筋肉少女まりあ★マッスル 全力全開!

謎の人

文字の大きさ
上 下
55 / 70
3話 すずの鬱屈

すずの理由

しおりを挟む
 
 
 まりあとしぐれは、揃って肩を跳ね上げる。

 屋上の入り口から、十文字鈴がこちらを見つめていた。

 鋭利な刃物を思わせる眼差しがまりあとしぐれを射抜き、次いでかがみんに差し向けられる。


「君がボクをこの学校へ呼んだんだ。なのに、敵と仲良く作戦会議とはどういう了見?」
「これが仲良く見えるのかい、鈴?」


 名を呼ばれ、鈴は途端に眉間に皺を寄せる。


「その名前で呼ばないで。ボクの名はクロイツ・フォン・グランド・ベル」
「ああ、ごめんよ。ベル」
「なんでそんなに拘って……。あっ」


 まりあがどうでもいいことに引っかかっている間に、かがみんはするりとまりあの手から逃げ出した。


「僕は彼女たちに拷問されていたんだ。君のこと話してしまったのは仕方のないことだよ、鈴」
「そういうのはボクが君を慰める時に言うセリフ。……あと名前」
「ああ、すまない。君は本当に自分の名前が嫌いなんだね、ベル」
「知ってるでしょ、ずっと一緒にいるんだから」


 気の置けないやり取りを交わしながら、かがみんは鈴のもとへ。

 まるでそこが定位置と決まっているかのように、右肩の上に飛び乗って、頬ずりをした。

 一人と一匹の仲睦まじいその光景が、まりあには解せない。


「どうして?」
「何が?」
「あなたも魔法少女なんでしょう?」
「魔法少女じゃない、魔術師」
「その拘りは別にいいけど……。とにかく、私たち魔法少女は、かがみんに騙されて魔女退治に利用されているんだよ? そうと知ってて、それと一緒にいるのは何故?」


 まりあの疑問に、鈴はまるで咎めるような警告を返す。


「……言葉に気を付けた方がいい。ボクの家族をそれ呼ばわりしないで」
「か、家族?」


 驚きを隠せないまりあに見せつけるように、鈴はかがみんの頭を優しく撫でた。

 まるで羨ましくない、どころかより不信感が募る。


「でもそいつは!」
「騙されてもいい、利用されても構わない。誰よりも親身にボクを迎え入れてくれたのは、かがみんだけだから。だからこの子だけが、ボクの家族」


 起伏の乏しい表情の中に、ほんのりとした親愛が垣間見えた気がした。

 まりあの中で疑問がひとつ融解する。

 十文字鈴は最強とまで称されるほどの力を持ちながら、何故かがみんに利用され続けているのか。

 呼びつけられて素直に応じるだなんて変だ、
 何か弱みを握られているのかも知れない。

 もし、それを解決する手助けができたなら、あるいは……。

 そんな打算的な希望観測は脆くも崩れ去った。

 他ならぬ彼女自身が、望むままにかがみんに協力している。

 かがみんの言う通り、付け入る隙はなかった。


「これで分かっただろう、まりあ。君に逃げ場はない。今度こそ終わりだよ」
「くっ……」


 状況は最悪だ。

 まりあの手元にはプロテインがない。

 仮に魔法少女へ変身できたとしても、昨日の二の舞だ。

 絶望とともに募る無力感が手足を重く鈍らせる。

 勝てる見込みのない相手と向き合わなければいけないことが、想像を絶するほど辛く苦しいことを、まりあは今初めて知った。

 身構えるまりあを睥睨し、鈴は静かに口を開いた。


「そんなに怯えなくていい。もう君とは戦わない」
「え……?」
「もう興味がないっていうこと。かがみんがもの凄く強いっていうから楽しみにしてたのに、期待外れ」


 向けられる瞳に浮かぶのは、かがみんのような嫌味ではなく、純粋な失望。

 吐き出されたため息の深さが、何よりも鮮烈にまりあの心を傷つけた。


「勝手に期待して、無理やり勝負して、そんな言い草……っ」


 わなわなと握った拳を震わせるまりあを完全に無視して、鈴はしぐれに興味を移す。


「君は? 強いの?」
「ひぅっ、や、あのぅ……」


 途端に喉を引き攣らせたしぐれは、助けを求めてまりあの制服の裾を掴む。

 涙で潤ませた瞳を伏せ、必死で隠れようとする。

 そんな有様を前にして、鈴はうんざりした顔で言う。


「かがみんの嘘つき」
「嘘は言ってないよ、まりあは強敵だ。けれどベル。君の方がさらに強いだけさ。最初から分かっていたことだ、まりあは君に勝てないよ。しぐれに至っては論外だ。どうやら変身もできないみたいだし」
「そうみたい」
「他の魔法少女を紹介しようか?」
「強い?」
「暇潰しにはなるんじゃないかな」
「……。うん、行こう」


 鈴は、まりあたちに背を向けた。

 校舎内へ入って、階段を下りていく。 

 最後に、まりあの方を一瞥し、


「……」


 何も言うことなく、そのまま去って行った。


 キーン、コーン。

 授業開始のチャイムが無情に鳴り響く中、屋上に残された二人もまたしばらくの間無言で、何かしゃべる気になれなかった。
   
 
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

日本新世紀ー日本の変革から星間連合の中の地球へー

黄昏人
SF
現在の日本、ある地方大学の大学院生のPCが化けた! あらゆる質問に出してくるとんでもなくスマートで完璧な答え。この化けたPC“マドンナ”を使って、彼、誠司は核融合発電、超バッテリーとモーターによるあらゆるエンジンの電動化への変換、重力エンジン・レールガンの開発・実用化などを通じて日本の経済・政治状況及び国際的な立場を変革していく。 さらに、こうしたさまざまな変革を通じて、日本が主導する地球防衛軍は、巨大な星間帝国の侵略を跳ね返すことに成功する。その結果、地球人類はその星間帝国の圧政にあえいでいた多数の歴史ある星間国家の指導的立場になっていくことになる。 この中で、自らの進化の必要性を悟った人類は、地球連邦を成立させ、知能の向上、他星系への植民を含む地球人類全体の経済の底上げと格差の是正を進める。 さらには、マドンナと誠司を擁する地球連邦は、銀河全体の生物に迫る危機の解明、撃退法の構築、撃退を主導し、銀河のなかに確固たる地位を築いていくことになる。

処理中です...