いずれ最強の錬金術師?

小狐丸

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14巻

14-2

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 僕が巨大な魔晶石と結界の魔導具を接続し、設置していると、あっという間にドラゴンフライが帰ってきた。
 遅れる事十数分、ウラノスも戻る。

「タクミ! 魔導具は設置してきたわよ!」
「レーヴァもバッチリであります!」
「ありがとう! じゃあ、早速発動させるね。ソフィア、アカネ、術式の強化をお願い」
「分かりました」
「任せて」

 ドラゴンフライもウラノスも、離着陸に滑走路を必要としないので、僕の側に着陸すると、僕は二機をアイテムボックスへと収納。
 早速聖域結界サンクチュアリィフィールドを発動する。

聖域結界サンクチュアリィフィールド!」

 魔導具が術式を強化、拡大し、さらにソフィアとアカネのバフのお陰で、小さいとはいえ国である旧シドニア神皇国全土を光の柱が包み込む。

「「「「オオォォォォーー!!」」」」

 聖域結界サンクチュアリィフィールドを初めて見たサマンドールの騎士や、冒険者達が、キラキラとした光の柱に歓声を上げた。

「やったわ! 魔物の動きが鈍ってる!」
「魔物によっては動きを止めていますね」

 アカネが喜び、ソフィアもシドニア側の魔物の状態を察知する。

「ソフィア、ガラハットさんに連絡」
「攻勢をかけるのですね」
「ああ、サマンドールの騎士団と集まっている冒険者にも頼むよ」
「了解しました」

 続いて僕はマリアの方を向く。

「マリアはギルフォードさんに連絡をお願い」
「分かりました!」

 ソフィアがガラハットさんへの連絡に走り、マリアは通信の魔導具を使ってギルフォードさんと攻勢のタイミングを相談する。
 その後、僅かに存在するサマンドールの騎士団と、緊急依頼で集まった冒険者にも話をしてもらう。
 巨大な魔晶石があるので、聖域結界サンクチュアリィフィールドの効果が直ぐに切れるわけじゃないが、それでも何日も持つものじゃない。
 出来ればコッチの有利な状態で攻め込みたい。


 やがてギルフォードさんと連絡がつき、一時間後に、魔物が湧き出した原因と思われる地を目指し、行軍を開始する事に決まった。
 それまでの短い時間だけど、周辺の怪我人の治療や逃げ遅れた人の救助をする。
 魔物の殲滅は、タイタンやツバキ、カエデや他の従魔達が活躍している。
 時間が近づいてきて、僕も聖剣せいけんヴァジュラと聖剣フドウを腰に装備した。
 敵が光属性を弱点とするなら、この二振りがベストだろう。

「ガラハットさん、号令をお願いします」
「承知した」

 ガラハットさんが聖域騎士団と魔法師団に、大声で進軍を叫ぶ。

「聖域騎士団! 魔法師団! 進軍!!」

 陸戦艇サラマンダー、強襲揚陸艇サンダーボルトがシドニアへ向け出発する。
 僕達もウラノスを取り出して乗り込むと、飛び立った。



 5 バールの願いと部下の野望


 大陸に大きな被害を与えている黒い魔物の氾濫はんらん。だが、その結果に唸る二人の魔人まじんがいた。
 予め用意した魔物のストックが心許こころもとないと、元神官のアガレスと元代官のブエルがあせりを顔に表す。
 このゴーストタウンを起点に、旧シドニア神皇国の国内の戦況は想定通りに推移した。
 ところがロマリア王国とサマンドール王国は、アガレスとブエルが考える当初の予定を大きく下回る被害状況だ。
 本来ならば、放出した大量の魔物により、大陸全土が大混乱を起こしているはずだった。それが被害はほぼシドニアに留まっている。

何故なぜじゃ、ロマリアの騎士団はあれほど精強だったか?」
「騎士の精強さもだが、部隊の展開があれほど早いのは何故だ?」

 アガレスとブエルは送り出した魔物の何匹かと感覚を繋ぎ、ある程度の戦況を把握していた。
 ただ、魔物の知能が低いせいで、正確な情報を受け取る事が出来ていない。自然に進化して強くなった魔物とは違い、邪精霊じゃせいれい由来の力を使い強引に能力を引き上げられた魔物達は、強くなっても知能は低いままだった。
 そんな魔物を介して得る曖昧な情報からでさえ、ロマリア王国内には大きな被害が出ていないと分かる。

「サマンドール王国方面は国境を越えて侵攻出来ているのは分かるが、それも今はほぼ駆逐されている」
「それにドワーフ共も案外頑張りおるわ」

 ブエルとアガレスが言う。
 サマンドール王国方面に向かった魔物は、国境を越え大きな被害を与え、一定の戦果は得られた。
 しかし、山脈にへだてられ地理的に守りやすいノムストル王国方面へは、二人の当初の想定通り侵攻を食い止められていた。

「トリアリアは軍事国家を謳う割に、国内への侵攻を許しておるな」
「どちらにせよ、想定外としか言えんな」

 第一波は、数だけは多いが強さはそれほどでもない魔物だ。だが強くないとはいえ、それは第二波、第三波と用意している魔物と比べてであって、アガレスとブエルが調整し強化した魔物には変わらない。
 予定では、ロマリア、トリアリア、サマンドールの国内全土を血に染め、バーキラ王国にまで迫るはずだったのだ。

「まぁ、第二波の魔物は、そう簡単に倒せまい」
「既に第三波も移動を始めている。これで溜め込んだ瘴気と魔力はすっからかんだ」

 数をそろえるよりも、厄災級の魔物を数体創り出した方が良かったのでは? と考えるも頭を横に振るアガレス。
 そこで、そろそろ我慢の限界とばかりに馬頭のガミジンが二人に話しかけた。

「なぁ、いつになったら俺は暴れられるんだぁ」
「魔物に蹂躙じゅうりんされ、疲弊したロマリア王国とサマンドール王国に侵攻すると言ってあっただろう」

 ブエルが面倒そうにガミジンに言う。
 そう、今回の標的は、ロマリア王国とサマンドール王国だった。
 ノムストル王国に大きな被害を与えるのは、地形的に難しいと最初から思っていた。トリアリア王国に関しては、人族と魔人という差はあるが、その有り様に何処か似たものがあると感じていたので、魔物での侵攻だけで済ませた。

「この調子ならサマンドール王国にしぼった方がいいか」
「うむ、そうじゃのう」

 ブエルとアガレスが方針を変更する相談をするも、ガミジンは勝手な事を言い出す。

「なら俺はロマリアへ行くぜ」
「おい、ガミジン!」

 それを今までだまって聞いていたマルパスがとがめた。
 すると――

「いいじゃないか。ガミジンは魔人らしくていい」
「「「バール様!」」」

 クスクスと可笑しそうに言った邪精霊の御子――バールに、アガレス達の声が揃う。

「よろしいのですか、バール様」
「ガッハッハッハッ、流石バール様だぜ!」

 ブエルが確認するも、バールはニコニコしながらうなずくだけ。ガミジンは豪快に笑ってバールをたたえる。
 その時だった。光がその場を埋め尽くし、アガレス、ブエル、ガミジン、マルパスがうめごえを上げた。

「こ、これは……」
「グッ、クゥ……」
「な、何なんだぁ!」
「バ、バール様!」

 体を襲う不快感と倦怠感けんたいかん、頭痛や吐き気……魔人になって初めての事態に彼らは困惑する。

「落ち着くんだ。これは光属性の大規模結界だ」
「光の結界ですとぉ!?」
「これほど大規模な魔法とは……」
「フフッ、大の男が揃いも揃って情けないわね」

 バールが面白そうにアガレス達を見て言うと、アガレスとブエルの顔が驚愕に染まる。
 その顔を見て、馬鹿にしたようにからかうのは、今まで一言もしゃべらなかった元娼婦のグレモリーだ。

「これほどの魔法を誰が……」

 考え込むブエルに、バールが言う。

「アガレスやブエルは知っているはずだ」
「はっ! まさかヤツですか!」

 それを聞いてアガレスは一人の青年の存在にたどり着いた。
 魔人となって、人間だった頃の記憶も随分と曖昧になっていた弊害だろう。自分達にとって、一番の障害となり得る存在を、今の今まで忘れていたのだから。

「心配しなくても、向こうがここまで来る。それにこの結界をいくらかなら抑えられると思う。このままじゃ消耗するばかりだしな」
「バール様……」
「フフッ、ちょうど良かった。彼を倒せれば、人類に大打撃を与えるのと同じよ。精霊樹の守護者なのだから」
「ガッハッハッハッ! 面白えぇ! 強ぇヤツが、向こうから来るなんて、願ってもねぇじゃねぇか!」
「そうか、そうだな。我も直接対峙していないが、勇者殿を倒した存在と闘えるのか……」

 ガミジンは楽しそうに言い、マルパスも闘志をみなぎらせる。
 ただアガレスとブエルの懸念はなくならない。
 これほど大掛かりな光の結界を抑え込むとバールは言うが、それが簡単ではないと二人には分かるから。
 魔人により反応が真っ二つに分かれるのを見ながら、バールは結界を抑え込む作業に入る。



 6 そこは地獄だった


 ガラハットさんと打ち合わせして、僕――タクミは聖域騎士団と旧シドニア神皇国の中央部に足を踏み入れた。
 強襲揚陸艇サンダーボルトにより拠点と滑走路を建設したのは、シドニアの国境を越えている場所だ。
 流石にバーキラ王国の同盟国でもないサマンドール王国にはみ出ると、あとで問題になりそうだからね。
 サマンドール王国は、聖域とも関係は薄いし。
 聖域騎士団の一部隊をガルーダの護衛に、もう一部隊を聖域結界サンクチュアリィフィールド維持のための魔導具の守備に残している。巨大な魔晶石のお陰で、結界の発動時間が伸びているからね。あれを守るのは重要な任務なんだ。まあ、結界も張ってあるから手を出そうとしても普通は無理なんだけど。
 冒険者も高ランクの腕利き達は、シドニア側で魔物の討伐にあたるようだ。聖域結界サンクチュアリィフィールドのお陰で、弱体化した魔物や動けなくなった魔物を中心に討伐してくれる。
 とはいえ、光属性を弱点としながらも結界の中で生きているというだけで、この黒い魔物達が尋常じゃないと分かる。
 腕利きの冒険者以外、駆け出しから中堅の冒険者達は、死体の埋葬と前線で討ち漏らした少数の魔物を始末するらしい。
 まあ、前線を抜けてくる事はほとんどないだろうけどね。

「何て酷い事を……」
「酷いわね」

 人魚族のフルーナと有翼人族のベールクトが、旧シドニア神皇国の惨状を目にして顔を青くしている。
 フルーナやベールクトは、これだけ多くの人が無惨に死んでいる光景を見るのは初めてなので仕方ない。
 僕だってこみ上げる怒りを抑えるのが難しい。
 戦争で兵士が死ぬのを見るのと、争いに関係のない人達が巻き込まれて無惨な死体を晒しているのを見るのは、全然意味が違うしね。

「フルーナさん、ベールクト、大丈夫? きつかったら後方支援の方に回ってもいいんだよ」
「タクミ様! どうして『さん』付けなんですか! 前に呼び捨てでって言ったじゃないですか!」
「えっ、そっち!?」
「そうよね。付き合いの長さじゃ私よりフルーナの方が長いんだから、さん付けは嫌よね」

 顔色の悪い二人を気遣ったつもりが、何故か呼び方で怒られた。

「ほら、タクミ様、フルーナって呼んであげて」
「い、いや」

 ソフィアに助けを求めようと見ると、彼女は首を横に振っている。
 そんな場合じゃないと思う僕は間違っていないはずなんだけど、あきらめて呼んでみる。

「フ、フルーナ」
「はい!」
「はぁ……」

 僕がフルーナとさんを付けずに呼ぶと、満面の笑みで返事するフルーナ。
 こんなやり取りしている場合じゃないのにね。まあ、フルーナやベールクトがトラウマになるような事がなくてよかったよ。
 気を取り直して聖域騎士団と魔法師団はガラハットさんに任せ、僕達は自由に動かせてもらう。
 騎士団の陸戦艇サラマンダー二台が地上から、サンダーボルト二機が空から魔物の掃討をする。そうやって制圧地域を増やしていくんだ。


 僕達は、ウラノスに乗り込み、空から強そうな魔物を駆除していく。強力な魔物は聖域結界サンクチュアリィフィールドで動きが阻害されていても中堅の冒険者では危険だ。

「ギルフォードさんから通信が入って、バーキラ王国とロマリア王国の騎士団と冒険者も、シドニア側に侵攻して掃討に入ったみたいだね」
「では、私達はノムストル王国側の魔物とトリアリア王国側へと向かう魔物を間引きますか?」
「そうだね。僕達はシドニアの国内を外側からグルグルと回って円を縮める感じで行こう」
「はい」

 ソフィアと話して魔物の討伐については目処がついた。
 トリアリア王国に関しては、先の戦争の事もあって色々と思うところはあるんだけど、それでも一般の人達が被害に遭うのは避けたいからね。
 トリアリア王国国境付近には近寄れないので、それよりも内側での掃討になる。まあ、軍事国家なんだからあとは自分達で何とかするだろう。

「あっ! タクミ様、ストップ!」

 聖域結界サンクチュアリィフィールドにより動きが鈍くなった魔物や、既に動けなくなった魔物にウラノスでトドメを刺しながら飛んでいると、マリアが叫んだ。

「!! 緊急着陸する! アカネは救助した人の治療を!」
「分かったわ!」

 マリアが指差していたのは、必死で逃げる大人の男女二人と、まだ小さな子供二人。大人の女性は赤ちゃんを腕に抱いていた。
 そしてその後ろを魔物の群れが追っている。
 ウラノスから魔物だけに当たるように法撃を加え、緊急着陸する。
 ウラノスが着陸すると、ハッチが開いた瞬間ベールクトが空を飛び、逃げてくる人と魔物との間に降り立つ。

「ここから先へは通さないわよ!」

 ベールクトは手に持つガンランスロッドから風属性魔法を放ち、迫り来る魔物を切り裂く。
 結晶化した竜の牙で造られたやりの穂先から、増幅された風の魔法が撃ち出される。
 もともと風属性の魔法に高い適性を持つ有翼人族だけあり、強力な風の魔法が襲い来る魔物を蹂躙する。
 それに合わせるかのように、炎の魔法が撃ち出された。
 マリアの焔槍――爆炎槍エクスプロードによる攻撃だ。

「私も!」

 そう言ってフルーナが放った水の刃が乱舞する。
 フルーナの鎌槍には、水属性魔法を強化する魔晶石が使われている。それにより強化された水属性魔法が魔物を切り裂く。
 フルーナは人魚族だけあり、水属性に高い適性を持つ。そのフルーナの放つ水の刃は硬い魔物を容易く真っ二つにした。
 操縦をレーヴァに任せ、僕とソフィアもウラノスから飛び出すと、亜空間からカエデも出てきて周辺の魔物を瞬殺した。
 振り向くと、アカネとルルちゃんが逃げていた人を保護していた。

「カエデ、生き残っている人がいないか、周辺の探索をお願い」
「はーい! マスター!」

 カエデが手を上げて返事をすると、亜空間から出てきたツバキに乗って駆け出した。
 改めて周囲を見回すと、既にこと切れた人達の死体が其処そこここに打ち捨てられている。
 この世の地獄としか言えない光景に、僕は再び言葉を失った。



 7 生き残った人を助けよう


 助けたのは若い夫婦と、赤ちゃんを含む子供三人の計五人だった。
 アカネの回復魔法で治療され、ルルちゃんから食べる物と水を渡され、二人の子供は夢中になって食べている。
 その時、ユグル王国からの援軍がロマリア王国のシドニア側の国境に到着したと連絡が入った。
 ユグル王国の騎士団は、そこで後方支援を中心に、一部隊がシドニア側で生存者の探索と保護にあたるそうだ。
 瓦礫がれきの下敷きになっても生きている人もいるだろう。
 そんな人達を一人でも多く救う重要な役割を担う。
 そこで僕もガラハットさんと、ロマリア王国方面から進行しているギルフォードさんと連絡を取り、その二つの騎士団からも生存者の探索部隊を派遣してもらうよう要請した。

『こちらも生存者を数名発見しましたぞ。いっそガルーダをもう少し動かしますか?』
「ガルーダは必要ないでしょう。残念ですけど、サンダーボルト二機とサラマンダー二台でも十分だと思います」

 ガラハットさんの言葉に僕はそう答えた。
 ガルーダを動かすほど生存者の数は多くないだろう。

『こちらギルフォード、こちらはロマリア国境付近の貴族家の騎士や冒険者が避難民の保護と生存者の探索に移ります。我らとロマリア近衛騎士団はこのままシドニア内部での魔物討伐にあたります。それとユグル王国からも援軍が到着するようですので、遺体の埋葬まいそうと生存確認をお願いしようと思っています』
「そちらは問題なさそうですね。何かありましたら連絡してください」
『了解です』
『了解じゃ』

 通信を終えて僕達もサマンドール方面から、魔物が溢れた方向へと移動を開始する。
 ただ、生存者探索をしながらなので、先ほどとは違いグッとスピードは遅くなるが、ガラハットさんやギルフォードさん達と歩調を合わせるなら仕方ない。


 その後、何人かを発見するも、魔物が溢れた原因であるだろう中心に近くなるにつれ、生存者は少なくなる。

「ヒドイ有様ですね」
「ああ、当たり前なんだろうけど、先へ進むほど死体の損壊も激しいね」

 低空で飛ぶウラノスのコックピットから地上を見るソフィアの顔が歪む。
 シドニア神皇国が崩壊後、シドニアの国民の多くが周辺国へと流民となって移動したけど、それでも残っていた住民も少なくない。
 その旧シドニアに残っていた国民の半数以上が被害に遭ったんじゃないだろうか。
 小さな国土で人口の流出があり、もともと人口が多くなかった所への被害だからなんて、何のなぐさめにもならない。
 魔物が溢れ出したと想定される中心部へと近づくほど、地上には五体がまともな死体が少ない。
 そんな死体が散乱する地獄絵図が広がっていた。
 そのような状況でも、手や足を失いながら、あるいは瓦礫に埋もれながら生きていた人をガラハットさんやギルフォードさん達と手分けして救助しつつ、今回のスタンピードの原因であろう場所へと向かう。
 そして、とうとうその場所を特定した。

「明らかに統率された魔物がいるね」
「場所が特定出来ましたので、ガラハット殿やギルフォード殿達と合流した方がいいのでは?」
「そうだね、ソフィア。救助した人達をまとめて移送してもらいたいしね」

 救助した人達は、怪我人は治療して食べ物も与えたけど、彼らを連れたまま、この魔物の氾濫の原因となったモノと戦いたくない。
 早速、ガラハットさんと連絡を取る。

「ガラハットさん、そちらの状況はどうですか?」
『こちらガラハット。生存者の探索は一応切り上げました。ウラノスと合流するために移動中ですぞ』
「了解しました。ウラノスはこの場で待機します」

 次にギルフォードさんに連絡する。

「こちらイルマです。ギルフォードさん、そちらの状況はどうですか?」
『こちらギルフォード。こちらも合流に向け、移動中です。父上より多少時間はかかりますが、一時間ほどで合流出来ると思います』
「了解です。目印にウラノスを空中に待機させてます。気を付けてください」
『了解です』

 通信の魔導具を切ると、皆んなに指示を伝える。

「ガラハットさんとギルフォードさん達と合流するから、僕達はしばらくこのまま待機する。皆んなも今のうちに休憩しておいて」
「分かったわ。私とルルは救助した人達の様子を見てくるわね」
「お任せなのニャ」
「うん、お願い」

 救助者の治療を担当していたアカネとルルちゃんが、再び救助者を収容している区画へと向かう。

「このあたりは聖域結界サンクチュアリィフィールドの効果が薄いのでしょうか?」
「何者かが干渉しているんだろうね。完全に打ち消せてはないけど、たいしたものだね」

 僕達が魔物が溢れた起点と特定した場所は、遠目にも聖域結界サンクチュアリィフィールドの効果が薄いのが見て取れた。
 これだけを考えても、今回の敵が油断していい相手ではない事が分かる。
 僕とソフィアは、ウラノスのコックピットから、前方に見える聖域結界サンクチュアリィフィールドの光が薄い場所をながめ続けていた。


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