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アレの行方と子爵家の判断②
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チェリーSide
お父様は眉間に皺を寄せ、私をじっと見たまま、とんでもない事を口にしたのだ。
「スペンサー伯爵家に1000万の慰謝料を支払うこと。それもチェリー自身の稼ぎでとのご希望だ」
い、いっせんまん?!
それってあのストロベリーピンクの髪を作るのにかかったお金はと同じくらいよ?!
そんなお金、あたしが持ってるわけないじゃない!!
「どうして?!」
「それだけスペンサー伯爵家へ迷惑をかけたって事だよ」
「たかが婚約破棄で?!」
「学院主催とはいえ、パーティーは公の場だ。大勢の人間の前で婚約破棄を言い渡されたスペンサー伯爵令嬢は、名誉と心を傷つけられた。もし、チェリーが伯爵令嬢の立場だったらどう思う?」
お父様の質問にあたしは考えた。
信じていたロラン様に裏切られ、たくさんの人の前で断罪され捨てられる自分を思い浮かべた……。
「……嫌です……めちゃくちゃ泣いて怒ります、そして捨てないでって……」
自分で言っててすごく情けなくなってきた。
いくら両思いになれて浮かれてたからって、あたしは何をしていたんだろうと。
泣き言ひとつ言わず、表情すら変えずにあたしとロラン様に向き合っていたメアリー様を思い出す。
あの方はどんな気持ちだったのだろうか。
「そうだね。少しはスペンサー伯爵令嬢の気持ちが分かったかい?」
「うん……でも1000万は高いよ……」
「それはね、おふたりの結婚式準備がかなり進んでいたから、キャンセルするためにたくさんのお金がかかるんだよ」
そういえば卒業したらすぐに結婚式だから、早く婚約破棄したいんだってロラン様はおっしゃっていたなぁ。
それをキャンセルってかなり大変じゃないの!と今更ながらあたしのした事の重大さが実感される。
いや、1000万なんて具体的な数字が出てきたら嫌でも想像つくもの。
「お父様はあたしを助けてくれないの?」
「隠し事をしてなければ助けたかもしれないなぁ……でも、お父様との約束を破ったからな、チェリーは……」
あああああ……?!
こんな事なら先に話をしておけばよかった!!
1000万なんてひとりで稼げないよ、どうしよう!?
「あなた、そのくらいにしてあげたら?」
「クレア」
「お母様!」
焼きたてのパンが入った籠を手にお母様が食堂に入ってきて、あたしは助かった!と思った。
「チェリーが正直に話してくれなかったから拗ねてるのよ、お父様は」
「……ごめんなさい……」
「どうして隠してたの?」
「お父様とお母様をビックリさせようと……こんな騒ぎになるなんて思わなかったの」
それは、親の責任ね……とお母様は口を開く。
「私たちがあなたに貴族とは何かを教えなかったのが原因なのよね」
「叙爵して10年、私もクレアもほとんど社交界に出てなかったしな」
いつの間にかお父様の怒りは消え、しょんぼりとしていた。そんなお父様に寄り添うお母様。
あたしの夢はこの両親のように愛し愛される結婚をする事だったのに、気がついたら変な方向へ行ってしまった。
少なくともロラン様とはこんな関係は築けそうにないってのは分かった。あの人、本当に自分の事しか考えないバカだったし。
「あたし学院辞めて働く。それで慰謝料返していくよ」
「学院は辞めなくていい。チェリーは私に似て面白い発想をする。それを活かして商品開発でもしてみるか?」
「え?商品開発って……」
話を続けようとしたら「失礼いたします」と声がした。
通いの女中さんであるバーバラさんが来てくれたらしい。
なにやら箱を携えて。
「おはようございます、旦那様、奥様、お嬢様」
「おはよう、バーバラ。その箱はなんだい?」
「こちらはお嬢様にお渡しするよう、門の前で頼まれました」
「あたしに?」
あたしは箱を受け取って開けてみた。
中には無くしたはずのストロベリーピンクの髪が入っていたの!
ちょっとボサボサになっていたけど、壊れていなかった!
「あたしのピンクちゃん!よかったー!」
今日も学院へ探しに行こうと思っていたので、見つかってすごく嬉しい!
思わず箱ごと抱きしめてしまったわ!
「これはどなたに頼まれたのですか、バーバラ?」
「初老の男性ですが、名前も家も告げずに行ってしまわれたのです」
「なんだ……お礼をしたかったのに……」
でも、まずは見つかった事を喜ぼうっと。
「それはチェリーお気に入りのカツラだね」
「はい!あたしが自信もって外へ出るための大切なアイテムなのよ!」
「それを売ってみないか?」
「へっ?」
何の冗談かと思ったけれどお父様の顔は笑っていなかった。
さっきみたいに怒ってるからじゃなくて、研究に打ち込んでいる時のお父様の顔だ。
「実はね、チェリーのカツラを試作していた時に言われていたんだよ。気分で髪の色や髪型を簡単に変えられたら、オシャレの幅が広がるのにねって」
お父様の提案にあたしはビックリしたの。
これと同じものを作って売るなんて、考えた事もなかったから。
「気分で変える……簡単に変える……」
あたしがこのストロベリーピンクの髪に勇気と自信をもらったように、誰かの背中を押すことができれば素敵かもしれない。
「それと、私の研究に協力している紳士の皆さんも、こういうのがあるって聞いたらぜひ欲しい!って。チェリーが参加してくれるならもちろん報酬は払うよ。むしろみんな喜んで資金出してくれるんじゃないかな?」
「本当に?お父様のお役にも立てる?」
「そうだね、みんなが喜んでくれると思うよ」
「あら、これで慰謝料を払う目処も立ちそうね。さすがわたしの旦那様と娘ね!」
お母様はニコニコしながら、パンをお皿に乗せてくれる。バーバラはいつの間にかスープをよそってくれていた。
テーブルにはパンにスープ、サラダ、スクランブルエッグにカリカリベーコンが並んでいるの。どれも美味しそう!
「チェリーは今日学院は休みだな?私も休みだからさっきの話を具体的に企画書として作ってみようか」
「うん!やります!」
「じゃあその前に朝ご飯にしようか」
「「「いただきます!」」」
それからあたしは朝ご飯をたっぷりといただき、お父様と商品の企画書作りをして1日過ごしたのよ。
すごく楽しくて、新しいアイディアもいっぱい出て、ずっとワクワクしてた。
もしも、この企画が形になったらあたしはもう少し自分に自信が持てるかも知れない。
ストロベリーピンクの髪は宝物だし、自信をくれるアイテムだったけど、これ無しで堂々と表を歩けるようになれたら……いいなと今は思ってる。
でも、わざわざ箱に入れてあたしのピンクちゃんを届けてくれた方は誰だったのかしら?
お父様は眉間に皺を寄せ、私をじっと見たまま、とんでもない事を口にしたのだ。
「スペンサー伯爵家に1000万の慰謝料を支払うこと。それもチェリー自身の稼ぎでとのご希望だ」
い、いっせんまん?!
それってあのストロベリーピンクの髪を作るのにかかったお金はと同じくらいよ?!
そんなお金、あたしが持ってるわけないじゃない!!
「どうして?!」
「それだけスペンサー伯爵家へ迷惑をかけたって事だよ」
「たかが婚約破棄で?!」
「学院主催とはいえ、パーティーは公の場だ。大勢の人間の前で婚約破棄を言い渡されたスペンサー伯爵令嬢は、名誉と心を傷つけられた。もし、チェリーが伯爵令嬢の立場だったらどう思う?」
お父様の質問にあたしは考えた。
信じていたロラン様に裏切られ、たくさんの人の前で断罪され捨てられる自分を思い浮かべた……。
「……嫌です……めちゃくちゃ泣いて怒ります、そして捨てないでって……」
自分で言っててすごく情けなくなってきた。
いくら両思いになれて浮かれてたからって、あたしは何をしていたんだろうと。
泣き言ひとつ言わず、表情すら変えずにあたしとロラン様に向き合っていたメアリー様を思い出す。
あの方はどんな気持ちだったのだろうか。
「そうだね。少しはスペンサー伯爵令嬢の気持ちが分かったかい?」
「うん……でも1000万は高いよ……」
「それはね、おふたりの結婚式準備がかなり進んでいたから、キャンセルするためにたくさんのお金がかかるんだよ」
そういえば卒業したらすぐに結婚式だから、早く婚約破棄したいんだってロラン様はおっしゃっていたなぁ。
それをキャンセルってかなり大変じゃないの!と今更ながらあたしのした事の重大さが実感される。
いや、1000万なんて具体的な数字が出てきたら嫌でも想像つくもの。
「お父様はあたしを助けてくれないの?」
「隠し事をしてなければ助けたかもしれないなぁ……でも、お父様との約束を破ったからな、チェリーは……」
あああああ……?!
こんな事なら先に話をしておけばよかった!!
1000万なんてひとりで稼げないよ、どうしよう!?
「あなた、そのくらいにしてあげたら?」
「クレア」
「お母様!」
焼きたてのパンが入った籠を手にお母様が食堂に入ってきて、あたしは助かった!と思った。
「チェリーが正直に話してくれなかったから拗ねてるのよ、お父様は」
「……ごめんなさい……」
「どうして隠してたの?」
「お父様とお母様をビックリさせようと……こんな騒ぎになるなんて思わなかったの」
それは、親の責任ね……とお母様は口を開く。
「私たちがあなたに貴族とは何かを教えなかったのが原因なのよね」
「叙爵して10年、私もクレアもほとんど社交界に出てなかったしな」
いつの間にかお父様の怒りは消え、しょんぼりとしていた。そんなお父様に寄り添うお母様。
あたしの夢はこの両親のように愛し愛される結婚をする事だったのに、気がついたら変な方向へ行ってしまった。
少なくともロラン様とはこんな関係は築けそうにないってのは分かった。あの人、本当に自分の事しか考えないバカだったし。
「あたし学院辞めて働く。それで慰謝料返していくよ」
「学院は辞めなくていい。チェリーは私に似て面白い発想をする。それを活かして商品開発でもしてみるか?」
「え?商品開発って……」
話を続けようとしたら「失礼いたします」と声がした。
通いの女中さんであるバーバラさんが来てくれたらしい。
なにやら箱を携えて。
「おはようございます、旦那様、奥様、お嬢様」
「おはよう、バーバラ。その箱はなんだい?」
「こちらはお嬢様にお渡しするよう、門の前で頼まれました」
「あたしに?」
あたしは箱を受け取って開けてみた。
中には無くしたはずのストロベリーピンクの髪が入っていたの!
ちょっとボサボサになっていたけど、壊れていなかった!
「あたしのピンクちゃん!よかったー!」
今日も学院へ探しに行こうと思っていたので、見つかってすごく嬉しい!
思わず箱ごと抱きしめてしまったわ!
「これはどなたに頼まれたのですか、バーバラ?」
「初老の男性ですが、名前も家も告げずに行ってしまわれたのです」
「なんだ……お礼をしたかったのに……」
でも、まずは見つかった事を喜ぼうっと。
「それはチェリーお気に入りのカツラだね」
「はい!あたしが自信もって外へ出るための大切なアイテムなのよ!」
「それを売ってみないか?」
「へっ?」
何の冗談かと思ったけれどお父様の顔は笑っていなかった。
さっきみたいに怒ってるからじゃなくて、研究に打ち込んでいる時のお父様の顔だ。
「実はね、チェリーのカツラを試作していた時に言われていたんだよ。気分で髪の色や髪型を簡単に変えられたら、オシャレの幅が広がるのにねって」
お父様の提案にあたしはビックリしたの。
これと同じものを作って売るなんて、考えた事もなかったから。
「気分で変える……簡単に変える……」
あたしがこのストロベリーピンクの髪に勇気と自信をもらったように、誰かの背中を押すことができれば素敵かもしれない。
「それと、私の研究に協力している紳士の皆さんも、こういうのがあるって聞いたらぜひ欲しい!って。チェリーが参加してくれるならもちろん報酬は払うよ。むしろみんな喜んで資金出してくれるんじゃないかな?」
「本当に?お父様のお役にも立てる?」
「そうだね、みんなが喜んでくれると思うよ」
「あら、これで慰謝料を払う目処も立ちそうね。さすがわたしの旦那様と娘ね!」
お母様はニコニコしながら、パンをお皿に乗せてくれる。バーバラはいつの間にかスープをよそってくれていた。
テーブルにはパンにスープ、サラダ、スクランブルエッグにカリカリベーコンが並んでいるの。どれも美味しそう!
「チェリーは今日学院は休みだな?私も休みだからさっきの話を具体的に企画書として作ってみようか」
「うん!やります!」
「じゃあその前に朝ご飯にしようか」
「「「いただきます!」」」
それからあたしは朝ご飯をたっぷりといただき、お父様と商品の企画書作りをして1日過ごしたのよ。
すごく楽しくて、新しいアイディアもいっぱい出て、ずっとワクワクしてた。
もしも、この企画が形になったらあたしはもう少し自分に自信が持てるかも知れない。
ストロベリーピンクの髪は宝物だし、自信をくれるアイテムだったけど、これ無しで堂々と表を歩けるようになれたら……いいなと今は思ってる。
でも、わざわざ箱に入れてあたしのピンクちゃんを届けてくれた方は誰だったのかしら?
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