いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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二十二話 郊外演習の準備

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エトワール視点

 クローディア様やメルティアラ様……いえ、ディアさんメルティさんって呼ぶ約束だったわね。

 とはいえ、実際にはメルティさんは兎も角、クローディア姫は「姫様」呼びが定着しそう。仕方ないわよね。男爵家のサティだって、伯爵家や侯爵家なんて高位貴族と関わる事なんてないらしいもの。まあ、それもどうかと思うけどね。

 夏休み明けの野外演習に向けて、私達薬学研究部でも、ポーションの研究に加えて、魔法と武術の訓練を始めて少し経つ。

 魔法に関しては、自分の持つ属性の魔法球を浮かべて、自在に操り魔力操作スキルの訓練と、武術研究部との合同で武術訓練になる。

 姫様やメルティさんは、流石に高位貴族なだけあって、幼い頃から家庭教師に教わっているのだろう。魔法に関してはある程度のレベルにある。

 まあ、パパやママみたいに、魔力感知スキルや魔力操作スキルを重視する教え方じゃないみたいで、簡単な魔法すら詠唱無しでは発動できないのが問題と言えば問題だけどね。

「ああ!? また消えてしまいましたわ!」
「むっ、こ、これは、難しいですね。姫様」
「あ、あの、最初は大きさを固定して同じ位置に浮かべた方がいいと思います」
「放出する魔力を一定にする事がコツみたいです」
「ありがとうございます。ミュゼさん。シャルルさん」

 私の少し離れた場所では、姫様とメルティさん。ミュゼとシャルルが魔法球を浮かべて、魔力操作スキルと魔力感知スキルの訓練中だ。

 この魔法球の訓練は、魔力感知と魔力操作を同時に鍛えられる優れものの訓練だって、ママに教えてもらった。

 うちでは、パパやレーヴァさんは別にして、日頃から訓練してたりする。

 パパとレーヴァさんが別なのは、パパ達は錬金術師などの物作りの時に、もの凄く繊細な魔力操作や魔力感知を日常的に行っているから。


 勿論、私や春香、フローラも魔力操作と感知の訓練をしているわ。

 ただ、少し離れた場所でね。

「……やっぱり、エトワールさんや春香さんは格が違いますわね」
「姫様。私達、魔法が不得手と言われている獣人族のフローラさんよりずっと下手ですよ」
「うっ、言わないで。落ち込むから」

 そう。私や春香はその身の周りに、十個以上の魔法球を浮かべ、大きさを変えたり不規則に動かしたりと、自由自在に操っているから、この訓練初心者が自信を無くすかもって、少し離れた場所でしてたの。

 フローラも、身体強化以外の魔法は得意じゃないけど、それでも四つの魔法球を浮かべ訓練しているものね。

「姫様、メルティ嬢。諦めも肝心だぜ」
「バスク。貴方、一番下手っぴが言う事じゃないわよ」
「クソッ、ユークスとルディにも負けてるなんて」
「ハハッ、僕とルディは少しだけエトワールさん達から教わるのが早かったからだよ」

 バスク君が、姫様とメルティさんに見当外れのアドバイスをして、逆に責められている。そこをユークス君が慰める変な光景が見られる。



 ユークスとルディも魔力操作や魔力感知はまだまだだけど、私達が最初に集中して教えたので、バスク君よりは少しマシだ。

 バスク君は、早い段階で剣の方にのめり込んだらしい。身体強化するなら魔力操作は役立つんだけどな。



 武術の方は、メルティさんが結局昔から訓練している細剣を、姫様は杖術に決めたみたい。姫様に関しては、今まで魔法は兎も角、武術は護身術レベルも齧った事がなかったみたい。だから王族という立場もあり、完全に後衛として杖術しかないよね。全くの素人に刃物は危ないもの。

 薬師と魔法使い志望のシャルルとミュゼも杖術ね。

 武術研究部の方は、春香はオールラウンダーだから、槍を使ったり剣を使ったりしているけど、あとは全員が剣なのよね。ユークス君やルディ君は、ただ剣がカッコイイって理由で決めたみたいだけど。


 あと姫様の相手は、私か春香じゃないと怖くて無理なのよね。間違っても怪我なんてさせられない。勿論、私は回復魔法が使えるし、ポーション類も色々とストックが有るから大丈夫と言えば大丈夫なんだけど、側付きのメルティさんですら怖くて打ち込めないからね。




「ハァ、疲れますわね」
「姫様。お疲れ様です」
「ありがとうメルティ」

 魔力操作の訓練を終えた姫様に、タイミングよくメルティさんが飲み物を渡す。侯爵家令嬢だけど、姫様の側近候補だからか、動きにそつがない。

「エトワールさん。この後はどうなさるの?」
「この後は、薬学研究部は、演習に持っていくポーション類作りですね。武術研究部は、そのまま模擬戦に移るんだと思いますよ」
「あら、ポーション類なら学園が用意するのではなかったかしら」
「はい、姫様。確かそのように聞いています」

 一息ついた姫様が、この後どうするのか聞いてきた。それに私が演習用のポーション類を作ると言うと、首を傾げて学園が用意するのではと言い、メルティさんも学園からそう報されていると頷く。

 まあ、当然学園もポーション類は用意するんだけどね。

「どんなアクシデントがあるか分かりませんから、念の為私達も用意しておくのです。学園のポーションの品質も分かりませんから」
「でも、持って行くのが大変じゃありませんか?」
「大丈夫ですよ。メルティさん。私や春香、フローラのマジックバッグに容れておけば嵩張らないですし、重くもないですから」
「……普通に、マジックバッグを持っているのですね」

 私が自分達で作ったポーション類を持って行く理由を言うと納得してくれたけど、メルティさんが持って行くのが大変じゃないかと言ってきた。心配しなくても姫様やメルティさんに持てなんて言わないわよ。

 私達姉妹は、アクセサリー型のアイテムボックスと、それとは別にそれぞれマジックバッグをパパから貰ってるからね。

 まあ姫様やメルティさんもマジックバッグは持っているんだろうけどね。




 その後、部活が終わってから、姫様やメルティさん、バスク君以外の装備の話になった。

 姫様やメルティさんは、当然演習用の装備なんて家が用意するだろうし、バスク君は近衛騎士団を目指しているんだから、自分の装備を持っていて当然なので、主にユークス君やルディ君達の装備の相談になる。

 春香がサティに確認する。サティは、男爵令嬢だもんね。

「サティはもう有るんだよね」
「うん。でも、剣を買い換えようか悩んでるところ」
「ポーション類は、私達が用意するからね」

 シャルルがサティに、ポーション類は心配ないと言う。

「僕とルディは、一式揃えるつもりだよ」
「エトワールちゃん。私とミュゼの装備はどうしよう」
「じゃあ、みんなで見に行こうか」

 普通科組は、全員装備を用意する必要があるみたい。だからみんなで王都のお店に行こうと提案する。

「おっ、それ、俺も一緒に行ってもいいか?」
「えっ、バスク君は買う物ないんじゃないの?」
「武具には興味があるからな」

 みんなで装備を見に行く話をしていると、バスク君が一緒に行くと言う。ユークス君が驚くのも分かる。でも騎士を目指す男の子だもの武器屋に興味があるんでしょうね。

「姫様、流石に私達は無理ですよ」
「……残念です」

 自分も行きたそうな顔をしていた姫様に、メルティさんが釘を刺している。流石に王族がいきなりは無理よね。


 残念そうな姫様には悪いけど、みんなで何処のお店に行くか話していると、フローラが私に聞いてきた。

「ねえねえ。エトワールお姉ちゃん。パパのお店で買えないかな?」
「うーん。パパのお店は、普段武具類は売ってないわよ」
「でも、武具類なんて大量にストック有るでしょう?」
「そうねぇ……」

 確かにパパやレーヴァさんが作った武具類だけじゃなくて、ドガンボおじさんやゴランおじさんの作った武具もあるものね。

「イルマ様やレーヴァ様の作品を見れるの! なら、イルマ様の商会に行こうよ!」
「僕も見たい!」
「あのねぇ。ユークス君もルディ君の家も王都で商会を営んでいるんでしょう。そんなのでいいの?」
「お祖父様の店なんて、イルマ様ありきなんだもん!」
「いいに決まってるじゃないか! 僕の家はたいした店じゃないんだから!」

 今やバーキラ王国でも大手のパヘック商会の孫と、同じく家が王都で商会の息子が、他所の店に行きたがるっていいのかしら。




 流石に、直ぐには無理だったから、パパに通信の魔導具で、みんなの買える装備が有るか聞いてみた。

「パパ。夏休み明けに郊外演習があるんだけど、部活の友達が装備を揃えるって言ってるの。パパのお店で売れる武具ってないかな?」
『エトワール! 久しぶりだね。春香やフローラも元気かい? 嫌な事があったら、いつでも帰って来ていいんだよ』
「パパ、嫌なことなんてないよ。春香とフローラも元気だから。それよりも装備の話!」

 もう。パパったら。私も春香もフローラも、パパのこと大好きだけど、パパの娘大好き度が過ぎるわね。

『ああ、装備ね。騎士団の新人用のが一杯有るから、王都のお店に送っておくよ』
「ありがとう。じゃあ、夏休みには帰るね」
『夏休みと言わず、ずっと帰って来てくれていい……』

 パパが話続けるのを最後まで聞かずに通信の魔導具を切る。

 聖域には、八歳になる弟や妹達が居るんだけど、それでも私達と離れているのは寂しいみたい。

 もう少し子離れしてくれたらいいけど。なんて言ってるけど、私達もパパ離れは出来てないけどね。



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