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エディとその両親、つまりノルドマン伯爵家を招いての夕食会は、私の母の誕生日を祝うという建前で綿密に計画されていた。

物静かを通り越して始終無言で微笑んでいるノルドマン伯爵はもうだいぶ高齢で、妻ティルダとはかなりの年の差だ。
老いてから娶った若い妻を溺愛したのは二人の仲の良さから充分に伺え、一人息子であるエディもまた両親の愛をたっぷりと注がれて育ったのは疑うまでもない。

エディの優しさは、愛を知っているから。
エディの微笑みは私を包み、癒してくれる。

私を救い出してくれる。

何から?
もちろん、報われない屈辱から。

私は幸せな花嫁になるのだ。

「おめでとうございます」
「どうもありがとう」

などと、穏やかな挨拶から晩餐は始まった。
着飾った内に入らない地味なドレスを纏った姉も、尤もそうな表情で席に着いている。

「お加減はどうですの?食欲がないって仰っていたでしょう?私がさしあげたお茶はお飲みになった?」

明るい性格のティルダが食の細くなった母を心配してハーブティーをすすめてくれたらしい。私はエディとの密会に忙しく親たちの交流はよく知らないが、仲良くやっているようだ。

「おかげさまで」

母が微笑んだ。

「そう!よかったわ!!」

ティルダは我が事のように喜び頬を染めた。
母と同世代なのに若々しい。こんな綺麗な人がいるのかと驚いたものだ。

というより、こんな綺麗で明るい母親がいるエディがどうして私の姉などに求婚したのか、驚きを隠せない。

そして、家族ぐるみで楽しい晩餐が進む中ノルドマン伯爵は妖精か守護霊のように無言で微笑み続けていた。
私としてはこんな半分天国に足を突っ込んでいるお爺さんが仔羊のソテーを完食したことにも驚きを隠せなかった。

なんというか、生きているのが疑わしい。

「実は、今日は大切なお話があるのです」

エディがデザートのシャーベットを見つめながら口火を切った。

「僕は……本当はノーラを愛しているんです。申し訳ない!」

エディが勢いよく立ち上がり、その勢いのまま頭を下げた。

「イーリス、あなたは素晴らしい女性だ。あなたを敬愛している。その気持ちに嘘はない。でも、あなたは恋人ではなかった。僕には、共に笑い合い、共に歩んでいく妻が必要なんだ。許してください」

感動した。
エディが私を選んだ事実が、今、エディ本人の口から発表されている。

私は胸をおさえ、うっとりとエディを見つめていた。
もちろん視界には真顔で口を噤む私の両親と、頬を薔薇色に染めて目を輝かせるティルダと、半分天国の住人となっている妖精ノルドマン伯爵の微笑みが映っている。

そして、無表情の姉イーリスも。

あらやだお姉様ったら平気なふりして、いつものお澄まし顔で婚約者を見つめちゃって。
その心は嵐のように乱れているくせに。

「ふふっ。ふ……、…………」

……動揺、しているはずよね?
凄い無表情。石像なの?

それとも、エディ本人の口から別れを告げられているショックでついに静かに死んだのかしら。
だとしても、妖精さんより可愛くないわ。

お爺さんより可愛くないって、お姉様、なんて無様なの。

さすが愛を失うだけあるわ!
私の勝ちよ!ざまあみろ!!
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