上 下
22 / 173
# 春

新生活⑧

しおりを挟む
「じゃあ二人共、よろしくね」

 そこからの今日の授業内容は、あまり頭に入らなかった。
 まだ序盤だから、リフレクソロジストとしての心得とかマナーとかが大半で、話半分で聞いてしまっていた。
 戸部君も課題の件で、チームに迷惑をかけると思っているのか、ぼんやりとした目でテキストを見つめている。

 久しぶりの一日を通しての授業で、心を体も疲労困憊。
 元気のないまま、駅まで歩いていると、後ろから入来ちゃんが追いかけて来てくれた。

「ナオちゃーん!」

「入来ちゃん」

 ここまで走って追いかけてくれたのか、軽く息切れをしている。

「ナオちゃん、今日はごめんね。勝手に足貸すこと決めちゃって。私が毎回、戸部君に足を貸すから」

 熱心な目で訴えかける入来ちゃんを見ていると、如何に自分が軽薄なのかを思い知った。
 自分のことばかり考えて、面倒くさいって理由だけで断ろうなんて、そんな醜い性格だったのか私は。
 入来ちゃんはチームのことを考えて、私は自分のことだけを考えて。
 明白な人間力の差に、泣きそうになってしまった。

「ナオちゃん、大丈夫?」

 曇った顔が、入来ちゃんにも伝わってしまう。
 この失敗は、自らの行動でしか取り返せない。
 飛び出そうとする涙をグッと堪えて、今日一番の笑顔を作り出す。

「全然大丈夫! 何言ってるの、私ももちろん協力するよ。みんなの施術を見た方が勉強になるしね」
しおりを挟む

処理中です...