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執着旦那と愛の子作り&子育て編
久しぶりの夜会。
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駄目だと思うと余計に燃え上がる。
それに、今日はガリウスの様子も少しおかしかった。
久しぶりに王都で夜会に参加するという事に、不安を感じていたのかもしれない。
シャリオンがガリウスに触れられて拒否をするわけがなかった。
受け入れていくうちに、その手が不埒なものに変わるのにそう時間もかからない。
そうして愛し合っているのだが、終わりが見えなかった。
「ぁっ・・・んぅっ」
ガリウスに組み敷かれ、与えられる快感を甘受する。
何度しても足りない気がして、今日はガリウスを求めてしまう。
今夜は適度にしてゆっくり休んでいた方が良いのだろうが、止められなかったのだ。
「っ・・・が・・・ガリィ・・・っ・・・もっと・・・!」
「っ・・・こう、・・・ですか?」
「ぁぁぁっ・・・!」
「シャリオンっ・・・っ・・・はぁ・・・すみません。・・・貴方をもっと愛して良いですか」
だが、足りないのは自分だけではなかった。
ガリウスのその余裕の少しなくなった言葉に、コクコクと頷く。
腰をより引き寄せられると、体重を掛けられより深く交わる。
熱く硬いものがより奥に入り、押し開けられていった。
初めての時は怖かったそこも、ガリウスにされるとたまらなく気持ち良いとところだと知っている。
「っぁ・・ぁっぁあぁっ・・・が、・・・り」
「っ・・・っ・・・いいですよ」
耳元で掠れた声がとてつもなくいやらしかった。
褒められたのに、きゅうっと締め付けてしまう。
「っ・・・っ」
切羽詰まった吐息にシャリオンはより高まっていく。
「っ・・・やぁっ・・・おねが・・・もっと・・・っ」
自分がどんな淫らな状態になっているか理解が出来るはずもなく、ただガリウスを求めそれに応えてくれた。
「っ・・・あぁぁっが、りぃっ・・・」
「っシャリオンっ・・・愛してます」
「あ、いしっ・・・あいしてるぅぅ」
何度も愛を囁き合いながら、2人は高め合うと一気に達した。
深い繋がりに幸福を感じながらも、ガリウスは引き抜いてしまう。
その理由がシャリオンにも分かっているのだが、いつもよりも余韻が足らず、視線にそれが現れる。
「深いところで繋がっていると、・・・もっと貴方を愛したくなってしまうのです」
「・・・うん。わかってるよ」
そう言いながら抱きしめあう。
もっと繋がっていたいのを我慢しながら。
☆☆☆
午前中。
少しだけ書類を片付ける。
どうやら橋が壊れてしまい、村が孤立していると言う。
一応自給自足をしている村だが、領主城ふもとの城下街に働きに出てるものもおり迅速な復旧を求められていた。
それにあたり兵士の手配の許可が来ていたのでそれを承認する。
夜会にはゾルを連れて行ってしまうため残る執事に急務の窓口をさせ、何かあればゾルから連絡してもらうようにお願いをする。
・・・
・・
・
用事を終わらせて王都のシャリオン達の屋敷に着くと、もうお馴染みのジャスミンが来ていた。
「お久しぶりです。シャリオン様。ご機嫌麗しゅう」
「お久しぶり。ジャスミン。元気してたかな?」
ジャスミンのボウ・アンド・スクレープに合わせ挨拶をする。
嬉しそうに微笑みを浮かべていたジャスミンだが、急に目をくわっと開いた。
「あら!ちょっと寝不足じゃない!!仕事し過ぎ!?」
そうだったら苦笑で済ませたのだが、その原因だと思われる行為に真っ赤に染まったシャリオンに、理由が何だかわかったらしいジャスミンは呆れたようにため息をつく。
「こう言う日くらいは、・・・て、はぁ」
「す、すごいね。ジャスミンだけだよ気付いたの」
行為が知られたのも恥ずかしいし、ごまかすように言った。
「違うわ。みんな気づいても今更だからよ」
即答するジャスミンにシャリオンはぎょっとして見上げる。
確かにゾルにバレたことがあるが、その時はキスマークを見られてだった。
「っ・・・皆、わかるもの?」
可愛らしく照れる様に微笑ましく思いつつも、ジャスミンはしまった!と気づく。
この後恐らく、出方次第ではシャリオンは照れてガリウスを意識しごまかすだろう。
しかし、あの心の狭い次期宰相はそれを察知し、理由を聞き出した後・・・自分への応酬が嫌でもわかる。
ジャスミンは突っ込みたい気持ちを落ち着かせると、つとめて穏やかな表情を作る。
「・・・。シャリオン様。冗談よ」
「え?」
「私まだ生きて貴方の服を作っていたし、お子様方のドレスも作りたいから、何も見ないわ」
「?どう言う意味?」
「なんでもないわ。気にしないで。さっきのもカマかけただけよ?いつも通り貴方は最高よ」
「・・・??」
訳のわからない事をいうと、ジャスミンはニコニコと笑みを浮かべている。
つまりシャリオンは自爆してしまっただけだろうか。よくわからないがコクリと頷いた。
「さぁ。まずはお風呂に入ってきて頂戴。
前室は以前のようにスチームを炊いておくから、そこでエステよ!」
「わかった」
今日は自分が主役じゃないから、良いのでは?と、言いたかったが、ジャスミンはこの道のプロ。逆らってはいけない。
なお、子供が出来てもエステはゾルの立ち合いの元である。
・・・
・・
・
じっくり湯船に浸かり、上がると直ぐに特製のオイルでエステを施される。
こうする事により、一層肌艶が良くなるそうだ。
言われるがままケアをされ、指定されるままに隣の部屋に移った。
たくさん並べられた衣装は、以前ジャスミンが作ってくれたものでまだ着ていないものだが、若干変わっている。
なんでも流行りのデザインがあるそうで今回も張り切って作ってくれたようだ。
指示されるまま順番に袖を通していく。
そして、メイクを施し全身をみたジャスミンから漸くOKを貰った。
「バッチリよ!で、今日のお守りはこれ♪」
お守りとはタリスマンの事で、最近ではこちらにもこだわりを見せている。
以前は付けている本人に術を掛けられないものだったが、範囲が広がり数メートル範囲に及ぶようになったそうだ。
出掛ける前にセレスからも『肌身離さないでね~』と、言われた。
「あとは伴侶様だけね。・・・また、シャリオン様が見惚れないと良いのだけど」
「・・・それは無理だよ」
「まぁ!お子様も出来たというのに相変わらず惚気てくれるわ!」
そう言うジャスミンにシャリオンは苦笑するのだった。
☆☆☆
夕焼けに染まる頃。
ガリウスと共に2人は会場へと向かった。
国内ではそれなりに大きな夜会で客の中にはライガーとルークも来ているようだ。
会場につき招待状を見せる中に入っていくと、相変わらずの空気に少し懐かしさもよみがえった。
すすんで夜会には出ようとは思わないが、おかしな人がいなければ楽しい空間である。
特に今日はガリウスの生家であるガディーナ家も来ているそうで、幼き頃のガリウスの話を聞けるチャンスで楽しみである。
だが、本来の目的である鈍った感をよみがえらせるにも、得意な知り合いだけではなく顔なじみ程度の貴族とも会話をしておきたい。
そう、思ったのだが甘くは無かった。
前方から歩いてくるアルカス公爵家のアンジェリーンを見てため息をつきたくなる。
王族の血を引いていると一目でわかる容姿で、床につくほど長く伸ばした髪をなびかせて歩く姿勢は自信に満ち溢れている。
自分が金髪碧眼を持って生まれたことを誇りに持っているようで、幼い頃は良く『公爵家なのに黒髪に緑の目・・・おかわいそうに』と言われたことを思いだす。
念のために言っておくと、それは下に見てと言うよりも本当にそう思っている様なのだ。
彼は兄弟の中でも一番王族に近い容姿で産まれ、特に王族の血を引いていない親の方からそれを褒められている。
例えば貴族の中でも男爵の者が話しかけようものなら『アンジェは尊き一族の血を引いた者ですよ』と、遠ざけたのは強烈だった。
だが、ある時を境に一切近寄ってこなくなったのに一体なんの用だろうか。
出来れば勘違いだと思いたいが、彼の目はまっすぐシャリオンを見ている。
ちなみにハイシア家の方が歴史は古いが、アルカスは新しい変わりに彼の曾祖父が王族だった。
つまり、シャリオンより今の王家により近いのだ。
このまま踵を返して逃げてしまいたいがそうもいかない。
それに、彼もシャリオンの年上なのだから、変わっているかもしれない。
シャリオンはあまり口元を動かさないようにしながら、ガリウスに言う。
「ちょっと変わったことを言われるかもしれないけど気にしないでね」
「・・・。わかりました」
相手がこちらに着いたの同時にボウ・アンド・スクレープをする。
「お久しぶりです。アンジェリーン様」
「シャリオン。建国祭以来でしょうか。随分久しいですね」
あの時は忙しかったことや自分が身ごもっていた為あまり外部(?)の人間と接しないようにしていた。
挨拶程度はしたくらいたが。
「ハイシア家は他の貴族と違いこのような場所に顔を出さなくとも安泰だからでしょうか。
あぁ、公爵と伴侶殿も宰相でしたね。こんばんは。・・・ガリウス殿」
そうガリウスを見る目は相変わらず冷たい。
これはガリウスに限ってではなく、下の爵位の人間にはこういう視線を良く向ける。
「お久しぶりです。アンジェリーン様」
「えぇ。お久しぶりです。
シャリオン。ところで転移装置が続々と出来ておりますが大丈夫ですか?
貴方なら公爵家としてやっていけるでしょうし、適当に任せて王都に戻られては」
表情は心底心配してる雰囲気だ。
しかし、その内容は相変わらず困ってしまう。
適当に任せるとは誰に任せるというのだろうか。
彼は年上だが公爵家の当主として育てられたわけじゃないからなのか、少々楽観的な発言をする。
「転移装置は全国に設置済みですよ」
「そうなのですか?」
「えぇ」
正式には公表されていない為、知らされてはいない。
普段『王家に近い』ことを強みにしているからかなのか、聞いていなことに無表情になり、シャリオンは言葉を続ける。
「アルカス家は王都にいらっしゃるので、あまり必要ない情報でしょう」
「えぇ。そうですね。あまり王都以外に興味ありませんので」
「あぁ。そうです。婚約候補になられたとか。
おめでとうございます」
早く会話を切り上げてしまいたくなったシャリオンは彼がここに来たであろう話題を出した。
全く近寄ってこなかった人間がこのタイミングでわざわざ来たという事は、きっと婚約のことを言って欲しいのだろうと思った。
結婚相手から婚約候補者になったのだから、なにもおめでたくはないのだが、そう言わざる終えなくてそう言うと、アンジェリーンは面白くなさそうに小さくため息をついた。
「はぁ。・・・、ありがとう存じます。
そうそう。それで思い出しました。
ガリウス殿にも話があったのですよ」
ガリウスが公爵家の人間になったからなのだろうか。
それにしても相変わらず『殿』呼びだが。
ちなみにシャリオンは幼き頃に『様』を要らないという話をしている。
その時には『アンジェ』と呼んでほしいと言われたが、彼の産みの親の視線に耐え切れず、シャリオンは『アンジェリーン様』と呼んでいるのだ。
そんなことはともかくも、ガリウスに一体どんな用事なのだろう。
「聞きましたよ。先日、レオン様と揃って会議中に抜けられたとか。
大した理由も説明なかったそうですが、公私混同は良くないのではありませんか?」
それは子供達が屋根を突き破ってしまった事件だ。
ガリウス達には迷惑を掛けまいと思っていたのだが・・・。
どうフォローしようか考えるも、だからと言って子供達の事情を話題に出したくはなかった。
「私が王配に着いた際にはそのような事なくしてくださるようにお願いいたします」
候補者に下がったというのに対した自信である。
本当にルークはどういうつもりなのだろうか。
「えぇ。もし王配につかれましたら、そのような配慮はいたします」
「・・・、」
その言葉に驚いたようにアンジェリーンはガリウスを見る。
いや、シャリオンだってガリウスを見たかった。
けれどもここは社交の場。感情を最大限に抑えた。
そもそもアンジェリーンが可笑しいのだ。
たった一人の候補者ならまだしも、2人たてられた時点で自分が危ういと考えないのだから。
ガリウスは尚も続ける。
「しかしながら、王配になられましても、
陛下並びに殿下には許可を得ておりますのでご心配無用です」
つまりは、なっても変わらないと応えるガリウス。
とてもスパイスがきいている。
そろそろ止めようかと思ったのだが、アンジェリーンが話しを終わらせる。
「そうでしたか。
余計な心配でした。
シャリオン。もしお子が心配でしたら無理にこの場にいらっしゃらなくても良いのですよ?
ストレスは良くありません。貴方の身を一番に考えてください。
では、失礼します」
そう言うと、シャリオンの返事は待たずにさっさと席を外した。
かなり失礼にも思うが、同じ公爵でも相手の方が上である。
むしろ漸く解放されてホッと息をつく。
「お疲れ様です、シャリオン。
貴方が嫌味を言えるとは思いませんでした」
そう言うガリウスに思わず苦笑する。
それにしてもどっと疲れた。
「褒めるところじゃないと思うよ?
それに、ガリィと婚約が決まったころは結構言ってたと思う」
シャリオンはシャーリーと違い、カチンときたら文句は言い返す。
「貴方に言われた言葉は一字一句覚えてますが、そうでしたでしょうか」
「い・・・一字一句?・・・まぁ嫌味にとられてないならいいよ」
あの頃は嫌味だったが、今となってはその方がいい。
そんな事を話していると、背後から声をかけられる。
「お久しゅうございます。シャリオン殿」
「!」
その声はガリウスの声にとてもよく似ている。
姿を見なくとも分かるからシャリオンは嬉しそうに後ろに振り返ると、そこにはガーブリエル・ガディーナ子爵とその伴侶であるガウディーノ、ガリウスの兄であるガヴィーノがいた。
シャリオンはボウ・アンド・スクレープをしながら、3人に挨拶をする。
「ガーブリエル様、ガウディーノ様、ガヴィーノ様。お久しぶりにございます。お元気でしたか?」
「あぁ。シャリオン様はもう体調は大丈夫だろうか」
「はい。ガリウスがサポートをしてくれたおかげで、もうすっかり平常に戻りました」
ガーブリエル子爵にそう答えると目を細めほほ笑んでくれた。
そしてガリウスの方を見る。
彼等は城勤めで時折あっているようなので、それほど久しぶりな様子はせず笑みを浮かべている。
「心配していたが、無用の様だったな」
「父上言ったではありませんか。ガリウスはシャリオン殿に限っては気が利きすぎる男です」
「・・・兄上」
兄であるガヴィーノの言葉に不愉快そうに眉を顰めるガリウス。
シャリオンはガヴィーノのことを愉快な義兄だと思っているが、ちょっとおしゃべりなところがある。
何度かこうして教えてくれるのだが、シャリオンに普段のガリウスを考えると少々信じられない。
「ガリウスから何か束縛するようなことは言われませんか?」
「そう言った事も特にないです。いつも僕を優先してくれて・・・逆に僕の方が気が利いたことの一つも出来ていないです」
ガリウスの産みの親であるガウディーノにそう答えると、ガウディーノもまた微笑んだ。
ガリウスはガウディーノによく似ており、ガリウスより線を細くしたようなイメージだ。
「皆さん。・・・シャリオンに変なことを聞かせるのはそれくらいにしていただけませんか」
「僕はいろんなガリィが聞けて嬉しいよ?」
「・・・困りましたね」
「ふふっ」
ガディーナ一家の人々は皆シャリオンを受け入れてくれるように優しい。
今日はきていないが義兄であるガヴィーノの伴侶もだ。
幼き頃から色んな人を見てきたからか、人の優しさに裏があるかどうか直感で分かるが、そう言ったのがないのもシャリオンが素直に話せる理由だ。
「・・・ガーブリエル様、ガウディーノ様。今度宜しければお屋敷に伺っても宜しいでしょうか」
「あぁ。勿論」
「貴方ならいつでも構いませんよ。・・・もしかして可愛い天使たちにも会えるのでしょうか」
ガウディーノが嬉しそうにそう言うと、シャリオンはコクリと頷く。
「お2人が宜しければ」
「私達が可愛い孫を見せてもらえるのに断るわけないだろう」
「えぇ」
「シャリオン殿。うちもお邪魔して良いですか?」
ガヴィーノと伴侶の間には子供がいる。
もう間もなく作法講義が始まる年頃だ。
「はい。アシュリーもガリオンも歳の近い子供を見るのは新鮮でしょうから」
「?まだ産まれたばかりだからそういうのは分からないのではないですか?」
「!」
「そうでしたね。いえ。私もシャリオンもすっかり親バカになってしまっているのですよ。そうですね、シャリオン」
ガリウスがそう尋ねてきてくれたのでコクリと頷いた。
『子供達のあれは偶然だ』そう思っているはずなのに、つい勘違いしてしまう。
☆☆☆
会場にいるとミクラーシュがこちらに気付き、改めて謝罪をしていった。
もしかしたらルークがいる時だけかもしれないと思ったが、そんなことは無かった。
シャリオンが目立ち過ぎないように、部屋を借りそこで謝罪をしてくれたミクラーシュ。
そんな配慮が出来る一面を見て関心と言うか安心をしていると・・・、
今日は護衛としてついてきているゾルの視線がやたら刺さる。
そうこうしながら一通りの人間と話した後、ガリウスに誘われダンスを披露する。
ルークに以前もっと2人の仲を見せつけたら良いと言われたことや、ミクラーシュに嫌疑を掛けられたこともある。
シャリオンとガリウスが愛しあっていることは、互いが分かってればいいとそう思っていたけれど、つまらない疑いを掛けられるのは不愉快だったからだ。
そういう名目はあったが、踊りだすと楽しかった。
ガリウスはシャリオンのステップについてきてくれるし、サポートもしてくれる。
また、初めて踊った時よりも上達しているそれは、シャリオンに秘密で練習してくれたわけで嬉しくない訳なかった。
こうして、楽しいひと時が終わり、曲が終わると拍手喝さいが起きた。
「これで最後の曲なのかな」
「どうでしょうか」
自分達が注目されていたなんて気にしていないシャリオンは、ただガリウスとのダンスを楽しんでいただけだ。
でも少々疲れてきたのでガリウスに誘われるままにダンスフロアーを抜けると、所々に設置された休憩用のボックス型になったソファーに掛けた。
ゾルが他にも追従してきている護衛に飲み物を頼むのを聞いていると、ふと声を掛けられた。
「素晴らしいダンスだった」
「「ライガー様」」
2人揃って立ちあがるとボウ・アンド・スクレープをするが、ライガーは返しながらも直ぐに掛ける様に進めてくれたので腰かけた。
「皆見惚れてたよ。主にシャリオン殿に」
今は社交の場。
子が産まれた後は時折子供達を見に来ているから、距離を持って話すライガーは久しぶりだ。
ライガーの言った内容が不思議だったが、今日もジャスミンの力作の衣装であったことを思い出す。
ジャスミンは今や売れっ子のデザイナーで、彼が作る衣装やドレスは大人気だ。
「でしょう?僕もジャスミンの作った衣装は素敵だと思う」
ライガーは「え?」と固まった後、ガリウスを見た後苦笑を浮かべこちらを見てきた。
「相変わらずだなぁ・・・。勿論衣装が素敵なのもあるけれど、シャリオン殿の笑顔に皆虜だったんだ。
・・・おっと。ガリウスには不安かな?」
「もう慣れています」
「そうか。・・・シャリオン殿。素敵な衣装で踊っているからと言って拍手が起こることは無いと思うが」
そういうライガーは喉で笑った。
「てっきりダンスの時間が終わったのかと。・・・あぁそう言うとまだ流れてるみたいですね」
「あぁ。さっきのダンスに触発されて皆踊り始めたよ」
「・・・なんだか恥ずかしいです」
「照れることは無いんじゃないか?2人の想いがこもった素敵なものだった」
「シャリオンは余り人に見られることが得意ではないですから」
「その様だね」
褒めてもらえるのは嬉しいが、こそばゆい気がして話を逸らす。
「本日は殿下とご一緒ではないのですか?」
挨拶周りをしたときに、2人の気配を感じたような気がしたのだが。
「いや。来ているよ。ただ、王太子だからね。
大公とは違い責任だけでなく付き合いも大事だ。
・・・そろそろ来るとは思うが」
その言葉に『なるほど』と納得していると、まるで聞きつけたようにルークがやってきた。
いつものようなおちゃらけた雰囲気をしまい、きっちりしている。
なんどみても見慣れない姿だ。
シャリオン達はライガーも含めて立ち上がり挨拶をする。
「ごきげんよう。シャリオン殿、ガリウス殿」
「「ごきげんよう。ルーク王太子殿下」」
挨拶が終わり席に掛けると、ルークが使いの者に合図をするとそこらへん一帯を囲むように使用人達が立つ。
その中に入れるのは王太子であるルークと、大公であるライガーに、招かれたシャリオン達とその護衛だけだ。
人払いはされたが完全な個室に移ったわけではないので、声のボリュームは下げられた。
それでも見た目は上品に優雅に見せるのはもう慣れだ。
勿論それをシャリオンも出来る。
「・・・疲れた」
「「お疲れ様」」
笑みを浮かべたまま吐かれるその言葉に思わず笑いそうになりながら、シャリオンとライガーが労う。
「今日は参加者が多いようですからね」
「・・・。ガリウスも砕けていいよ」
「失礼ながら私の口調はいつも通りだと思いますが」
意地悪気にいうルークにガリウスがそう応えると、クスクスと笑った。
「あーあー。シャリオンにも見せていない姿じゃないのかな」
「確かに大体この口調ですが。・・・砕けた私を知っているのはシャリオンだけですよ」
「はいはい。ごちそーさま」
「ルーは何故惚気られると分かっていて、それもそんな反応をするのにわざわざ聞くんだ」
「本当にね」
シャリオンは不思議そうに、ライガーは呆れてそう尋ねると、楽し気に応えてくれる。
「だって。ガリウスの得意げでデレデレした顔だよ?」
「「・・・、ちょっとそれで見たい理由がわからない」」
「お2人とも。ルーク様は少々困った性癖なのですよ。気にしたら負けです」
「なるほど」
「流石ガリウス。良くわかったな」
「ありがとうございます」
「そこ!褒めるところでも、お礼を言うところでもないからぁ!」
そう言うとルークは小さくため息をついた。
丁度運ばれてきた酒はいつの間にか4人分用意してくれたようで、揃って乾杯をする。
つまみを食べながら少し歓談をしているとルークが思い出したように尋ねてきた。
「そうだ。・・・ミクラーシュがハイシア家のことを聞いてきたんだけど、何か可笑しなことしてない?
防衛とか意味の分からないことを聞いてきたのだけど」
「ううん。してないよ」
そう答えた後のゾルの視線が痛い。
しかし、シャリオンは即答したのだが、ルークはゾルの視線に気づき小さくため息をついた。
「どうってことないよ。もう解決したし」
「んー。・・・どうして、アイツはシャリオンに厳しくするかな。
それ以外はまともなんだ。
ちょっと脳筋なところはあるけれど、アンジェリーンよりは周りをよく見れている」
それはシャリオンも思っていることだ。
乗り込んできた当日は可笑しな人物かと思ったが、その後貰った手紙も今日話した感じも普通な人間だった。
手紙にもあったが、募った恋心が暴走させてしまったのだろう。
一方のアンジェリーンは貴族らしくはあるが、王配で陛下の隣に立つのは少々厳しい面もある。
側室であれば特に気にしないのだろうが。
幾ら発言をさせなかったとしても、使用人にきつく当たるようでは蓄積した行為がいずれ隠せなくなるだろう。
本人が下の者に接するときの考えを改めなければ厳しい。
そういう所も含め、確かに先日のことは腹立たしくはあったが謝罪をしてきたミクラーシュを推したいのだ。
「今日は普通だったよ?」
「え。普通にできるの」
ルークが改めて聞いてくるほど、ミクラーシュの態度は他の人間に気付かれていた。
「うん」
『初めてだったけど』と言う言葉を飲み込む。
あれが継続されたならそれでいい。
と、思ったのだが。
「婚約のためかな」
「ルーが信じてあげないと駄目でしょう」
「いや。そうだけど。
俺よりなんでシャリオンが信じてるかなぁ」
呆れた眼差しには気付かないふりで酒に口を付ける。
「シャリオンは心優しいですからね。ですが・・・ルーク様」
「わかってる。わかってるからその冷たい気配消してくれる?」
ガリウスの無言の圧力があったのか怯えるルークに、思わずクスクスと笑った。
「でも、今日2人のダンスを見ておかしな気も引っ込んだんじゃないかな。・・・一つは」
「それなら良いのですがね」
ガリウスの言う事にライガーは頷きながらも可笑しな行動をとる弟を呆れた眼差しで見る。
「ルーが早く相手を決めたらいいんだよ。
そもそも、ハイシア家に行った時に相手は決まっていると言ったじゃないか」
「あー兄上には説明していなかったね。
その相手がアルカス家のアンジェリーンだったんだ」
「・・・はぁ」
ライガーは国内の貴族の結婚に関して監視をしているが、王家の結婚に関してはあえて見ないようにしている。
ファングス家が取り潰されても一貫してその姿勢は貫いているようだ。
しれっと答えるルークにライガーはため息をついた。
「しかし。結婚相手にしても婚約者候補にしてもアンジェリーンが良く引きうけたものだ」
「アルカス家は家格を気にするからね。言いたいことは分かるけど、もう相手がいないから仕方がなくなったんじゃないの」
「どういう意味??」
あれほど王家の血を引く自分に自信を持ったアンジェリーンが、ルークと婚約するのが嫌なように聞こえた。
シャリオンの疑問に、ライガーは困ったかのようにルークはニヒルに笑った。
「簡単。俺が男爵家の血を引いてるからだよ」
「は?」
「もしかしたら兄上の方が喜んで結婚したかもね」
「俺は誰とも結婚しないと言っただろう。それに取り潰された家の血じゃ嫌がるんじゃないか」
「貴族は高貴な血なそうで、何をしても許されるっていう思考を持っているみたいだから気にしないと思う」
その会話に何も言えなくなってしまっていると、ガリウスがきゅっと手を握り優しく微笑んでくれた。
過保護だなと思いつつも、安心する。
「シャリオンの前なのでもう少し言葉を選んでいただけますか」
「これ以上どう濁せば良いっていうの」
「シャリオン。彼にルーク殿下は嫌われているのですよ」
その要約になっていないまとめに、思わずシャリオンも笑ってしまう。
「大丈夫。ちょっと信じられなかっただけだよ」
「そうだよねぇ。シャリオンには信じがたい思考だよねぇ」
ルークはそう呟きながら苦笑を浮かべ、ライガーは大切なものを見るようなシャリオンを見つめた。
「はぁ。・・・とにかく2人から何かあったら言ってね」
「んーまぁ僕に何を言われてもね」
「アンジェリーンはシャリオンに特に何かを・・・いや、言うな。
2人とも言うと思うけどあまりにも理不尽なことを言ってきたら、
王配候補なんて気にしなくていいから遠慮なく抗議してね」
言いたいことは分かるのだが、抗議をしてどうするのだろうか。
それで婚約破棄となったら、ルークだって時間がないはずだ。
幼馴染や親友として、ルークを愛しそしてルークも愛した人間と添い遂げて欲しいが、そうも言ってられない。
シャリオンは貴族で感情を捨て苦手だったガリウスを選んだわけだが、ルークも王族としての責務がある。
それはただの貴族よりも重いもので、好き嫌いで王配を選べるわけではない。
そうは言ってもルークがシャリオンを気遣う気持ちも無視はできず、今はこの場だけでも頷いておく。
「うん。わかった」
しかし、長年の付き合いのルークには分かってしまったようで・・・・。
「ガリウス。言いごまかしていたら教えてね」
なんて言われてしまった。
思わずガリウスを見上げると、ニコっとほほ笑まれた。
そして、ガリウスはルークに続けた。
「シャリオンが伏せる様に言った言葉を、殿下とてお渡ししませんよ」
「うわー。俺って臣下に恵まれてない・・・っ」
大袈裟にいうルークにシャリオンは苦笑を浮かべた。
「馬鹿なことを言ってないで、そうならないためにも2人とちゃんと向き合ってね」
「はいはい。・・・わかってる。ちゃんとするよ。安心して?」
困った様にしながらも、何時だって器用にそつなくその笑みを浮かべながらも答えるルークにシャリオンはホッとするのだった。
それに、今日はガリウスの様子も少しおかしかった。
久しぶりに王都で夜会に参加するという事に、不安を感じていたのかもしれない。
シャリオンがガリウスに触れられて拒否をするわけがなかった。
受け入れていくうちに、その手が不埒なものに変わるのにそう時間もかからない。
そうして愛し合っているのだが、終わりが見えなかった。
「ぁっ・・・んぅっ」
ガリウスに組み敷かれ、与えられる快感を甘受する。
何度しても足りない気がして、今日はガリウスを求めてしまう。
今夜は適度にしてゆっくり休んでいた方が良いのだろうが、止められなかったのだ。
「っ・・・が・・・ガリィ・・・っ・・・もっと・・・!」
「っ・・・こう、・・・ですか?」
「ぁぁぁっ・・・!」
「シャリオンっ・・・っ・・・はぁ・・・すみません。・・・貴方をもっと愛して良いですか」
だが、足りないのは自分だけではなかった。
ガリウスのその余裕の少しなくなった言葉に、コクコクと頷く。
腰をより引き寄せられると、体重を掛けられより深く交わる。
熱く硬いものがより奥に入り、押し開けられていった。
初めての時は怖かったそこも、ガリウスにされるとたまらなく気持ち良いとところだと知っている。
「っぁ・・ぁっぁあぁっ・・・が、・・・り」
「っ・・・っ・・・いいですよ」
耳元で掠れた声がとてつもなくいやらしかった。
褒められたのに、きゅうっと締め付けてしまう。
「っ・・・っ」
切羽詰まった吐息にシャリオンはより高まっていく。
「っ・・・やぁっ・・・おねが・・・もっと・・・っ」
自分がどんな淫らな状態になっているか理解が出来るはずもなく、ただガリウスを求めそれに応えてくれた。
「っ・・・あぁぁっが、りぃっ・・・」
「っシャリオンっ・・・愛してます」
「あ、いしっ・・・あいしてるぅぅ」
何度も愛を囁き合いながら、2人は高め合うと一気に達した。
深い繋がりに幸福を感じながらも、ガリウスは引き抜いてしまう。
その理由がシャリオンにも分かっているのだが、いつもよりも余韻が足らず、視線にそれが現れる。
「深いところで繋がっていると、・・・もっと貴方を愛したくなってしまうのです」
「・・・うん。わかってるよ」
そう言いながら抱きしめあう。
もっと繋がっていたいのを我慢しながら。
☆☆☆
午前中。
少しだけ書類を片付ける。
どうやら橋が壊れてしまい、村が孤立していると言う。
一応自給自足をしている村だが、領主城ふもとの城下街に働きに出てるものもおり迅速な復旧を求められていた。
それにあたり兵士の手配の許可が来ていたのでそれを承認する。
夜会にはゾルを連れて行ってしまうため残る執事に急務の窓口をさせ、何かあればゾルから連絡してもらうようにお願いをする。
・・・
・・
・
用事を終わらせて王都のシャリオン達の屋敷に着くと、もうお馴染みのジャスミンが来ていた。
「お久しぶりです。シャリオン様。ご機嫌麗しゅう」
「お久しぶり。ジャスミン。元気してたかな?」
ジャスミンのボウ・アンド・スクレープに合わせ挨拶をする。
嬉しそうに微笑みを浮かべていたジャスミンだが、急に目をくわっと開いた。
「あら!ちょっと寝不足じゃない!!仕事し過ぎ!?」
そうだったら苦笑で済ませたのだが、その原因だと思われる行為に真っ赤に染まったシャリオンに、理由が何だかわかったらしいジャスミンは呆れたようにため息をつく。
「こう言う日くらいは、・・・て、はぁ」
「す、すごいね。ジャスミンだけだよ気付いたの」
行為が知られたのも恥ずかしいし、ごまかすように言った。
「違うわ。みんな気づいても今更だからよ」
即答するジャスミンにシャリオンはぎょっとして見上げる。
確かにゾルにバレたことがあるが、その時はキスマークを見られてだった。
「っ・・・皆、わかるもの?」
可愛らしく照れる様に微笑ましく思いつつも、ジャスミンはしまった!と気づく。
この後恐らく、出方次第ではシャリオンは照れてガリウスを意識しごまかすだろう。
しかし、あの心の狭い次期宰相はそれを察知し、理由を聞き出した後・・・自分への応酬が嫌でもわかる。
ジャスミンは突っ込みたい気持ちを落ち着かせると、つとめて穏やかな表情を作る。
「・・・。シャリオン様。冗談よ」
「え?」
「私まだ生きて貴方の服を作っていたし、お子様方のドレスも作りたいから、何も見ないわ」
「?どう言う意味?」
「なんでもないわ。気にしないで。さっきのもカマかけただけよ?いつも通り貴方は最高よ」
「・・・??」
訳のわからない事をいうと、ジャスミンはニコニコと笑みを浮かべている。
つまりシャリオンは自爆してしまっただけだろうか。よくわからないがコクリと頷いた。
「さぁ。まずはお風呂に入ってきて頂戴。
前室は以前のようにスチームを炊いておくから、そこでエステよ!」
「わかった」
今日は自分が主役じゃないから、良いのでは?と、言いたかったが、ジャスミンはこの道のプロ。逆らってはいけない。
なお、子供が出来てもエステはゾルの立ち合いの元である。
・・・
・・
・
じっくり湯船に浸かり、上がると直ぐに特製のオイルでエステを施される。
こうする事により、一層肌艶が良くなるそうだ。
言われるがままケアをされ、指定されるままに隣の部屋に移った。
たくさん並べられた衣装は、以前ジャスミンが作ってくれたものでまだ着ていないものだが、若干変わっている。
なんでも流行りのデザインがあるそうで今回も張り切って作ってくれたようだ。
指示されるまま順番に袖を通していく。
そして、メイクを施し全身をみたジャスミンから漸くOKを貰った。
「バッチリよ!で、今日のお守りはこれ♪」
お守りとはタリスマンの事で、最近ではこちらにもこだわりを見せている。
以前は付けている本人に術を掛けられないものだったが、範囲が広がり数メートル範囲に及ぶようになったそうだ。
出掛ける前にセレスからも『肌身離さないでね~』と、言われた。
「あとは伴侶様だけね。・・・また、シャリオン様が見惚れないと良いのだけど」
「・・・それは無理だよ」
「まぁ!お子様も出来たというのに相変わらず惚気てくれるわ!」
そう言うジャスミンにシャリオンは苦笑するのだった。
☆☆☆
夕焼けに染まる頃。
ガリウスと共に2人は会場へと向かった。
国内ではそれなりに大きな夜会で客の中にはライガーとルークも来ているようだ。
会場につき招待状を見せる中に入っていくと、相変わらずの空気に少し懐かしさもよみがえった。
すすんで夜会には出ようとは思わないが、おかしな人がいなければ楽しい空間である。
特に今日はガリウスの生家であるガディーナ家も来ているそうで、幼き頃のガリウスの話を聞けるチャンスで楽しみである。
だが、本来の目的である鈍った感をよみがえらせるにも、得意な知り合いだけではなく顔なじみ程度の貴族とも会話をしておきたい。
そう、思ったのだが甘くは無かった。
前方から歩いてくるアルカス公爵家のアンジェリーンを見てため息をつきたくなる。
王族の血を引いていると一目でわかる容姿で、床につくほど長く伸ばした髪をなびかせて歩く姿勢は自信に満ち溢れている。
自分が金髪碧眼を持って生まれたことを誇りに持っているようで、幼い頃は良く『公爵家なのに黒髪に緑の目・・・おかわいそうに』と言われたことを思いだす。
念のために言っておくと、それは下に見てと言うよりも本当にそう思っている様なのだ。
彼は兄弟の中でも一番王族に近い容姿で産まれ、特に王族の血を引いていない親の方からそれを褒められている。
例えば貴族の中でも男爵の者が話しかけようものなら『アンジェは尊き一族の血を引いた者ですよ』と、遠ざけたのは強烈だった。
だが、ある時を境に一切近寄ってこなくなったのに一体なんの用だろうか。
出来れば勘違いだと思いたいが、彼の目はまっすぐシャリオンを見ている。
ちなみにハイシア家の方が歴史は古いが、アルカスは新しい変わりに彼の曾祖父が王族だった。
つまり、シャリオンより今の王家により近いのだ。
このまま踵を返して逃げてしまいたいがそうもいかない。
それに、彼もシャリオンの年上なのだから、変わっているかもしれない。
シャリオンはあまり口元を動かさないようにしながら、ガリウスに言う。
「ちょっと変わったことを言われるかもしれないけど気にしないでね」
「・・・。わかりました」
相手がこちらに着いたの同時にボウ・アンド・スクレープをする。
「お久しぶりです。アンジェリーン様」
「シャリオン。建国祭以来でしょうか。随分久しいですね」
あの時は忙しかったことや自分が身ごもっていた為あまり外部(?)の人間と接しないようにしていた。
挨拶程度はしたくらいたが。
「ハイシア家は他の貴族と違いこのような場所に顔を出さなくとも安泰だからでしょうか。
あぁ、公爵と伴侶殿も宰相でしたね。こんばんは。・・・ガリウス殿」
そうガリウスを見る目は相変わらず冷たい。
これはガリウスに限ってではなく、下の爵位の人間にはこういう視線を良く向ける。
「お久しぶりです。アンジェリーン様」
「えぇ。お久しぶりです。
シャリオン。ところで転移装置が続々と出来ておりますが大丈夫ですか?
貴方なら公爵家としてやっていけるでしょうし、適当に任せて王都に戻られては」
表情は心底心配してる雰囲気だ。
しかし、その内容は相変わらず困ってしまう。
適当に任せるとは誰に任せるというのだろうか。
彼は年上だが公爵家の当主として育てられたわけじゃないからなのか、少々楽観的な発言をする。
「転移装置は全国に設置済みですよ」
「そうなのですか?」
「えぇ」
正式には公表されていない為、知らされてはいない。
普段『王家に近い』ことを強みにしているからかなのか、聞いていなことに無表情になり、シャリオンは言葉を続ける。
「アルカス家は王都にいらっしゃるので、あまり必要ない情報でしょう」
「えぇ。そうですね。あまり王都以外に興味ありませんので」
「あぁ。そうです。婚約候補になられたとか。
おめでとうございます」
早く会話を切り上げてしまいたくなったシャリオンは彼がここに来たであろう話題を出した。
全く近寄ってこなかった人間がこのタイミングでわざわざ来たという事は、きっと婚約のことを言って欲しいのだろうと思った。
結婚相手から婚約候補者になったのだから、なにもおめでたくはないのだが、そう言わざる終えなくてそう言うと、アンジェリーンは面白くなさそうに小さくため息をついた。
「はぁ。・・・、ありがとう存じます。
そうそう。それで思い出しました。
ガリウス殿にも話があったのですよ」
ガリウスが公爵家の人間になったからなのだろうか。
それにしても相変わらず『殿』呼びだが。
ちなみにシャリオンは幼き頃に『様』を要らないという話をしている。
その時には『アンジェ』と呼んでほしいと言われたが、彼の産みの親の視線に耐え切れず、シャリオンは『アンジェリーン様』と呼んでいるのだ。
そんなことはともかくも、ガリウスに一体どんな用事なのだろう。
「聞きましたよ。先日、レオン様と揃って会議中に抜けられたとか。
大した理由も説明なかったそうですが、公私混同は良くないのではありませんか?」
それは子供達が屋根を突き破ってしまった事件だ。
ガリウス達には迷惑を掛けまいと思っていたのだが・・・。
どうフォローしようか考えるも、だからと言って子供達の事情を話題に出したくはなかった。
「私が王配に着いた際にはそのような事なくしてくださるようにお願いいたします」
候補者に下がったというのに対した自信である。
本当にルークはどういうつもりなのだろうか。
「えぇ。もし王配につかれましたら、そのような配慮はいたします」
「・・・、」
その言葉に驚いたようにアンジェリーンはガリウスを見る。
いや、シャリオンだってガリウスを見たかった。
けれどもここは社交の場。感情を最大限に抑えた。
そもそもアンジェリーンが可笑しいのだ。
たった一人の候補者ならまだしも、2人たてられた時点で自分が危ういと考えないのだから。
ガリウスは尚も続ける。
「しかしながら、王配になられましても、
陛下並びに殿下には許可を得ておりますのでご心配無用です」
つまりは、なっても変わらないと応えるガリウス。
とてもスパイスがきいている。
そろそろ止めようかと思ったのだが、アンジェリーンが話しを終わらせる。
「そうでしたか。
余計な心配でした。
シャリオン。もしお子が心配でしたら無理にこの場にいらっしゃらなくても良いのですよ?
ストレスは良くありません。貴方の身を一番に考えてください。
では、失礼します」
そう言うと、シャリオンの返事は待たずにさっさと席を外した。
かなり失礼にも思うが、同じ公爵でも相手の方が上である。
むしろ漸く解放されてホッと息をつく。
「お疲れ様です、シャリオン。
貴方が嫌味を言えるとは思いませんでした」
そう言うガリウスに思わず苦笑する。
それにしてもどっと疲れた。
「褒めるところじゃないと思うよ?
それに、ガリィと婚約が決まったころは結構言ってたと思う」
シャリオンはシャーリーと違い、カチンときたら文句は言い返す。
「貴方に言われた言葉は一字一句覚えてますが、そうでしたでしょうか」
「い・・・一字一句?・・・まぁ嫌味にとられてないならいいよ」
あの頃は嫌味だったが、今となってはその方がいい。
そんな事を話していると、背後から声をかけられる。
「お久しゅうございます。シャリオン殿」
「!」
その声はガリウスの声にとてもよく似ている。
姿を見なくとも分かるからシャリオンは嬉しそうに後ろに振り返ると、そこにはガーブリエル・ガディーナ子爵とその伴侶であるガウディーノ、ガリウスの兄であるガヴィーノがいた。
シャリオンはボウ・アンド・スクレープをしながら、3人に挨拶をする。
「ガーブリエル様、ガウディーノ様、ガヴィーノ様。お久しぶりにございます。お元気でしたか?」
「あぁ。シャリオン様はもう体調は大丈夫だろうか」
「はい。ガリウスがサポートをしてくれたおかげで、もうすっかり平常に戻りました」
ガーブリエル子爵にそう答えると目を細めほほ笑んでくれた。
そしてガリウスの方を見る。
彼等は城勤めで時折あっているようなので、それほど久しぶりな様子はせず笑みを浮かべている。
「心配していたが、無用の様だったな」
「父上言ったではありませんか。ガリウスはシャリオン殿に限っては気が利きすぎる男です」
「・・・兄上」
兄であるガヴィーノの言葉に不愉快そうに眉を顰めるガリウス。
シャリオンはガヴィーノのことを愉快な義兄だと思っているが、ちょっとおしゃべりなところがある。
何度かこうして教えてくれるのだが、シャリオンに普段のガリウスを考えると少々信じられない。
「ガリウスから何か束縛するようなことは言われませんか?」
「そう言った事も特にないです。いつも僕を優先してくれて・・・逆に僕の方が気が利いたことの一つも出来ていないです」
ガリウスの産みの親であるガウディーノにそう答えると、ガウディーノもまた微笑んだ。
ガリウスはガウディーノによく似ており、ガリウスより線を細くしたようなイメージだ。
「皆さん。・・・シャリオンに変なことを聞かせるのはそれくらいにしていただけませんか」
「僕はいろんなガリィが聞けて嬉しいよ?」
「・・・困りましたね」
「ふふっ」
ガディーナ一家の人々は皆シャリオンを受け入れてくれるように優しい。
今日はきていないが義兄であるガヴィーノの伴侶もだ。
幼き頃から色んな人を見てきたからか、人の優しさに裏があるかどうか直感で分かるが、そう言ったのがないのもシャリオンが素直に話せる理由だ。
「・・・ガーブリエル様、ガウディーノ様。今度宜しければお屋敷に伺っても宜しいでしょうか」
「あぁ。勿論」
「貴方ならいつでも構いませんよ。・・・もしかして可愛い天使たちにも会えるのでしょうか」
ガウディーノが嬉しそうにそう言うと、シャリオンはコクリと頷く。
「お2人が宜しければ」
「私達が可愛い孫を見せてもらえるのに断るわけないだろう」
「えぇ」
「シャリオン殿。うちもお邪魔して良いですか?」
ガヴィーノと伴侶の間には子供がいる。
もう間もなく作法講義が始まる年頃だ。
「はい。アシュリーもガリオンも歳の近い子供を見るのは新鮮でしょうから」
「?まだ産まれたばかりだからそういうのは分からないのではないですか?」
「!」
「そうでしたね。いえ。私もシャリオンもすっかり親バカになってしまっているのですよ。そうですね、シャリオン」
ガリウスがそう尋ねてきてくれたのでコクリと頷いた。
『子供達のあれは偶然だ』そう思っているはずなのに、つい勘違いしてしまう。
☆☆☆
会場にいるとミクラーシュがこちらに気付き、改めて謝罪をしていった。
もしかしたらルークがいる時だけかもしれないと思ったが、そんなことは無かった。
シャリオンが目立ち過ぎないように、部屋を借りそこで謝罪をしてくれたミクラーシュ。
そんな配慮が出来る一面を見て関心と言うか安心をしていると・・・、
今日は護衛としてついてきているゾルの視線がやたら刺さる。
そうこうしながら一通りの人間と話した後、ガリウスに誘われダンスを披露する。
ルークに以前もっと2人の仲を見せつけたら良いと言われたことや、ミクラーシュに嫌疑を掛けられたこともある。
シャリオンとガリウスが愛しあっていることは、互いが分かってればいいとそう思っていたけれど、つまらない疑いを掛けられるのは不愉快だったからだ。
そういう名目はあったが、踊りだすと楽しかった。
ガリウスはシャリオンのステップについてきてくれるし、サポートもしてくれる。
また、初めて踊った時よりも上達しているそれは、シャリオンに秘密で練習してくれたわけで嬉しくない訳なかった。
こうして、楽しいひと時が終わり、曲が終わると拍手喝さいが起きた。
「これで最後の曲なのかな」
「どうでしょうか」
自分達が注目されていたなんて気にしていないシャリオンは、ただガリウスとのダンスを楽しんでいただけだ。
でも少々疲れてきたのでガリウスに誘われるままにダンスフロアーを抜けると、所々に設置された休憩用のボックス型になったソファーに掛けた。
ゾルが他にも追従してきている護衛に飲み物を頼むのを聞いていると、ふと声を掛けられた。
「素晴らしいダンスだった」
「「ライガー様」」
2人揃って立ちあがるとボウ・アンド・スクレープをするが、ライガーは返しながらも直ぐに掛ける様に進めてくれたので腰かけた。
「皆見惚れてたよ。主にシャリオン殿に」
今は社交の場。
子が産まれた後は時折子供達を見に来ているから、距離を持って話すライガーは久しぶりだ。
ライガーの言った内容が不思議だったが、今日もジャスミンの力作の衣装であったことを思い出す。
ジャスミンは今や売れっ子のデザイナーで、彼が作る衣装やドレスは大人気だ。
「でしょう?僕もジャスミンの作った衣装は素敵だと思う」
ライガーは「え?」と固まった後、ガリウスを見た後苦笑を浮かべこちらを見てきた。
「相変わらずだなぁ・・・。勿論衣装が素敵なのもあるけれど、シャリオン殿の笑顔に皆虜だったんだ。
・・・おっと。ガリウスには不安かな?」
「もう慣れています」
「そうか。・・・シャリオン殿。素敵な衣装で踊っているからと言って拍手が起こることは無いと思うが」
そういうライガーは喉で笑った。
「てっきりダンスの時間が終わったのかと。・・・あぁそう言うとまだ流れてるみたいですね」
「あぁ。さっきのダンスに触発されて皆踊り始めたよ」
「・・・なんだか恥ずかしいです」
「照れることは無いんじゃないか?2人の想いがこもった素敵なものだった」
「シャリオンは余り人に見られることが得意ではないですから」
「その様だね」
褒めてもらえるのは嬉しいが、こそばゆい気がして話を逸らす。
「本日は殿下とご一緒ではないのですか?」
挨拶周りをしたときに、2人の気配を感じたような気がしたのだが。
「いや。来ているよ。ただ、王太子だからね。
大公とは違い責任だけでなく付き合いも大事だ。
・・・そろそろ来るとは思うが」
その言葉に『なるほど』と納得していると、まるで聞きつけたようにルークがやってきた。
いつものようなおちゃらけた雰囲気をしまい、きっちりしている。
なんどみても見慣れない姿だ。
シャリオン達はライガーも含めて立ち上がり挨拶をする。
「ごきげんよう。シャリオン殿、ガリウス殿」
「「ごきげんよう。ルーク王太子殿下」」
挨拶が終わり席に掛けると、ルークが使いの者に合図をするとそこらへん一帯を囲むように使用人達が立つ。
その中に入れるのは王太子であるルークと、大公であるライガーに、招かれたシャリオン達とその護衛だけだ。
人払いはされたが完全な個室に移ったわけではないので、声のボリュームは下げられた。
それでも見た目は上品に優雅に見せるのはもう慣れだ。
勿論それをシャリオンも出来る。
「・・・疲れた」
「「お疲れ様」」
笑みを浮かべたまま吐かれるその言葉に思わず笑いそうになりながら、シャリオンとライガーが労う。
「今日は参加者が多いようですからね」
「・・・。ガリウスも砕けていいよ」
「失礼ながら私の口調はいつも通りだと思いますが」
意地悪気にいうルークにガリウスがそう応えると、クスクスと笑った。
「あーあー。シャリオンにも見せていない姿じゃないのかな」
「確かに大体この口調ですが。・・・砕けた私を知っているのはシャリオンだけですよ」
「はいはい。ごちそーさま」
「ルーは何故惚気られると分かっていて、それもそんな反応をするのにわざわざ聞くんだ」
「本当にね」
シャリオンは不思議そうに、ライガーは呆れてそう尋ねると、楽し気に応えてくれる。
「だって。ガリウスの得意げでデレデレした顔だよ?」
「「・・・、ちょっとそれで見たい理由がわからない」」
「お2人とも。ルーク様は少々困った性癖なのですよ。気にしたら負けです」
「なるほど」
「流石ガリウス。良くわかったな」
「ありがとうございます」
「そこ!褒めるところでも、お礼を言うところでもないからぁ!」
そう言うとルークは小さくため息をついた。
丁度運ばれてきた酒はいつの間にか4人分用意してくれたようで、揃って乾杯をする。
つまみを食べながら少し歓談をしているとルークが思い出したように尋ねてきた。
「そうだ。・・・ミクラーシュがハイシア家のことを聞いてきたんだけど、何か可笑しなことしてない?
防衛とか意味の分からないことを聞いてきたのだけど」
「ううん。してないよ」
そう答えた後のゾルの視線が痛い。
しかし、シャリオンは即答したのだが、ルークはゾルの視線に気づき小さくため息をついた。
「どうってことないよ。もう解決したし」
「んー。・・・どうして、アイツはシャリオンに厳しくするかな。
それ以外はまともなんだ。
ちょっと脳筋なところはあるけれど、アンジェリーンよりは周りをよく見れている」
それはシャリオンも思っていることだ。
乗り込んできた当日は可笑しな人物かと思ったが、その後貰った手紙も今日話した感じも普通な人間だった。
手紙にもあったが、募った恋心が暴走させてしまったのだろう。
一方のアンジェリーンは貴族らしくはあるが、王配で陛下の隣に立つのは少々厳しい面もある。
側室であれば特に気にしないのだろうが。
幾ら発言をさせなかったとしても、使用人にきつく当たるようでは蓄積した行為がいずれ隠せなくなるだろう。
本人が下の者に接するときの考えを改めなければ厳しい。
そういう所も含め、確かに先日のことは腹立たしくはあったが謝罪をしてきたミクラーシュを推したいのだ。
「今日は普通だったよ?」
「え。普通にできるの」
ルークが改めて聞いてくるほど、ミクラーシュの態度は他の人間に気付かれていた。
「うん」
『初めてだったけど』と言う言葉を飲み込む。
あれが継続されたならそれでいい。
と、思ったのだが。
「婚約のためかな」
「ルーが信じてあげないと駄目でしょう」
「いや。そうだけど。
俺よりなんでシャリオンが信じてるかなぁ」
呆れた眼差しには気付かないふりで酒に口を付ける。
「シャリオンは心優しいですからね。ですが・・・ルーク様」
「わかってる。わかってるからその冷たい気配消してくれる?」
ガリウスの無言の圧力があったのか怯えるルークに、思わずクスクスと笑った。
「でも、今日2人のダンスを見ておかしな気も引っ込んだんじゃないかな。・・・一つは」
「それなら良いのですがね」
ガリウスの言う事にライガーは頷きながらも可笑しな行動をとる弟を呆れた眼差しで見る。
「ルーが早く相手を決めたらいいんだよ。
そもそも、ハイシア家に行った時に相手は決まっていると言ったじゃないか」
「あー兄上には説明していなかったね。
その相手がアルカス家のアンジェリーンだったんだ」
「・・・はぁ」
ライガーは国内の貴族の結婚に関して監視をしているが、王家の結婚に関してはあえて見ないようにしている。
ファングス家が取り潰されても一貫してその姿勢は貫いているようだ。
しれっと答えるルークにライガーはため息をついた。
「しかし。結婚相手にしても婚約者候補にしてもアンジェリーンが良く引きうけたものだ」
「アルカス家は家格を気にするからね。言いたいことは分かるけど、もう相手がいないから仕方がなくなったんじゃないの」
「どういう意味??」
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「は?」
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「これ以上どう濁せば良いっていうの」
「シャリオン。彼にルーク殿下は嫌われているのですよ」
その要約になっていないまとめに、思わずシャリオンも笑ってしまう。
「大丈夫。ちょっと信じられなかっただけだよ」
「そうだよねぇ。シャリオンには信じがたい思考だよねぇ」
ルークはそう呟きながら苦笑を浮かべ、ライガーは大切なものを見るようなシャリオンを見つめた。
「はぁ。・・・とにかく2人から何かあったら言ってね」
「んーまぁ僕に何を言われてもね」
「アンジェリーンはシャリオンに特に何かを・・・いや、言うな。
2人とも言うと思うけどあまりにも理不尽なことを言ってきたら、
王配候補なんて気にしなくていいから遠慮なく抗議してね」
言いたいことは分かるのだが、抗議をしてどうするのだろうか。
それで婚約破棄となったら、ルークだって時間がないはずだ。
幼馴染や親友として、ルークを愛しそしてルークも愛した人間と添い遂げて欲しいが、そうも言ってられない。
シャリオンは貴族で感情を捨て苦手だったガリウスを選んだわけだが、ルークも王族としての責務がある。
それはただの貴族よりも重いもので、好き嫌いで王配を選べるわけではない。
そうは言ってもルークがシャリオンを気遣う気持ちも無視はできず、今はこの場だけでも頷いておく。
「うん。わかった」
しかし、長年の付き合いのルークには分かってしまったようで・・・・。
「ガリウス。言いごまかしていたら教えてね」
なんて言われてしまった。
思わずガリウスを見上げると、ニコっとほほ笑まれた。
そして、ガリウスはルークに続けた。
「シャリオンが伏せる様に言った言葉を、殿下とてお渡ししませんよ」
「うわー。俺って臣下に恵まれてない・・・っ」
大袈裟にいうルークにシャリオンは苦笑を浮かべた。
「馬鹿なことを言ってないで、そうならないためにも2人とちゃんと向き合ってね」
「はいはい。・・・わかってる。ちゃんとするよ。安心して?」
困った様にしながらも、何時だって器用にそつなくその笑みを浮かべながらも答えるルークにシャリオンはホッとするのだった。
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