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14巻
14-3
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8 集結
少し時間の余裕があったので、ウラノスでレーヴァが救助した人達を後方へと移送し、大急ぎで戻ってきたタイミングで、僕とガラハットさん達、聖域騎士団は合流した。
聖域騎士団が救助した人達も、サンダーボルトで後方へと移送されている。
「イルマ殿、あそこですな」
「はい、結界の効果が弱められているので、注意が必要ですね」
僕とガラハットさんが話していると、僕とは古い付き合いの聖域騎士団員――元「獅子の牙」のヒースさんが、ガラハットさんに報告に来た。
「団長、仮設拠点の設置完了しました」
「うむ、バーキラ王国とロマリア王国が合流するまで、哨戒任務の部隊以外は交代で休憩を取るように」
「了解です!」
ヒースさんはニコリと笑って僕に手を上げ、駆け足で行ってしまう。
聖域騎士団は、他の国の騎士団と比べると堅苦しくない組織だけど、流石に作戦行動中なので、知り合いとはいえ無駄話は出来ないからね。
ガラハットさんが僕に向き直る。
「サマンドール王国で活動する冒険者が、国境付近で避難民の救助と遺体の埋葬をしております。サマンドールの騎士や冒険者を戦力には数えられんので……」
「そうですね。結界内で動けなくなったり、動きが鈍くなったりした魔物の後始末なら大丈夫でしょうが、この先は足手まといでしかありませんからね」
周囲に魔境が少なく、魔物の脅威もあまりないサマンドール王国には、高ランクの冒険者はいない。
サマンドール王国の冒険者は、ある程度の実力になると、バーキラ王国かロマリア王国へ移動してしまうので、魔物討伐の主戦力となる冒険者が存在しないのだ。
サマンドール王国は、バカンスを過ごすには良い国なので、高ランク冒険者が休息で訪れていれば、緊急依頼を受けていただろうけど、今回はいないみたいだね。
「タクミ様、ギルフォード殿が到着しました」
「ありがとう、ソフィア」
「やっと来おったか」
「距離があるから仕方ないですよ」
テーブルと椅子を出してガラハットさんとお茶を飲んでいると、ソフィアがギルフォードさんの到着を報せてくれた。
ガラハットさんが不満そうに言うけど、距離が遠いんだから許してあげようよ。
「イルマ殿、父上、バーキラ王国近衛騎士団及び貴族連合騎士団、ただ今到着しました」
「ギルフォードさん、ご苦労様です」
「よし、打ち合わせをするぞ」
ガラハットさんが、早速攻勢に入るための打ち合わせを提案すると、ギルフォードさんが言う。
「はっ、ではロマリア王国の代表と、冒険者ギルドの代表を呼んでまいります」
「えっ! 冒険者ギルドから誰か来てるんですか?」
僕が首を傾げていると、やって来たのは、僕がよく知る人物だった。
「おう! 久しぶりだなタクミ」
「バラックさん!」
そこに現れたのは、スキンヘッドに強面の顔、年齢を感じさせない筋骨隆々な身体……僕の体術の師匠でもある、ボルトンの街にある冒険者ギルドのギルドマスター、バラックさんだった。
「どうしてバラックさんが?」
「危険な前線で指揮をとれるのが俺くらいだったんだよ」
話を聞くと、現在のバーキラ王国の冒険者ギルドのギルドマスターの中で、現役で前線に出られるのはバラックさんだけらしい。
他のギルドマスターは、内務系の人だったり、元冒険者だった人でも、もう年齢的に戦えなかったりするようだ。
「それにしてもバラックさん……フル装備ですよね?」
「うん? 当たり前じゃねぇか。まだまだ若い奴らには負けんぞ」
バラックさんが冒険者の指揮をとるために来たのは分かったけど、最前線で暴れていたのがひと目で分かるフル装備なのには呆れてしまう。
バラックさんは体術がメインなので、軽鎧と金属製のガントレットに似た籠手を装備している。
多分、Sランク冒険者だった頃の物なんだろう。軽鎧は竜種の革をベースに、ミスリルで補強されている。ガントレットも魔法金属製で、これから繰り出される魔力撃がバラックさんの攻撃手段らしい。
バラックさんは、バーキラ王国の冒険者とロマリア王国からの冒険者の指揮をとるそう。
元Sランク冒険者という肩書きを持つバラックさんは、冒険者達に絶大な信頼を得ているみたいだ。
それにここまで来ている高ランクの冒険者のほとんどは、バラックさんを知っているしね。
最後にユグル王国の騎士団が合流し、いよいよ掃討作戦が始まる。
9 激突
僕達のパーティーと聖域騎士団、バーキラ王国騎士団、ロマリア王国騎士団、ユグル王国騎士団、高ランクの冒険者達の合流が完了し、簡単な打ち合わせの後、それぞれ布陣した。
本当はスタンピードの原因らしき場所を包囲した方がいいのだろうけど、こちらの数が少ない。
被害を最小限にするための少数精鋭なので仕方ない。
僕達より先に、相手の方が動き出した。
四方に散らばるのではなく、、明確に僕達の方を目指している事から、ある程度統率のとれた魔物なんだろう。
魔物が動き出したのを見て、ガラハットさんが大声で攻撃の指示を出した。
「各魔法師団! 撃てぇ!」
ガラハットさんの号令で一斉に魔法が放たれた。
各騎士団の陸戦艇やサンダーボルトも法撃をばら撒いている。
普通なら殲滅出来そうなくらいの密度で放たれた法撃だけど、魔物全てを駆逐するには及ばなかった。
それだけ強い個体なのか、または魔法耐性が高いのか、それとも他の理由があるのかは分からない。
それでも向かってくる魔物は最初の半数に減っている。
しかも残った魔物もボロボロで、聖域結界の影響が強い範囲に足を踏み入れると、それだけで倒れるものもいた。
そんな時、突然魔法が障壁に阻まれる。
魔法障壁を張る魔物なんて聞いた事はない。
魔法を阻んだ存在がいる。
「ガラハットさん!」
「法撃を止め! 魔法師団、魔法使いは、当初の予定通りサポートに回れ! 騎士団、前進!」
僕達パーティーを含む騎士団と冒険者が前進し始めた時、強力な個体が近づくのを感知した。
「ガッハッハッハッ! やっとこのガミジン様の出番だぜぇ!」
そこに現れたのは顔が馬で巨体の人らしきもの。
魔人だろうか。
普通に話しているという事は、単なる人型の魔物ではなく、今回の惨劇を起こした元凶の一人である可能性が高い。
ガミジンと名乗ったそいつは、背負っていた巨大な戦斧を取ると、猛然と駆け出した。
「タイタン!」
僕はタイタンの名を呼ぶ。
その巨体に似合わないスピードで迫るガミジンが振るった戦斧の一撃に、マギジェットスラスターを噴かし、割って入ったタイタンが大盾をぶつけた。
ガァキィィィィーーン!!
周辺にもの凄い激突音が響く。
「何だぁ!? ゴーレム如きが俺様の斧を受け止めただとぉ」
斧を弾かれ、体勢を崩したガミジンが驚きの声を上げた。
ガミジンとしても渾身の力を込めた一撃だったんだろう。実際、タイタンじゃなければ受け止める事は出来なかったと思う。
「タクミ! コイツは俺達が引き受ける!」
「お願いします!」
馬頭の人型、ガミジンの太い腕に魔力を纏ったガントレットの一撃が当たり、ガミジンの戦斧を持つ腕がはね上がる。
タイタンとガミジンの戦いに参戦したのは、バラックさんと彼が率いる高ランクの冒険者達だった。
数名の冒険者とバラックさんが、タイタンと連携するようにガミジンへ攻撃を加える。
即席だけどしっかり連携が取れているあたり、流石は高ランクの冒険者だ。踏んできた場数が違う。
騎士団と手負いの魔物との戦闘が始まり、ガミジンをタイタンとバラックさんに任せ、僕達は先に進んだ。
しばらく行くと、馬頭の魔人ガミジンとは別の人型と相対した。
「ここから先へは通さん! 我はマルパス! バール様の騎士なり! 通りたくば、我を倒して行け!」
半裸のガミジンとは違い、その巨体に金属製の騎士鎧を身に着けたマルパスと名乗る人型は、その言動から元は騎士だった事が窺える。
しかし今のその姿は人から大きく外れ、獅子の頭に四本の腕の人型のキメラだ。
ただ、そんなマルパスの相手は僕じゃない。
ガキィィンッ!!
僕の横をすり抜け、マルパスと斬り結んだのはソフィアだった。
「私がサポートします!」
「私も!」
フルーナの槍がマルパスの腕の一本を押さえ込むと、さらにベールクトの槍が突き出された。
「タクミ様、ここは私達にお任せください!」
「頼む!」
マルパスをソフィアとフルーナ、ベールクトの三人に任せ、僕は右手に聖剣ヴァジュラ、左手に聖剣フドウを持ち、魔物を倒しながら前へと進む。
ソフィア達なら大丈夫だろう。
さらに先に行くと、今度は巨大な火球と氷の塊が僕達を襲ってきた。
僕に向けられた魔法を、魔法障壁を展開して防ぐと、火球と氷の塊が飛んできた方向に視線を向ける。
そこにいたのは二人の人型。グレーに染まった肌の色を除けば、人間と変わらない容姿だけど、身に纏う魔力や瘴気が人間ではないと告げている。
「ほぉ、この程度は防ぐか。まあ、このくらいはしてくれぬとな。儂はブエル、バール様の忠実なしもべだ。主人に仇なす者は殲滅してくれるわ」
「ホッホッホ、それはそうじゃ。コヤツはシドニア崩壊の元凶じゃからな。儂の名はアガレス。女神アナト様、教皇ワイバール様、皇女エリザベス様の仇は取らせてもらう」
だいたい想像はしていたけど、アガレスと名乗った老人の言葉で、今回の惨劇を引き起こしたのは、邪精霊と関わりのある奴らだと確定した。
「タクミ、このジジイは私に任せてちょうだい」
「ルルにお任せニャ!」
アガレスと名乗った老人の前に、アカネとルルちゃんが出る。
「じゃあ、このオッサンはレーヴァにお任せなのであります!」
「タクミ様、レーヴァのサポートは私に任せてください」
「頼んだよ、マーニ」
ブエルと名乗った男は、レーヴァとマーニが引き受けてくれた。
僕はその場を皆んなに任せ、立ち塞がる魔物を二本の剣で薙ぎ倒しながら、マリアと共に事の元凶がいるであろう場所へと駆け出した。
10 タイタン&バラックvsガミジン
三メートル半ばほどあるアダマンタイト合金製のガーディアンゴーレムのタイタンと、二メートル半ばの馬頭の魔人ガミジンの巨体が激しくぶつかった。
「狙いを絞らせるなぁ! タンク役はタクミのゴーレムに任せるんだぁ!」
「「「おう!」」」
ボルトンの街の冒険者ギルドマスターで、元Sランク冒険者のバラックが冒険者達に指示を出す。
タイタンは巨体だが鈍重なわけではない。普通のゴーレムとは比べものにならないくらい機敏に動く。
タクミ特製のアダマンタイト合金ボディに、Sランク以上と言われるガーディアンゴーレムのコアを持ち、自ら思考する特別なゴーレムだ。
タイタンは盾術のみならず棍術や体術を使いこなし、大型の魔晶石を複数組み込まれているためパワーとスタミナも規格外。
そのタイタンが、ガミジンの戦斧の攻撃を時に捌き、時に正面から受け止めていた。
ただ、そんな規格外なゴーレムであるタイタンとまともにやりあえている事実を見ると、ガミジンの膂力も尋常じゃない事が分かる。
「チッ、硬えなぁ、おい!」
バラックが魔力撃を叩き込むも、ガミジンの硬さは尋常じゃなかった。
「ギルマス! 前に出過ぎるなよ!」
「そうだぜぇ! もう、歳なんだからなぁ!」
「五月蝿えぇ! まだまだお前らには負けねぇよ!」
ガミジンの黒く染まった体は、まるでオーガの上位種をさらに強化したように強靭で、しかも小さな傷など瞬く間に治ってしまう。
バラックが舌打ちするのも分かる。
その強靭な巨体が軽々と振るう重量級の戦斧の斬撃の嵐は、掠っただけでも無事では済まないだろう。
ガミジンは味方のはずの黒い魔物を巻き込む事を厭わず、暴風のように戦斧を振り回す。
実際、周囲の魔物が巻き込まれミンチになっているが、ガミジンが気にする様子はない。
ガミジンに魔物への仲間意識などない。
バールに対しては一応の忠誠心はあるようだが、マルパス達へは疑わしいところだ。
そんなガミジンの周囲の黒い魔物ごと敵を粉砕しようとする攻撃が続く。
それでもバラックは、格闘家らしいスピードを活かした攻撃でガミジンに的を絞らせない。
長年の戦いの中で培った経験は伊達ではない。ただ速いだけ。ただパワーがあるだけ。そんな攻撃を受けるバラックではない。
タイタンとバラックが前に出て、ガミジンの標的となっているその隙に、冒険者達が脚や腕を狙って攻撃を仕掛けては後方に下がる。
高ランクの冒険者とはいえ、ガミジンの攻撃をまともに受ければ死に繋がる。
だから彼らは無理はしない。
冒険者は生きて帰る事が一番重要だと知っているから。
「ガアァァーーッ!! ちょこまかと、鬱陶しいぃ!」
ブォォーーンッ!!
ただ強引に振り回された戦斧がめちゃくちゃに空気を切り裂く。
それでもバラックや冒険者達は戦斧を掻い潜り、チクチクと攻撃を加える。
そんな彼らの動きに焦れたのはガミジンだった。
ガミジンが、バラック達の動きに苛ついて乱暴に戦斧を振り回す。最早そこに技術などない。ただ力任せに振るうだけだ。
もともと人間だった頃は木樵で、冒険者をしていたわけではないガミジンは、戦闘の技術に関しては未熟だった。
しかも今の姿となってから、弱者相手に暴れて戦闘による高揚感を得る事はあっても、対人戦の経験や技術を身につけようとはしてこなかった。
魔人となり、只々圧倒的な身体能力の高さに酔っていた。それだけだ。そのツケがここに来て回ってくる。
ガミジンは初めて自分とまともに打ち合える、むしろ力では気を抜けば押し負ける相手との戦いに、焦りを感じ始めていた。
しかも歴戦の元Sランク冒険者バラックと、高ランク冒険者達の連携と駆け引きに、只々翻弄されている。
もとより木樵と戦闘の専門家の戦い。技術や駆け引きで勝てる要素はない。その差は時間が経つにつれ無視出来ないものになっていく。
加えて、バールがある程度抑えてはいるが聖域結界の影響もあり、ガミジンのイライラは募るばかりだった。
「クソッ! これならどうだっ!」
ガミジンの上半身の筋肉が盛り上がり、魔力が膨れ上がる。
「大木断ちっ!!」
苛立つガミジンが、大技を繰り出す。
大木をも一振りで切り倒す渾身の一撃。
ブゥゥゥゥーーン!!
しかしタイタンやバラックは動かぬ大木ではない。予備動作が大きく大振りな技が通用するはずもなかった。タイタンは背中のマギジェットスラスターを噴かし、三メートル半ばの巨体で突進する。
ガミジンの大技が威力を発揮する前に、アダマンタイト合金製の大盾をぶつけて威力を相殺してのけた。
ガァーーンッ!! ゴキッ!
「グッハッ!」
ガミジンの戦斧がタイタンの大盾ではね上げられ、タイタンの持つメイスがガミジンを打った。
タイタンからの重い一撃に、ガミジンが堪らず後ずさる。
それも仕方ないだろう。
タイタンの持つメイスは、アダマンタイト合金製の頑丈さを追求した金属の塊。しかもそのサイズや重さもタイタンだから扱える。普通の魔物なら原型をとどめず潰されているだろう。後ずさるだけで済んでいるガミジンの異様な頑丈さは驚愕に値する。
「クソッ! よくも俺様にぃ! くらえっ、薪割りっ!!」
ガミジンは今の姿となって初めて大きなダメージを受けた事で頭に血がのぼり、がむしゃらに戦斧を大上段から打ちつけてきた。
ガキイィィーーン!!
『ムダ、デス』
「なっ!? ゴーレムが喋りやがった!」
普通の人間なら持ち上げるのも難しいだろう巨大な戦斧での一撃を、タイタンは一歩踏み込み大盾を打ち当て、力をいなす事で捌いた。ゴーレムであるタイタンが喋った事に驚く間も与えられず、出来た隙に追撃が加えられる。
ザシュッ!
ドスッ!
「グァッ! テメェらぁ!」
剣と盾を持つ前衛職の冒険者が、体勢の崩れたガミジンの脚を斬り裂き、その傷を拡げるようにバラックの拳が追撃する。
身体能力とタフさでは、タイタンを除けばこの中の誰よりも優れているガミジンだが、所詮は元木樵。
戦いの中に身を置き、高ランク冒険者となった者達や、元Sランク冒険者と戦うには、絶対的に経験が足りなかった。
積み上げてきた戦闘経験の差が、ここまで拮抗していた戦闘を徐々に一方的なものにしていく。それでもタイタン達を相手に、ここまで戦闘が長引いているのは、ガミジンの脅威的なタフさと再生能力故だろう。
しかし、一度傾いた天秤を引き戻す力は、今のガミジンには残されていなかった。たたみかけるような攻撃に晒され、ガミジンが受けるダメージが、回復力を上回り始める。
そしてついにその時は訪れる。
「グッハッ!」
ガッキイィィーーン!!
隙の多いガミジンに対してのタイタンの狙いすました大盾によるシールドバッシュにより、ガミジンの手から戦斧が離れて宙を飛ぶ。
ボゴォォッ!!
さらにガミジンの頭部をタイタンのメイスが上段から打ちつけ、とうとうガミジンがその場に膝をついた。
そこに殺到する冒険者の剣とバラックの魔力を纏った渾身の拳。
ガミジンも苦し紛れに腕を振り回すが、タイタンが大盾を差し入れ、ガミジンの腕を封じる。
冒険者二人がガミジンの頸を左右から深く斬り裂き、そこに追い討ちをかけたバラックの魔力撃でついにガミジンの頸が宙を飛んだ。
「……ヘヘッ、バケモノに生まれ変わって、好き勝手暴れて……楽しかったぜ」
地面に落ちて転がったガミジンの頸が、満足そうにそう言うと、頸をなくした体がドサリと仰向けに倒れ、ガミジンの目から光が消える。
その頸と体が聖域結界の光の中、サラサラと崩れていった。
バラックはガミジンの死を確認すると魔石を回収する。
「人殺しを楽しむんじゃねぇよ。おう! 俺達は動きの悪い魔物から始末していくぞ!」
「「「オオ!!」」」
冒険者達に指示を出すと、バラックは自らも駆け出した。
『ゲンキナ、オトシヨリ、デスネ。デハ、ワタシモ、ザンテキ、ノ、ソウトウ、ニ、ウツリマスカ』
タイタンもそう言うと、残っている強力そうな個体目掛け、背中の魔力ジェットスラスターを噴かして低空を滑空し、残敵の殲滅に移る。
11 マルパスvs三本の槍
マルパスは四本の腕に二本の剣と、一枚の盾、一本の短槍を持ち、ソフィア、フルーナ、ベールクトと戦っていた。
変則的ではあるが、三刀流ともとれる手数の多さと、全身鎧と盾の防御力、巨体の魔人ならではのパワーで、ソフィア達三人と打ち合う。
「クックックック、この様なバケモノに身をやつした甲斐があったな。これほどの戦いが待っていたとは」
マルパスは普段から粗暴なガミジンとは違い、元神殿騎士だった事が窺える落ち着いた佇まいを見せていたが、闘争を求める気持ちはガミジンとさほど変わらなかった。
それが化け物となったからなのか、騎士だった頃から変わらぬものなのかは、今となっては分からない。
ただ、今この時のために生まれ変わったのだと言えるほどに、強者と対峙する喜びにマルパスは震えていた。
「何の目的でこの様な愚かな事を!」
ソフィアの風槍が、彼女の怒りの言葉と共にマルパスへと襲いかかる。
「フンッ!」
ガキッ! ザシュッ!
ソフィアの槍を剣で防ぐも、傷を負ったのはマルパスだった。
風槍は、魔力を込める事で風の刃を生み出す。実体の穂先を防いだとしても、風の刃まで完全に防ぐのは難しい。
「チッ、装備の質では敵わんか」
マルパスがソフィアの風槍を剣で捌くも、テンペストが纏う風の刃がマルパスを削る。
マルパスの鎧や剣、盾も世間一般では一流の物だったが、ソフィアやベールクト、フルーナの持つタクミが造った装備とは比べものにならなかった。マルパスはその性能の差を把握し、舌打ちした。
「目的……目的なぁ、ブエルやアガレスはともかく、バール様が何をお考えかは、我には理解しようもない。だが、案外つまらぬ理由かもしれぬな」
ソフィアからの問いに、到底納得出来ない答えを返すマルパス。
ガキィィンッ!
「ふざけるなぁ!」
ベールクトの法撃槍杖が魔力光を纏いマルパスに叩きつけられる。
多くの罪なき人達の命を奪った行為の目的を、つまらない理由などとのたまうマルパスにとって、ベールクトの怒りを乗せた一撃は強力だった。
マルパスは何とかベールクトの攻撃を槍で防ぎ、ソフィアの槍を防御した剣とは違う、もう一本の剣で攻撃しようと振りかぶって、慌てて迫りくるもう一本の槍を防いだ。
少し時間の余裕があったので、ウラノスでレーヴァが救助した人達を後方へと移送し、大急ぎで戻ってきたタイミングで、僕とガラハットさん達、聖域騎士団は合流した。
聖域騎士団が救助した人達も、サンダーボルトで後方へと移送されている。
「イルマ殿、あそこですな」
「はい、結界の効果が弱められているので、注意が必要ですね」
僕とガラハットさんが話していると、僕とは古い付き合いの聖域騎士団員――元「獅子の牙」のヒースさんが、ガラハットさんに報告に来た。
「団長、仮設拠点の設置完了しました」
「うむ、バーキラ王国とロマリア王国が合流するまで、哨戒任務の部隊以外は交代で休憩を取るように」
「了解です!」
ヒースさんはニコリと笑って僕に手を上げ、駆け足で行ってしまう。
聖域騎士団は、他の国の騎士団と比べると堅苦しくない組織だけど、流石に作戦行動中なので、知り合いとはいえ無駄話は出来ないからね。
ガラハットさんが僕に向き直る。
「サマンドール王国で活動する冒険者が、国境付近で避難民の救助と遺体の埋葬をしております。サマンドールの騎士や冒険者を戦力には数えられんので……」
「そうですね。結界内で動けなくなったり、動きが鈍くなったりした魔物の後始末なら大丈夫でしょうが、この先は足手まといでしかありませんからね」
周囲に魔境が少なく、魔物の脅威もあまりないサマンドール王国には、高ランクの冒険者はいない。
サマンドール王国の冒険者は、ある程度の実力になると、バーキラ王国かロマリア王国へ移動してしまうので、魔物討伐の主戦力となる冒険者が存在しないのだ。
サマンドール王国は、バカンスを過ごすには良い国なので、高ランク冒険者が休息で訪れていれば、緊急依頼を受けていただろうけど、今回はいないみたいだね。
「タクミ様、ギルフォード殿が到着しました」
「ありがとう、ソフィア」
「やっと来おったか」
「距離があるから仕方ないですよ」
テーブルと椅子を出してガラハットさんとお茶を飲んでいると、ソフィアがギルフォードさんの到着を報せてくれた。
ガラハットさんが不満そうに言うけど、距離が遠いんだから許してあげようよ。
「イルマ殿、父上、バーキラ王国近衛騎士団及び貴族連合騎士団、ただ今到着しました」
「ギルフォードさん、ご苦労様です」
「よし、打ち合わせをするぞ」
ガラハットさんが、早速攻勢に入るための打ち合わせを提案すると、ギルフォードさんが言う。
「はっ、ではロマリア王国の代表と、冒険者ギルドの代表を呼んでまいります」
「えっ! 冒険者ギルドから誰か来てるんですか?」
僕が首を傾げていると、やって来たのは、僕がよく知る人物だった。
「おう! 久しぶりだなタクミ」
「バラックさん!」
そこに現れたのは、スキンヘッドに強面の顔、年齢を感じさせない筋骨隆々な身体……僕の体術の師匠でもある、ボルトンの街にある冒険者ギルドのギルドマスター、バラックさんだった。
「どうしてバラックさんが?」
「危険な前線で指揮をとれるのが俺くらいだったんだよ」
話を聞くと、現在のバーキラ王国の冒険者ギルドのギルドマスターの中で、現役で前線に出られるのはバラックさんだけらしい。
他のギルドマスターは、内務系の人だったり、元冒険者だった人でも、もう年齢的に戦えなかったりするようだ。
「それにしてもバラックさん……フル装備ですよね?」
「うん? 当たり前じゃねぇか。まだまだ若い奴らには負けんぞ」
バラックさんが冒険者の指揮をとるために来たのは分かったけど、最前線で暴れていたのがひと目で分かるフル装備なのには呆れてしまう。
バラックさんは体術がメインなので、軽鎧と金属製のガントレットに似た籠手を装備している。
多分、Sランク冒険者だった頃の物なんだろう。軽鎧は竜種の革をベースに、ミスリルで補強されている。ガントレットも魔法金属製で、これから繰り出される魔力撃がバラックさんの攻撃手段らしい。
バラックさんは、バーキラ王国の冒険者とロマリア王国からの冒険者の指揮をとるそう。
元Sランク冒険者という肩書きを持つバラックさんは、冒険者達に絶大な信頼を得ているみたいだ。
それにここまで来ている高ランクの冒険者のほとんどは、バラックさんを知っているしね。
最後にユグル王国の騎士団が合流し、いよいよ掃討作戦が始まる。
9 激突
僕達のパーティーと聖域騎士団、バーキラ王国騎士団、ロマリア王国騎士団、ユグル王国騎士団、高ランクの冒険者達の合流が完了し、簡単な打ち合わせの後、それぞれ布陣した。
本当はスタンピードの原因らしき場所を包囲した方がいいのだろうけど、こちらの数が少ない。
被害を最小限にするための少数精鋭なので仕方ない。
僕達より先に、相手の方が動き出した。
四方に散らばるのではなく、、明確に僕達の方を目指している事から、ある程度統率のとれた魔物なんだろう。
魔物が動き出したのを見て、ガラハットさんが大声で攻撃の指示を出した。
「各魔法師団! 撃てぇ!」
ガラハットさんの号令で一斉に魔法が放たれた。
各騎士団の陸戦艇やサンダーボルトも法撃をばら撒いている。
普通なら殲滅出来そうなくらいの密度で放たれた法撃だけど、魔物全てを駆逐するには及ばなかった。
それだけ強い個体なのか、または魔法耐性が高いのか、それとも他の理由があるのかは分からない。
それでも向かってくる魔物は最初の半数に減っている。
しかも残った魔物もボロボロで、聖域結界の影響が強い範囲に足を踏み入れると、それだけで倒れるものもいた。
そんな時、突然魔法が障壁に阻まれる。
魔法障壁を張る魔物なんて聞いた事はない。
魔法を阻んだ存在がいる。
「ガラハットさん!」
「法撃を止め! 魔法師団、魔法使いは、当初の予定通りサポートに回れ! 騎士団、前進!」
僕達パーティーを含む騎士団と冒険者が前進し始めた時、強力な個体が近づくのを感知した。
「ガッハッハッハッ! やっとこのガミジン様の出番だぜぇ!」
そこに現れたのは顔が馬で巨体の人らしきもの。
魔人だろうか。
普通に話しているという事は、単なる人型の魔物ではなく、今回の惨劇を起こした元凶の一人である可能性が高い。
ガミジンと名乗ったそいつは、背負っていた巨大な戦斧を取ると、猛然と駆け出した。
「タイタン!」
僕はタイタンの名を呼ぶ。
その巨体に似合わないスピードで迫るガミジンが振るった戦斧の一撃に、マギジェットスラスターを噴かし、割って入ったタイタンが大盾をぶつけた。
ガァキィィィィーーン!!
周辺にもの凄い激突音が響く。
「何だぁ!? ゴーレム如きが俺様の斧を受け止めただとぉ」
斧を弾かれ、体勢を崩したガミジンが驚きの声を上げた。
ガミジンとしても渾身の力を込めた一撃だったんだろう。実際、タイタンじゃなければ受け止める事は出来なかったと思う。
「タクミ! コイツは俺達が引き受ける!」
「お願いします!」
馬頭の人型、ガミジンの太い腕に魔力を纏ったガントレットの一撃が当たり、ガミジンの戦斧を持つ腕がはね上がる。
タイタンとガミジンの戦いに参戦したのは、バラックさんと彼が率いる高ランクの冒険者達だった。
数名の冒険者とバラックさんが、タイタンと連携するようにガミジンへ攻撃を加える。
即席だけどしっかり連携が取れているあたり、流石は高ランクの冒険者だ。踏んできた場数が違う。
騎士団と手負いの魔物との戦闘が始まり、ガミジンをタイタンとバラックさんに任せ、僕達は先に進んだ。
しばらく行くと、馬頭の魔人ガミジンとは別の人型と相対した。
「ここから先へは通さん! 我はマルパス! バール様の騎士なり! 通りたくば、我を倒して行け!」
半裸のガミジンとは違い、その巨体に金属製の騎士鎧を身に着けたマルパスと名乗る人型は、その言動から元は騎士だった事が窺える。
しかし今のその姿は人から大きく外れ、獅子の頭に四本の腕の人型のキメラだ。
ただ、そんなマルパスの相手は僕じゃない。
ガキィィンッ!!
僕の横をすり抜け、マルパスと斬り結んだのはソフィアだった。
「私がサポートします!」
「私も!」
フルーナの槍がマルパスの腕の一本を押さえ込むと、さらにベールクトの槍が突き出された。
「タクミ様、ここは私達にお任せください!」
「頼む!」
マルパスをソフィアとフルーナ、ベールクトの三人に任せ、僕は右手に聖剣ヴァジュラ、左手に聖剣フドウを持ち、魔物を倒しながら前へと進む。
ソフィア達なら大丈夫だろう。
さらに先に行くと、今度は巨大な火球と氷の塊が僕達を襲ってきた。
僕に向けられた魔法を、魔法障壁を展開して防ぐと、火球と氷の塊が飛んできた方向に視線を向ける。
そこにいたのは二人の人型。グレーに染まった肌の色を除けば、人間と変わらない容姿だけど、身に纏う魔力や瘴気が人間ではないと告げている。
「ほぉ、この程度は防ぐか。まあ、このくらいはしてくれぬとな。儂はブエル、バール様の忠実なしもべだ。主人に仇なす者は殲滅してくれるわ」
「ホッホッホ、それはそうじゃ。コヤツはシドニア崩壊の元凶じゃからな。儂の名はアガレス。女神アナト様、教皇ワイバール様、皇女エリザベス様の仇は取らせてもらう」
だいたい想像はしていたけど、アガレスと名乗った老人の言葉で、今回の惨劇を引き起こしたのは、邪精霊と関わりのある奴らだと確定した。
「タクミ、このジジイは私に任せてちょうだい」
「ルルにお任せニャ!」
アガレスと名乗った老人の前に、アカネとルルちゃんが出る。
「じゃあ、このオッサンはレーヴァにお任せなのであります!」
「タクミ様、レーヴァのサポートは私に任せてください」
「頼んだよ、マーニ」
ブエルと名乗った男は、レーヴァとマーニが引き受けてくれた。
僕はその場を皆んなに任せ、立ち塞がる魔物を二本の剣で薙ぎ倒しながら、マリアと共に事の元凶がいるであろう場所へと駆け出した。
10 タイタン&バラックvsガミジン
三メートル半ばほどあるアダマンタイト合金製のガーディアンゴーレムのタイタンと、二メートル半ばの馬頭の魔人ガミジンの巨体が激しくぶつかった。
「狙いを絞らせるなぁ! タンク役はタクミのゴーレムに任せるんだぁ!」
「「「おう!」」」
ボルトンの街の冒険者ギルドマスターで、元Sランク冒険者のバラックが冒険者達に指示を出す。
タイタンは巨体だが鈍重なわけではない。普通のゴーレムとは比べものにならないくらい機敏に動く。
タクミ特製のアダマンタイト合金ボディに、Sランク以上と言われるガーディアンゴーレムのコアを持ち、自ら思考する特別なゴーレムだ。
タイタンは盾術のみならず棍術や体術を使いこなし、大型の魔晶石を複数組み込まれているためパワーとスタミナも規格外。
そのタイタンが、ガミジンの戦斧の攻撃を時に捌き、時に正面から受け止めていた。
ただ、そんな規格外なゴーレムであるタイタンとまともにやりあえている事実を見ると、ガミジンの膂力も尋常じゃない事が分かる。
「チッ、硬えなぁ、おい!」
バラックが魔力撃を叩き込むも、ガミジンの硬さは尋常じゃなかった。
「ギルマス! 前に出過ぎるなよ!」
「そうだぜぇ! もう、歳なんだからなぁ!」
「五月蝿えぇ! まだまだお前らには負けねぇよ!」
ガミジンの黒く染まった体は、まるでオーガの上位種をさらに強化したように強靭で、しかも小さな傷など瞬く間に治ってしまう。
バラックが舌打ちするのも分かる。
その強靭な巨体が軽々と振るう重量級の戦斧の斬撃の嵐は、掠っただけでも無事では済まないだろう。
ガミジンは味方のはずの黒い魔物を巻き込む事を厭わず、暴風のように戦斧を振り回す。
実際、周囲の魔物が巻き込まれミンチになっているが、ガミジンが気にする様子はない。
ガミジンに魔物への仲間意識などない。
バールに対しては一応の忠誠心はあるようだが、マルパス達へは疑わしいところだ。
そんなガミジンの周囲の黒い魔物ごと敵を粉砕しようとする攻撃が続く。
それでもバラックは、格闘家らしいスピードを活かした攻撃でガミジンに的を絞らせない。
長年の戦いの中で培った経験は伊達ではない。ただ速いだけ。ただパワーがあるだけ。そんな攻撃を受けるバラックではない。
タイタンとバラックが前に出て、ガミジンの標的となっているその隙に、冒険者達が脚や腕を狙って攻撃を仕掛けては後方に下がる。
高ランクの冒険者とはいえ、ガミジンの攻撃をまともに受ければ死に繋がる。
だから彼らは無理はしない。
冒険者は生きて帰る事が一番重要だと知っているから。
「ガアァァーーッ!! ちょこまかと、鬱陶しいぃ!」
ブォォーーンッ!!
ただ強引に振り回された戦斧がめちゃくちゃに空気を切り裂く。
それでもバラックや冒険者達は戦斧を掻い潜り、チクチクと攻撃を加える。
そんな彼らの動きに焦れたのはガミジンだった。
ガミジンが、バラック達の動きに苛ついて乱暴に戦斧を振り回す。最早そこに技術などない。ただ力任せに振るうだけだ。
もともと人間だった頃は木樵で、冒険者をしていたわけではないガミジンは、戦闘の技術に関しては未熟だった。
しかも今の姿となってから、弱者相手に暴れて戦闘による高揚感を得る事はあっても、対人戦の経験や技術を身につけようとはしてこなかった。
魔人となり、只々圧倒的な身体能力の高さに酔っていた。それだけだ。そのツケがここに来て回ってくる。
ガミジンは初めて自分とまともに打ち合える、むしろ力では気を抜けば押し負ける相手との戦いに、焦りを感じ始めていた。
しかも歴戦の元Sランク冒険者バラックと、高ランク冒険者達の連携と駆け引きに、只々翻弄されている。
もとより木樵と戦闘の専門家の戦い。技術や駆け引きで勝てる要素はない。その差は時間が経つにつれ無視出来ないものになっていく。
加えて、バールがある程度抑えてはいるが聖域結界の影響もあり、ガミジンのイライラは募るばかりだった。
「クソッ! これならどうだっ!」
ガミジンの上半身の筋肉が盛り上がり、魔力が膨れ上がる。
「大木断ちっ!!」
苛立つガミジンが、大技を繰り出す。
大木をも一振りで切り倒す渾身の一撃。
ブゥゥゥゥーーン!!
しかしタイタンやバラックは動かぬ大木ではない。予備動作が大きく大振りな技が通用するはずもなかった。タイタンは背中のマギジェットスラスターを噴かし、三メートル半ばの巨体で突進する。
ガミジンの大技が威力を発揮する前に、アダマンタイト合金製の大盾をぶつけて威力を相殺してのけた。
ガァーーンッ!! ゴキッ!
「グッハッ!」
ガミジンの戦斧がタイタンの大盾ではね上げられ、タイタンの持つメイスがガミジンを打った。
タイタンからの重い一撃に、ガミジンが堪らず後ずさる。
それも仕方ないだろう。
タイタンの持つメイスは、アダマンタイト合金製の頑丈さを追求した金属の塊。しかもそのサイズや重さもタイタンだから扱える。普通の魔物なら原型をとどめず潰されているだろう。後ずさるだけで済んでいるガミジンの異様な頑丈さは驚愕に値する。
「クソッ! よくも俺様にぃ! くらえっ、薪割りっ!!」
ガミジンは今の姿となって初めて大きなダメージを受けた事で頭に血がのぼり、がむしゃらに戦斧を大上段から打ちつけてきた。
ガキイィィーーン!!
『ムダ、デス』
「なっ!? ゴーレムが喋りやがった!」
普通の人間なら持ち上げるのも難しいだろう巨大な戦斧での一撃を、タイタンは一歩踏み込み大盾を打ち当て、力をいなす事で捌いた。ゴーレムであるタイタンが喋った事に驚く間も与えられず、出来た隙に追撃が加えられる。
ザシュッ!
ドスッ!
「グァッ! テメェらぁ!」
剣と盾を持つ前衛職の冒険者が、体勢の崩れたガミジンの脚を斬り裂き、その傷を拡げるようにバラックの拳が追撃する。
身体能力とタフさでは、タイタンを除けばこの中の誰よりも優れているガミジンだが、所詮は元木樵。
戦いの中に身を置き、高ランク冒険者となった者達や、元Sランク冒険者と戦うには、絶対的に経験が足りなかった。
積み上げてきた戦闘経験の差が、ここまで拮抗していた戦闘を徐々に一方的なものにしていく。それでもタイタン達を相手に、ここまで戦闘が長引いているのは、ガミジンの脅威的なタフさと再生能力故だろう。
しかし、一度傾いた天秤を引き戻す力は、今のガミジンには残されていなかった。たたみかけるような攻撃に晒され、ガミジンが受けるダメージが、回復力を上回り始める。
そしてついにその時は訪れる。
「グッハッ!」
ガッキイィィーーン!!
隙の多いガミジンに対してのタイタンの狙いすました大盾によるシールドバッシュにより、ガミジンの手から戦斧が離れて宙を飛ぶ。
ボゴォォッ!!
さらにガミジンの頭部をタイタンのメイスが上段から打ちつけ、とうとうガミジンがその場に膝をついた。
そこに殺到する冒険者の剣とバラックの魔力を纏った渾身の拳。
ガミジンも苦し紛れに腕を振り回すが、タイタンが大盾を差し入れ、ガミジンの腕を封じる。
冒険者二人がガミジンの頸を左右から深く斬り裂き、そこに追い討ちをかけたバラックの魔力撃でついにガミジンの頸が宙を飛んだ。
「……ヘヘッ、バケモノに生まれ変わって、好き勝手暴れて……楽しかったぜ」
地面に落ちて転がったガミジンの頸が、満足そうにそう言うと、頸をなくした体がドサリと仰向けに倒れ、ガミジンの目から光が消える。
その頸と体が聖域結界の光の中、サラサラと崩れていった。
バラックはガミジンの死を確認すると魔石を回収する。
「人殺しを楽しむんじゃねぇよ。おう! 俺達は動きの悪い魔物から始末していくぞ!」
「「「オオ!!」」」
冒険者達に指示を出すと、バラックは自らも駆け出した。
『ゲンキナ、オトシヨリ、デスネ。デハ、ワタシモ、ザンテキ、ノ、ソウトウ、ニ、ウツリマスカ』
タイタンもそう言うと、残っている強力そうな個体目掛け、背中の魔力ジェットスラスターを噴かして低空を滑空し、残敵の殲滅に移る。
11 マルパスvs三本の槍
マルパスは四本の腕に二本の剣と、一枚の盾、一本の短槍を持ち、ソフィア、フルーナ、ベールクトと戦っていた。
変則的ではあるが、三刀流ともとれる手数の多さと、全身鎧と盾の防御力、巨体の魔人ならではのパワーで、ソフィア達三人と打ち合う。
「クックックック、この様なバケモノに身をやつした甲斐があったな。これほどの戦いが待っていたとは」
マルパスは普段から粗暴なガミジンとは違い、元神殿騎士だった事が窺える落ち着いた佇まいを見せていたが、闘争を求める気持ちはガミジンとさほど変わらなかった。
それが化け物となったからなのか、騎士だった頃から変わらぬものなのかは、今となっては分からない。
ただ、今この時のために生まれ変わったのだと言えるほどに、強者と対峙する喜びにマルパスは震えていた。
「何の目的でこの様な愚かな事を!」
ソフィアの風槍が、彼女の怒りの言葉と共にマルパスへと襲いかかる。
「フンッ!」
ガキッ! ザシュッ!
ソフィアの槍を剣で防ぐも、傷を負ったのはマルパスだった。
風槍は、魔力を込める事で風の刃を生み出す。実体の穂先を防いだとしても、風の刃まで完全に防ぐのは難しい。
「チッ、装備の質では敵わんか」
マルパスがソフィアの風槍を剣で捌くも、テンペストが纏う風の刃がマルパスを削る。
マルパスの鎧や剣、盾も世間一般では一流の物だったが、ソフィアやベールクト、フルーナの持つタクミが造った装備とは比べものにならなかった。マルパスはその性能の差を把握し、舌打ちした。
「目的……目的なぁ、ブエルやアガレスはともかく、バール様が何をお考えかは、我には理解しようもない。だが、案外つまらぬ理由かもしれぬな」
ソフィアからの問いに、到底納得出来ない答えを返すマルパス。
ガキィィンッ!
「ふざけるなぁ!」
ベールクトの法撃槍杖が魔力光を纏いマルパスに叩きつけられる。
多くの罪なき人達の命を奪った行為の目的を、つまらない理由などとのたまうマルパスにとって、ベールクトの怒りを乗せた一撃は強力だった。
マルパスは何とかベールクトの攻撃を槍で防ぎ、ソフィアの槍を防御した剣とは違う、もう一本の剣で攻撃しようと振りかぶって、慌てて迫りくるもう一本の槍を防いだ。
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