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# 春

新生活⑦

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「先生!」

 戸部君がいつものようにハキハキした声と、真っ直ぐ伸びきった手で、先生に挙手をする。

「俺、そんな親戚も友人もいません。親は高校生の時に離婚しました。今は一人暮らしをしています。だから、その課題は俺にはキツイ気がします」

 クラスの空気を止めるような爆弾発言。
 そんなプライベートなことを、みんなの前で言えるなんて。
 戸部君に対して同情するのは、本日二回目だ。

「あら、そうですか。わかりました、ではチームの皆さん、戸部君のために足を貸してあげてください」

 なるほど、チームって言うのは、何ともわかりやすいシステムだと思う。
 さすがに自分が貸すとなると、絶対面倒くさいけど、戸部君なら……あ?
 戸部君、私とチームだった。
 ということは……私も足を貸さなきゃいけないってこと? 
 まさか、そんな。

「ですので、入来さん、早野さん。よろしくお願いします」

「ちょ、ちょっと!」

 どうにかして、その役目を免れたい。
 戸部君には申し訳ないけど、私の自由時間が奪われるなんて、信じられなかった。

「わかりました、私たちが協力しますね」

 バイトがあるとか、家の用事が忙しいとかで何とかごまかそうとしたところ、入来ちゃんからあっさり受け入れの声が。
 ここでそれを否定したら、クラス全体のひんしゅくを買う。
 渋々ながらも、入来ちゃんに合わせて首を縦に振った。
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