【完結】魔法使いも夢を見る

月城砂雪

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終章

4-15

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 リオはアルトの腕の中で、何度も快楽の波にさらわれた。最初に丁寧に拓かれた身体は、激しい求愛を幾度受け止めても、なお柔らかく濡れて受け入れようとする。
 途中からは、起きているのか眠っているのか、夢の中なのか現実なのかの区別さえも曖昧で。ふと浮上した意識の片隅に差し込んだ光に、重い身体を何とかして起こそうとすれば、身体に絡みついた白い腕にしかと引き留められた。

「もう、お目覚めですか?」

 しっとりとかすれたその声が、妙に色っぽい。
 夜の間、何度も愛を囁いた、その美しい声に触れられて。ぞわぞわと官能に粟立つ肌の感覚に耐えてから、リオはまだ夢を見ているような、寝惚けたような声で問いかけた。

「アルト、くん……今、もう。朝?」
「ふふ。時間のことなど、今はお気になさらずに」

 アルトは、つかまえた手に白い頬をすり寄せ、リオの指先に唇を落とす。その愛しげな仕草に頬を赤らめたリオを抱き寄せたアルトは次に、その唇に口付けた。
 当たり前のように口の中に入り込んでくる舌に舌をくすぐられると、すぐに呼吸を忘れてしまうリオが切なげに胸を喘がせる。
 様々な体液で散々にぐちゃぐちゃになった身体もシーツも、彼が何とかしてくれたのだろうか。肌に触れる感触はさらさらと気持ちがよかったが、まだ一糸纏わぬ全裸でいることに気付いたリオは、慌てながらアルトを制止した。

「ま、待って……人が、来ちゃうから」

 朝が来れば、おはようございます! と。花を活けた花瓶を持ったオリガや、洗面のための湯を張った桶を運ぶエルドラ、今日の分の洋服を抱えたキアラなど、いつもの面々が来てしまうのだ。
 こんな破廉恥な光景を見られては、一生彼や彼女の顔を見返せなくなってしまうリオは真っ赤になったが、アルトは動じることなくあえかな笑い声を立てた。

「本当に、大丈夫ですよ。……アスタリスの方々には、お話しを通した上でここにいるので」
「えっ」
「私も、命知らずという訳ではありませんから。……正式な婚約の日取りについては、また改めて、使者を立てますが」

 そういうことです、と。告げられて、安心したような。皆にこの状況を知られている…!? と、愕然としたような。そんな複雑な感情に狼狽する。
 これで、昨夜はお疲れ様でした、などと。そんな風に労わられた日には、やっぱり彼や彼女と目が合わせられなくなりそうなリオはぼっと頬を赤くしたが、まだ眠そうなアルトが拘束を解いてくれる気はしなかったので、諦めて彼の腕の中でもう一度丸くなった。
 ぎゅうぎゅうとリオを抱き締めてくるアルトの腕には、思いのほか強い力が込められていて。リオは多少の酸欠を覚えながら、小さな声で照れ笑った。

「アルトくん、少し苦しいよ。……そんなに、抱き心地が良い?」

 冗談のつもりで口にしたその問いかけには、はい、と。声にならない、半ば息を吐き出しただけのような返事がある。
 思いがけない返事に驚いたリオが真っ赤になって固まっていると、やや間を置いて、甘い声がとろりと夢見心地に囁いた。

「あなたが傍にいると、何故でしょう。よく眠れるのです」

 リオの頬を滑った温かな指は優しく、仄かに香る汗の匂いさえもが胸を疼かせる。
 自分の五感の全てが、嵐のようだった昨夜を思い出そうと過敏になっていることを察して、リオはドキドキと騒がしい胸の音に彼の言葉が掻き消されてしまわないよう、懸命に耳を澄ませた。

「忌まわしい過去も、憎しみの記憶も。全てが優しい夢に変わる。あなたに出会ったあの夜から……あなたばかりを、夢に見る」

 そんな告白の直後、リオがまだ何と応じればいいのかの答えも出せないでいる内に、聞こえてきた品よく安らかな寝息が耳に触れる。
 こんなにドキドキさせておいて、もし寝言だったりしたら当分拗ねて見せようと思いつつ。そんな、全く本気ではない怒りがちっとも持続しなかったリオは、ふふ、と。声には出さずに微笑んだ。

「僕も……君の、夢を見るよ」

 誰かを愛して、愛されて。その人の一番大切な存在になって、その人と一緒に生きていく。かつて、美しい恋物語を読み聞かせてもらいながら。胸に抱いたささやかな夢が、今は手を伸ばせば触れられる場所にあった。
 深く愛し合った記憶を刻まれた身体は、まだ気怠く熱っぽい。みんなに見られたらやっぱり恥ずかしいなあ、とは思いつつ。リオは朝の光に背を向けて、アルトの胸に頬を付けて目を閉じた。
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