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1話 まりあの恋慕
勝利の味
しおりを挟む「本当にいっちゃった……。まあいいか」
遠ざかる小さな背中を見送っていたのも束の間。まりあは、すぐに気持ちを切り替える。
あんな薄情者のことなどもうどうでもいい、今すぐにやりたいことがあった。
階段を駆け下り、父親の書斎に向かい、本棚の前に山積みされた雑誌に飛びつく。見栄で買ったに違いない筋力トレーニング本を引っ張り出して、床で広げて熱心に読み始める。
「なになに……『筋力をつけるために必要なのは、正しいトレーニングを継続的に続けること。タンパク質が多く含まれる牛乳や卵などを摂ることで、効率的に質の良い筋肉を身につけられます』か。ほほう……。『また、市販のプロテインを摂取するのも手軽で良いです』。……プロテインって、お姉ちゃんも飲んでたよね」
杏奈はモデルとしてのプロポーション維持のため、ダイエット目的でプロテインを利用していた。毎晩風呂上りにプロテインを一気飲みし、バランスボールの上に座るのが彼女の日課だ。
確か、換気扇横の戸棚にしまっていたはず。まりあはキッチンに飛んでいくと、椅子の上で背伸びをして戸を開け、手探りで目当ての物を探す。
「あ、あったこれこれ。ふうん、プロテインって粉なんだ。これを、じゃあせっかくだから牛乳で溶かして……。あとは、たまごたまご……。あ、切らしてる。もうっ」
知り得たばかりの知識を総動員して最高のプロテインを作ろうとするも、冷蔵庫の中に卵がない。
急ぎ部屋に戻って、財布の中身をひっくり返すが、入っていたのは十円玉三枚。
「くっ、これじゃあ買いに行けない……っ」
目覚めたばかりの情熱に燃える今のまりあに、中途半端な妥協は許されない。何かないか……。
視線を巡らせた先、ベッドの上に転がしておいた真っ黒な物体が目についた。〝魔女の卵〟だ。
かがみんの話に寄れば、ここから何かが生まれるのだとか。
「魔法の卵なんて栄養価高そうだよね……。よしっ」
お目当ての物を手に入れたまりあに、もはや迷いはなかった。
台所のシンクの角でコンコンと卵にヒビを入れ、パッカと中身をシェイカーの中へ落とす。黄身も白身も黒々とした、おどろおどろしい見た目に構うことなく、牛乳とプロテインを適量追加し、電動シェイカーのスイッチを入れ、三十秒。
「できた。んふふ。いただきます」
まりあは、にんまりと満足げに笑んだ。
左手を腰に添え、大口を開き、シェイカーの容器を傾ける。
「んぐっ、んぐっ、んぐ……っ」
口いっぱいに広がる爽やかに甘みと、するりと喉を落ちていく心地良さ。
後に残る濃厚な味わいが舌を潤し、凝縮された栄養が五臓六腑から染み出して身体の隅々へと広がっていく。
あまりの美味しさに、気づけば一気に飲み干していた。
「ぷはっ。おーいしーっ」
ぐいっと豪快に口元を拭う。
力漲る、勝利の味がした。
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