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アレの行方と子爵家の判断①

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チェリーSide

あの後、どれだけ探しても、私のお気に入りのストロベリーピンクの髪は見つからなかったの。

「どこに行ったのよ、あたしのピンクちゃーん!」

あれがないとあたしのコーディネートは完成しない!
完璧でない私は恥ずかしくて会場には戻れないから、ひとり馬車に乗って帰宅したのだった。


お父様とお母様に見つからないようにこっそりと自室に戻り、ベッドへとダイブする。

ぶおん、と思い切り体が跳ねる。
あー!最高!この感触!
お貴族様のベッドは物がいいよね!


でも、すぐに気持ちは沈んでしまった。


なんでこうなっちゃったのかなあ……今頃はジュリー様とファーストダンスを踊っていたはずだったのに。

やっぱり証拠もないのに伯爵令嬢を罪に落とすなんてするからだよね。


それに。
あたしのような貧相な女、モテないし。


ベッドから起き上がり、近くにある姿見に映る自分を見て、あたしはため息をついた。

平凡な顔立ち。
栗色の波打つ髪。
見事な幼児体型。

そんな自分が嫌いだった。

お父様もお母様も私を可愛い、愛してるって言ってくれるけれど、社交界には美しい人が山のようにいる。

その中で結婚相手を見つけるには、こんな自分は無理だと分かっていた。


せめて髪の色を変えて……って思ったけど、一度髪の色を抜いて、改めて染めて……と大変だったし、地毛が痛むからやめなさい!とお母様に泣かれて諦めた。

そこで思いついたのが、理想の髪を自分で作ればいい!というものだった。

物心ついた頃からピンクが好きで、時々夢に出てくるチェリーピンクのふわふわした長い髪の女の子に憧れていた。

あれを再現したかった。

お父様の研究は色々な人の役に立っているらしくて、お金はいっぱいある。
お父様に話してみたら、面白そうだからやってみなさいと大賛成されたわ。

そして時間をかけて100回くらい試作を重ねて作ったのが、あのストロベリーピンクの髪だったのよ。

あの髪が出来て、初めて着けた時、世界が変わったと思った。
頑張れば私も可愛くなれるって。
だからストロベリーピンクの髪に合わせてメイクも着こなしも頑張った。


なのに……あんなにたくさんの人の前で、偽物の髪だってバレてしまった……!


もう、お終いだわ……。
学院に行きたくない。
みんなに笑われちゃう。


それに派手に転げ落ちた時、誰も助けに来てくれなかったのもショックだった。

本で読んだモテ術を駆使して男の子と仲良くなれるように努力したのに、心配する声すらかからなかった。

本当の自分を隠して偽物の髪で誤魔化すような人間だって知られちゃったから、誰も結婚相手として見てくれないよね。

あれだけ愛を囁いてくれたジュリー様だって、駆け寄ってもくれなかった。
きっと呆れていたんだろうな。


悶々と頭の中で悩み続けていたら、一睡もできなかった。



コンコンコン



「チェリー、起きてる?」

お母様の声だ。
もう朝ご飯の時間になっちゃったの?

「はい!起きてます!」
「それなら良かったわ、ご飯にしましょう」
「分かりました、すぐ行きます!」

我が家は使用人はみんな通いだ。
お父様が研究を邪魔されるのが嫌なので、必要最低限しかいない。
なので朝ご飯はお母様がいつも作っているのだ。

慌てて着替えて食堂に行くと、すでにお父様が椅子に座って手紙を読んでいたの。

「おはようございます、お父様」
「チェリー、おはよう。少し話がある」
「はい」

あたしは自分の席に座って、お父様の話を待つことにした。

「スペンサー伯爵家から手紙が来ているのだが」

読んでいた手紙から目を離し、あたしの顔を見つめながらお父様は話し始めた。


「手紙によると、チェリーがスペンサー伯爵令嬢の婚約者であるクライシス侯爵令息と恋仲になった上、令息と一緒になって伯爵令嬢に婚約破棄を突きつけた……というのは事実なのか?」

……うっ、ゆうべの事がもうお父様に回ってる!
何で?何で?

「チェリー、我が家の約束事はなんだい?」
「……嘘も隠し事もいたしません」

私が誦じたのは、貴族の身分になる前からしていた親子の約束。
だから、恋の相談も両親にしていたのだ。


「お前が以前、そのうち彼氏を紹介すると言った相手はクライシス侯爵令息で間違いないか?」
「間違い、ありません」

両親にはジュリー様の事は侯爵令息である事は言わずに彼氏ができたの!と話していた。ジュリー様を紹介する時に正体を明かして驚かせよう、喜ばせようと思ったから。

「恋をすること自体はいい。だが、チェリーはやってはいけない事をした」
「……」
「婚約者のいる男性に恋をし、略奪した上に婚約者を貶める言動を取るのは貴族籍にいる以上、1番やってはいけない事だ」
「ジュリー様は大丈夫だとおっしゃったので……」

お父様の眉間に深いシワが寄る。

「それを鵜呑みにして、一緒になって伯爵令嬢を貶めたのか……」
「だって、ジュリー様と結婚するにはメアリー様と婚約破棄しないとならないでしょ」
「それを伯爵より身分が下の子爵令嬢であるチェリーが言う資格はない、違うか?」

目つきがだんだん鋭くなっていくお父様。
手にされている手紙を握りつぶしちゃってる!
怒ってる、怒ってる……怖い……!

「先に婚約解消をしてからお付き合いをすれば、ここまで怒らなかったがな……なぜ、相手が侯爵令息だと言わなかった?」
「お父様とお母様を驚かせようと思って……」
「ああ、驚いているよ……別の意味でね……!」

どうしよう!どうしよう!

こんなに怒っているお父様、初めて見る。
なんか知らないけど、体が震えて止まらない……ダラダラと背中に汗をかいてる……。

私、そんなにいけない事をしたの?
好きな人と結婚したいからジュリー様を信じただけなのに?!

「で、続きだが、スペンサー伯爵令嬢とクライシス侯爵令息の婚約はなかった事にするそうだ」
「え!本当に?!」

あの人とジュリー様の婚約が無くなったなんて!ラッキー!
じゃあ、あたしはジュリー様と婚約できるの?!

「しかしだ、貴族同士の約束を破る原因になったチェリーにはそれなりの罰を与えないといけない、と書かれている」
「ば、罰……どうして?」
「庶民のように惚れたはれたで済むほど、貴族の婚約は甘くないって事だ……」


ええええええええ?!
罰って、罰って、あたし何されるの?!
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