最愛の推しを殺すモブに転生したので、全力で救いたい！

決戦*

　開かれた次元の向こうに、ジァルデがいない。


「ジア！！」

　僕の悲鳴と、ゼドの悲鳴が、重なった。

　レトゥリアーレが、目を閉じる。



「ノェスが、呼んでる」


　銀の魔力が、レトゥリアーレの指先に、凝集する。

　溢れる光が、ジァルデを隠す結界を、切り裂いた。


「ジア――――！！」




　闇黒の、檻だった。

　時魔の力と、数多のエルフを屠って得た闇の力が造りあげた、捻じ曲がり、歪み、棘の線を描く檻が、ジァルデのすべての魔力を滅し、ジァルデを閉じ込めるためだけに広がった。


　真っ暗な闇に、濡れた音が響く。



「…………っ……！」

　堪えきれずに漏れた吐息が、闇を揺らした。

　磔にされたジァルデの艶やかな裸身が、香り立つように浮かびあがる。



「ジア――――！！」

　駆け寄るゼドが、吹き飛んだ。


　ジァルデの乳首に指をかけた男が、嗤う。
　男の額から伸びた闇黒に捻じ曲がる角が、深い闇を刺した。


「ヒヒヒヒヒ――――！」


　おぞましさに背がふるえる、あの声だ。


　ヅァギに魔王になれると嘯き、勇者の村を滅ぼさせ、エルフを殺し、
勇者に魔王を殺させる。


　何もかも、ジァルデを手に入れるために。



　ジァルデの角は、傷つけられずに伸びていた。
　手足は拘束されているが、目立った傷はないみたいだ。

　真っ暗な愛でジァルデを閉じ込めるズァビエが、ジァルデの身体を傷つけることは、ないのかもしれない。


　――――ジァルデの心を、切り裂いても。



「お前の目の前で、ジァルデを犯してやろうと思って。
　ずうっと待ってたんだ。
　遅かったなあ？
　ジァルデのここは、もうとろっとろで、俺の形になっちまったよ」


　男の指が、ジァルデのちいさな尻を割り開く。
　とろりと溢れる雫は、薬の匂いがした。


　強烈な催淫薬でも使ったんだろう。


　ジァルデの目は、ゼドを映しているのに、ゼドだと理解できないかのように、
潤んで、歪んだ。


　くぷりと指をねじ込まれると、とろけるような甘い声が、ジァルデの唇から
あふれてく。


「あ、あぁ――……！」

「かーわいいなあ、俺のジァルデ。
　俺のちんぽが欲しいんだろ？」


「…………ほ、し……ぃ…………ゼ、ど…………」


　ジァルデが呼んだのは、ゼドだった。


「ジ、ア――――――！！」

　ゼドの魔力が、爆発する。
　キュトが杖を構え、グィザが爪を翳し、レトゥリアーレが剣を抜いた。

　僕は、伝説の魔剣を握り締める。


「クロ！」

　一瞬で僕を乗せてくれたクロが、牙を剥いた。


　ゼドとキュトの莫大な魔力が、ズァビエの檻に叩きつけられる。
　ビリビリ、罅が入った瞬間、翔るクロとともに、闇の刃を撃ち込んだ。


　一閃――――！


　反動に、指が、肩が震えた。

　硬い――！


　１４９ものエルフの心臓を喰らった、魔王を超える魔力が、立ちのぼる。

　グィザの爪と、レトゥリアーレの剣まで阻んだ檻は、罅割れたことなど
なかったかのように、ジァルデを閉じ込めた。



　ズァビエが、嗤う。

　闇が、爆発する。


　ドアァアァオオォォオオン――――――！！！



　僕だけじゃない。

　ゼドも、キュトも、グィザも、レトゥリアーレも吹き飛んだ。



「ぐ、あ――……！」


　圧倒的な、力だった。

　RPGゲームで言うと、最初の一撃で全滅するあれを喰らったみたいだ。
　HP9999までしか上がらないのに、一撃で99999ダメージ喰らうあれね。


　骨が、軋む。

　血の味がした。


　闇の力は、皆の光の力の、対極だ。
　ゼドの無属性の力さえ、強過ぎる闇は、薙ぎ倒す。


　すべての力を、呑み。
　すべての力を、滅してしまう。



　僕の指だけが、動いた。


　僕の力は、同じ、闇だ。

　僕だけが、ジアのために、闘える。



　爆速で、唯一攻撃を躱せたのだろうクロが、僕の顔を覗き込んでくれる。


「ろー」

　クロが、僕の頬を嘗めてくれる。

　僕の腕は、クロを抱き締めた。



「一緒に、闘ってください」


　真っ直ぐ僕を見つめ、クロは頷いた。

　闇のなかで輝くような、ふわふわのクロの背に、跨る。




「突撃」