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噛んだのです
しおりを挟むテデが治癒の魔法を使ってくれる。
ちいさな掌からあふれる緑の光が、リトの血塗れの身体を包みこんだ。
リトの身体の奥から、壊れゆく血の気配が消えてゆく。
アリアスが痛くなくしてくれた身体の奥から、やさしい治癒の力が満ちてゆく。
「くるしくない?」
やさしいテデに、しっぽがぽふぽふ揺れる。
「あい!」
ゲームや小説では光魔法で治癒できたりするけど、この世界では光魔法は浄化の力を持ってる。
治癒は、治癒魔法だ。治癒の才のある者だけが治癒士になれる。
テデは貴重な逸材なんだよ。
そんなテデが崇拝するジゼが、尊すぎる。
アリアスがリトの血を止めてくれたのは、主人公補正だと思うな!
「テデ、アリアスしゃま、ありあと、ござまし」
頭をさげたら、テデはうむうむ頷いて、アリアスはぶんぶん首を振った。
「僕のせいで酷い目に遭わせてごめんなさい──! テデさん、リトは大丈夫なんですか?」
「……獣人に魔力が存在すると聞いたことがないので、経過観察と対症療法でしょうか」
呟いたテデが、おじいちゃん魔導士を見あげる。
「ふむ、これは大変に希少な事例です、是非帝都学究院にて詳細な調査を──」
「ならぬ」
ジゼの氷の声が、遮った。
「じじさまの研究材料にはさせません。リトは次期筆頭侯爵たる私の従僕です」
ジゼが身分を振り翳すことなんて、今までなかった。
でも強権に対抗するために、掲げてくれる。
きっと、リトを、護るために。
「……ジゼしゃま」
血濡れることを厭わないジゼが、背を抱いてくれる。
「──リトを、守りたい」
ちいさな囁きが、ふわふわの耳に落ちる。
リトの頬が、燃えあがる。
「という訳でな、認可できぬ」
ルァルが手を振った。
おじいちゃん魔導士の白い眉が顰められる。
「……大変な損失ですぞ、ルァル殿下」
「今まで獣人に魔法の才が発現した記録がないのは、おそらく獣人の平均寿命が5歳だからだ。ジゼの報告を読んだのか」
冷たいルァルの目が、魔導士を刺した。
「……いえ」
「俺が認可しておらぬ巨大な闘技場兼劇場を帝都に建てる計画が、高位貴族どもの認可によって遂行されていてな、ジゼに実際を視察に行って貰ったら違法な獣人強制労働が発覚した。獣人は酷い強制労働で、5歳で殺される。処断したが、差別も強制労働も虐待も殺人も合法だと勘違いしている輩が多くて困っている」
ルァルの瞳が凍りつく。
「まさかお前まで差別主義者ではなかろうな」
「も、勿論でございます! わ、儂はただもう魔法の研究に専心したいだけで……!」
もこもこ眉毛の下で、おじいちゃんが泣いてる。
──それより、ルァルは処断って言った?
「あ、あの、あの……おそりぇなが、ら、はちゅ、げん……!」
噛んだ!
ぷるぷるしたルァルが、赤くなって笑いを堪えてる。
皆いつも『この子の通常運転だな』という生温かい目だったよ。
初めて『この子噛んだ!』をルァルが体現してくれたよ!
なんていい人なんだ!
うっとりルァルを見あげるリトに、ジゼの目が凍りつく。
「……リト?」
声も怖いです、ジゼしゃま!
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