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# 春

新生活⑨

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「良かった。ナオちゃんと同じチームで助かったよ」
 
 それから駅に着くまでの数分間、私たちはチームのことを話し合った。
 苦手な課題があったら助け合おうとか、気づいたことはどんどん言い合おうとか。
 有意義な時間は風のように過ぎ、いつの間にか駅に到着していた。

「もう着いちゃった。ナオちゃん、乗り口あっちだよね?」

「そうそう、入来ちゃんこっちか」

「そうだよ。じゃあまた明日だね」

「うん! バイバイ」

 長い一日が終わりを迎えようとしている。
 電車の中でうっかりと爆睡してしまい、危うく寝過ごしてしまいそうになった。
 家へ着くと、料理中の母が今日の感想を聞いてくる。

「どうだったの、初授業は」

「別に普通だよ。あ、今度足貸してほしい」

「足を貸すって? どういうことさ」

「施術の様子をレポートにまとめる課題があるのよ。簡単に言うと、お母さんの足を施術させてほしい」

「そういうことね! 無料で施術してくれるなんて最高じゃない」

 それは予想通りの返答だった。
 私が施術する人は確保できたし、あとは足を貸すだけだ。
 そういえば、もしかしたら戸部君に嫌な思いをさせちゃったかもしれない。
 今度、しっかりと謝らないと。
 
 お風呂に浸かりながら、戸部君に対する懺悔の気持ちを思い浮かべていた。
 反省するように、顔をお湯につける。
 少し熱いお湯が、曲がった根性に喝を入れているようだ。


 華やかにスタートするはずだった新生活は、どうしようもない自己嫌悪を抱えたままの幕開けとなった。
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