワープリングを使うんだよ~?」
「そうだね」
「心配そうな顔をしないで。ちゃんと消えた兵士も連れ戻してくるし、ついでにワープゲートを置けるイー感じのところも探してくるから!」
「、・・・うん。ごめん」

明るい声色で言ってくれているのはシャリオンの為だ。
それでも表情が重いシャリオンにセレスは苦笑を浮かべた。

「えっと。お客様お見えだったんだよね~?ごめんねー邪魔して」
「ううん。ありがとう」
「じゃー行ってってきますー!」

セレスはそう言いながら、すぐに外へと向かって歩き出した。
その姿を見届けていると、そっとゾルに声を掛けられる。

「・・・。アイツらなら大丈夫だ。一緒にウルフ家の者も同行させよう」
「うん。わかってる。・・・ありがとう」

そう返事をするとシャリオンは2人が待つ部屋へと向かった。


☆☆☆


部屋へと入るとアンジェリーンの鋭い視線がシャリオンを突き刺す。
確かに少々待たせてしまったと反省しつつ、2人の元へと向かう。
入った瞬間も特に話している様子は無かった。
とは言ってもこの屋敷には防音の魔術が掛けられており、中の声は外に聞こえないのだが。
いや、それ以前に候補者同士和気藹々というのは珍しいだろう。

「お待たせしました」
「えぇ。本当に」
「っ・・・いえ。お気になさらずに」

アンジェリーンの強気の姿勢に、ミクラーシュがぎょっとしたが、すぐさま気遣う反応を返してくれた。
以前なら感じの悪いことにカチンと来ていただろうが、今は余りそうでもない。
ほんの少し素を見せて話しただけなのだが。

「ここ最近は猫被っているのに、そんなの見せたら駄目なんじゃないの?」

シャリオンがそう言うと、アンジェリーンはチラリとミクラーシュを見るが、すぐにこちらに視線を寄こした。

「構いません。貴方と殿下。それにフィラーコヴァー様くらいに素で居たってかまわないでしょう」
「いや・・・せっかく隠してるんだからさ」
「それとも偽りの私が良いと言うのですか?」

そう言うわけではないのだが。
シャリオンは苦笑しながら首を横に振る。

「違うよ。けど前も言ったけれど、僕は優しいアンジェリーン様が良い」

アンジェリーンはいつかのように、フッと意地悪気な笑みを浮かべた。
素直にはそうしてくれないらしいことを悟ったシャリオンはミクラーシュに視線を向ける。
このまま言い返していてはまた遊ばれてしまう。

「暗示が解けたと聞いてホッとしたよ」

シャリオンの言葉に彼は体をびくつかせた。
脅かすつもりは全く無かったのだが、ハイシア家の名前がそれほど大きいと言う事だ。

「っ・・・ハイシア様・・・っ・・・一度ならずニ度までもあのようなことっ」

音がするくらいの勢いで頭を下げるミクラーシュにシャリオンは驚いた。
次期伯爵として執務をするよりも、剣を振っていた方がが得意だというミクラーシュはガリウスよりも体格が大きい男だ。

「でも、それってミクラーシュ様の所為ではないでしょう」
「っ・・・いいえ!私がもっとしっかりしていればあのようなことっ」

洗脳状態のミクラーシュの様子がおかしくなったのは、シャリオンが近づいてからだ。
セレスの作ったタリスマンは周辺を含む為、それでマインドコンロールが解けていったのが分かるが、それでも完全には解けなかった。ソフィアが洗脳にかかっていたがあの時の様に術解の物であれば聞いたかもしれないが。
それなのに、普通の人間が抵抗できるのだろうか。

「それは難しいんじゃないかな。・・・ゾル」

だからミクラーシュの所為では無いと説得しようとしているのだが、その間アンジェリーンの視線が再び突き刺してくる。
アンジェリーンからしたらミクラーシュに不利になる様に動いて欲しいと言う事なのだろうか。
困ったなと思いつつも、シャリオンの呼び声にゾルが扉を開けると、子供達が乗ったカートを使用人が引いて入室してきた。

疑われたことは不愉快だが、もう子供達を隠そうと言う気持ちはなくなっていた。
デビュタントよりもかなり早いが、もう見せてしまった方が余計な誤解を生まないだろう。
不安の一つだった魔力の暴走も、子供達はセレスの教えもあるのか、あの日以来していない。

「「!」」
「ちーちっ」
「ちちうー」

シャリオンの姿を見るなり、子供達は大はしゃぎになる。
まだ起き上がれないからカートの中で転がりながら、必死にこちらに手を伸ばしてくる。
それに理性が効くはずもなく、隣に横づけられたカートの中に手を伸ばして抱き上げた。

「はいはい。・・・う、重い」

日々大きくなった子供達はシャリオンの手にぎゅっと握る。
アシュリを抱き上げソファーに座らせた後、ガリオンを抱き上げ同じように横に並べる。
2人はシャリオンのひざ元までやってきてきゃっきゃと騒いでいる。
解かりやすく驚いているミクラーシュと、こちらも驚いていると思われるアンジェリーンに子供達を向けた。

「シュリィ、リィン?お客様だよ」
「あぅー」
「あー!」
「こちらは、アルカス公爵家のアンジェリーン様」
「あぅ」
「ぁんー?」

なんだか頑張って言おうとしている様に聞こえてしまうのは、親バカだからだと分かっていても可愛い。
2人の頭を撫でつつ、次はミクラーシュの方を向かせる。

「こちらが、フィラーコヴァー伯爵家のミクラーシュ様だよ」
「ひーぃ」
「みーっ」

こちらは難しいようで子供達は難しい顔をしていて思わず笑ってしまった。

「前にあったルークおじさんの大切な人たちなんだ」
「「るー!」」
「!・・すごいねぇ!きっと聞いたら喜ぶ。でもライも呼んであげてね?」
「「らぁぃ」」
「わぁ・・・上手!」
「「・・・」」
「あ・・・ごめんね」

3人きりの世界に浸ってしまったシャリオンはつい、2人の存在を忘れて子供達に夢中になっていた。
可笑しな空気に気付いたシャリオンは慌てて姿勢を正した。

「2人とも。ご挨拶は自分の名前を言うんだよ」
「あしゅー!」
「ぐぅーぁ」
「んー。お上手~っ」

可愛らしい挨拶にシャリオンは顔をほころばせながら子供達を抱き寄せる様にして撫でた。
そして、2人に視線を向ければ絶句している。

「ほら。ガリウスにそっくりでしょう?」
「そこじゃないです」
「っ・・・、」

ミクラーシュの方はかなり驚いている様だ。
鋭い突っ込みのアンジェリーンはこちらを呆れた視線を送ってきている。
シャリオンが2人に見せた理由も感づいたらしい。

「大体。貴方が殿下と子供を成しただなんて思っていません」
「っ・・・」
「貴方があの男を好いているのは周りの誰が見ても一目瞭然。
それに貴方は2人の男に心を向けられるほど器用ではありません」
「あ・・・ありがとう?」

褒めては無いと思うが、信用してくれたという点でお礼を言う。
するとアンジェリーンは盛大にため息をついた。

「フィラーコヴァー様。貴方も貴方です。
私が金髪碧眼と言ったからと言って何故殿下と紐づけるのです。
その所為で兄上に酷い嫌味を言われたのですよ」
「も、申し訳ありません」

アンジェリーンが思い出しているのか忌々しそうにいうと、ミクラーシュは申し訳なさそうに謝罪をする。
そもそも、それを言わなければよかったのではないだろうかとも思ったが、洗脳状態のミクラーシュには双子のガリオンが銀髪でエメラルドの瞳を持っていようが関係なかっただろう。

「シャリオンは公爵家。つまり王家の血筋を持つ者ですよ?
アシュリーが素質を持って生まれることに不思議はないでしょう」
「っ・・・申し訳ありません」
「アンジェリーン・・・。洗脳されていたのだからミクラーシュ様の所為では」
「心で思っているから洗脳されていた時にも出てくるのです」

何とも無茶なことを言っている。
思って入れば洗脳されても大丈夫なら、洗脳されないだろう。

「いや・・・だから、あのね?」
「シャリオンは魔力が低いのだから分からないでしょう?」
「・・・。え。本当なの?」
「私が嘘を言うと思っているのですか?」
「・・・でも、タリスマンの・・・あ。そうだタリスマンを贈ろうと思ってたんだ」
「タリスマン?あぁ・・・洗脳を防ぐものですね」
「そうだよ。ゾル。両方とも持ってきてくれる?」
「かしこまりました」
「あら。私にもいただけるのですか」
「あー・・・アンジェリーンにはお土産だけ」

そう言うと、アンジェリーンの眉がピクリと動いた。
そしてミクラーシュを見て棘のある口調で言う。

「フィラーコヴァー様ほかにも何か?」
「うん。ミクラーシュ様にもサーベル国のお土産をね」

そう言うと、アンジェリーンは「私がお願いしましたのに」と拗ねたようにぶつぶつと文句を言った。
しかし、運ばれてきた物を見ると、不機嫌さは吹っ飛んだのかアンジェリーンは目を輝かせた。

「まぁ!二着も?」
「うん。一つはサーベル国の通常の衣装。もう一着はうちの専属デザイナーのジャスミンが、アルアディアでも着れるようにアレンジしてくれたものだよ」
「そうですか。・・・貴方が選んでくださったのですよね?」

じぃっと見てくる視線に苦笑した。

「あー・・・正直言うと、どれも素敵だったからジャスミンに絞ってもらったんだ。
それでその中から似合うと思うものを選んだよ」

アンジェリーンは自分の為に選べと言っていた。
だが実際には選べなかったので正直に伝えると、アンジェリーンはクスっと笑った。

「相変わらず正直な。・・・えぇ。とても素敵です。気に入りました」

そう言って優しく目を細めてくれた。
衣装を大切そうに手に取ってくれるとシャリオンも良かったと思う。

「フィラーコヴァー様はどういった感じですか?」

アンジェリーンが気を回してミクラーシュにそう尋ねてくれるたのだが。
先ほどから暗い顔をしっぱなしのミクラーシュは声を絞る様に答えた。

「っ・・・私は、・・・私は受け取れません」

あの日の集いは殆ど親しい間柄しかいないとは言え、社交の場で自分より爵位の上の人間にあんな暴言を吐いてしまったのだ。
そうなってしまうのもわからないでもない。
なんて言おうかシャリオンが迷っていると、アンジェリーンが不満そうに言う。

「シャリオンが選んでくれた物を受け取れないのですか」
「・・・アンジェリーン様」

窘める様に止めた後、ミクラーシュに話しかける。

「・・・ミクラーシュ様。どうかあの時の事はわs」
「っ私はっ・・・私が怖いのです!また貴方に酷いことを言ってしまうのではないかとっ」

そういうミクラーシュは耐える様に震えている。
それほど真剣に考え、悩んでいるのだ。
シャリオンはミクラーシュの気持ちを考えると辛くなる。
洗脳されていたとは言え、ルークを想う気持ちは本物だ。
それなのにあんなことをしてしまったのだ。
言葉を選んでいるとアンジェリーンがすぐさま割って入ってきた。
なんだかやたらペースを崩されてしまう。

「馬鹿らしいですね」
「っ」
にいられるのに何故自ら離れる必要があるのです」
「アンジェリーン様っ!」
「少し黙ってなさい。貴方は子供達の相手でもしてなさい」
「・・・えー」
「ぁぅ?」
「ちー」

酷い言いようにシャリオンは思わず呆気に取られてしまう。
子供達がそんなシャリオンを慰める様に膝の上によじ登ってくるので、シャリオンは2人を抱きかかえる。
座っているから出来ることなのだが、・・・不思議だ。
子供達に触れていると今あったこともスッと消える。
真剣な話をしているのにキラキラとした眼差しで見つめられると、なんだか子供達しか見えない。

すると子供達の相手をしてろと言ったはずなのに、アンジェリーンの呆れた眼差しに気付きシャリオンは表情を引き締めた。
流石にこの状態で子供達は連れて来なかった方が良かったかもしれない。

「夜会で殿下に告白されたのも、洗脳された偽りの言葉と言う事ですか」
「!違います!!」
「なら、何故離れるのです。
殿下に婚約候補辞退しろと言われたのですか」
「っ・・・それは、自分で」
「そうですか。ならば、そのことについて殿下は認められましたか?王家から正式な返答はありましたか」
「!・・・それは、きっとこれから来るはずです」
「候補者辞退だなんてそんなもの速達で来るに決まっているでしょう。
ちなみにアルカス家にはいまだに王配決定の知らせは受けておりません」
「っ」

アンジェリーンの言葉にホッとしつつも、目的がますますわからなくなった。
王配になりたいと言うのに、何故ミクラーシュを引き留めるのだろうか。
2人の会話を見届ける様にシャリオンは傍にいた。

「決まっていた話を拗らせたのは貴方です。
責任を取って最後までやり遂げなさい」
「っですが!」
「しかし、私は王配の座を譲りません。貴方は精々私に敗北し散り行き、愛した男が他の男の物になるのを黙って指をくわえて見ていると良いです」
「っ・・・」
「それまで、殿下の傍で想いを募らせればいい。
シャリオンから渡されたタリスマンがあるでしょう」
「なぜそんなことが言えるのですか!!」

アンジェリーンの焚付ける言葉は理解が出来ないが、言葉は心づよかった。
自分も何度も助けられていると、続けようとしたのだが・・・。

「この国にから贈られた魔法道具が信用できませんか」

「「え?」」

ミクラーシュが驚くのは当然だ。
しかし、その事実を知っていることに、シャリオンも驚いた。
2人してアンジェリーンを見つめていると、シャリオンにクスリと笑ってみせた。

「人を使って調べさせるのには限度があるとつくづく理解しました」
「えー・・・と?」
「先ほど面白いお話をしていらっしゃったでしょう」
「・・・?」
「ワープリングとワープゲート。・・・そんな名前でしたね」
「!!」
「その名の通りの出来なのだとしたら・・・まるで、陛下が各地に贈られた転移装置と同じようなものですね」

もう、隠す必要は無いと結果を出したのだが、こんなに早く知られてしまうとは思わなかった。

「転移装置の設置にピンク色の髪の男が中心で動いていたと聞きますが、王都の騎士団に所属する魔術師にそのような容姿を持ったものは居りませんでした。
ですが、最近ハイシア領でよく見かけると聞くのですけれど。
・・・あとどういう情報を言ったら認めて下さいますか?」

先ほど部屋の外の会話を魔法で聞いていたのかもしれないが、すでにハイシア家が絡んでいると言うのは知っていたようだ。先日までは何処まで転移装置の設置が住んでいるか知らないようだったのだが。

・・・それが「人に調べさせても」ってことなのかな・・・

シャリオンは苦笑をしながらアンジェリーンの方を見た。

「必要ないよ。アンジェリーン様の仰る通り。転移装置・・・ワープゲートはうちの魔術師が設置したものだよ」

認めるとアンジェリーンは目を細めた後ため息をついた。

「何故隠す必要があるのか、そして何故無償で各地に置いたのか理解に苦しみますが。
それは良いのです。
フィラーコヴァー様。これで分かったでしょう?
あのような優れた技術を用いた転移装置・・・いえ。ワープゲートを作り出したハイシア家の魔術師が作ったタリスマンです。心配する要素がどこにあるのです」

少々傲慢な言い方だがシャリオンも続けた。

「タリスマンの効力なら、僕は2度も命を救ってくれたんだ。保証するよ」
「・・・命?」

冷たいアンジェリーンの声に構わずに続ける。

「でも根本解決には至ってない。
だから余計にルークの傍から離れては駄目だと思う。
それでも辞退をしたいなら止めないけど、原因が分かって完全に解除されてからでも良いんじゃないかな」
「っ・・・」

そう説得すると、ミクラーシュはシャリオンにすがるような視線を向けてくる。
操られてると言うのが怖いのだろう。
シャリオンは想像でしかないが、・・・それでも恐怖だ。
その視線を労わるようにシャリオンは微笑んだ。

「決まりだね。ルーには自分でちゃんと言うんだよ?」
「・・・はい。申し訳ありません」
「大丈夫。もうミクラーシュ様からの謝罪はこれで終りね?」
「っ・・・あの」
「ん?」
「私の事はどうぞ『ミクラーシュ』とお呼びください」
「え」
「お願いします」

頭を下げるミクラーシュに戸惑ったが、本人がそう言うのならそう呼ぼう。
そう思ったところに怒気を放った止めが入る。

「お待ちなさい」
「ん・・・?」
「なぜ、は名前呼びになるのに、私は敬称付きになるのです」
「それは・・・」
「ミクラーシュもいずれは王配になるかもしれない立場。
それなのに敬称なしならば、私も必要ないでしょう」
「えー・・・と。・・・呼んで欲しいの?」
「当たり前です。以前教えたように呼んでくださっても構いませんよ」

食い気味に即答されてシャリオンは思わず苦笑を浮かべる。

「それはちょっと。でもわかったよ。アンジェリーン。
ミクラーシュも僕のことはシャリオンと呼んでね」
「!・・・、しかし。・・・いえ、はい」

シャリオンが名前を呼ぶと満足そうに笑みを浮かべた後、ミクラーシュを見る。

「ではミクラーシュ。
どちらが殿下に選ばれるか分かりませんが、共に殿下を支え合いましょう」
「はい!」

アンジェリーンとしてはあんな理由で去られるのは許せないと言う事なのだろうか。
すると、2人の視線がシャリオンに再び寄せられる。
いや、どちらかと言うと子供達にだ。

「可愛らしいですね」

あのアンジェリーンがフッと優し気に微笑む。

「触れさせていただいても良いでしょうか」
「はい。どうぞ!」

アンジェリーンが立ちあがりこちらに近寄ってくると、片膝をついて子供達を見つめている。
その表情は『可愛い』ものを見るようなそんな瞳だ。

「アンジェリーンは子供が好きなの?」
「いいえ。どちらかと言えば好きではありません」
「「え」」

子供達を可愛い・・・いや。どちらかと言えば愛おしそうに撫でるその様子に、シャリオンもミクラーシュも信じられない。
だが、同時に焦燥感も募った。
子供達はガリウスにそっくりだ。将来美人になると思う。
そんな子供達をそんな目で見ているのを見ると、考えたくもない思考に陥る。

「・・・、」
「?どうしたのですか?」

あんな風にガリウスを邪険にしていたのは、裏返しの感情だからだろうか。

「あ・・・アンジェリーンは」
「はい」

ミクラーシュが息を飲んだのがシャリオンにも聞こえた。
きっと同じことを思っているのだろう。

「ガ・・・ガリウスが・・・す」
「嫌いだと言ったでしょう」

それはそれは嫌そうに眉を顰めるアンジェリーンにホッと息をなでおろす。

「・・・良かった」
「・・・何故です?」
「だって・・・アンジェリーンは王都によく行くでしょう?だから」
「はぁぁぁ・・・。一億・・・いえ。一兆歩譲ったとして私があの男をそういう対象で思っていたとしても、あの男もまた貴方と一緒で、貴方しか見えてないのだから、全く持って問題は無いと思いますけれど」

呆れたようにそう言われても不安なものは不安だし、アンジェリーンが美しさと可愛さを持ったビジュアルに焦るなと言うのが無理だろう。

「シャリオンはガリウス様をそれ程愛しているんですね」
「っ・・・、・・・この話・・・止めようよ」

向けられうる視線が恥ずかしくて視線を逸らすシャリオンに2人はクスクスと笑った。

「仕方ありませんね。・・・ではミクラーシュ。
つまらない話でしょうが、貴方に聞きたいことがあるのです」
「?はい。なんでしょう」
「貴方が洗脳されたことについてです。
もう散々話しているとは思いますけれど、教えていただけますか。
予兆というか疑わしいことは無いのですか」
「・・・それが・・・全くないのです」

悔しそうに声を絞るミクラーシュ。
聞いているアンジェリーンもその事は責めないようだ。

「・・・そうですか。まぁ・・・わかっていればとっくに話していますね」
「はい・・・」

2人が少し沈むのを聞きながら、シャリオンはふと思い出す。

「アンジェリーン。うちハイシア領が独立する気だと思ってる・・・?」

口にした言葉にみるみる間に眉を顰めた。

「どこをどうしたら貴方が・・・いえ。ハイシア家が独立しようと思っていると思うんですか。
ハイシア公爵があれほど陛下に仕え、貴方の伴侶もまた国に力を注いでいるのに」

馬鹿にしたように言う言葉に、シャリオンはホッとした。
だがそれで一つ疑問が確信に変わった。

「ミクラーシュ。それを言ったのは誰?」
「・・・どういう事です」
「以前、家に来た時にハイシア家がアルアディアから独立を計画・・・いや。
国家転覆を狙っていると聞いたみたいなんだ」

アンジェリーンも表情が厳しいまま、ミクラーシュに視線を送ると彼は何を言われているかはわかったようだが、信じられないように固まっている。
そして、開いた口を一旦閉じたが・・・ゆっくりと開いた。

「・・・友人です」
「友人?・・・その人物はハイシア家に恨みがあるのですか」
「いや・・・そんなことは言ってなかった。
とういうか。・・・あいつはいつも私の話を聞いてくれて・・・殿下への想いについて相談に乗ってくれていました」
「・・・。庇い盾するつもりですか」
「!ち、違います。ただ、本当に良い奴で・・・貴族でなくなって少し荒れたけれど、今は真面目に働いているんです」
「没落貴族ですか・・・」
「家の事業が失敗したって言ってました。
・・・、・・・確かに『ハイシア家が戦争する気なのかもしれない』と、アイツは言いました。
けど、・・・アンジェリーンの時のように『金髪碧眼』と言う言葉を過剰にとらえたように、それも大袈裟にとらえたんじゃないかとも思います」
「・・・。その・・・彼はうちハイシア領に来たことがあるんだ」

商人は各地を渡り歩くが基本的に王都の人間は地方へは行かない。
不思議そうに尋ねればミクラーシュはコクリと頷いた。

「はい。今はハイシア領に住んでるって。・・・えーっと・・・どこにって言ったかな。
何度か聞いたはずなんですが」
「「・・・、」」
「あれ・・・?・・・・、」

必死に思い出そうとしているミクラーシュが次第に焦り始める。
そして、ハッとして固まり、息を飲んだ。

「その友人の名前を教えていただけますか」

アンジェリーンの厳しい視線がミクラーシュに絡む。
友人がどうなるのか考えたのだろう。
一瞬言いよどんだが、それでも答えてくれた。

「・・・エリックです。・・・家名は・・・
「・・・、エリック・・・ありふれた名前で沢山いすぎで逆に分かりませんね」
「今の貴族なら分かるんだけど、流石にいないとなると覚えてないな・・・」
「信じて・・・くださるのですか」

驚いたようにいうミクラーシュ。
嘘をついているように見えなかったのだから当然だ。

「うん。ミクラーシュを信じるよ」
「貴方もまた不器用そうですもの」
「っ・・・ありがとうございます」

友人だと言うその人に複雑な思いはあるだろうが、糸口は見つかった。
シャリオンはゾルに指示を送ろうとしたときだった。

ゾルが・・・こちらを凝視してきていた。

「・・・ゾル・・・?」


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女性なら、三年夫婦の生活がなければ白い結婚として離縁ができる。 僕には三年待っても、白い結婚は訪れない。この国では、王の愛人は男と定められており、白い結婚であっても離婚は認められていないためだ。 初めから要らぬ子供を増やさないために、男を愛人にと定められているのだ。子ができなくて当然なのだから、離婚を論じるられる事もなかった。 そして若い間に抱き潰されたあと、修道院に幽閉されて一生を終える。 僕はもうすぐ王の愛人に召し出され、2年になる。夜のお召もあるが、ただ抱きしめられて眠るだけのお召だ。 そんな生活に変化があったのは、僕に遅い精通があってからだった。

新しい道を歩み始めた貴方へ

mahiro
BL
今から14年前、関係を秘密にしていた恋人が俺の存在を忘れた。 そのことにショックを受けたが、彼の家族や友人たちが集まりかけている中で、いつまでもその場に居座り続けるわけにはいかず去ることにした。 その後、恋人は訳あってその地を離れることとなり、俺のことを忘れたまま去って行った。 あれから恋人とは一度も会っておらず、月日が経っていた。 あるとき、いつものように仕事場に向かっているといきなり真上に明るい光が降ってきて……? ※沢山のお気に入り登録ありがとうございます。深く感謝申し上げます。

【完結済み】準ヒロインに転生したビッチだけど出番終わったから好きにします。

mamaマリナ
BL
【完結済み、番外編投稿予定】  別れ話の途中で転生したこと思い出した。でも、シナリオの最後のシーンだからこれから好きにしていいよね。ビッチの本領発揮します。

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、自らを反省しました。BLゲームの世界で推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑)

皇帝の立役者

白鳩 唯斗
BL
 実の弟に毒を盛られた。 「全てあなた達が悪いんですよ」  ローウェル皇室第一子、ミハエル・ローウェルが死に際に聞いた言葉だった。  その意味を考える間もなく、意識を手放したミハエルだったが・・・。  目を開けると、数年前に回帰していた。

オメガに転化したアルファ騎士は王の寵愛に戸惑う

hina
BL
国王を護るαの護衛騎士ルカは最近続く体調不良に悩まされていた。 それはビッチングによるものだった。 幼い頃から共に育ってきたαの国王イゼフといつからか身体の関係を持っていたが、それが原因とは思ってもみなかった。 国王から寵愛され戸惑うルカの行方は。 ※不定期更新になります。

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