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第3部 笑顔の裏に隠された真実
1-8私にとっての世界一は今までもこれからもただ一人だけ
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時計を見ると、午後五時ジャスト。会社の終業時間だ。私は、この仕事が大好きだけど、やっぱり終業時間が近づくと、何か楽しくてソワソワしてくる。
『今日の夕飯は何にしようかな?』とか『どこに寄り道していこうかな?』なんて、色々考えるからだ。こればかりは、学生時代から変わらない。
ただ、少しでも役に立ちたいので、残業を頼まれれば、喜んでやるつもりだ。でも、今まで残業って、一度もあったことが無いんだけどね。リリーシャさんが、接客で出かけている間に、雑用は全て終わらせておくし。
そもそも、リリーシャさんは、仕事がとても速くて正確だ。それに、私にできる仕事って、今のところ、掃除と買い出しぐらいなので……。
「リリーシャさん、何かお手伝いする仕事は、ありますか?」
私は椅子から立ち上がると、念のため声をかけた。
「大丈夫よ。お蔭様で、今日も無事に終わったわ。お疲れ様、風歌ちゃん」
微笑みながら、いつもの台詞が返って来る。
「リリーシャさんこそ、今日も一日、お仕事お疲れ様でした」
私も笑顔で返すと、帰り支度を始めた。
これが、毎日、終業時間に行われる、お約束のやり取りだ。まぁ、何事もなく平和に終わるのは、いいことだよね。
準備が終わり帰ろうとすると、
「風歌ちゃん、お話があるのだけれど。少し、いいかしら?」
珍しく引き止められた。
「はい、なんでしょう?」
何か仕事で、ミスでもしたかな? 一通り、問題なく終えたはずだけど――。
私はすぐに、リリーシャさんの元に向かう。
リリーシャさんは、私の前に立つと、じっと見つめて来た。とても、真剣な表情をしている。いつもと雰囲気が違い、普通の話ではないと、すぐに予想が付いた。
「ツバサちゃんに聴いたわ。風歌ちゃんに、一年前の事故について話したと……」
あぁ――やっぱり、そのことか。いずれ話があるとは、思っていたけど。こんなに早くとは、考えていなかった。まぁ、ツバサさんとは仲がいいし、当然、話が伝わるよね。
「だいたいは、聴きました……」
私は、少し緊張した声で返す。
「ごめんなさい、隠すつもりは無かったの。けれど、なかなか話すタイミングが、掴めなくて――」
「そんな、謝らないでください。もし、逆の立場だったら、私も同じだったと思います。出会ったばかりの相手に、簡単に話せる内容じゃないですし。相手に、心配を掛けたくありませんから」
いずれ話すにしても、相当タイミングを選ぶよね。私は、隠し事が苦手だから、こういう問題を抱えていたら、きっと毎日、悶々としてるだろうと思う……。
「私が、風歌ちゃんと出会う前の話も、聴いたかしら?」
「軽くですが、休業していたとか――」
ツバサさんから話を聴いた時は、ショックが大きくて、あまり詳しく、質問する余裕がなかった。
でも、気持ちがある程度、落ちついた今は、もっと深く、リリーシャさんの事情を知りたいと思う。もちろん、好奇心などではなく、純粋に力になりたいからだ。
でも、どこまで訊いて、いいのだろうか? リリーシャさんが、私に話し辛いように、私も物凄く訊きづらい内容だった。変に傷をえぐったりしたくないし。誰にだって、触れて欲しくない過去は、あると思うから。
リリーシャさんは、しばし目をつぶって沈黙したあと、ゆっくり口を開いた。
「私は、母が大好きだったの。母親として、一人の女性として、シルフィードとして。全てにおいて、世界で一番の存在だった。だから私は、子供のころから、母の背を追い掛け続けてきたの。シルフィードになったのも、母の影響だから」
リリーシャさんの言葉を聴いていると、どれだけアリーシャさんが、大好きだったのか、ヒシヒシと伝わって来る。
愛情・尊敬・憧れが入り混じった、とても大好きな気持ち。でも、凄くよく分かる。だって、私がリリーシャさんに抱いている感情に、とても似ているから。
「本当に、素敵な方だったんですね、アリーシャさんは」
できれば、直接、会ってみたかった。私が憧れるリリーシャさんが『世界一』と評価するぐらいだから、どれだけ凄かったんだろうか?
ただでさえ『伝説のシルフィード』と、言われている人だ。私には、雲の上の人すぎて、全く想像がつかない。
「私にとって、全ての理想であり、目標だったの。だから、常に母の背を追い掛け、あらゆることを真似して。でも、あの事故で、突然いなくなってしまった……。これからも、ずっと一緒だと思っていたのに――」
初めて見る、リリーシャさんの、悲しそうな表情。胸がギュッと、締め付けられる。私は掛けるべき言葉が、何も見つからなかった。
「私は、母を失うと同時に、全てを失ってしまったの。進むべき道も、生きる目標も、シルフィードを続ける意味すらも……」
目標にしていた人が、突然いなくなるって、どれだけ辛いことだろうか? 私にとっては、リリーシャさんが、いなくなるのと同じことだ。私なら、絶対に耐えられないし、二度と立ち直れないかもしれない。
「私は、母を失って、初めて分かったの。自分には、何もないことが。目的も進むべき道も、全て母の真似をしていただけだって。だから、あの事故以来、私は前に進めなくなってしまったの――」
その悲痛な声は、リリーシャさんの内にため込んでいた、本音なんだと思う。それでも、周りの人に心配を掛けまいと、必死に明るく、笑顔で振るまっていたのだろう。
「そんな……そんな、悲しいこと言わないでください。何もないだなんて。リリーシャさんは、色んな物を持っていますよ。それに、今もこうして会社を経営して、前に進んでいるじゃないですか」
リリーシャさんが、何もないなんて言ったら、何一つない私なんて、どうなっちゃうの? それに、まだ十代なのに、会社の経営者だし、シルフィード・プリンセスの階級まで持っている。こんなに持っている十代なんて、そうそういないよね。
「でも、私は、シルフィードを引退して、会社も閉めてしまおうと思っていたの。辛うじて、踏みとどまったのは、母の遺志を継ぐため。結局、今も、母の背を追い掛けているに過ぎないの。きっと、これからも、ずっと――」
「憧れの人の、背中を追うことの、何が悪いんですか?」
私は思わず、語気を荒げてしまった。だって、誰かの背中を追うのって、悪いことじゃないじゃん? 憧れるからこそ、必死に頑張れるんじゃないの?
うつむいていたリリーシャさんは、顔を上げる。
「私だって、追いかけ続けていますよ。リリーシャさんの背中を。これからも、ずっと、ずっと」
「……母ではなく、私のことを――?」
リリーシャさんは、不思議そうな表情で、私を見つめてきた。
「アリーシャさんが、凄い人だったことは聴いています。でも、直接、見たことも話したこともないので、正直よく分からないです。だから、私にとっての世界一は、今までも、これから先も、リリーシャさん、ただ一人ですから!」
私の発言のあと、しばらく沈黙が訪れた。勢いで言ってしまったけど、急に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
って、私なに言ってんのよ? リリーシャさんは、凄い人だってことを、言いたかっただけなのに。なんか超恥ずかしいセリフを、自信満々に言っちゃったんですけど……。
リリーシャさん、間違いなく引いたよね? あぁっ、今の聞かなかったことにして欲しい――。
彼女は、驚いた表情を浮かべたあと、少し照れたような笑みを浮かべた。
「私なんか追い掛けても、何も見つからないわよ」
「いいえ、きっと見つかります。いや、絶対に見つけてみせます!」
私にとって、リリーシャさんは、最高のシルフィードだし、ずっとついて行くって、決めてるもん。過去に何があったかなんて、全然、関係ないよ。
リリーシャさんは、音をたてずに前に歩みを進めると、私の背中に両腕を回した。突然の出来事に驚いて、体が強張ったが、すぐにスーッと力が抜ける。
まるで、天使の羽にでも包まれたかのような、フワッとした、柔らかさと温かさに包まれたからだ。私は目を閉じ、そのぬくもりに身を預ける。
「風歌ちゃん、本当にありがとう。日々楽しく、仕事が出来ているのは、風歌ちゃんのお蔭よ。もしかしたら、母が私たちを、引き合わせてくれたのかもしれないわね」
「……かもしれないですね。私もリリーシャさんのお蔭で、毎日とても幸せですよ」
本当に、アリーシャさんが、導いてくれたのかもしれない。アリーシャさんの命日に家出して、その数日後に、リリーシャさんと出会ったのだから。
偶然にしては、あまりにも出来過ぎだもん。運命は、あまり信じないほうだけど、この素敵な出会いだけは、運命だと信じたい。
「ごめんなさい、重い話をしてしまって。立派で頼りになる先輩を、演じていたかったのだけれど。私は、母ほど優秀じゃないし、強くもないの」
「全然、平気ですよ、これぐらい。いくらでも、愚痴を言ってもらって、構いませんし。どんどん頼ってください。って、ど新人の私に言われても、嬉しくないですよね」
いつも頼ってるのは、私のほうなのに。なに生意気なこと、言ってるんだろ――。
「いいえ、とても嬉しいわ。これからは、色々頼ってしまうかも」
「はい、何でも言ってください。どーんと、受け止めますから!」
私とリリーシャさんは、ゆっくり離れ、お互いの顔を見合わせると、クスクス笑った。
まだ、全てじゃないけど、リリーシャさんの、抱えていることが見えて来た。あと、リリーシャさんの、考え方や性格も。
私から見れば、リリーシャさんだって、雲の上の人みたいな存在だ。でも、本人は、全然そんなふうに思っていない。母親が偉大過ぎたせいか、かなり過小評価してる気がする。
それに、いくら会社を経営していたり、上位階級にいると言っても、一人の人間だ。誰にだって、悩みやコンプレックスはあるし、心の弱さは持っている。心の内は、普通の人と同じなのだと分かったら、少し距離が縮まった気がした。
それでも、やっぱり私にとって、リリーシャさんは憧れの人だ。ずっと背中を追い続けて行くし、いつかは同じレベルに、到達したい。ただ、これからは、追い掛けるだけでなく、ちゃんと支えられる存在に、なりたいと思う。
弱かったり不完全な部分は、お互いに、補い合えばいいのだから……。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
次回――
『巨大なホットケーキに思いっ切り飛び込んでみたい』
ケーキがあるところに希望がある。そしていつもケーキがある。
『今日の夕飯は何にしようかな?』とか『どこに寄り道していこうかな?』なんて、色々考えるからだ。こればかりは、学生時代から変わらない。
ただ、少しでも役に立ちたいので、残業を頼まれれば、喜んでやるつもりだ。でも、今まで残業って、一度もあったことが無いんだけどね。リリーシャさんが、接客で出かけている間に、雑用は全て終わらせておくし。
そもそも、リリーシャさんは、仕事がとても速くて正確だ。それに、私にできる仕事って、今のところ、掃除と買い出しぐらいなので……。
「リリーシャさん、何かお手伝いする仕事は、ありますか?」
私は椅子から立ち上がると、念のため声をかけた。
「大丈夫よ。お蔭様で、今日も無事に終わったわ。お疲れ様、風歌ちゃん」
微笑みながら、いつもの台詞が返って来る。
「リリーシャさんこそ、今日も一日、お仕事お疲れ様でした」
私も笑顔で返すと、帰り支度を始めた。
これが、毎日、終業時間に行われる、お約束のやり取りだ。まぁ、何事もなく平和に終わるのは、いいことだよね。
準備が終わり帰ろうとすると、
「風歌ちゃん、お話があるのだけれど。少し、いいかしら?」
珍しく引き止められた。
「はい、なんでしょう?」
何か仕事で、ミスでもしたかな? 一通り、問題なく終えたはずだけど――。
私はすぐに、リリーシャさんの元に向かう。
リリーシャさんは、私の前に立つと、じっと見つめて来た。とても、真剣な表情をしている。いつもと雰囲気が違い、普通の話ではないと、すぐに予想が付いた。
「ツバサちゃんに聴いたわ。風歌ちゃんに、一年前の事故について話したと……」
あぁ――やっぱり、そのことか。いずれ話があるとは、思っていたけど。こんなに早くとは、考えていなかった。まぁ、ツバサさんとは仲がいいし、当然、話が伝わるよね。
「だいたいは、聴きました……」
私は、少し緊張した声で返す。
「ごめんなさい、隠すつもりは無かったの。けれど、なかなか話すタイミングが、掴めなくて――」
「そんな、謝らないでください。もし、逆の立場だったら、私も同じだったと思います。出会ったばかりの相手に、簡単に話せる内容じゃないですし。相手に、心配を掛けたくありませんから」
いずれ話すにしても、相当タイミングを選ぶよね。私は、隠し事が苦手だから、こういう問題を抱えていたら、きっと毎日、悶々としてるだろうと思う……。
「私が、風歌ちゃんと出会う前の話も、聴いたかしら?」
「軽くですが、休業していたとか――」
ツバサさんから話を聴いた時は、ショックが大きくて、あまり詳しく、質問する余裕がなかった。
でも、気持ちがある程度、落ちついた今は、もっと深く、リリーシャさんの事情を知りたいと思う。もちろん、好奇心などではなく、純粋に力になりたいからだ。
でも、どこまで訊いて、いいのだろうか? リリーシャさんが、私に話し辛いように、私も物凄く訊きづらい内容だった。変に傷をえぐったりしたくないし。誰にだって、触れて欲しくない過去は、あると思うから。
リリーシャさんは、しばし目をつぶって沈黙したあと、ゆっくり口を開いた。
「私は、母が大好きだったの。母親として、一人の女性として、シルフィードとして。全てにおいて、世界で一番の存在だった。だから私は、子供のころから、母の背を追い掛け続けてきたの。シルフィードになったのも、母の影響だから」
リリーシャさんの言葉を聴いていると、どれだけアリーシャさんが、大好きだったのか、ヒシヒシと伝わって来る。
愛情・尊敬・憧れが入り混じった、とても大好きな気持ち。でも、凄くよく分かる。だって、私がリリーシャさんに抱いている感情に、とても似ているから。
「本当に、素敵な方だったんですね、アリーシャさんは」
できれば、直接、会ってみたかった。私が憧れるリリーシャさんが『世界一』と評価するぐらいだから、どれだけ凄かったんだろうか?
ただでさえ『伝説のシルフィード』と、言われている人だ。私には、雲の上の人すぎて、全く想像がつかない。
「私にとって、全ての理想であり、目標だったの。だから、常に母の背を追い掛け、あらゆることを真似して。でも、あの事故で、突然いなくなってしまった……。これからも、ずっと一緒だと思っていたのに――」
初めて見る、リリーシャさんの、悲しそうな表情。胸がギュッと、締め付けられる。私は掛けるべき言葉が、何も見つからなかった。
「私は、母を失うと同時に、全てを失ってしまったの。進むべき道も、生きる目標も、シルフィードを続ける意味すらも……」
目標にしていた人が、突然いなくなるって、どれだけ辛いことだろうか? 私にとっては、リリーシャさんが、いなくなるのと同じことだ。私なら、絶対に耐えられないし、二度と立ち直れないかもしれない。
「私は、母を失って、初めて分かったの。自分には、何もないことが。目的も進むべき道も、全て母の真似をしていただけだって。だから、あの事故以来、私は前に進めなくなってしまったの――」
その悲痛な声は、リリーシャさんの内にため込んでいた、本音なんだと思う。それでも、周りの人に心配を掛けまいと、必死に明るく、笑顔で振るまっていたのだろう。
「そんな……そんな、悲しいこと言わないでください。何もないだなんて。リリーシャさんは、色んな物を持っていますよ。それに、今もこうして会社を経営して、前に進んでいるじゃないですか」
リリーシャさんが、何もないなんて言ったら、何一つない私なんて、どうなっちゃうの? それに、まだ十代なのに、会社の経営者だし、シルフィード・プリンセスの階級まで持っている。こんなに持っている十代なんて、そうそういないよね。
「でも、私は、シルフィードを引退して、会社も閉めてしまおうと思っていたの。辛うじて、踏みとどまったのは、母の遺志を継ぐため。結局、今も、母の背を追い掛けているに過ぎないの。きっと、これからも、ずっと――」
「憧れの人の、背中を追うことの、何が悪いんですか?」
私は思わず、語気を荒げてしまった。だって、誰かの背中を追うのって、悪いことじゃないじゃん? 憧れるからこそ、必死に頑張れるんじゃないの?
うつむいていたリリーシャさんは、顔を上げる。
「私だって、追いかけ続けていますよ。リリーシャさんの背中を。これからも、ずっと、ずっと」
「……母ではなく、私のことを――?」
リリーシャさんは、不思議そうな表情で、私を見つめてきた。
「アリーシャさんが、凄い人だったことは聴いています。でも、直接、見たことも話したこともないので、正直よく分からないです。だから、私にとっての世界一は、今までも、これから先も、リリーシャさん、ただ一人ですから!」
私の発言のあと、しばらく沈黙が訪れた。勢いで言ってしまったけど、急に恥ずかしくなって、顔が熱くなる。
って、私なに言ってんのよ? リリーシャさんは、凄い人だってことを、言いたかっただけなのに。なんか超恥ずかしいセリフを、自信満々に言っちゃったんですけど……。
リリーシャさん、間違いなく引いたよね? あぁっ、今の聞かなかったことにして欲しい――。
彼女は、驚いた表情を浮かべたあと、少し照れたような笑みを浮かべた。
「私なんか追い掛けても、何も見つからないわよ」
「いいえ、きっと見つかります。いや、絶対に見つけてみせます!」
私にとって、リリーシャさんは、最高のシルフィードだし、ずっとついて行くって、決めてるもん。過去に何があったかなんて、全然、関係ないよ。
リリーシャさんは、音をたてずに前に歩みを進めると、私の背中に両腕を回した。突然の出来事に驚いて、体が強張ったが、すぐにスーッと力が抜ける。
まるで、天使の羽にでも包まれたかのような、フワッとした、柔らかさと温かさに包まれたからだ。私は目を閉じ、そのぬくもりに身を預ける。
「風歌ちゃん、本当にありがとう。日々楽しく、仕事が出来ているのは、風歌ちゃんのお蔭よ。もしかしたら、母が私たちを、引き合わせてくれたのかもしれないわね」
「……かもしれないですね。私もリリーシャさんのお蔭で、毎日とても幸せですよ」
本当に、アリーシャさんが、導いてくれたのかもしれない。アリーシャさんの命日に家出して、その数日後に、リリーシャさんと出会ったのだから。
偶然にしては、あまりにも出来過ぎだもん。運命は、あまり信じないほうだけど、この素敵な出会いだけは、運命だと信じたい。
「ごめんなさい、重い話をしてしまって。立派で頼りになる先輩を、演じていたかったのだけれど。私は、母ほど優秀じゃないし、強くもないの」
「全然、平気ですよ、これぐらい。いくらでも、愚痴を言ってもらって、構いませんし。どんどん頼ってください。って、ど新人の私に言われても、嬉しくないですよね」
いつも頼ってるのは、私のほうなのに。なに生意気なこと、言ってるんだろ――。
「いいえ、とても嬉しいわ。これからは、色々頼ってしまうかも」
「はい、何でも言ってください。どーんと、受け止めますから!」
私とリリーシャさんは、ゆっくり離れ、お互いの顔を見合わせると、クスクス笑った。
まだ、全てじゃないけど、リリーシャさんの、抱えていることが見えて来た。あと、リリーシャさんの、考え方や性格も。
私から見れば、リリーシャさんだって、雲の上の人みたいな存在だ。でも、本人は、全然そんなふうに思っていない。母親が偉大過ぎたせいか、かなり過小評価してる気がする。
それに、いくら会社を経営していたり、上位階級にいると言っても、一人の人間だ。誰にだって、悩みやコンプレックスはあるし、心の弱さは持っている。心の内は、普通の人と同じなのだと分かったら、少し距離が縮まった気がした。
それでも、やっぱり私にとって、リリーシャさんは憧れの人だ。ずっと背中を追い続けて行くし、いつかは同じレベルに、到達したい。ただ、これからは、追い掛けるだけでなく、ちゃんと支えられる存在に、なりたいと思う。
弱かったり不完全な部分は、お互いに、補い合えばいいのだから……。
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次回――
『巨大なホットケーキに思いっ切り飛び込んでみたい』
ケーキがあるところに希望がある。そしていつもケーキがある。
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