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しおりを挟む私はロザリー・へカート。
へカート伯爵家の次女よ。
四つ上のお姉様程ではないけれど、両親から愛されて育ったわ。
私のお姉様はこのへカート伯爵家の後を継ぐ事が決まっているから私以上の愛情を掛けられるのは当然の事よ。
優秀な姉に引け目を感じず羨ましく思っていなかったと言えば噓になる。
けれどそれなりに愛されて育った私は貴族の子女が入る学園に通う事になった。
凄く緊張してドキドキしたわ。
不安だったもののすぐに友達もできて楽しい学園生活を送っていたある日、一つの視線に気付いたの。
なんと、その視線の主はクラーク侯爵家の令息(次男)であるヴィンセント様。
金髪碧眼で、鼻筋の通った整った顔立ちに女子生徒達から人気があり、彼を狙っている子も沢山いるわ。
実は私も彼を狙っている内の一人なの。
だけど問題は彼の視線が向かう先。
信じられない事に、彼の視線は同じクラスのコルト子爵家の一人娘であるラフィアに注がれていると気付いたの。
何で?どうして?
あまりの口惜しさに唇を噛んだ。
だってラフィアって、印象の薄さからボンヤリしたイメージしか無い。
おまけに何か一つでも取り柄が有ればいいんだけどそれも無さそう。
おまけに子爵家のラフィアはヴィンセント様には不釣り合いよ!
顔も中身も至って普通。強いて言えば、大人しいって事ぐらい。
それに友人達とお喋りしているいる時も、いつも曖昧に微笑んでいるだけ。
なのにヴィンセント様に見詰められているなんて赦せない。
いいえ、きっと何かの間違いかもしれないわね。
で、いい事を思い付いたの。
ヴィンセント様の視線とラフィアの間に私が入ればヴィンセント様の目に止まる可能性が高くなるし、彼へのアピールにもなるかもしれないじゃない。
ただ、邪魔だと思われないか心配だけれど、学園に通いだしてから何人かの令息に声を掛けられた私だから大丈夫よね。
でも、その後間に私がいても邪魔そうにしている訳でも無さそう。
って言うか…え…?私の事を見てる?
だって、私が邪魔でラフィアが見えない筈なのにこっちを見てるし…。
そう思った私は友人達にヴィンセント様に告白しようと思っている事を言ったの。ラフィアへの牽制にもなるし。
それを聞いた友人達は揶揄ったりしてきたけど、応援してくれる雰囲気で心強かったわ。
ラフィアは…いつものように曖昧な笑みを浮かべていただけだったからどう思っているかまではわからなかった。
でも、次の日に登校したらヴィンセント様とラフィアが婚約した話で持ち切りで、私はショックを受けた。
降って湧いた婚約話に友人達も困惑していたわ。
そして、“どちらから持ち込まれた縁談だったか?”って事を気にしていた。
ラフィア側からに決まってるわ!
だって、昨日私が「彼に告白しようと思っている。」という話をしたばかりのタイミングよ。
そんなタイミングで、横から掻っ攫うみたいに婚約するなんて酷い!
そんな雰囲気の中、登校して来たラフィアに話があると言われて……。
婚約はヴィンセント様の家から申し込まれた為、爵位が下のラフィア側からは断り辛かったって事と私の気持ちを知っていたのにこんな事になってごめんなさいと謝罪された。
噓だと思った。
きっと腹の中では優越感に浸っているくせに。
それに本当だったとしても、私の気持ちを知っていたんだからそこは断りなさいよ!
そう言ってやりたかったけれど我慢したわ。
だって、いい事を思い付いたから。
精々今のうちに舞い上がってればいい。
ラフィアには“悪役令嬢”になって貰う事にしたの。
取り敢えず今は泣いてみる。
周りが心配して理由を聞いてきても俯いて泣いたままただ首を横に振ればいいだけ。
それだけで周囲は心配して慰めてくれる。
面白いぐらいに上手くいったわ。
邸に泣いて帰ったらお母様が心配して理由を聞いてきたから相談したの。
好きな人が子爵家令嬢と婚約した事、しかもその令嬢は私が好意を持っていると知った上で相手の侯爵令息と婚約したって…。
で、しくしく泣いていたらお母様ってばよほど腹が立ったのね。
お父様にその話をしていたもの。
そして話を聞いたお父様も怒っていたけど、「婚約が成立してしまったのだから諦めなさい。」と言われた。
ウチも爵位が下だから横槍を入れる事はできないから…と。
チッ!
まぁ両親が知ったお陰で、暫く体調不良で学園を休む事ができて嬉しかったけどヴィンセント様を諦めるのは嫌!
で、ラフィアと話した後、友人達に「ラフィアも謝罪してくれたしもういいの…っ…。」そう言ってハンカチで涙を拭けば「かわいそう…。」、「元気出して。」、「ラフィアって酷い子ね。」と、私を慰めてくれたり、ラフィアに怒ったりしてくれる。
ふふふ……。今のところ考えていた通りにいってるわ。
後はヴィンセント様を靡かせれば……。
そう思ったけど、これがなかなか……。
目で訴えても気付かない。
腕に縋って胸を押し付けても「近すぎる。」と離れる。
仕方なく次の手を実行する事にしたわ。
次の手…それは…。
「あ、あの…ヴィンセント様。…相談にのって欲しい事が…。」
胸の前で手を組み、上目遣いで目をうるうるさせて言ったら、一瞬眉間に皺を寄せた後、さも迷惑そうに大きく息を吐き出して
「相談と言われても…。友人達に相談した方が…。」
なんて言うから焦った。
「あ、その…ラ、ラフィアの…ラフィアの事なんです!」
流石に婚約者の名前が出たからか、上手く食い付いてきた。
で、ラフィアの目の前で二人きりになって…。
なのに、何でそんなに間を開けて座るのよ!
ってぐらい一定の距離を保つから作戦通りにいかない。
如何したものか悩んでいる間に時間ばかりが過ぎていく。
ラフィアを悪役令嬢に仕立てる筈が思うようにいかない。
焦る私の横で無表情なヴィンセント様。
せめて私に靡いてくれたら…。
次の手が浮かばないまま歯痒い思いをしていたけど、初等科が終わるまで一月を切った頃に状況が変わりだした。
ヴィンセント様と二人で居る事が増え、私に笑顔を見せてくれるようになり、やっと私の魅力に気付いてくれたと嬉しくなった。
そんな私達に学園内の噂も変化してきたみたいで、噂に悪意が混ざりだした。
なんてツイてるの♪
これでラフィアを悪役令嬢に仕立て上げる事ができると思い、降って湧いたような好機を逃すまいと意気込んでいた。
なのに中等科になって最初の日、ラフィアの姿は何処にも見当たらなかった。
そしてそんな日が続いたある日、ヴィンセント様とラフィアの婚約が解消ではなく、白紙撤回されたと聞いた。
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*いつもお読みいただきありがとうございます。
お気に入り、しおり、エール等も本当にありがとうございます!
応援ありがとうございます!
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