【完結】天野来人の現代神話 ~半神半人の鎖使い、神々を統べる王となる~

赤木さなぎ

文字の大きさ
上 下
97 / 150
第三章 原初の破壊編

#93 VSポセイドン

しおりを挟む

 ――『岩』と水流を纏った槍がぶつかり合う、金属音が鳴り響く。
 
 十二波動神の一柱、ポセイドン。
 ゼウスの部下であり、今は共に邪神アークの側へと傾いてしまった。
 その十二柱の最強格の波動を持つ神が、立ちはだかる。

 対するは、来人の契約者たる三人のガイア族。
 主人たる来人は、妹の世良を助ける為に、アークと戦う。
 ならば、自分たちの役目は、その邪魔をされないように、他の敵を相手する事だ。

(王様の妹、世良――、それを僕は知りません。だけど、王様の大切は、僕の大切なのです)

 ジューゴは先陣を切って、ポセイドンと戦う。

「ジュゴン六兄弟の五男としては、あなたのその『水』のスキル羨ましいのです。でも――」

 ジューゴは全身に岩の鎧を纏い、ヒレを鋭い刃の様にしてポセイドンの三又の槍と打ち合う。
 その最中、突如身体を旋回させて、まるで戦いを放棄するかのように横へと逸れた。

「――所詮は『水』なんて、凍らせてしまえば何でもないネ!」

 ジューゴが逸れたその空間、ポセイドンにとっての死角からぬるりと、日本刀を横に咥えたガーネが現れた。
 ガーネの刀が、ポセイドンの槍を弾く。
 すると、槍に纏っていた水流はたちまち凍り付き、そしてその槍はその場の空間へと張り付き、固定され、動かなくなった。

「何!? 貴様、小細工を――」

 ポセイドンは槍を握っていた手を離し、武器を捨てようとする。
 しかし、その動きも全て後手後手だ。
 
 そして――、
 
「――今ですわ! ジューゴ!」
「はい!」

 ジューゴは宙に数多の『岩』の礫の弾丸を生成。
 そして、その礫の全てにイリスが『虹』のオーラを纏わせていた。

 ジューゴは水を司るガイアの戦士、ジュゴン族の家系だ。
 それでも、その中で唯一手に入れたスキルが水とは全く別系統であり、流れる水流の奔流に削り取られてしまう、『岩』だった。
 それ故に、故郷では落ちこぼれとして、未熟者として扱われて来たジューゴ。

 しかし、今は違う。
 ここはあの海に囲まれた水の大地ディープメイルではない。
 周囲の環境が違えば、優位となる能力も変わる。
 そして、ジューゴには共に戦う仲間が居る。

 ポセイドンの水は凍り付き、そして三又の槍という武器も失った。
 奴は今、隙だらけだ。

「いっけええええ!!!」
 
 そこに、ジューゴは礫の弾丸を叩き込む。
 七色に輝くその弾丸がポセイドンの身体へと、まるで剣山の様に突き刺さる。
 突き刺さる礫の刃の根元から、赤黒い血がどくどくと流れ出る。
 
 それでも、十二波動神にまで上り詰めた神を相手にこの程度の傷では、致命傷へは至らない。
 “治癒して行く自分自身”をイメージする事で、それを現実として創造し、すぐに回復してしまうだろう。
 
 しかし、それはその礫がジューゴの力だけだった時の事。
 イリスとの力を合わせたそれは、纏う『虹』のオーラによって、ポセイドンの身体を、そして魂を、じわりじわりと弱体化の力が浸食して行く。
 
 神ではない、あくまでその使いのガイア族であるイリスだが、元はライジンの契約者であり、神格持ち。
 神格――つまり、神に匹敵する、その名を持つ者。
 その名への信仰が、想いが、力となる。

「同じくギリシャの神話の名を借り受ける者同士。しかし、わたくしの想いの方が強かった様ですわね」
 
 勿論ポセイドンも身体の修復を、回復を試みる。
 しかしそれよりも早く、イリスの七色に輝く色が浸食していく。
 傷を負えば負うほど、出血が増えれば増える程ほど、“死”のイメージが刻まれて行く。
 そして、信仰と想いにより力を増すのとは逆の現象、死というマイナスのイメージの蓄積により、死に至る。
 
「……ここまで、か。貴様らの様な、獣共に……」

 ポセイドンは、膝を付く。
 その瞳はもはや焦点も有っておらず、灰色の煙が薄く立ち昇る。
 時期に死して、消え失せるだろう。

 ガイア族の戦士は戦闘種族だ。
 戦いにおいて、手加減も慈悲も無い。
 一度敵と定めて相対すれば、常に全力。命を奪う事も厭わない。
 特に、今の様な非常時であり、相手が格上の存在――神であるのならば、尚更だ。
 殺らなければ、殺られる。

「――その驕りが、あなたの敗因ですわ」
「まあ、三対一だけどネ」
「それよりも、早く王様の元へ向かいましょう!」
 
 三人はもはや脅威とはならないポセイドンをその場に置いて、今もアークと戦う来人の元へと――、
 
「――では、次だ」
 
 ぼそり、とポセイドンが呟く。
 同時に、漆黒の波動の奔流がポセイドンを中心としてうねり出て、黒い光の柱となって天へと立ち昇る。

「ガーネ! ジューゴ!」
 
 イリスは咄嗟に二人を庇い、突き飛ばした。

「イリス!!」
「イリスさん!!」

 漆黒の波動の奔流はやがて収束し、そして――、

「――もう一度、聞こうか。何が、私の敗因だ、と?」
 
 まるで壊れた機械の様に、途切れ途切れに言葉を紡ぐポセイドンが立っていた。
 剣山の様に刺さっていた礫の刃は炭となって崩れ落ち、傷口はまるで存在していなかったかのように消え失せていた。

 ポセイドンの肌は浅黒い褐色となり、先程までの神々しさは無い。
 まるや闇に呑まれた様な、その異色の姿。

「――そこの、ガイア族」

 ポセイドンはジューゴを見て、言った。

「先程、私のスキルを『水』だと、そう言ったな」

 ポセイドンの背後から、“津波”が起こる。
 ここは天界だ。だというのに、そのはずなのに、まるでディープメイルへと来てしまったかと錯覚する程の水――いや、潮の匂い。

「――否。『海』のスキル、それこそが真の力なり」

 その津波に、海に、ジューゴが呆然と打ち震える。

「あ、あ……」
「ジューゴ! 落ち着くネ! それよりも――」
「駄目です、先輩! いくら先輩でも、海を凍らせる事なんて出来な――」
「――ジューゴ! イリスが!」

 ガーネに言われて、ジューゴもはっとする。
 自分たちを庇い助けてくれたイリスが、ポセイドンの黒い波動に呑まれて倒れていた。

「うっ……うぅ……」

 幸い、イリスにはまだ息が有る。

「ジューゴ、お前は壁を造れ」
「でも、僕の壁なんてあの津波にすぐに呑まれてしまいます」
「一瞬で良い。後はネに任せるネ」

 そう言って、ガーネは走り出す。
 津波は今にも迫って来ている。

「やあっ!!」

 ジューゴが倒れるイリスの前に『岩』の壁を造り、ガーネは足元を凍らせて、滑るようにイリスの元へと飛びつく。
 そして、イリスの身体を丸呑みにした。
 ガーネの口の中は弟の科学者メガによって改造され、器の世界へと繋がった異空間だ。
 これならば、手負いで動けないイリスを運ぶことが出来る。

 瞬く間にジューゴの元へと下がるガーネだったが、やはりジューゴの作る岩の一枚壁は、津波の圧倒的物量、その水流に抉られ、すぐに壊れてしまう。

「先輩、やっぱり……」
「次だネ! もう一回!」
「は、はい!」

 弱気なジューゴを、ガーネが鼓舞する。
 今度は小さく、ガーネとジューゴだけが収まる程のシェルターの様に、『岩』の殻を造った。
 そして、その上からガーネが『氷』でコーティングする。

「もっと! もっとだネ!」
「はい! ……はい!」

 岩、氷、岩、氷――。
 二人で力を合わせて、二色の波動で、ミルフィーユの様に層を重ねて、ポセイドンの『海』の起こす津波から、身を守る。

 津波が押し寄せる。
 二色のシェルターの殻を水流の圧が抉り、削り取って行く。

「せ、先輩……」
「ぐっ、耐えろ、まだ、まだだ……」

 やがて、津波は過ぎて行く。

 シェルターの殻の層は、残り二枚。
 ギリギリのところで持ち堪えることが出来た。
 しかし、全力で守りに徹した二人はもう波動が尽きかけていた。
 同じ攻撃が二度、三度と続けば、もう持たない。

「――ふん、生き伸びたか」

 ポセイドンは嘲笑う。
 
「それは、こっちの台詞だネ。絶対、殺したはずだネ。それなのに、ぴんぴんしているどころか、最初より強くなるなんて――」
「ああ、私は一度死んだ。そして、生まれ変わったのだ」

 ポセイドンはさも当然の様に、自分の死を語った。

「そんな! 死んだのに生き返るなんて、そんなの神様でも不可能です!」
「いいや、私は“再臨”した! それも、アーク様のお力が有ればこそ!」

 ポセイドンは両手を広げ、何かを崇め奉る様に、嬉々として語る。
 その言葉は既に流暢だ。

「――創造の前に、破壊有り! 私は自分自身を一度破壊し、そして再構築した。新たなこの身体はアーク様の恩寵を受けて、より強く生まれ変わった!」

 神ポセイドンは、再臨した。
 アークの『破壊』のスキルの一欠片を授けられていたポセイドンは、その力を使って自分の身体を、そして魂を一度破壊し、再構築した。
 新たに生まれ変わったその姿は、アークと酷似した褐色の肌となり、漆黒のオーラを纏っている。

「まずいネ。この力が、他の十二波動神にも有るのだとしたら――」

 他の皆が危ない。
 
 アークと相対する来人。
 そして、ゼウスと相対する、ティルとダンデ、ソル。
 大鎌を持つ神と相対する、陸とモシャ。
 それだけじゃない。援軍として駆け付けた神々も、他の十二波動神と戦っている。

 その全ての十二波動神たちが“再臨”し、アークと同じ力――『破壊』のスキルを得てしまえば、もはや太刀打ちが出来ない。
 その力は一端だとしても、アークそのものには及ばないとしても、圧倒的だ。
 それはあの二代目神王ウルスを一瞬で屠ったゼウスの姿を見ていれば、分かる事だろう。
 このポセイドンの姿を見て、理解した。
 
 ゼウスは既に“再臨”している。
 だとすれば、丁度今ゼウスと戦っているティルたちは――。
しおりを挟む
・少しでも面白いなと思って頂けましたら、[☆お気に入りに追加]をポチっとして頂けると執筆の励みになります!
 応援よろしくお願いします!

また、『深海の歌声に誘われて』という新作を投稿開始しました!
おかしな風習の残る海辺の因習村を舞台とした、ホラー×ミステリー×和風世界観!!
こちらも合わせて、よろしくお願いします!

ツギクルバナー
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔石と神器の物語 ~アイテムショップの美人姉妹は、史上最強の助っ人です!~

エール
ファンタジー
 古代遺跡群攻略都市「イフカ」を訪れた新進気鋭の若き冒険者(ハンター)、ライナス。  彼が立ち寄った「魔法堂 白銀の翼」は、一風変わったアイテムを扱う魔道具専門店だった。  経営者は若い美人姉妹。  妹は自ら作成したアイテムを冒険の実践にて試用する、才能溢れる魔道具製作者。  そして姉の正体は、特定冒険者と契約を交わし、召喚獣として戦う闇の狂戦士だった。  最高純度の「超魔石」と「充魔石」を体内に埋め込まれた不死属性の彼女は、呪われし武具を纏い、補充用の魔石を求めて戦場に向かう。いつの日か、「人間」に戻ることを夢見て――。

[鑑定]スキルしかない俺を追放したのはいいが、貴様らにはもう関わるのはイヤだから、さがさないでくれ!

どら焼き
ファンタジー
ついに!第5章突入! 舐めた奴らに、真実が牙を剥く! 何も説明無く、いきなり異世界転移!らしいのだが、この王冠つけたオッサン何を言っているのだ? しかも、ステータスが文字化けしていて、スキルも「鑑定??」だけって酷くない? 訳のわからない言葉?を発声している王女?と、勇者らしい同級生達がオレを城から捨てやがったので、 なんとか、苦労して宿代とパン代を稼ぐ主人公カザト! そして…わかってくる、この異世界の異常性。 出会いを重ねて、なんとか元の世界に戻る方法を切り開いて行く物語。 主人公の直接復讐する要素は、あまりありません。 相手方の、あまりにも酷い自堕落さから出てくる、ざまぁ要素は、少しづつ出てくる予定です。 ハーレム要素は、不明とします。 復讐での強制ハーレム要素は、無しの予定です。 追記  2023/07/21 表紙絵を戦闘モードになったあるヤツの参考絵にしました。 8月近くでなにが、変形するのかわかる予定です。 2024/02/23 アルファポリスオンリーを解除しました。

angel observerⅢ 大地鳴動

蒼上愛三(あおうえあいみ)
ファンタジー
 審判の時が再び訪れた。試されるのは神か人か・・・。  ヒルデたちの前に立ち塞がるのはガイア、今なお心を探す彼女にガイアの圧倒的な力が猛威を振るう時人々は何を思うのか。  少女たちは死地へと赴く。 angel observer の第3章「大地鳴動編」開幕!

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界でぺったんこさん!〜無限収納5段階活用で無双する〜

KeyBow
ファンタジー
 間もなく50歳になる銀行マンのおっさんは、高校生達の異世界召喚に巻き込まれた。  何故か若返り、他の召喚者と同じ高校生位の年齢になっていた。  召喚したのは、魔王を討ち滅ぼす為だと伝えられる。自分で2つのスキルを選ぶ事が出来ると言われ、おっさんが選んだのは無限収納と飛翔!  しかし召喚した者達はスキルを制御する為の装飾品と偽り、隷属の首輪を装着しようとしていた・・・  いち早くその嘘に気が付いたおっさんが1人の少女を連れて逃亡を図る。  その後おっさんは無限収納の5段階活用で無双する!・・・はずだ。  上空に飛び、そこから大きな岩を落として押しつぶす。やがて救った少女は口癖のように言う。  またぺったんこですか?・・・

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

『希望の実』拾い食いから始まる逆転ダンジョン生活!

IXA
ファンタジー
30年ほど前、地球に突如として現れたダンジョン。  無限に湧く資源、そしてレベルアップの圧倒的な恩恵に目をつけた人類は、日々ダンジョンの研究へ傾倒していた。  一方特にそれは関係なく、生きる金に困った私、結城フォリアはバイトをするため、最低限の体力を手に入れようとダンジョンへ乗り込んだ。  甘い考えで潜ったダンジョン、しかし笑顔で寄ってきた者達による裏切り、体のいい使い捨てが私を待っていた。  しかし深い絶望の果てに、私は最強のユニークスキルである《スキル累乗》を獲得する--  これは金も境遇も、何もかもが最底辺だった少女が泥臭く苦しみながらダンジョンを探索し、知恵とスキルを駆使し、地べたを這いずり回って頂点へと登り、世界の真実を紐解く話  複数箇所での保存のため、カクヨム様とハーメルン様でも投稿しています

悪行貴族のはずれ息子【第2部 魔法師匠編】

白波 鷹(しらなみ たか)【白波文庫】
ファンタジー
※表紙を第一部と統一しました ★作者個人でAmazonにて自費出版中。Kindle電子書籍有料ランキング「SF・ホラー・ファンタジー」「児童書>読み物」1位にWランクイン! ★第1部はこちら↓ https://www.alphapolis.co.jp/novel/162178383/822911083 「お前みたいな無能は分家がお似合いだ」 幼い頃から魔法を使う事ができた本家の息子リーヴは、そうして魔法の才能がない分家の息子アシックをいつも笑っていた。 東にある小さな街を領地としている悪名高き貴族『ユーグ家』―古くからその街を統治している彼らの実態は酷いものだった。 本家の当主がまともに管理せず、領地は放置状態。にもかかわらず、税の徴収だけ行うことから人々から嫌悪され、さらに近年はその長男であるリーヴ・ユーグの悪名高さもそれに拍車をかけていた。 容姿端麗、文武両道…というのは他の貴族への印象を良くする為の表向きの顔。その実態は父親の権力を駆使して悪ガキを集め、街の人々を困らせて楽しむガキ大将のような人間だった。 悪知恵が働き、魔法も使え、取り巻き達と好き放題するリーヴを誰も止めることができず、人々は『ユーグ家』をやっかんでいた。 さらにリーヴ達は街の人間だけではなく、自分達の分家も馬鹿にしており、中でも分家の長男として生まれたアシック・ユーグを『無能』と呼んで嘲笑うのが日課だった。だが、努力することなく才能に溺れていたリーヴは気付いていなかった。 自分が無能と嘲笑っていたアシックが努力し続けた結果、書庫に眠っていた魔法を全て習得し終えていたことを。そして、本家よりも街の人間達から感心を向けられ、分家の力が強まっていることを。 やがて、リーヴがその事実に気付いた時にはもう遅かった。 アシックに追い抜かれた焦りから魔法を再び学び始めたが、今さら才能が実ることもなく二人の差は徐々に広まっていくばかり。 そんな中、リーヴの妹で『忌み子』として幽閉されていたユミィを助けたのを機に、アシックは本家を変えていってしまい…? ◇過去最高ランキング ・アルファポリス 男性HOTランキング:10位 ・カクヨム 週間ランキング(総合):80位台 週間ランキング(異世界ファンタジー):43位

処理中です...