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わかっていてしたことですよね?

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「あのお二人の親子関係については、ずいぶん前から噂になっていたの。だからお相手が見つからなかったのでしょうね」

「お姉様知ってたの?だったらどうして婚約なんかしたのよ、あんな人と!」

「私が選んだと思う?婚約が決まったときには私、ここにはいなかったのに」

 そこに慌ただしい足音が近づいてきて、ドアが開いた。

「まあ、アリーチェ。その格好はどうしたの?」

「里帰りは良いが、ちゃんとお許しは頂いてきたんだろうな?」

 外出先から帰ったままの服装の両親――ノルベルトとヴィオラにアリーチェが食ってかかる。

「ひどいわ、あんな人と結婚させるなんてあんまりよ!」

 結婚生活の実態を娘から聞かされて、二人は顔色を赤へ青へとめまぐるしく変えた。

「ごめんなさいね、知らなかったのよ。知ってたら可愛いあなたをそんな気持ち悪いところに嫁がせたりなんかしないわ」

「そ、そうとも。知らなかったんだ」

「あら、ご存じでしたよね。少なくともあなたは」

 ルフィナがすました顔で指摘すると、母と娘の視線が一人に集中した。

「ち、違う。何を言うんだルフィナ」

「知ってたって……どこまで知ってたの、お父様!だったらどうして止めてくれなかったのよ!」

「止めたろう。聞かなかったのはお前じゃないか」

 アリーチェは再び子供のように泣き出した。

「過ぎたことをとやかく言っても仕方ないわ。どうにかして離縁できないの、あなた」

「爵位の差からいってもこちらからは難しいな……。数年我慢して子供が出来ないことを理由にすれば……」

「だめよ、そんなの。それじゃあまともに再婚できなくなってしまうじゃないの」

 紛糾する夫婦の間にルフィナが爆弾を投げ込む。
「それは無理だと思いますよ?だって、もうお腹に赤ちゃんがいますから。ね、アリーチェ」

「お姉様!」

 一瞬で青ざめた娘の顔色を見て、その両親も血の気がひいた。

「まさか隠しておくつもりだったの?ごめんなさい、つい魔法で診てしまって。
 でも隠しておけるものでもないでしょう?侯爵家の血をひいているのは確かなのだもの」

 侯爵家の血をひいた子供。夫婦らしいことがない夫婦。頭の中で矛盾がせめぎ合う混乱から、ノルベルトの方が先に戻ってきた。

「あの男か……!まさか、義理の娘にまで!」

「やっぱりあのこともご存じだったのですね」

 侯爵夫人とその息子の親子関係の歪みと同じく、侯爵家についてささやかれる噂がある。
 それは侯爵が女にだらしがないことだ。それも大貴族らしく美女に邸宅を与えて囲うというのではない。手近で済ませようとする。侯爵邸には表向き使用人扱いの愛人が何人もいるのだ。

「だから私にはちょうど良い縁談だと思われたのでしょう?

 高位貴族からの申し込みだから断れなかった。噂のことを知らずに良縁だと思った。そう言い訳して私をよそに嫁がせてアリーチェに婿を取って家を継がせることが出来る。そうお考えだったのでしょう?

 この子爵家が手に入り疎ましい相手が不幸になる。一挙両得ですものね?」

「……何のことだ」
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