それ、あなたのものではありませんよ?

いぬい たすく

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あなたが選んだことでしょう?

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「お義父様もお義母様も、わたしのほうがいいんですって。お姉様は可愛げがないものね」

 あからさまに勝ち誇ってみせるアリーチェをルフィナは静かな目で見返した。

「アリーチェ!お前、なんということを!
 閣下、娘はまだ世間のことをわきまえない子供なのです。どうか広いお心でお許し頂きたく……」

「ひどいわお父様。わたし、もう子供じゃないのよ。
 わたしがシルヴィオ様と結婚するの!お姉様じゃなくて」


 ルフィナ・カルリーニ子爵令嬢は、シルヴィオ・パウジーニ侯爵令息の婚約者だ。それが突然侯爵邸に呼び出されたと思えばこれである。

 父と娘の押し問答はすぐに決着が付いた。

「こちらとしてはどちらの令嬢であっても問題は無い。だが、アリーチェ嬢のほうが当家で上手くやれるだろうな」

「わたくしもそう思いますわ」

 侯爵夫妻がアリーチェを支持したのだ。こうなると家同士の力関係が物を言う。


 ごく短い婚約期間の後、アリーチェは満面の笑みで嫁いでいった。




「お姉様、なんとかして!」

 結婚式から半年後。カルリーニ子爵邸でくつろいでいたルフィナのもとに、嫁いだはずのアリーチェが押しかけてきた。

 仕立てこそ悪くはないが、あきらかに部屋着だ。髪も結っていなければ化粧気もない。婚家を無理に飛び出してきたらしい。

「あの家は皆おかしいのよ、狂ってるわ!」

 アリーチェは椅子をすすめられる前に座り込み、わんわんと泣きわめいた。切れ切れの泣き言を拾い集めると、どうやら夫婦仲が上手く行っていないようだ。

 結婚式を終えてから夫婦らしいことが全くない。初夜もすっぽかされた。妻のアリーチェは侯爵家の本邸に与えられた部屋に暮らし、夫のシルヴィオは別邸で暮らしている。

「まあ。……もしかして、もう愛人でもいるのかしら?」

「違うわよ、そんなのいないわ!……お義母様よ」



 寝室も食事も別。口をきくどころか顔も合わせない暮らしに耐えかねたアリーチェは、夫の暮らす別邸に押しかけた。
 すると、一続きになった部屋に夫とその母親が暮らしていて、夜は同じ寝室、同じベッドでやすんでいるのだと分かった。

「こんなのおかしいわ!まるで夫婦じゃないの!変よ、気持ち悪いわ!」

 頭に血が上ったアリーチェが義母に詰め寄ろうとすると

「母様をいじめるな!」

 夫に力いっぱい突き飛ばされた。倒れた妻から母親をかばうように立ちふさがる夫。そして息子の勇姿をうっとりと見つめる義母。そんな二人の姿に、アリーチェは床にへたりこんだまま放心していた。



「ねえ、アリーチェ。あなた、おかしいと思わなかったの?子爵家と侯爵家の縁組みだなんて」

「それは……言われてみたら、そうね……」

 ルフィナの婚約について聞いたとき、アリーチェはただただ羨ましかった。疑問など持たなかった。シルヴィオの繊細に整った容貌を目にして、面食いの彼女に火が付いた。

 ルフィナを口実に侯爵邸に入り浸り、張り切って公爵夫妻にも取り入った。肝心のシルヴィオの反応が薄いのは気に掛かったが、侯爵ははじめから好意的だったし、夫人が高位貴族としては珍しく自分で育児をしたことを褒めたたえ、理想の親子関係だと持ち上げて気に入られた。そして、アリーチェが選ばれたのだった。

 すっかりのぼせ上がっていたアリーチェも、熱が冷めた今となればこの縁談の不自然さが分かった。
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