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次に口を開いたのは私の父だった。

「イーリス。残念に思う気持ちはわかるが、お前の妹に心が傾いている夫との結婚生活は決して充実したものとは言えないだろう。認めてやったらどうだ?」
「……」

父の静かな呼び掛けに、姉はうっすらと微笑んだまま僅かに目を瞠った。

うぅぅん、もしかしてこれが姉の動揺してる顔なのかしら?
今って、いちばん喜ぶべきところ?

今一つ判断しかねる姉の表情をまじまじと凝視していたら、ふいにエディに抱きしめられた。

「!」

甘いときめきが体中を駆ける。

「愛しているよ、ノーラ。僕は君だけしか愛せない」
「ほら!これで決まり!なんて美しい愛の告白なの!?二人はお互いに出会うために生まれたのよ!そうでしょう!?」

ティルダが大喜びで加勢してくれて、私はエディの胸に顔を埋めながら満面の笑みを浮かべずにはいられなかった。

姉に勝ち目はない。
そしてついに母が口を開いた。

「確かに、イーリスでは性格が合わないかもしれませんわね」
「……」

私は見た。
エディの腕と脇の隙間から、姉が、下唇を噛んだ瞬間を。

やった!

「ではよろしくってね、ラーゲルベック伯爵?花嫁を姉から妹に取り替えたなんて言ったら下品だけれど、私たちが親戚になることには変わりありませんもの、今まで通り親しくお付き合いいたしましょう?」
「これは伯爵家同士の婚姻です」
「まあ、よかった!理解がある御方だわ!イーリスみたいに口煩かったらどうしようかと心配してましたの」

ティルダが手を叩いて喜んでから妖精伯爵と乾杯し笑顔を振りまく。
主役の私を差し置いて何を……と思いはするものの、彼女の後押しが効果抜群だったので、素直に感謝しておこう。

「ほら!何をぼさっとしているの?ノーラの椅子をエディの傍に持ってきなさい。いいのよ、イーリスは恐がらないで。ラーゲルベック伯爵もお認めになったんだもの。叱られないから、ほら、早く早く!」

我が家の使用人に命令するのは少し出しゃばりすぎだと思ったのは私だけではなく、父が手振りで席替えを止める。

「今日は妻の誕生日を祝う為の、身内だけの晩餐会。妻の目から見た席順のままで」
「まあ!そうでしたわね!私ったら、ごめんなさい。息子が可愛らしい奥さんを貰うのが嬉しくって。改めておめでとうございます。お母様のおめでたい日にいいご報告ができてよかったわね、ノーラ」
「はい、お義母様」

若干面白くない気持ちを巧みに隠し、私は義母となるティルダに行儀よく返事する。
少し気になったのは、さっきから父が目を合わせてくれないことだ。父は誰とも目を合わせず、母も目を伏せ料理にも手をつけなくなっている。

娘二人に対し、親として複雑な気持ちなのかもしれない。

片方が傷物になるとしても、美しいもう片方が最高に幸せになるのだから、いい加減私に集中してほしい。

「エディ」

姉がまたエディを呼んだ。

捨てられた女の分際で、どの口で。
往生際が悪いとはこの事だ。
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