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「エディ」
姉が口を開いた。
静かに呼び掛けるその声には、まだ理性があった。
「私をきっかけにしてノーラを選ぶなら、もっと視野を広げたら?」
「は?」
何を言い出すのか。
私は開いた口が塞がらず、暫く呆然と姉を見つめた。
どういう負け惜しみ?
「あなたの怒りは尤もだ」
「怒って言っているわけじゃないのよ」
「僕が全面的に悪い!それはわかっている」
「落ち着いて」
「その上でお願いしているのです。あなたに許して欲しい。あなたの許しがなければ、僕たちの結婚生活にはずっとしこりが残ってしまう。お願いだ。お願いします、イーリス。僕に、愛する人生を許してください」
エディの真剣さは私に心地よい感動を返してくれた。
そうだ。
余計な口を挟まないでほしい。
姉は捨てられたのだ。
捨てられた女の分際で、どうして上から物申せるのだろうか。
まったく高慢で嫌になる。
世界はお前のためにあるわけじゃないと耳元で叫んでやりたい。
「ノーラ」
エディが私を呼んだ。
「はい」
私は可愛い返事をしてから立ち上がり、席を離れ、エディの傍に立った。
そして手を繋いだ!
「本当に申し訳ない。心からの謝罪をしたかった。イーリス。僕たちはあなたの幸せを祈りたい。だからどうか、僕たちを恨まず、僕を、解放してほしい」
私への愛を証明するために頭を下げるエディの傍で、私は勝利に酔い痴れ姉を眺めた。
姉はまだ無言でエディを凝視している。
その表情がどれだけ不気味かわかっていないのは世界で姉一人だけだ。
暫く沈黙が続いた。
沈黙を破ったのはノルドマン伯爵夫人ティルダ、私の義母になる人だった。
「まあ、いいじゃない。ノーラの方が可愛いし、エディとも気が合うんだから」
義母からの最後通告!
これにはさすがの姉も一瞬だけ顔色を変えた。
「難しく考えないで?イーリス。結婚が駄目になったといって一生会えないわけではないのよ?だけどノルドマン伯爵家に相応しいのはやっぱりノーラの方なのよ。若い頃って勘違いもするでしょう?エディもそう。一生の相手だもの、過ちに気づいたなら正しい道を選ばなくちゃ。結婚ってそれはそれは大事なことなんだから」
ティルダは私の味方。
義母となる伯爵夫人からのお墨付きを得ているのは、美しい私のほうだった。
やっと現実に気づいた姉がうっすらと微笑んだのを見て、私はぞっとした。
そもそも婚約者から捨てられる立場でありながら、悲しむ素振り一つ見せない姉は異常だ。
愛情深く心優しいエディが姉のような将来確定枯木婆と結婚してしまったら、どれだけ傷ついただろう。どれだけ不幸になっただろう。
姉は誰かに愛を注ぐなど到底できない人間だ。
神を敬い正しく生きろとしか言わない冷たい人間だ。
愛の精霊が悪者を倒し、私とエディを導いてくれた。
これは愛の勝利。
簡単な話。
姉が口を開いた。
静かに呼び掛けるその声には、まだ理性があった。
「私をきっかけにしてノーラを選ぶなら、もっと視野を広げたら?」
「は?」
何を言い出すのか。
私は開いた口が塞がらず、暫く呆然と姉を見つめた。
どういう負け惜しみ?
「あなたの怒りは尤もだ」
「怒って言っているわけじゃないのよ」
「僕が全面的に悪い!それはわかっている」
「落ち着いて」
「その上でお願いしているのです。あなたに許して欲しい。あなたの許しがなければ、僕たちの結婚生活にはずっとしこりが残ってしまう。お願いだ。お願いします、イーリス。僕に、愛する人生を許してください」
エディの真剣さは私に心地よい感動を返してくれた。
そうだ。
余計な口を挟まないでほしい。
姉は捨てられたのだ。
捨てられた女の分際で、どうして上から物申せるのだろうか。
まったく高慢で嫌になる。
世界はお前のためにあるわけじゃないと耳元で叫んでやりたい。
「ノーラ」
エディが私を呼んだ。
「はい」
私は可愛い返事をしてから立ち上がり、席を離れ、エディの傍に立った。
そして手を繋いだ!
「本当に申し訳ない。心からの謝罪をしたかった。イーリス。僕たちはあなたの幸せを祈りたい。だからどうか、僕たちを恨まず、僕を、解放してほしい」
私への愛を証明するために頭を下げるエディの傍で、私は勝利に酔い痴れ姉を眺めた。
姉はまだ無言でエディを凝視している。
その表情がどれだけ不気味かわかっていないのは世界で姉一人だけだ。
暫く沈黙が続いた。
沈黙を破ったのはノルドマン伯爵夫人ティルダ、私の義母になる人だった。
「まあ、いいじゃない。ノーラの方が可愛いし、エディとも気が合うんだから」
義母からの最後通告!
これにはさすがの姉も一瞬だけ顔色を変えた。
「難しく考えないで?イーリス。結婚が駄目になったといって一生会えないわけではないのよ?だけどノルドマン伯爵家に相応しいのはやっぱりノーラの方なのよ。若い頃って勘違いもするでしょう?エディもそう。一生の相手だもの、過ちに気づいたなら正しい道を選ばなくちゃ。結婚ってそれはそれは大事なことなんだから」
ティルダは私の味方。
義母となる伯爵夫人からのお墨付きを得ているのは、美しい私のほうだった。
やっと現実に気づいた姉がうっすらと微笑んだのを見て、私はぞっとした。
そもそも婚約者から捨てられる立場でありながら、悲しむ素振り一つ見せない姉は異常だ。
愛情深く心優しいエディが姉のような将来確定枯木婆と結婚してしまったら、どれだけ傷ついただろう。どれだけ不幸になっただろう。
姉は誰かに愛を注ぐなど到底できない人間だ。
神を敬い正しく生きろとしか言わない冷たい人間だ。
愛の精霊が悪者を倒し、私とエディを導いてくれた。
これは愛の勝利。
簡単な話。
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