いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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二十一話 格が違う三姉妹

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エトワール視点

 バーキラ王国の第三王女クローディア様とバーティア侯爵家の次女メルティアラ様という王族と高位貴族の子女が入部するという想定外の事態があった次の日、まだ学園の生徒達には知られていないからか、何時もと変わらぬ朝を迎えた。

 まあ、春香とフローラの武術研究部に、バスクという伯爵家の嫡男が入部した時点で、嫌な予感はしたんだけど、これは想定外としか言えないわね。




 そして午後になり、部室に他のメンバーが集まりだす。

 私と春香、フローラは、午前中に一コマ授業を受けた後、何時ものように部室で好き好きに過ごしていた。これはもう仕方ない。だって、遂に三学年分の一般教養教科と、魔法関連の大部分の授業は試験を受けて免除になっちゃったから。

 これ、私達学園に通う必要ってあるのかしら。友達を作るって事なら意味はあるんでしょうけどね。

「おっ、今日はエトワールもこっちなのか?」
「あれっ、珍しいね」

 一番乗りはユークスだった。その直ぐ後にルディが続く。二人とも親が商会を営むという共通点があるからか仲が良いのよね。

「あれ、エトワールが居る」

 そこにサティが元気よく駆け込んで来た。

 そして動きやすい服装に身を包んだシャルルとミュゼが合流する。

「私、体を動かすの苦手なんだけどな」
「私もだよシャルルちゃん」

 そしてバスクが現れた。彼は何を考えているのか分からないけど、武術研究部での時間を増やす為に、かなり勉強を頑張って試験を受け、幾つかの授業の単位を取ったらしい。

「あれっ、薬学研究部がいるな」
「まだ時間はあるけど、夏休みの後に野外演習があるでしょう。シャルルとミュゼも訓練は必要だから」
「ああ、あったなそんなのが。確か今年は遠出するって聞いたな」

 そう。今回武術研究部と薬学研究部が集まっているのは、夏休みの後に行われる野外演習の為だ。

 野外で魔物との実戦を経験させるのが目的で、これは貴族も平民も関係ない。ただ、貴族の子息子女のほとんどは、護衛に護られながらのパワーレベリングをしている。勿論、子供でも勝てる魔物だけどね。

 私や春香、フローラみたいに、魔大陸のダンジョンで鍛えられた子供はいないでしょうね。


 そこに訓練用の装備に身を包んだクローディア様とメルティアラ様が現れた。

「私達が最後みたいですね。遅れて申し訳ありません」
「申し訳ありません。着替えに少し手間取ってしまいました」
「ううん。みんな今来たばかりだから」
「「「ク、クローディア姫様!?」」」
「!!」

 サティ、ユークス、ルディがクローディア様の姿を見て固まり、バスクも絶句している。そう言えば、春香とフローラには言ったけど、まだ知らなかったわね。

「姫様っ、マジですか!」
「バスク。言葉が乱れてますよ」

 バスクも姫様が薬学研究部に入部したのを知らなかったのね。メルティアラ様に注意されている。でも、バスクって武闘派だからなんでしょうね。ガラハットおじさんに通じるものがあるわね。良い意味で貴族っぽくない。

「自己紹介しておきますね。先日、薬学研究部に入部致しました。クローディア・バーキラと申します。名から分かるように、王族ではありますが、学園では身分を問わず学ぶのが校則です。どうか気軽にクローディアとお呼びください」
「同じくメルティアラ・フォン・バーティアです。バーティア侯爵家の次女ですわ。姫様同様気軽にメルティとお呼びください」
「あら、なら私はディアでいいですわ」
「イヤイヤイヤ、姫様とメルティアラ嬢。それは無茶ですよ!」

 クローディア様とメルティアラ様が、初対面の武術研究部組みに自己紹介する。愛称で呼ぶように言ったのを、バスクが突っ込んでいるけど、流石の私もバスクが言う事が正しいと思う。ほら、ユークスとルディが石になってるよ。サティだって男爵家の四女。本人の感覚的には平民と近いみたいだもの。バスクに慣れ始めたところにこれはなかったわね。

「まぁ、その辺は今更言っても始まらないから、一応今日合同で訓練する理由をもう一度説明しておくわね」
「エトワールお姉ちゃん。話をぶった斬り過ぎだと思うよ」

 春香が何か言ってるけど、仕方ないじゃない。私だって王族となんか好んでお近付きになりたいと思ってないんだから。強引に話を進めないと始まらないもの。

 みんなに合同訓練をする事を説明して、薬学研究部にも訓練が必要な理由を説明する。

「夏休み後の野外演習は兎も角、薬学研究部でも体を鍛える事は必要なのよ」
「薬草の採取に必要だからだよね」
「そう。流石シャルルね。薬師を目指すだけあるわ」
「ううん。そんな事ないよ。私も安全な場所にある薬草しか採取した事ないから」

 全ての薬師がそうじゃないけど、自分で採取に行かない人も多いってパパが言ってた。

 冒険者ギルドに依頼を出したり、薬師ギルドから購入したり、ほとんどそれで賄う人が多いらしい。特に王都みたいな都会はその傾向が強いって。

 だけど、採取ってそう簡単なものじゃないのは、私達姉妹だって知っている。聖域でパパとドリュアスお姉ちゃんに散々仕込まれたからね。

 薬草の種類によっては、採取の仕方が変わるし、素人がただちぎった薬草は品質が落ちる。

 だから私だけじゃなく、春香や薬師なんて向いていないフローラも、採取スキルは鍛えてある。

「普通、薬師や錬金術師は、それ程危険な場所に採取なんて行かないと思うけど、何があるか分からないから、自分の身を守れる術は必要なの」
「薬草って、だいたい魔素の濃い場所に生えるもんね」
「そうそう。そんな場所って、だいたい魔物も多いもんね」

 春香とフローラが言うように、良質な薬草は魔素が濃い場所に生える。そんな場所は、魔物が集まる魔境の場合が多いのよね。

「それで丁度夏休み終わりに野外演習があるでしょう。魔物の相手もするだろうし、この際私達の部も定期的に訓練をする事にしたの。じゃあ、始めましょうか」

 みんなそれぞれストレッチを始める。

 姫様とメルティさんはストレッチを知らなかったみたいだけど、バスクに教えてもらってみよう見真似で始めた。

 この学園の野外演習。薬学研究部のシャルルやミュゼにも重要なイベントだったりする。

 ミュゼはもともと薬師と言うより、私から魔法を教わるのが目的だけど、薬師志望のシャルルにこそパワーレベリングは必要なの。

 錬金術師ほど魔力は消費しないけど、薬師も魔力を消費して薬類を作る場面が多々あるもの。だからシャルルにはミュゼと一緒に魔力操作の訓練もしてもらってるんだから。


 春香やフローラとは王都の屋敷で何時も模擬戦はしているけど、違う人とするのは久しぶりね。パパみたいに、上手く教えれればいいんだけどな。






 エトワールが、ミュゼやシャルルに杖術の基本を教えている。

 春香は、サティとバスク、クローディア、メルティアラへ簡単な指導をすると、一人一人打ち込みの稽古相手を務め始める。

 フローラは感覚派なので、人に教えるのが苦手だ。だからバスクに挑まれ、時折り手加減を間違って、エトワールの回復魔法にお世話になっている。

「バスク。貴方でも手も足も出ないのね」
「ハァ、ハァ、姫様、それは無茶ってやつですよ。俺とあいつらじゃ大人と赤子以上の差があるんですから」

 クローディアは王族ではあるが、女子だった為、強さの基準が分からない。近衛騎士団は、聖域で合同訓練をしている事くらいは知っているが、近衛騎士団の強さがどの程度なのかは知らない。

 ただ、身近な存在であるバスクが、学園の一年生の中でも上位の強さだと思っていた。そのバスクが、女の子の春香やフローラに一本どころか、手加減されていながら掠る事も出来ていない事に驚いていた。

「俺も近衛騎士団に入れれば、聖域の合同訓練に連れて行って貰えて強くなれると思うんですけどね。流石に今は一つでも技術を学ぶのに集中するので精一杯ですよ」
「そんなに凄いのね。エトワールさん達……」

 クローディアの視線の先には、みんなの指導がひと段落したので、三姉妹入り乱れての模擬戦が始まっていた。

 一対一での模擬戦は理解できるが、三人が一緒に戦う光景は、クローディアやメルティアラの理解の範疇を超えていた。

 相手を変え立ち位置を変え、激しく打ち合うエトワール達。

 その技術を少しでも学ぼうと、バスクやサティだけでなく、全員が一つも見逃すまいと注視する。



 フローラは、短剣を二振り持ち二刀流に体術を合わせ、獣人族の身体能力を活かした戦い方。

 オールラウンダーの春香は、今日は槍を使って安定した戦闘を見せている。

 エトワールは、杖術で二人に対抗する。春香やフローラ以外のエトワールを知らない者からすると、この光景が一番の驚きかもしれない。

 エルフであり、後衛の魔法使いタイプだと思っていたエトワールが、激しい近接戦闘を繰り広げているのだ。

 想像していなかったエトワールの強さを見て驚くクローディアとメルティアラに、バスクは何度か相手をして貰った時の事を思い出しボヤく。

「強いんだよなぁ。俺エトワールにもコテンパンにやられたから」
「……魔法使いって、あんなに戦えるのね」
「メルティ。エトワールさんを基準にしてはダメだと思いますよ」

 エトワールの強さに、クローディアは魔法使いでも近接戦闘があれだけ出来なければダメなのかと呆然とするが、メルティアラはエトワールはイレギュラーだろうと言う。

「いえ姫様。今の近衛魔法師団は、ある程度近接戦闘が出来ますよ」
「そうなのですか?」
「はい。この十年くらいの話ですけど、魔力切れで役立たずになる魔法師は必要ないって事で、今はみんなそこそこ戦えるらしいです」

 そこにバスクの訂正が入る。ある程度の兵力を保有する貴族派の魔法師団では、いまだにクローディアのイメージ通りの固定砲台な魔法使いだが、国王派や近衛魔法師団では違うと言う。その説明を聞き、確かにその通りではあるが、自分達にも出来るのだろうかと不安になる。

「心配しなくても姫様やメルティアラ嬢は、逃げれる体力と、最低限の護身の術を身に付ければいいんですよ。アイツらは別格ですから」
「あらバスク。私はディアと呼んでくださいね」
「ええ。私はメルティですからね」
「えっ、ちょっと、流石にそれは……勘弁してください」

 格が違うのは一目瞭然で異論はないが、それをバスクから言われるのも癪に障ったクローディアが、せめてもの腹いせに姫様呼びではなく、ディアと呼ぶよう言うと、メルティアラもメルティと呼ぶようにと続く。

 困るバスクを見て少し気分良くなったクローディアは、再びエトワール達の激しくも見事な模擬戦を観察する。

 正確には、速過ぎてクローディアやメルティアラの目では追い切れないのだが、それでも得るものが多い。

(無理でしょうけど、エトワールさんを私の側近に頂けないかしら)

 クローディアは、変幻自在に杖を操るエトワールに魅せられていた。



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