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2話 しぐれの友愛
いじめ
しおりを挟む「お願い、はなしてあげて!」
「あはは、嫌よ!」
三つ編みの悲痛な訴えを、周りの三人は面白がって嘲笑う。
特に、リーダーらしき巻き毛の少女が見せるそれは、およそ同じ年頃の女の子が見せる表情とは思えないほど、醜悪に歪んでいた。
彼女の右手にぶら下がっているのは、黒い毛並みの薄汚れた野良猫だ。
まだ体が小さいせいか、それとも衰弱しているのか。
巻き毛の手で荒々しく扱われても、ろくに抵抗する素振りを見せない。
痛ましい様をまざまざと見せつけられ、三つ編みの少女は堪らず巻き毛に掴みかかろうとする。
が、取り巻きの二人がそれを許さない。
ショートヘアで背の高い少女が三つ編みを羽交い絞めにして、小柄な方は眼鏡の奥の瞳を光らせ、隙なく三つ編みを睨みつける。
三対一だ、どう足掻いても戦力差は覆らない。
どこまでも無力な三つ編みは、されるがままの状況に悔し涙を浮かべる。
「どうしてこんなこと……っ」
「どうしてって、決まっているでしょう?野良猫や野良犬にエサを与えてはいけないのよ? そういうルールが決められているんだから。野良は見つけ次第、保健所に連れて行かないとね」
「やめてっ!」
そんなことになれば子猫がどうなるか、嫌でも想像がつく。
三つ編みは頭を振って、激しく取り乱した。
「そうじゃないっ、そうじゃなくって! だって別に、そんなことしなくたって、美羽ちゃんは困らないでしょう?」
「あたしが困るとか困らないとか。そういう問題じゃないの」
美羽と呼ばれた巻き毛の少女は、嫌味ったらしい笑みを深めて、
「いい? 野良にエサをやると繁殖してしまうでしょう? こういうのが増えれば増えるほど、人に害ある存在になる。みんなの迷惑になる。あんたの愚かさが誰かを傷つけるのよ。ねえ、そう思うでしょう。小咲、姫香?」
「そうだな」
「そうだね~」
ショートヘアの小咲がまず答えて、眼鏡の姫香が間延びした声で後に続く。
仲間内で得意げに披露される、美羽の主張。
聴衆する二人の仲間は、ただただ美羽の意見に賛同して褒め称えるように頷き合うばかり。
四面楚歌の中、それでも三つ編みは嘲り笑う三人を振り払うように金切り声を上げた。
「その子はわたしが飼うの! そのつもりで餌をあげていて! だから!」
「きゃははっ、そんなこと言ってぇ。あんたの家マンションじゃない。ペット禁止でしょう? くだらない嘘ついてんじゃないわよ」
「……っ」
なけなしの嘘もあっさりと看破され、もはやできることは何もない。
いくつもの瞳に残酷に見下されながら、三つ編みは震える声で問いかけた。
「そ、その子どうするつもりなの……?」
「さっきから言ってるでしょ? 保健所に連れて行くのよ。……でも、途中で逃げられたら困るし、少し大人しくさせましょうか」
攻撃の矛先が無防備な子猫に向けられるのを前にして、三つ編みは息を飲んだ。
「やめて! お願い、そんなことしないで!」
小咲の拘束を振りほどかんと、必死に身体を捩る。
「何よ、弱虫。あんたがこいつの代わりになるっていうのなら、少しくらい考えてやってもいいけど?」
美羽は、顎先で姫香に指示を送る。
姫香は、動けない三つ編みの腹部に容赦なく拳を打ち込んだ。
「う……っ」
三つ編みは、呻き声とともにその場に崩れ落ちる。
砂地に倒れ込んで、身体を丸くする。
痛い。
お腹が熱い。
吐き気が込み上げてくる。
呼吸を忘れるほどに恐怖を感じていた。
このままでは自分も、子猫も、どうなってしまうか分からない。
手足が震え、身体が竦み上がる。
たった一発だ。
それだけで三つ編みの心は砕けてしまった。
「おい」
「ひ……っ」
ただの呼び声にさえ怯え、後ずさってしまう。
あっさりと暴力に屈した弱虫を前にし、勝ち誇ったように美羽はせせら笑った。
「あらぁ? どうしたのかしら、縮こまっちゃって。こいつを見捨てる気? いいの? ……震えてないで何とか言いなさいよ!」
美羽は子猫を放り出し、代わりに三つ編みの毛先を掴んで、無理やり引っ張り立たせた。
「や、痛い……っ。……美羽ちゃん、お願い……。もう許してぇ……っ」
涙ながらに許しを請う三つ編み。
美羽は腹立たしげに舌を打つ。
虫けらを見下すように瞳を細め、侮蔑に顔を歪ませた。
「……ほんと、あんたって鬱陶しいわ。グズで、のろまで、弱虫で。なのに、大人しくしていることもできずに、あたしを苛立たせてばかり。生きてる価値ないんじゃない?」
美羽は、右手に拳を作る。
高く振り上げられた拳が、三つ編みの泣き顔めがけて打ち込まれる―――。
「やめなさい」
その刹那、まりあが間に割って入った。
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