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ありあとござまし
しおりを挟む楽し気に唇の端をあげたルァルが告げる。
「発言を許す。申せ、リト」
リトはきゅっと、ちいさな両の拳をにぎった。
「あ、あい! あ、あの、処断、あの、獣人、皆、たすけ、くれ、ましぁ……?」
潤む瞳で見あげたら、居住まいを正したルァルが、真っ直ぐリトの目を見つめる。
「たすけが遅くなって、すまなかった」
垂れられたこうべに、目を瞠る。
次期帝王が、獣人に、頭をさげた。
「ルァル殿下──!」
「なりません──!」
ノァとカィトの悲鳴を背に、深く頭をさげたままのルァルのつむじを茫然と見つめたリトの目から、涙があふれる。
「……死、だ、皆も……おきも、ち……き、と、よろこび、まし……ルァル、しゃま……ありぁと……ござまし……」
泣き崩れるリトを、伸びたルァルの手が支えた。
「生き残っていた獣人の皆は俺の直属部隊が保護し、孤児院に入ってもらった。皆、倒れて消えたリトを心配していた。次期侯爵の従僕となり元気にしていると告げてある」
微笑むルァルに、リトは深く、深く頭をさげる。
「ありあと、ござまし、ルァルしゃま……! ご恩、おかえし──」
ルァルはゆるく首を振った。
「遅くなったのを詫びるのは此方のほうだ」
「ルァルしゃま──!」
涙と鼻水でダラダラになるリトを厭うことなく、ほんのり赤い頬で抱きしめてくれようとするルァルの腕を、伸びたジゼの手が制した。
「御礼は言葉でよい、リト」
ジゼの言葉に、リトはあわあわ立ちあがる。
「ご、ごめなしぁ、ルァルしゃま、ふ、不敬、でしぁ、ありあと、ござまし──!」
次期帝王にふれることができるのは、認められた従僕と侍従、側近だけだ。
あわてて距離をとるリトに、舌打ちが聞こえた。
「チ」
「殿下、下品ですよ」
ふんと鼻を鳴らしたジゼが、涙でくしゃくしゃのリトを抱っこしてくれる。
「よく言えたな、リト」
「ジゼしゃま、よごれゆ……!」
「構わん」
頭を、ふわふわの耳を、もふもふのしっぽをなでなでなでなでしてくれるジゼの目が、とろけてる。
「……今の流れは、抱っこは俺の役だろう──! ずるいぞ、ジゼ──!」
ふんと鼻を鳴らすジゼと、悔し気に拳を握って叫ぶルァルに、ノァもカィトも仰け反った。
「る、ルァル殿下……?」
「ジゼ推しでは……?」
ふたりの見解が、彷徨ってる!
「衰弱していた皆も、そろそろ元気になった頃だろう。魔獣の討伐が終わったら会いに行こう」
「ありあと、ござまし!」
感激で頭をさげたら、ジゼの胸をふわふわの耳がくすぐった。
ジゼの耳がほんのり赤くなって、隣でルァルがぶすくれてる。
「獣人の仲間たちに会っても──俺の従僕でいてくれるか……?」
不安そうな蒼の瞳で覗きこまれたリトは、涙をぬぐって胸を張る。
「勿論でし! 僕、ジゼしゃま、従僕、終生、お仕え!」
ぶんぶん揺れるしっぽのリトを、ジゼがふうわり赤い頬で抱きしめてくれた。
「主役の俺が添え物だぞ! 納得いかん!」
おこなルァルも、大変かっこかわいー。
「僕、主人公じゃないのかなー、おかしいなー」
アリアスが遠い目になってる!
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