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第3部 笑顔の裏に隠された真実

2-1巨大なホットケーキに思いっ切り飛び込んでみたい

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 今回から『ウィンドミル編』がスタート。
 数話の間『フィニーツァ視点』で物語が進みます。

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 ほんのり温かい……ふわふわしてる――あまーい香り。目を開けると、茶色くて、やわらかい物の上に、寝そべっていた。ゆっくり立ち上がって、周りを見ると、そこは、巨大なホットケーキの上だった。

「おー……おぉぉー!!」 

 私は興奮しながら、思いっ切り飛び込んだ。やわらかな弾力で、体が軽くはずむ。着地後、私はホットケーキに、思いっきりかぶり付いた。

 でっかいので、いくら食べても、なくならなかった。しかも、超おいしい! 今まで食べたホットケーキの中でも、一番おいしいかも。

 ここどこ? もしかして天国? じゃあ、私は死んじゃった? まぁ、いいか。ホットケーキがあれば、しあわせ――。

 細かいことは気にせず、とりあえず食べ続ける。余計なことは、食べ終わったら考えよう。 

「……ちゃん、……ニーちゃん」
 空から声が聞こえて来た。なんか、聞き覚えのある声だ。

 だれだっけ? まぁ、いいや。今は、ホットケーキがだいじ。

 気にせず食べ続けていると、今度は、体がぐらぐらとゆれ始める。地震? 天国にも地震ってあるの?

「んー……もっと食べる――。まだ、大丈夫……」
「フィニーちゃん、起きて。朝食の用意ができたわよ」

 あれ、この声は――。それに、朝食!

 次の瞬間、目の前には、見慣れた顔があった。優し気な表情で、私を見つめている。

「フィニーちゃん、おはよう」
「おはよう……メイリオ先輩?」
 まわりを見ると、いつもと違う部屋だった。

 私がボーッと考えていると、

「フィニーちゃん、ソファーで寝ちゃったから。とても、気持ちよさそうだったので、そのままベッドに運んだの」

 メイリオ先輩が、状況を説明してくれる。

「あー、そういえば――」 

 昨日の夜、夕飯のあとに、メイリオ先輩の部屋に、お茶を飲みに来たんだった。おいしいお茶と、お菓子を出してくれるから、週に三、四回は来ている。

 泊まることもあるけど、いつのまにか寝てしまって、気付いたら朝になってることも、何度かあった。寝てしまっても、特に文句を言われたことはない。むしろ、嬉しそうにしている。

 会社の寮には、自分の部屋もあるけど、こっちの部屋のほうが、居心地がいい。ハーブが一杯あって、いい香りがする。それに、食べ物もおいしい。週の半分は来ているので、私物も色々おいてあった。

 私は、ベッドから降りると、大きく伸びをする。ダイニングのテーブルを見ると、すでに、朝食の用意ができていた。ここまで、おいしそうな香が、ただよって来ている。

「おぉー、オムレツ!」
「まずは、顔と手を洗ってきなさい」

「わかった、急いでいってくる」
「ゆっくりで、大丈夫よ」 

 笑顔で言われるが、私は速足で洗面所に向かった。ゆっくりしてたら、大事なオムレツが、冷めてしまう。

 メイリオ先輩の作るオムレツは、超おいしい。よく分からないけど、何種類もハーブが入っていて、食べると、口の中に色んな香が広がる。

 私は急いで顔を洗って、ダイニングに戻ってきた。いすを引くと、わくわくしながら、料理の並んだテーブルに着く。メインは、大きなオムレツ。あとは、サラダ・トースト・ベリージャム・フルーツ入りヨーグルト・オレンジジュース。

 サラダにも、ハーブが入っている。トーストのパンは、メイリオ先輩の手作りだ。この生地にも、ハーブが練り込んである。ジャムもメイリオ先輩のお手製だ。

 基本、どんな料理にも、ハーブが使われている。味や香りもいいけど、健康を考えているらしい。『体調に合わせて、使うハーブを変えている』って、言ってた気がする。

 私がフォークを手にすると、        
「フィニーちゃん」
 メイリオ先輩が、笑顔で見つめて来た。

「……豊かな恵みに、感謝します」
 フォークを置いて、胸の前で手を組むと、お祈りをする。

 食事の前には、感謝の祈りをささげるように、言われてたんだった。メイリオ先輩は、あまり、うるさいことは言わない。でも、食材に対する感謝の気持ちだけは、忘れないようにと言われていた。 

「豊かな恵みに感謝します」
 メイリオ先輩も、祈りをささげると、食事を開始した。

 まずは、オムレツを食べる。中はふんわりと柔らかく、口に入れると、スーッととろけた。とてもおいしくて、朝食べると、物凄く元気が出る。

 次に、手作りのパンに、たっぷりジャムをのせて、かぶりつく。ふわふわのパンに、とろとろのジャムが、最高に合う。これも、超美味しい。 

 社員食堂の料理も好きだけど、メイリオ先輩の手料理も大好きだ。食堂のは、ちょっと油っぽくて、ボリュームのある感じが好き。メイリオ先輩のはヘルシーだけど、凄く口当たりがよくて、いくらでも食べられるので、大好きだ。

「仕事と練習は、順調に進んでる?」
「うん、順調」

 食べながら、少し世間話などをする。だいたい、仕事の話が多い。

「練習中に、お昼寝したりしてない?」
「うん――。いや、たまにしてる」

 前よりは、ちょっとだけ、回数はへったと思う。一応、会社の敷地内では、昼寝しないように、気をつけてる。会社の外で、見つからないようにやってるから、問題ない。

「フィニーちゃんらしいわね。でも、程々にしないと。見つかったら、会社に怒られちゃうわよ」

 メイリオ先輩は、ティーカップを持ちながら、楽しそうに笑う。

 私がよく昼寝しているのは、知ってるみたいだ。だけど、特に怒ったりはしない。メイリオ先輩は、規則とかは、わりと緩やかだ。

 でも、そんなだから、レイアー契約の申し出に OK した。あまり、細かいことを言う人は苦手。

「大丈夫。週に何回かは、風歌たちと、ちゃんと練習してる」
「それなら、安心ね。ナギサちゃんも、一緒にいるんでしょ?」
「うん。だいたい、いつもいる。そして、超うるさい……」

 ナギサは、会うたびに、必ず何か文句を言ってくる。色々と細かすぎだ。少し、メイリオ先輩を、見習ったほうがいいと思う。

「ウフフッ。〈ファースト・クラス〉は、とても厳しい会社ですものね」
「ナギサみたいのが、一杯いる?」

「それは分からないけど、あの会社の人に会うと、みんなシャキッとしてるわよ」 
「超疲れそう――」

 ナギサみたいのが、一杯いたら、息がつまる。私には、絶対たえられない。

「そうかもね」 
 メイリオ先輩は、ニッコリ微笑む。

 私はやっぱり、この会社が好き。みんな優しいし、のんびりした人が多かった。だから、のんびりしてても、特に怒られたりしない。

「そういえば、今日は会社の、新人セミナーね。ちゃんと、参加するんでしょ?」
「うっ……」

 今日は、こないだ見つけた、とても気持ちいい場所で、昼寝の予定だった。天気もいいので、閉鎖された部屋の中で、何時間も授業を受けるのは、絶対にいやだ。

 メイリオ先輩が、ジーッと見つめて来るので、私は視線をそらす。

「今朝は、どんな夢を見ていたの? 何か幸せそうな表情をしていたけど」
 よかった、話題が変わった――。

「巨大なホットケーキの上で、寝てる夢。味も超おいしかった」
「フィニーちゃん、ホットケーキ大好きだもんね」
「超大好き! 一日三食でも、食べられる」

 家にいた時は、おばあちゃんが、よく焼いてくれていた。何段にも、重ねたやつ。上には、バターと、たっぷりしたたり落ちる、自家製シロップが掛けられていた。想像するだけで、おなかが減ってくる。

「じゃあ、今夜はホットケーキを、焼きましょうか? 特大サイズのね」
「お、おぉー、特大サイズ!!」

 メイリオ先輩のホットケーキも、超おいしい。

「ただし、新人セミナーに、行って来たらね」
「ぐっ……」

 セミナー行きたくない――。でも、ホットケーキは食べたい……。

 三秒ほど悩む。でも、どちらを優先するかは、最初から答が出ていた。

「わ、わかった。セミナー、行ってくる――」
「偉いわ、頑張ってね」

 メイリオ先輩の笑顔を見て、上手くのせられた気がした。でも、ふわふわのホットケーキには、逆らえない。

 食事が終わると、一緒に後かたずけをして、出勤のために、身支度を整えた。この部屋から、直接、仕事に行くこともあるので、クローゼットには、私の制服も入っている。

 着替えが終わったあと、メイリオ先輩が、制服のしわを伸ばし、髪を整えてくれた。

「さあ、それじゃあ、今日も一日、頑張りましょう」
「うん、頑張る(ホットケーキのために)」

 二人で一緒に部屋を出ると、それぞれの職場に向かった。

 こうして今日も、平和なシルフィードの一日が始まる。んー、今日のお昼は、なに食べようかな……?


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次回――
『スイーツは別腹だからいくらでも食べられる』

 おなかのお世話だ。甘いものあげよう。
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