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異世界転生男子高校生、風磨たん、光臨
しおりを挟むレトゥリアーレに愛を叫んで、拳を掲げる高校生に、レトゥリアーレは剣を掲げる。
「やはり殺す」
「いやいやいや、かわいそうだから止めてあげて!」
止めてくれるキュトがやさしい。
僕は、ちょっと、止める気、薄まってた。ごめんなさい!
わあわあ騒ぐ僕たちを見つめていたグィザが、レトゥリアーレと僕を指す。
「魂、つがい。
誰も、裂けない」
「…………え?」
僕の頬が、熱くなる。
この世界で謳われる、魂のつがい。
幾度生まれ変わっても、必ず巡り逢い、必ず愛しあう、魂のつがい。
僕と…………レトゥリアーレさまが…………?
「ルル」
レトゥリアーレの腕が、抱きしめてくれる。
「あぁあああアア! だ、だめだ、レトゥリアーレ!!
そいつは、レトゥリアーレを殺すモブ────!!!」
キュアァアアアア──!
レトゥリアーレが放った氷の矢が、高校生を貫く寸前、防御魔法が発動する。
主人公を守るための死なない仕様、主人公チートだ。
額に刺さる直前で止まった矢を、愕然と見開かれた榛の瞳が見つめた。
「ルルと私を引き裂く者は、ゆるさない」
レトゥリアーレの凍てつく瞳に、高校生の見開かれた目から、涙が溢れ落ちてゆく。
「そ、んな……お、俺、は……レトゥリアーレを生かして、レトゥリアーレとしあわせになるために、ここに来た、のに…………!」
「え、とあの、転生って望んでできるものなの?」
空気読まない突っ込みごめん。
僕、空気読めないっていうか、読まないっていうか、いや、聞きたくて!
僕、トイレットペーパー抱えてた次が、ふんぎゃあああだったよ。
「だ、だって、俺、じゃないと、なんで転生したのか、わかんな…………
うわあぁあああん! レトゥリアーレが、俺のこと振った────!!」
泣きじゃくる高校生の頭を、グィザの手が、ぽふぽふする。
「泣くな。
つがい、この世界」
高校生の目が、きらきらする。
「もしかして、グィザ!?」
グィザは、首を振る。
「じ、じゃあ、キュトたん?」
キュトと高校生を見たグィザは、首を振った。
「うわあぁあああん! やっぱり俺のつがいなんていないんだぁあアア!!!」
泣きわめく高校生をしばらく見つめたキュトの目が、細くなる。
「捨ててく?」
「うわあん! 捨てないで、キュトたん!」
腰に抱きつかれたキュトの目は、ブリザードだ。
べりべりキュトから引き剥がされた高校生は、涙目だ。
「俺、昔の名前、忘れちゃって。
風磨たんでお願いします」
ぐすぐす鼻を啜った学ラン高校生は、呼び名を指定した。
「異世界転生主人公が、最速でレトゥリアーレに逢えるのって、グィザのイベントだろ?
最速で逢おうって、転生してすぐに来たのに、終わってんだもん。
早すぎ!」
じと目で睨まれた僕は、思い出す。
ああ、明日突入だったら、風磨は間に合ってた。
グィザのイベントは、チートな主人公たちみんな集合! イベントでもある。
どのルートを選んでも、必ず通るイベントだ。
勇者エォナとレトゥリアーレのパーティと、獣人たちの国を滅ぼされたことに怒ったキュトと、転生してきた高校生と、グィザが出逢い、皆でソォガ帝国の騎士たちと闘い、宰相や、軍司令官たちの首を刎ね、玉座の間で王を追い詰める。
卑劣な王の泣き落としに、首を刎ねるのを一瞬躊躇ったグィザを、王の剣が切り裂き、グィザの右目は潰れてしまう。
血を流す瞳で、グィザは王の首を刎ねた。
かなり過酷な戦闘のはずが、皆のチートで何とかなるよ! というお気楽仕様だった。
なのに、グィザの目が潰れてしまうことに、非難囂々。
でも隻眼になったグィザが、めちゃくちゃかっこよかったので、世界一むかつくモブほどは罵られなかった。
色々痛いこのゲームのすっきりするところは、終わらせる気のない裁判のために拘留とか、いつまで経っても決着がつかないとか、幽閉されていつまでも生きてるとかが全くなく、さっくり首が飛ぶところだった。
RPGゲームだからね。ぽこるの命だからね。
残虐だという批判もあったけど、僕はさっぱりした!
でも、ほんとうに殺すのは、心が拉げる。
この手で首を飛ばした感触は、いつまでも指に残る。
こんな思い、誰にもさせたくない。
だから僕は、もっと、強くなる。
みんなを守って、闘えるように。
応援ありがとうございます!
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