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2話 しぐれの友愛
レッツ、トレーニング
しおりを挟む「いーちっ、にーっ」
季節は夏の終わり。
時刻は昼過ぎ。
住宅街にある『このはな公園』にて、少女の元気な掛け声が響いていた。
鉄棒にぶら下がり、熱気ある日差しの下で爽やかに汗を散らす小学生の少女がひとり、
まりあだ。
まりあは今、学校からの帰り道。
夏休み明けの今日は半日で授業が終了し、昼前に放課後となった。
「しぃっ、ごーっ」
このところすっかり筋力トレーニングに嵌っていたまりあは、ようやく外出禁止令が解けたのをいいことに、本格的なトレーニングを開始することにした。
とにかく気持ち良く汗を流したい。
燃え滾る筋肉への渇望は、求めるままにまりあの心を熱くを掻き立てる。
軽いジョギングで下校する道すがら、いつも通り過ぎるばかりの通学路横の公園に、今日は立ち寄っていく。
お目当ては、連なる遊具の片隅に設置された鉄棒。
「しーち、はぁちっ!」
やってみて分かったが、筋トレには筋肉に激しい負荷をかけるための様々な道具が必要不可欠だ。
朝、登校する時にいい具合の鉄棒を見かけて、目をつけていた。
父親のトレーニング本で学んだ懸垂のやり方を思い出しながら、鉄棒を握りしめ、二の腕に力を入れて小さな体を持ち上げる。
「きっ、ゅうー……っ、じゅうっ!」
苦しげな掛け声が十を数えると同時に、まりあは鉄棒を離して脱力した。
握力の限界だ、
酷使した両腕が休息を訴えかけるようにビクビクと痙攣を繰り返す。
ぜいっ、ぜいっ、と肩を大きく上下させ、足元をよろめかせながら、脇にどけておいた通学鞄のところへ。
「ちょ、ちょっと休憩……」
まりあは、鞄の中から白色のスクイズボトルを取り出す。
中身はもちろんお手製のプロテイン。
ごっ、ごっ、と喉を鳴らして勢いよく栄養を補給する。
「ぷはあっ」
実に豪快な飲みっぷり。
まりあは、景気の良い笑みを浮かべた。
どんなに苦しかろうと、トレーニングの後の飲料は気持ちが良い。最高だ。
渇いた喉を潤し、火照った身体の隅々まで駆け巡る清涼感は、何物にも勝る。
生きている実感を与えてくれる。
何より、
「ふふふ……」
まりあは腕捲りとともに肘を曲げ、ぐぐっと小さく盛り上がった上腕二頭筋を満足そうに撫でつけた。
日課となった腕立て伏せの効果だ。
むにむにと柔らかいだけのもっちりぷよぷよだった二の腕は、十日あまりで固く引き締まり始めた。
結果が目に見える形で現れる。
筋力トレーニングとは、実にやりがいを感じるものだ。
先の懸垂だってそう。
まりあの限界回数はまだ十回。されど十回だ。
「女の子のまりあなら、五回できれば大したもんじゃないか?」
とは、灯夜の弁だ。
それを考慮すれば、大躍進ではないだろうか。
少しずつではあるが、確かな成長を感じる。
一歩ずつ理想へ向かって近づいている。
灯夜が想定した通り、女の子のまりあが筋骨隆々の肉体を手に入れることは困難を極めるだろう。
無謀な挑戦であることは百も承知だ、だからこそ大いに滾る。
今はただ、胸の高鳴りに任せてどこまでも走り続けていきたい。
いつかの日か、魔法の力なしであの雄々しき姿になれるその時まで、胸の内で燃え盛る情熱の炎が消えることはない。
「ようしっ。お家に帰って腕立て伏せだー。プロテインだー。やーいっ!」
まりあは両手を天高く突き上げ、元気よく走り出した。
その時だった。
「―――やめてっ!」
「……っ! え?」
逼迫した叫び声が耳に届き、まりあはびっくりして足を止めた。
見れば、公園中央にある砂場の辺りで、四人の少女が言い争いをしている。
いや、そうではない。
気弱そうに三つ編みを揺らす少女を取り囲んで、残りの三人は大いににやついている。
いじめだ。
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