アドレナリンと感覚麻酔

元森

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第三章 第十三話

141 決まり

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「…今の誰?」
 ただ一言、問われただけなのに聖月は『怖い』と思ってしまった。先程一緒にピザを食べたとは思えないぐらい別人のような冷たい声だった。サディストの声とも種類が違う冷たい声だ。
「電話の相手」
 ピリピリとした緊張感のある声で問いかけた宗祐はそのまま聖月に近づく。椅子に座っている聖月は、近づく熱い目を持った彼にビクビクと怯えていた。
「…あ、えっと……大学の友達です」
 間違えは言っていないが、聖月の説明は情報がかなり少ないものになってしまった。言い淀んでしまう自分に、罪悪感を抱く。こうやって後ろめたいと思うのは、友達であるきりにも、目の前の恋人にも聖月は申し訳なく思う。だが聖月がはっきりと言えないのは聖月自身は気づいていないが、今の宗祐の雰囲気や言葉に委縮してしまっていたからだ。
「女の子っぽい声がした」
「それは…その、その子が女の子なので」
 続けざまに言われた責めるような言葉に、ドキリする。聖月は、目線をうろうろとさせて言い切った。
「へえ、聖月に女の子の友達がいたのか」
 宗祐は聖月の回答を聞いて笑っていた。小馬鹿にしているようにも見えたが、また違うものに見える。不安になってすぐ近くにいる彼を見上げると、宗祐はハッと何かに気が付いた表情になる。だが、すぐにそれを変え、宗祐は意地悪く笑った。それは色香のある表情であった。
「そんなに動揺してるってことは、まさか…浮気か?」
 神妙に言う宗祐に、聖月は一気に青ざめる。浮気。つまり宗祐は聖月が裏切っているのだと思っているということだ。そんな事、ないのに。自分がきりとの関係性をはっきり言わないから、あらぬ誤解をされてしまった―――聖月は思わず立ち上がり叫んだ。
「違います」
 大きくはっきりとした声で聖月は叫んだ。広いリビングが聖月の声で大きく響き渡る程に。拳を作り、宗祐と息のかかる距離で叫んだ聖月は興奮していて自分が何をしているのかまだ分かってもいない。背の高い宗祐を下から強い視線で射貫く。それは、はっきりとした意思表示であった。
 宗祐はよろめき、後ろへ一歩下がると顔を手で覆う。
 その行動を見てやっと聖月は、先程の自分の行動の大胆さに驚いた。もしかして気分を害したのだろうか、そうだとしたら謝らないと…そんな不安に駆られる聖月だったが耳朶に聞こえたのは宗祐の意外な声だった。
「く。く、ククッ…、」
 宗祐の開いた口から漏れたのは、意外にも『笑い声』だった。呆れた声でもなく、笑い声だったのだ。それも大きく笑うのを抑えたもので、聖月は状況を理解出来ない目をパチパチと瞬かせる。彼が手を覆ったのは、笑うのを抑えるためだったのだ。
「―――っえっと…?」
 耐えられない、といった様子で口を押えて笑う宗祐は今まで見た彼の笑みの中でも一番楽しそうなものだった。何か俺は面白い事をやったのだろうか…、何が宗祐の笑いのツボを刺激したのか全く分からない聖月は不思議な顔を隠そうともせず宗祐を見詰める。そんな聖月を見て、宗祐は目を細める。その純粋な聖月な顔に、舌なめずりをしたくなるのを堪えながら。
「いや、悪い…く、くく…ッ、」
 心底愉しそうにさらに笑いながら謝る彼は、聖月にはキラキラと輝いて見えた。
「まさか自分にこんな子供みたいな感情を抱くなんて思わなかった…。っ、」
 あはは、と楽しそうに笑う宗祐は彼の言う通り子供のようだった。どうやら聖月が原因で笑っているのではなく、自分の事で笑っているようだった。未だに状況が掴めきれていない聖月は首を傾げる。笑いすぎて目に浮かんだ自身の涙を指で脱ぐ宗祐は、そんな聖月にさらに楽しそうに笑っていた。
 どうしよう―――。
 ただ固まる聖月に、突然刺激が走る。
「あっ」
 聖月が驚いた声を上げたのは、宗祐が聖月を抱きしめたのだ。それは優しく、宝物を触るような触り方であった。急な触れ合いに体温が一気に上がり、心臓が早鐘を打つ。
「自分以外のものは使い捨てのモノだと思ってたのに」
 こんな感情を持つのは初めてだ。そう、宗祐は聖月の耳に囁く。
「あ、の、怒ってない……?」
 混乱の中にいる聖月はやっとの事で自分の疑問を吐き出す。そんな聖月に、宗祐は目を細めてじぃっと見つめていた。鼻先が触れあう距離で目をそらしたくなるが、宗祐の切れ長の目が熱く聖月を離しはしなかった。先程まで部屋にあったはずの昏い雰囲気はなくなり、一気に甘くなる。
「あぁ、すまない。お前が浮気なんてできる人間じゃないってことは分かっているんだ。さっきのは、あまりに表情が可愛いからからかっただけだ」
「え……」
 軽く言われた言葉に、聖月は驚きの声を上げる。自分はからかわれただけだったのか、やっと理解出来た聖月は驚きつつも安堵した。宗祐はさらに言葉を続けた。真っすぐに聖月を見詰めながら。
「だけど、聖月が俺以外の人間の話をしているのを聞いて…頭に血が上ったんだ。こんな気持ちは初めてだ。…いや、違うな」
 うーんと、頭をひねる宗祐に、聖月は首を傾げる。そんな聖月に、宗祐はククッと笑う。苦笑いだった。
「…そうか。はっきり言わないとダメか。…嫉妬したんだよ、聖月のオトモダチに」
「…え…、え…っと…、彼女は俺の友達で…」
 真剣な目で言われた言葉に、聖月は宗祐の腕の中に居ながら視線をうろつかせる。好きな人に嫉妬した、とはっきり言われてしまうと自分でもどうしていいのか分からなくなる。甘い空気にも慣れない聖月は宗祐の腕に捕らわれたまま百面相をし身体を硬直させるしかない。
「分かってる。それは分かってるのに、ついカッとなった。そもそももうほかの客に触らせたくなくてセイを買ったんだ。元から重症だから諦めてもらおうか」
「―――――ッ」
 すごい告白をされている、と言う事が分かり聖月は顔を真っ赤にし言葉を失う。
 目を見開いている聖月に宗祐は愉し気だった。それは紳士的なモノではない。腰に触れる手が、熱を帯びていく。大きな手は聖月の腰を包み込むのはたやすく、身体を動かそうとするが身動きがとれない。恥ずかしくて少しでも距離を取りたいのに、逃げられないのだとすぐに分かった。
「くく…ッ、覚えてるか? 今日、君は抱かれるんだ」
「あ、…ッ」
 宗祐の言葉にさらに顔が熱くなる。聖月を『意識』させるため、宗祐の手が、指が尻に移動する。ぞわぞわとした、悪寒ではない震えが聖月の背中を震わせた。これが快楽だと言う事を、聖月は知っている。宗祐に教えられてしまったから。
 そんな事、言われた時からずっと意識していた『決まり』だ。聖月は今にも逃げ出してしまいそうになる身体に鞭を打ち、頷く。それは、純粋さと妖艶さが混じり合った行為だった。そんな聖月に目の前の男が興奮しないわけがない。ごくりと唾をのみ、目を細めて聖月の扇情的な表情を見詰める。
 そこには無表情が基本である聖月はいない、表情豊かな聖月が居た。
「どんなことをされたっていいとお前は言ったな」
「…うん」
 あの夜――――。そう言ったことははっきりと覚えている。―――熱い。身体が、うだるような熱が聖月を覆う。
 頷いた聖月を見た宗祐の表情は獰猛な肉食獣のソレであった。
 
 
 宗祐は、聖月を自室のベットに連れていく。宗祐のベットは、所謂キングサイズベットでとても大きい。いや、宗祐だけのベットというのは間違いだ。これから聖月はこのベットで毎日寝ることになる。そのため、聖月の部屋にはベットが置かれていない。前の寮で使っていたベットは隣で寝るように言われて、処分したのだ。
 高級なシルクのベットの真ん中にそっと置かれた聖月は、緊張と恥ずかしさで視線が揺れていた。だがすぐに、その視線はあるものに奪われる。Yシャツのボタンを外し、宗祐の腹筋が露わになったからだ。
 うわ、カッコいい―――。
 ホテルで見たバスローブ姿でちらりと見えた健康的な肌はそのままに、鍛えられたのだと分かる程よくついた腹筋が眩しい。つい視線がそのまま下のスラックスにまでいってしまい、聖月は目を逸らす。聖月の目には、はっきりと反応した宗祐の股間が見えたからだ。
 聖月も宗祐と同じように、もう自身の息子は反応しジーパンの越しであるが勃起している事が分かってしまっている。宗祐が反応していることにドキドキしつつ、聖月は腰を揺らす。それは無意識なものであったが、妖艶な姿であった。聖月は精悍な青年に成長しており、仄かに赤らむ頬と、上気した身体は『その気』がなくてもそそられる姿であった。
 緊張でどうにかなりそうな聖月を、宗祐はじっと見つめる。穴が開くんじゃないかというほどに。宗祐は堪能していた。自分に抱かれる前の愛しい恋人の姿を。ベットの上に座りお互いを見詰める。寝室にはむせ返るような空気が充満していた。
「ん…ッ」
 聖月がびくりと身体を跳ねたのは、宗祐がシャツ越しに聖月の胸を触ったからだ。ぼんやりしているうちに息のかかる距離にいた宗祐は、シャツ越しにゆっくりと胸を擦る。体育座りで居た聖月の股間をそっと撫でられると、どうしようもなく震えた。気持ちいい。すっかり反応した盛り上がった部分を優しく撫でられ、聖月は唇を噛む。
 宗祐は無理やり抑えるつけるでもなく、ただただ優しく愛撫した。
「…っ、ん…」
 股間を撫でられ、優しく胸を撫でられる。ただそれだけだったが、聖月は敏感に身体を揺らし、快楽に耐える。自分から漏れる甘い声を必死に抑える姿は、宗祐を愉しませる。ゆるい快楽は、聖月を悶えさせた。あの時の股間を足でえぐられた強い快楽を思い出し、頭がぼんやりとする。
 あの時ように言葉で嬲り、嘲笑する宗祐はここにはいない。優しい快楽を与え、ただただ楽しむ宗祐しかいない。
 何分それが行われたのか。聖月は、決してあらがえない弱い快楽に身を揺らし、そしてついに陥落した。
「――――っ」
 ビクビクと震え、背中をのけぞらせ、聖月はついに射精をしてしまった。ただ股間をさわさわと撫でられ、強い刺激を与えられるわけでもないのに。
「ぁ……」
 絶頂感に酔いしれ、聖月は宗祐を見詰める。宗祐は楽しそうに笑っていた。はっきりと興奮していた。
「ただ撫でただけなのにイったな。可愛い」
「ん、ぅうッ」
 喉を鳴らしながら笑う宗祐に唇を奪われる。それはとてつもない幸福感だった。舌をからめとられると、頭がさらにぼんやりとする。宗祐は、汗でびっしゃりとなったジーンズを撫でる。太腿を撫で、触ると粘着質な音が出る股間を撫でる。それは拷問のように恥ずかしく、聖月は大きく首を振る。だが、そんな聖月を押さえつけ、宗祐はさらに口づけを深くする。
 上あごをなぞられればたまらない。涙が自然と溢れ、肩で息をする。
 柔い快楽を与え続けた宗祐は、そっとジーパンのホックを外し、ジッパーを下ろす。器用な指で、精に濡れた下着をずらし性器を出す。聖月は自然と閉じていた足を大きく開き、だらしない恰好でそれを受け入れた。それは淫猥な姿であった。ぴくぴくと震える性器を掴むと、聖月が暴れる。
 あまりに強い快楽が走り、キスをし続ける宗祐の背中を大きく叩く。だが、そんなのは宗祐にとって抵抗にもならない。背中に叩かれ続けるリズムを愉しみつつ、宗祐は巧みな指遣いで性器を弄ぶ。鼻で息をしているが、だんだんとそれがうまくいかなくなる。
 頭が酸欠状態になり、股間に集まる快楽に混乱する。
「ん、んぅうううッ」
 よだれがだらだらと落ちていく。もう、頭が、おかしくなる。離してもらいたいのに、全く動かない。
 聖月は、先程まで得られなかった激しく上下に擦られる快楽を受け、さらに身を震わせる。
「っ、ぅう~~~~~ッ」
 まるで獣のような音を喉に響かせ、聖月は精を吐き出した。先程射精してからすぐのことに、身体も脳もついていかない。達しているのに、宗祐の唇は聖月の唇を離さないことにより快楽のうまい発散方法が分からなくなる。さらに敏感になってしまった気がする体は、宗祐の搾り取るような動きに耐えられるはずもない。
 精を出さずに絶頂感をもう一度味わった聖月は身体を痙攣させる。そしてやっと、宗祐の唇が離れた。
「あ…ぁ、…ぁ…っ」
 喉から出てくるのは、情けない自分の声だった。涎と涙でグチャグチャになった聖月の顔は虚ろで、まだ続く快感の波に酔いしれる。宗祐はそんな聖月の頬を撫でながら、恍惚な表情を浮かべた。
「ほら、どんなことをしても構わないんだろう? もっと、気持ちいいことだけしような?」
 そう興奮気味に言われて、やっとこの優しさは、彼のサディスティックな愛だと聖月は気づいた。

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