私異世界で成り上がる!! ~家出娘が異世界で極貧生活しながら虎視眈々と頂点を目指す~

春風一

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第6部 飛び立つ勇気

1-1不安が渦巻く久しぶりの緊急帰郷

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 年の瀬の、十二月三十日の午後。私は、時空航行船の機内にいた。つい先ほどまでは、会社で仕事をしていたのに。まさか、こんなことになるとは、全く思っても見なかった。想像の斜め上過ぎて、いまだに気が動転している。

 よりによって、いきなり……。しかも、出発の二時間前に、言うなんて――。リリーシャさんは、天使のような笑顔で、たまに、鬼のようなことを言ってくる……。
 
 でも、あの状況では、私の選択肢は、一つしかなかった。同意書をもらってこないと、クビになってしまう。ならば、断れるはずがない。しかも、リリーシャさんのあの表情は、間違いなく本気だった。

 幸い、持って行く荷物は少なかったので、すぐに準備ができた。元々私物は、ほとんどないし。小さなリュック一つで、十分だった。本当に必要なのは、お土産だけ。かなりの量、お土産を買い込んだので、私物よりも、はるかに多い。

 さすがに、お土産ぐらいで、許してもらえるなんて、甘いことは考えていない。でも、手ぶらで帰るよりは、多少マシだと思う。手ぶらなら手ぶらで、絶対に何か言われそうだし――。

 最も気が重いのは、実家に帰ってから、どう切り出すかだ。ずっと、音信不通だったくせして『同意書にサインして欲しい』と言うのは、いくら何でも、虫がよすぎる。

 それより何より、喧嘩して、家を飛び出した時。勢いだったとはいえ、とんでもなく、酷いセリフを、言っちゃったからなぁ……。

『親子の縁なんて切ってやる!』『こんな家、二度と帰ってこないから!』などなど。暴言のオンパレードだった。

 今考えると、明らか度を越えた言葉を、自信満々に言ってしまったのだ。いくら親子でも、言っていいことと、悪いことって、あるよね――。

 頭に来て、感情的になっていたのもある。でも、一番の問題は、私が、とんでもなく、無知で子供だったからだ。あの当時の私は『自分は何でもできる』『自分一人の力で生きられる』と、本気で思ってた。

 でも、実際に、異世界に行ってみて。世の中の厳しさを、身をもって知った。自分が、いかに小さな存在で、何の力も持っていないのか。何一つ知らない、お子様だったのか。どれだけ、親に助けられていたのか……。

 今でも、自分の甘さを、日々思い知らされていた。成長すればするほど、自分の無力さを実感する。

 いつも、周囲の人たちに助けられ、辛うじて、ここまでやって来れた。今はもう『自分の力だけでやれる』なんて、うぬぼれた考えは、かけらもない。

 今の自分なら、家出した時のセリフは、絶対に言わないと思う。そもそも、家出すら、しなかったはずだ。

 とはいえ、一度、言ってってしまった言葉を、取り消すことはできない。『頭に来てたから』で、済まされる事じゃないよね。

 さすがに『親子の縁を切る』は、言いすぎた。こんな状態で、どの面下げて、家に帰れと――。

 リリーシャさんからの『辞めてもらうから』の、きつい一言がなければ、絶対に帰って来なかっただろう。仮に、一人前になったあとだって、帰る気になったかどうか、正直わからない。過去の自分の愚かな行動を、十分に理解しているからだ。

 しかし、悶々としている内に、あっという間に、空港に到着してしまった。流石は特急便。十三時に出発し、キッチリ時間通り、十五時に到着した。

 むしろ、夜行便で、じっくり考えながら来た方が、よかった気もする。結局、何を言うべきか、全く考えが、まとまっていなかった。もう少し、気持ちを整理する時間が欲しい……。

 異世界での就職や一人暮らしは、とても大変で、人生で最大の試練だった。でも、私にとって、本当の試練は、実家に帰ることだと思う。

 いつかは、解決しなければならない問題だけど。今までは、日々の忙しさを理由に、ずっと目を背けていた。だから、どう解決するかも、何も考えていなかった。

 時間が経てば、一人前になれば、何とかなると、楽観的に捉えていた。もっと、ずっと先のことだと、思い込んでいたのだ。

 それが、急に目の前に突き付けられて、まだ、受け止めきれずにいた。今までの生活が全て夢で、突然、叩き起こされた気分だ。

 私は、小さなため息を吐くと、ゆっくり席を立ちあがった。握りしめた手は、少し震えていた。滅茶苦茶、怖くて、未だかつてないほど、緊張している。

 初めて異世界に行った時よりも、はるかに不安が大きい。ただ、実家に帰るだけなのに、こんなに怖いだなんて……。

 でも、ちゃんと、現実に向き合わないと。一人前になるって、昇級することだけじゃないと思う。現実を受け入れ、自分のやってしまった過去の過ちも、しっかり清算しないと。

 そうしないと、本当の意味では、一人前には、なれない気がする――。


 ******


 私は、空港を出たあと、電車を何本か乗り換え、自分の生まれ育った町に、帰って来た。駅も街並みも、全く変わっていない。だが、不思議な違和感があって、落ち着かなかった。

 空中モニターもないし、空に乗り物も飛んでいない。それが当り前なんだけど、逆に、異世界に来た感じがする。二階の改札口を出ると、歩道橋をゆっくり進んで行く。

 歩道橋の端に立つと、しばし町の様子を眺めた。すぐ下は、バスターミナルになっていて、周囲には、デパートが立ち並んでいる。向こうの世界の〈南地区〉ほどではないけど、人もたくさん歩いており、適度に栄えていた。

「全然、変わらないなぁー、この町は……」
 まぁ、九ヶ月程度じゃ、そんなに変わらないよね。

 ただ、何だろう、この例えようもない違和感は? 文明が違うから? それとも、風が違うから?

 そういえば、風の質が違う。向こうと違って、風が全然、気持ちよく感じられない。

 それに、街が、物凄く殺風景に見える。向こうの世界は、あんなに、明るく輝いて見えていたのに。単に、実家に帰りたくないから、こんな気持ちなのだろうか――? 

 私は、しばし町の様子を眺めたあと、ゆっくり移動を始める。バスターミナルを通り過ぎ、徒歩で家に帰ることにした。

 歩くと、三十分は掛かる。家に着くのは、十八時ごろになるはずだ。でも、少しでも、気持ちを落ち着けたくて、ゆっくり歩いて行くことにした。

 一歩進むたびに、昔のことを思い出す。この世界で起こった、色んな出来事。様々な思い出。でも、結局、最後に思い出すのは、家を飛び出した、あの日の記憶に行き着く。

 帰りたくないからだろうか? 無意識に、歩くスピードが落ちていた。それでも、着実に前に進み、家が近づいて来る。

 かなり時間が掛かったが、やがて、実家の前にたどり着いた。だが、気持ちは、全く落ち着ていない。それどころか、動悸が物凄く激しかった。まだ、何を話すかも、考えがまとまっていない。

 もし、拒絶されたら、どうしよう……? もし、話を聴いてもらえなかったら、どうしよう――? 次々と、悪いイメージばかりが、浮かんでくる。心の中は、不安と罪悪感で、渦巻いていた。

 私は、家の門の前に立ち尽くしたまま、一歩も動けなくなってしまった。でも、その時、ふと頭の中に、浮かんで来るものがあった。

 リリーシャさん、ナギサちゃん、フィニーちゃん、ノーラさん。〈グリュンノア〉で、私に優しくしてくれた、たくさんの人たち。

 そうだ……私は、ここで立ち止まる訳には、行かないんだ。ここを乗り越えなければ、向こうの世界には、帰れない。

 私は、向こうの世界に戻って、これからも、シルフィードを続けるんだ。みんなと共に、人生を歩んで行きたい。

 私は、両手を胸に当てると、そっとつぶやいた。
「どうかみんな、私に力を貸して――」

 私は、大きく息を吸い込んだあと、門を開け、家の扉に向かって行った……。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

次回――
『やっぱりラスボスはお母さんだった……』

 わしの味方になれば世界の半分をやろう
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