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執着旦那と愛の子作り&子育て編

お出かけは好きみたい。

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久しぶりに参加した夜会から、しばらくたったある日。
領地の執務室で受けたゾルからの報告に耳を疑う。

「戻らない?」

机から顔を上げると難しい表情をしているゾル。

「あぁ。それどころか工事が進んでいる様子がない」

それは橋が壊れなおしに行った一行の話だった。
次期的に終わってないのは妥当だと思うが、着工もしていないというのは可笑しい。
シャリオンは机の上の書類をかたずける。

「場所を間違えているのかな。地図を」
「それも考えて上流下流を500mほど探させたがいなかったそうだ」

まるでシャリオンがそう言うのが分かっていたかのように、すぐに広げられた地図を見るが悩んだ。
曲がりくねった川に施工場所が分かりにくかったとしても、そもそも修理で行って古い壊れた橋がない所に建てるだろうか。

「地図に載ってないけれど、以前使われていた古い橋とか残ってないよね」
「調べさせよう」
「先に向かった人達の捜索を第一優先でお願い。後急を要すると言っていたから、追加で人員の派遣を」
「わかった」

ずれた場所につくられていたなんてオチだったらいいのだが。
税金を使い橋を造るのだからそれは困るが、領民が無事ならまだいい。

「それと、最近可笑しな・・・いや。我が国の一般的な衣服をまとった異国人の出入りが多いと報告が入っている」
「?・・・転移装置から?」
「いや」
「税関通ってきているの??・・・王都側?」
「内陸地と両方だそうだ」

どうやら、ハドリー領の方からは来てないようだ。
となると、異国人と言うのはカルガリアの人間なのだろうか。
ゾルが特定して言わないという事は、報告元はウルフ家の者ではなくハイシア領民からと言う事だ。

「なんだろう。・・・ただの観光なら良いのだけど」

沢山お金を落としてくれているだけなら良いのだが、ここ最近と言うのは気になるところだ。

「おかしな行動がないか報告する様には通達しているが・・・。
それで追尾と言う話も出ているが」

ウルフ家は彼等のハイシア家に仕えるにあたり、思考共有で少人数単位で繋がっている。
全員で繋がってないのは以前の事件の通りだが、その小さなネットワークの中でも意見交換をしたりしているらしい。

「うん。それでいいよ。・・・領地内で何かをしているのか、抜けて行って何かをしているのか確かめたい」

領地の外周には塀がある。
それはアルアディア国になる前に建てられた境目だがそれは砦と共に残されたままだ。
建てられた当初は当然防衛の為だが、今は警備の為で王都で犯罪を起こし他領へ逃げることを許さないための措置である。
だが、砦に駐在するのは必ずもウルフ家の者だけではない。
つまり、得意な思考共有が出来ない時には直接行って確かめる必要がある。
地図をその先に広がる大地を見ながら、考えすぎであることを祈った。


☆☆☆

王都にあるシャリオン達の屋敷。
普段領から出ることがない子供達は心なしかはしゃいでいるように見えた。
物怖じしない子供達に感心する。
そこから今度は馬車に乗せられて興味津々だ。

「これから父様の父様のところ行くんだよ」
「ぁぅー」
「ぅ?」
「貴方達と歳の近い子供もいるので楽しみですね」
「ぅーっ!ぅーっ!」
「大はしゃぎだね」
「馬車が楽しいのかもしれません」

興奮しすぎて先日の様に魔法を暴発させないと良いのだが。
なお、言い聞かせてからは暴走すると言う事は起きないけれども、今日は念の為にセレスも同行してもらっている。

「ちーちー」

きゃっきゃとしている子供達。
シャリオンがアシュリーを撫でると、ガリオンが嫉妬して要求する様にぺちぺちと叩いてくる。

「ちーちうー」

それに苦笑をしながらガリオンも撫でてやると、ガリウスが顔を覗き込んできた。

「・・・シャリオンに撫でてもらってご機嫌とは。今だけですよ」
「が・・・ガリィ・・・またそんな事を言って」
「許容は作法を習う7歳までです」

そういうガリウスは本気の様で思わずそちらに視線を向ける。

「冗談・・・だよね?」
「そう思いますか?」

にっこりと笑みを浮かべるガリウスにシャリオンは引きつった笑みを浮かべる。
しかし、ガリウスはクスクスと笑いながら頬に口づけてきた。

「そうは言いますが。大体どの貴族もそうでしょう?
貴方は違うのですか?」
「僕は・・・あれ。確かにそうかも」
「でしょう?でも求められたからと言って撫でていたら、シャリオン離れが出来ません」

言いたいことは分かる。
何よりも自立させるために部屋を分けているのだから、あまりスキンシップは良くないのだろうが・・・、覗き込むとタンザナイトとエメラルドの瞳がこちらを見上げてくる。

「っ・・・シュリィ・・・リィン・・・大きくならないで」
「公爵家の後継ぎはどうするのです?」

そう言いながらもその口調は優し気だ。

「わかってるよ。・・・それに、僕が触れたくてもそのうち大人になって触れさせてくれなくなるんだよ」
「そうですよ。
ですからシャリオンも子供達と一緒に頑張りましょう?
親離れ出来ないのも困りますが、子離れ出来ないのも貴族としては恥ずかしいことです。
子供達の為です」
「そう・・・・だね」

そう返事をするシャリオンにガリウスは慰めるように撫でる。
そんな2人を使用人達は温かく見守り、ゾルは呆れたように小さくため息をついた。


☆☆☆


屋敷に到着し、ガディーナ家の皆に挨拶をする。
今日は義兄であるガヴィーノの伴侶と、その子供達も来ている。
セレスと数人の使用人達に子供達を任せると、大人達はサロンでお茶会を開き花を咲かせていた。

「流石公爵家ですな」
「それは・・・」

引き連れてきた使用人の人数について行っているのだろう。
ガリウスがこちらを見てきたので、コクリと頷いた。

「公爵家だからという事ではなく、どちらかと言うとあの子達の能力の所為ですね」

本日の来訪理由でもあるそれを先に伝えると、ガリウスの産みの親であるガウディーノは、何か思い当たるのか不安げにさせる。

「子供達は通常より魔力が高いのです」
「それにしては大げさではないか?」
「ガディーナ家の警備を軽んじているわけでも、大袈裟でもないのです。
兄上。あの子達は一歳も満たないですが、先日魔法で子供部屋の屋根に大きく穴を開けてくれたのですよ」
「・・・、・・・冗談、・・・ではないな。ガリウスは冗談など言わない」
「えぇ」
「私の・・・」

ガウディーノが震えた声にガーブリエル子爵がそっと手を握る。

「・・・、」
「・・・魔力が高い血筋なのです」

そんなような気がしてガリウスを見上げればそう答えてくれた。

「ガウディーノ様。どうかお気になさらないでください。
あの子達の将来を考えれば、魔力が高いことは何の障害にもなりません」
「っ」
「そうです。少々今は時期が悪いことや、あまりハイシア家に力を持っていると他の貴族に思われたくない為隠しているだけです」

シャリオンとガリウスがそう言うと、不安そうにこちらを見てくる。

「そうです。どちらが公爵家を継ぐかわかりませんが、継がない道を選んでも魔力が高ければ騎士団でその腕を振るえるでしょうし、むしろ将来が約束されたようなものです」

子供達の魔力が高いことは正直怖い。
けれど、ガウディーノにそれを気負わせたくはなかった。

「私には全く魔力がないので、むしろ羨ましいくらいです」

シャリオンが安心させるようにそうおどけてみせると、肩を下すガウディーノにホッとする。

「ガリウスも魔力が高いと聞いていますが、それで何かあったのでしょうか」
「・・・」
「・・・。・・・ガリウスは・・・」

ガウディーノのもガーブリエルも黙ってしまった。
なにかまずい聞き方をしてしまっただろうか。
いや、ガウディーノの不安げな様子を見ればそれは分かったのだが、結果を急ぎすぎてしまったと反省する。
すると、ガヴィーノがため息をついた。

「もう立派に大きく育って大物大臣を顎で使うようになったガリウスの過去を憂いても仕方がないですよ、父上方。
シャリオン殿はこちらに、魔力の高い子供を育てる上での極意を聞きに来たのでしょう?」
「義兄様。・・・はい。魔力をコントロールさせるために師を付けましたが、子供達が育つ上で出来ることはしてやりたいのです」
「なるほど。私がわかる範囲からまずお教えしましょう。
ただまぁ。先に言っておきますと、にはなれないので比べないことが一番です」

言われてみたらそうかもしれない。
子供達の能力を普通に見せようとは思っていなかったが、心配のあまり普通ではないことをさせないようにしていたところはある。

「ガリウスの幼少期はずっと本を読んでいました。
屋敷にある書棚にある魔法関係の本をひたすら読んでいました。
幼い子供が読むには早い本をいくつも読み、庭で駆けて遊ぶような子供ではなかった」

何となくそれはイメージがつく。

「ずっと・・・勉強をしていたんだ?」

思わずガリウスに尋ねたが、それを返答するのは義兄だ。

「いや。アレは趣味ですね。勉強と言うより、魔術書が好きなようで。
最初のころは遊び方がわからないのかもしれないと、外に連れ出したりカエルを捕まえて見せたりしたのですけど。
私の小さな努力をそれはそれは冷たい目で一瞥して」
「兄上。おかしなことは言わなくて良いです」
「ふふっ」
「シャリオン殿は外で遊ぶのが好きな方でしたか?」
「はい。私は庭で作法の指導が始まるまでは庭で駆けたりするのも好きでした」

本を読むのも好きだったが、外で遊ぶのも好きだった。
なのに筋力が付かなかったのは残念なところだ。

「きっと可愛らしいお子様だったのでしょう。
・・・ガリウスと言ったら本を読む以外は魔術の実践でした。
それも父上方に見つからないところで結界を張る練習をして、その中で魔法で氷の柱をつくったりして遊んでましたね」
「すごい・・・やっぱり子供達はガリィの血を引いてるねっ」

シャリオンが嬉しそうに言いうとガリウスは苦笑をした。

「私は父上達に心配を掛けまいと隠そうとしていたのですけど、兄上がそれをばらしてしまいましてね」
「何故・・・隠れてしていたの?」
「何となく直感で私が魔法を使うことを良くないと思われているように感じていたので。
ですが、探求心の欲は抑えられず。・・・ならば知られないようにしようと。
子供ながら浅はかな考えだったと思っていますよ」

何故ガリウスが魔法を使うことを、良くないこととしていたのだろうか。
それは理由をよく知っていそうなガーブリエルを見ると、求められていることに気が付き教えてくれる。

「簡単ですよ。我が家は子爵。突出した能力は上位の貴族の目につきます」

だとしても、能力が高ければ出世につながるのではないのだろうか。
そう思ったのだが・・・。

があり、その家にあまり目を付けられたくなかったのです。
・・・どれも確証は取られてはいませんが、当時魔力の高い平民はよく攫われておりました」
「誘拐と言う事ですか・・・?王都で・・・」
「えぇ。
次第に貴族の中で魔力が高い子供が取引されることが出てきました。
・・・それは身分の低い貴族の中に多かったのですが、その『取引』の詳細は明かされていません。
しかしながらその『取引』に応じた家の子供は帰らないという噂が起きました。
そんな噂が立つのに、被害者は一向に名乗り上がらないことも不気味でした。
・・・、それだけ大きな力が働いているのだろうと考えられた。
我が家に出来ることはガリウスに魔法を使うことを抑えさせるようにすることだった」
「でも、それが裏目に出てしまい、ガリウスは結界を覚えその中で練習をするようになった。
父上方に叱られた後は、学園で隠れてするようになったんです」

そう言うガーブリエル子爵も、先ほどまでおちゃらけていたガヴィーノも真剣な面持ちだった。
だから、ガウディーノは孫が魔力が高いと聞いて不安だったのだろう。

「ですが、父上方が受け入れてくれて、屋敷で練習することを許可をしてくれていたら、私はシャリオンに合えなかったでしょうねぇ」
「・・・え?」
「・・・お前は・・・そう言う事態じゃなかったのだぞ?」

ガーブリエル子爵が呆れたように言うが、ガリウスは「いいえ」と続けた。

「屋敷で魔法を使えないから、学園で練習していたのです。
そうでなければ、学園長と友人のレオン様に魔法を見られ、宰相の側近に抜擢されることもありませんでした」

凄い巡り合わせに少々驚いた。
しかし、魔法の練習をしていたのに、何故自分の側近にしたのだろうか。

「何故父上は騎士団に配属ではなく側近にしたんだろう」
「・・・。憶測ですが。・・・守っていただけていたのかもしれませんね」

と言うのは有力な貴族だと言う事だろうか。
それだったら騎士団に配属しただけでは、引き抜きに合うかもしれないのは何となくわかる。
しかし、公爵家で宰相であるレオンの側近であればそう簡単に抜けないだろう。
レオンが逆らえないのは、王族だけだ。・・・例外もあるようだが。

「シャリオン。今の話だけを聞くと怯えさせてしまうかもしれませんが、私たちの子供達なら大丈夫です。
貴方が公爵である限り、ハイシア家に歯向うものはいません」
「・・・そう、・・・だね。今はちょっと別の問題があるけれど」

ガリウスにそう言われると不思議と安心できた。

「そうですね。
しかし、これで少しわかりましたね」
「ん?何を?」
「子供達に手を焼きすぎては駄目です」
「え」
「もし、貴方が子供達の為に全力を尽くしてしまったら、子供達は運命と出会えないかもしれません。
私は魔術を抑制されていたから、貴方に巡り逢うことが出来ました。
・・・シャリオンは子供達の出会いを奪ってしまうのですか・・・?」
「!」

その言葉にハッとする。
けれども素直に頷けない自分もいる。

「でも、・・・もう子離れしなければいけないの?」

仕事ばかりで大して子育てもしていない。
しかし、それは寂しい。

「まさか。お忘れですか?先ほど言った通りに7歳まで。
・・・それ以降は自分たちの進みたいように進ませてやるのです。
シャリオンも常に言っているでしょう?
子供達の未来を狭めるようなことはしたくないと」
「・・・うん」
「「「・・・」」」

ガリウスの家族だからだろうか。
これがシャリオンを丸め込むための訪問だったと気づき始めた。

「見守るのも立派な仕事です。
・・・そうですね?父上方、兄上」

余計なことを言わせないようにそう言うと、3人は肯定する。
義兄の伴侶はそのように可笑しそうに声を抑えながらシャリオンの見えないところでクスリと笑みを浮かべる。

子爵は内心『束縛が過ぎる困った息子だ』と、思ったがこの場では言わないことにした。
何よりシャリオン自身が束縛されていることに気付いていないのだ。
息子の性格から、例え不満が出来たとしてもシャリオンを手放すことはしないだろう。
だったらわざわざシャリオンに気付かせてストレスを与え不満を植え付けるくらいなら言わない方が幸せである。

「ではガリウスが幼き頃に読んでいた魔術書を持っていかれますか?
幼いガリウスには難しい年齢ではありますが、子供用であることには違いありません」

その申し出にシャリオンはコクリと頷く。
魔法の師としてセレスもいるが、ガリウスと同じものを読ませてやりたい心境になった。
それに、シャリオンもガリウスが読んだその本が読みたかったのもある。

「はい。是非!」

そう返事をするとガディーナ家の4人はホッとしたように息をつく。
それからは義兄と伴侶殿子供達の話になった。
彼等は魔力はそれほどないようだがとても元気なようで、毎日手を焼いているそうでそれを楽しく聞いていた。


☆☆☆

楽しい時間はあっと言うまである。
約束の時間になると、後ろ髪を引かれるように屋敷を後にする。

ガリウスとガヴィーノの幼き頃の肖像画を見せて貰ったりとても楽しかった。
そして、子供達もとても楽しかったようで、お別れの時になると子供達と離れると知り、泣きだし始めてしまうほどだった。
それをあやしながら馬車に乗ったのだが、馬車が進む方向が逆なことに気が付いた。

「あれ?」
「レオン様より城に来て欲しいとの連絡がありました」
「父上が?・・・僕も一緒にと言う事は・・・父様もいるのかな?」

そう尋ねるとゾルが肯定してくれる。
なるほど。ゾル経由かウルフ家経由かわからないが、子供達を連れて王都に来ていることを知った2人が、会いたいと言ってくれたのだろう。

そして、ハイシア家ではなく城でと言う事ならばシャーリーとルーティが意気投合しているところだろうか?
その勘は間違っていなかったようだ。

城に着くと皆で揃って行動するのかと思ったが、ガリウスはどうやらレオンに仕事で呼ばれているらしい。
ならば、ルーティの部屋に直接向かおうとしたのだが、・・・子供達が庭園に行きたいそうぶりでわがままを言い出してしまった。
流石に今泣かれてしまうのは困ってしまうのだが、どうしたものかと思っていると、
シャーリーについているゾル達の母親であるジュリアに思考共有をし、天気もいいので庭園に居て欲しい連絡が入る。
なので、ここで待っていればいいことになったのだが、ガリウスは心配気である。

「大丈夫ですか・・・?」
「お城の中だよ?この国で安全なところでしょう」

そう言いながらクスクスと笑うシャリオンに、ガリウスは頬に手を当てる。

「っ・・・」

そしてそこからは早かった。
素早く頬に口づけられて頬が熱くなっていくのと同時に、真後ろでゾルの溜息が聞こえてくる。

「・・・人がいることを忘れないで欲しいのですが」
「良いのですよ見せつけているので」
「私にですか?」

今更だとうというゾルの声色にガリウスはクスクスと笑った。
しかし、シャリオンはそれどころではない。

「っ・・・ガリィ!」
「ふふ。・・・すみません。どうしてもしたくなったのです」

怒ろうと思ったのにそんな風に言われたら何もいなくなってしまう。

「っ・・・もう」
「おかげで仕事が頑張れそうです。・・・では、後は任せましたよ」
「「「はい。承知しました」」」

ゾルを含めた護衛にそう言うと、最後にシャリオンに微笑んだ後、ガリウスは宰相の執務室に向かって行った。
あんなことを慣れたようにするから本当に照れてしまう。
何度しても照れるのはシャリオンが可笑しいのだろうか。

ベンチに掛けながらきゃっきゃと遊んでいる子供達を見ながら、熱い頬に触れたところだった。


「だらしないですね」


その言葉に振り向けば、今日は先日とは違い襟元で束ねた髪を肩から流して金色の髪を靡かせたその人は、真っ青のな空色、・・・アシュリーの瞳の色よりも鮮やかなサファイアーの瞳を持った男だった。

「!・・・アンジェリーン様」

とても厳しい声色のアンジェリーンに背筋が伸びる。
そしてその目は凍てつくほど冷たく、咄嗟に子供達を見えないように動かしてしまう。

「っ・・・申し訳ありません。お見苦しい所をお見せしました」
「本当です。・・・全く子爵ししゃくの分際で」

恥ずかしさを帯びていたシャリオンだが、その言葉に冷えた。

『アルカス家は家格を気にするからね』

ルークの言葉を思い出してしまった。
そうじゃなくとも、ガリウスを悪く言われるのは面白くない。

「・・・。お言葉ですが。
王配になろう方が爵位を重要視するのはいかがなことでしょうか。
城の中には様々な爵位の者や、貴族でもないものも居ます」

ガリウスは今はシャリオンと結婚し公爵家の者。
しかし、公爵だろうが子爵だろうが関係ない。

口答えをしたのか不愉快だったのだろう。
アンジェリーンは目を細め、こちらまで近寄ってきた彼はシャリオンを見おろしてきた。

「そんなことは分かっています」

だったら、何故そんなことを言ったのだろうか。

「あの男は駄目です」
「っ・・・・」
「特に駄目」
「・・・どういう、意味ですか」

何故そんなことをアンジェリーンに言われなければならないのか。
怒りで感情が高ぶりそうになるのをこらえるのは大変だった。
しかし・・・。

「特に理由はないです。しいて言うなら心底嫌いだからと言いましょうか」

好いて欲しい訳じゃない。
けれど、嫌悪ともいえるその言い方に、シャリオンは怒りを通り越して、困惑を覚える。
シャリオンが見当ついてなくてもアンジェリーンは続けた。

「シャリオンはあの男を貴族だから選んだ。・・・けれど、今は違うのでしょう」

何の事かわからなかった。
しかし、シャリオンがガリウスを選んだという事は、婚約のことを言っているのだろうか。
今は何が違う?
だが、続けられた言葉で理解が出来た。

「理由は?優しいからですか?頼りになるから?貴方を何度も危険に合わせるあの男が?」

まくしたてる様に訪ねてくるアンジェリーンに気後れする。
しかし、黙ったままではいられない。

「ッ・・・ガリウスは何度も僕のことを助けてくれてます」
。ですね」

侮蔑し棘を含ませた言い方だった。

「ガリウスは!」
「シャリオン」
「っ・・・、何でしょうか」
「・・・とある人物は人を好きになるのに理由がないと言います。
それは・・・同じように嫌いになるのも同じ」

だから、アンジェリーンはガリウスを嫌悪しているという事を言いたいのだろうか。

「あの男に限っては明確に嫌い。
シャリオン。
嫌いです」
「!」
「でもシャリオン勘違いしないで」
「なにを・・・ですか」
「私は貴方を泣かした大公も、
それを止められたのに止めなかったふがいない王太子も嫌い。
王子達はシャリオンと同じ血が流れているからマシなだけ。・・・・それでも」
「え・・・?」


「私は王太子に選んでもらわなければならない」


アンジェリーンの言っていることは、言葉として分かるのに意味が繋がらなかった。
嫌いだと言っているのに『王太子』の王配になりたいという言葉も。

だが、一番わからないのは・・・。


「そのために私には何が足りないのですか」



何故シャリオンにそれを聞くのだろうか。
そう言ってサファイアの瞳がこちらをまっすぐと見てきた。




・・・
・・




戸惑いつつもシャリオンはアンジェリーンに足らないと思うことを言った。
ガリウス達をあんな風に言われたこともつまらなかったが、今の状態でアンジェリーンが選らばれて不安があるのも事実。
それだけアルカス家は大きい。本気を出したらミクラーシュは潰されてしまうだろう。

シャリオンが誰が王配になるかなんて口を出せる身ではないが、あくまで客観的に答えた。
アンジェリーンは「そんなことは分かっている」と、言ったが見ていると「爵位」を気にした発言や態度が現れていること。そして、思慮が足りない発言が多いように思うことを告げた。

アンジェリーンは不服そうにしたが、『貴方に考えなしと言われるのは不愉快ですね』と、言いながらも『わかった』と頷いた。
そして最後に感謝を述べると去って行ったアンジェリーン。

早速実行したのだろうか。

最後にウルフ家の者達にも会釈をしていった。

それにはゾルも驚いている様だった。

「はじめてあんなことをされたな」
「・・・。どういう意味なんだろう」

シャリオンの言葉にゾルは何かを考えている様だった。

「ガリウスには」
「王配候補に嫌われているみたいっていうの??」

少し呆れたように言えば、ゾルは首を振った。

「いや。と言うかガリウスは気付いていると思うが」
「そうかな」
「あぁ。シャリオンが気付いたくらいだからな」
「なっ・・・それどういう意味!」
「そのままの意味だ」
「馬鹿にして・・・。ガリィには僕から言うから黙っておいて。
本当に僕が言った事を理解しているのかちょっと気になる。
理解していないなら無駄な事だと思うから」
「シャリオンがそう言うならわかった」

もや付きながらもシャリオンはアンジェリーンの狙いが何なのか。
シャーリーとルーティが来るまで考えていた。

┬┬┬
アンジェリーンは男名です。つまり男です。
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