上 下
73 / 127

世界一むかつくモブ (*)

しおりを挟む



 囁いた瞬間、檻の前に躍り出た。

 鋭く伸ばした闇の刃を、振りかぶる。


 二撃────!

 ズァビエが放つ、闇のいかずちが、頬を裂く。


 三撃────!

 ズァビエが放つ、闇の爆発に、吹き飛んだ。


 受け身を取ったクロが、一瞬で僕を乗せ、瞬時に檻の前に躍り出る。


 突撃する僕に、闇の檻が、幾百の棘となり、襲い来る。
 空中で旋回しながら叩き斬り、檻の中央へと伸ばした刃を叩き込む。

 いかずちを躱し、抜いて下段から斬りあげ、爆発を掠め、上段から振り下ろす。


 ガギャギギギ────!!

 僕の渾身の一撃さえ、闇の檻は涼し気に跳ね返した。

 飛ばされても、飛ばされても、クロは僕を乗せて、突撃してくれる。
 闇のいかずちを掻い潜り、闇の爆発をすり抜け、檻の前に躍り出た。


 振りあげる刃が、震えた。

 硬すぎる闇の檻に、肩が、痺れる。

 闇の魔法に抵抗する魔力が、切れてくる。


 目が、霞んだ。

 落ちそうな速度を、上げる。




 ジアは、僕を、たすけてくれた。

 僕は、ジアを、たすける────!



 闇の刃を、振りかぶる。


「あぁァアアアア────!!」


 打ちつける闇の刃が、漆黒の光となり、闇を翔る。



 百撃────……!!!


 骨が、軋んだ。

 肉が、裂ける。

 血が、飛んだ。



 激痛を振り切るように、僕の全魔力をのせ、叩き斬る。


 ガギャギャギャギギギィィイイ──────!!


 悲鳴をあげるように、闇の檻が、罅割れた。


 正面から突っ込んだ僕に、

「死ね────!!」

 ズァビエが、嗤う。


「ギァリディゼクス」

 僕の目の前で、闇が、爆発した。



 ドァアアオオォォオオンン──────!!


 膨れあがる闇が、僕を呑む。



「ルル────!!」

 レトゥリアーレの悲鳴が


「ろー!!」

 ゼドの叫びが


「ひめさま!!」

 キュトとグィザの嘆きが、聞こえる。



「…………ひめじゃないよ」

 闇の爆発に呑み込まれた僕は、まだ生きていることに、目を瞠る。


 叩きつけられた闇の力が、僕の軋んだ骨を、裂けた肉を、散った血を、失った魔力を、蘇らせてゆく。



 びっくりした僕は、ちいさく笑う。

 ああ、そうだ。

 僕は、世界一むかつく、モブだった。



「な────……!?」

 引き攣って、後退るズァビエに、嗤った。


「僕はねえ、世界一むかつくモブなんだ。
 どんなにむかついても、ぽこれない。
 モブガードに守られた、闇の申し子。
 闇の力は、僕の糧に」


 僕の目は、世界一むかつくモブらしく、ズァビエを睥睨する。



「お前は僕を、殺せない」



 僕を殺すのは、レトゥリアーレだから。



 ズァビエの魔力を吸った僕の指から、闇の力が溢れてく。



「ジアは、僕を、救ってくれた。
 僕は、ジアを、たすける────!」


 噴きあがる魔力に、闇の刃が、硬く、鋭く、研ぎ澄まされる。

 クロが駆けた瞬間、すべての魔力を注ぎ、渾身の力で、振り抜いた。


 罅割れた檻を砕いた闇の刃は、次の瞬間、ズァビエの首を飛ばした。







 闇の世界が、壊れてく。


「ジア────!!」

 闇の力がほどけ、拘束具が砕け、崩れ落ちるジァルデを、駆け寄ったゼドが抱きとめる。

 ジァルデの柘榴の瞳が、ゼドの瞳に焦点をあわせ、歪んだ。


「…………殺し、て……」

 ふるえる声に、目を剥いたゼドが叫ぶ。


「大丈夫だ、ジア!!
 こんなこともあろうかと、伝説のえっち魔導士にお願いしただろう。
 俺以外が、ジアに挿れようとすると、折れる!
 未遂は、なかったことだ!!」


 あ、それ、果てしなく心折れるのだ!

 最愛の人の後ろの蕾がとろっとろに濡れ開き、くぱあって誘って、入れてって言ってくれるのに(名前は脳内変換)ギンッッギン!! だったのが折れる衝撃!


「ジアに挿れられるのは、俺だけだ!!!」


 つぶらな瞳で、胸を張って叫ぶことなのかな────!


 うん。
 確かに、ジァルデのそこは、薬は溢れてたけど、白濁は溢れてなかった!

 しっかり見てごめんなさい。
 めちゃくちゃ色っぽくて、初動が遅れて、全力でごめんなさい!!


 ちょっと熱い頬で、僕は親指を立てる。

 耳まで真っ赤になったジァルデは、ゼドのもふもふの胸に、顔を埋めた。


「…………傍にいて、いい……?」


「いてくれないと、死ぬ」


 重いゼドの愛に、ジァルデは目を瞬いて、笑った。
 ちいさな子どもみたいに、赤い頬で、ゼドのふわふわの手を握る。


 よかったね。

 皆で笑った時だった。



『ヒヒヒヒヒ────!』


 あの、声がした。

 遠く、近く、この世のものではないかのように、歪んだ嘲笑が、木霊する。


 皆が、転がったズァビエの首を、振り返る。




『死ぬべき者は、死ぬんだよ。
 お話のとおりに』


 ドォン────……!!



 僕のなかの、闇が、爆発した。










しおりを挟む
感想 181

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ
BL
「あ…もう、駄目だ」プツリと糸が切れるように限界を迎え死に至ったブラック企業に勤める主人公は、目覚めると悪役令息になっていた。どのルートを辿っても断罪確定な悪役令息に生まれ変わったことに絶望した主人公は、頑張る意欲そして生きる気力を失い床に伏してしまう。そんな、人生の何もかもに絶望した主人公の元へ王国お抱えのエルフ様がやってきて───!? 【王国至宝のエルフ様×元社畜のお疲れ悪役令息】 ▼この作品と出会ってくださり、ありがとうございます!初投稿になります、どうか温かい目で見守っていただけますと幸いです。 ▼こちらの作品はムーンライトノベルズ様にも投稿しております。 ▼毎日18時投稿予定

【完結】別れ……ますよね?

325号室の住人
BL
☆全3話、完結済 僕の恋人は、テレビドラマに数多く出演する俳優を生業としている。 ある朝、テレビから流れてきたニュースに、僕は恋人との別れを決意した。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」  洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。 子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。  人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。 「僕ね、セティのこと大好きだよ」   【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印) 【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ 【完結】2021/9/13 ※2020/11/01  エブリスタ BLカテゴリー6位 ※2021/09/09  エブリスタ、BLカテゴリー2位

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

幽閉王子は最強皇子に包まれる

皇洵璃音
BL
魔法使いであるせいで幼少期に幽閉された第三王子のアレクセイ。それから年数が経過し、ある日祖国は滅ぼされてしまう。毛布に包まっていたら、敵の帝国第二皇子のレイナードにより連行されてしまう。処刑場にて皇帝から二つの選択肢を提示されたのだが、二つ目の内容は「レイナードの花嫁になること」だった。初めて人から求められたこともあり、花嫁になることを承諾する。素直で元気いっぱいなド直球第二皇子×愛されることに慣れていない治癒魔法使いの第三王子の恋愛物語。 表紙担当者:白す(しらす)様に描いて頂きました。

処理中です...