47 / 117
ライバル、来た!
しおりを挟むキュトとレトゥリアーレの魔法で傷は治ったとはいえ、獣人たちは疲れ果て、よれよれだ。
せっかくのお耳も尻尾も、ぺしゃんてしてる!
なんて悲劇!
戻ろうにも、国は焼き滅ぼされて、ボロボロだ。
「とりあえず、ジアと魔王さまに相談しよう!」
僕が手を挙げると、獣人たちの顔は真っ青になった。
「ま、ままままままお──!」
「こ、こここ殺さ、る──!」
僕は慌てて首を振る。
「めちゃくちゃやさしい、もふもふ魔王だよ。
魔力がものすんごく強い者を、魔王って言うんだって。
人間に捨てられて、エルフに殺されそうになった僕をたすけてくれたのは、ジアと魔王さまだよ」
にこにこする僕の隣で、レトゥリアーレが俯いた。
「……すまない、ルル」
そっと、レトゥリアーレの銀の髪をなでなでした僕は、微笑んだ。
「だから、皆も大丈夫と思う。
たぶん、ジアにお願いしたら、お金湧くんだよね。
皆を食べさせることができるはず!」
使えないと断言された伝説複製魔法に、全力で頼りたい!
「元気が戻ったら、国に帰って復興しよう。
今、国に帰っても、皆倒れちゃうよ」
僕の言葉に、顔を見合わせた獣人の皆が、グィザを見る。
グィザは、こくりと頷いた。
「ひめさま、たすけた命。
ひめさま、おまかせ」
グィザが胸に手をあて、膝をつく。
獣人たちも、あわてたように胸に手をあて、膝をついた。
「ひめさま、おまかせ」
いやいやいや──!
僕、なんか責任重大になってる────!
「くぅううううう!
僕、めちゃくちゃ回復魔法使ったのに!
苦手なのに、がんばったのに!
ひめさまのほうが、愛されてる──!」
嘆くキュトを、そんなことないよ、と慰めた時だった。
「え、待って待って待って。
なんでゾォガ帝国の城が崩れてんの?
地下に捕らえられてるはずの獣人が勢ぞろいしてんの?
グィザが隻眼にならないまま、ふさふさしてるー!
きゃ──! かっちょい──!」
もだもだする学ランの男子高校生に、僕は引き攣った。
榛の髪が、さらさら揺れて、榛の瞳が、きらきらグィザを見つめてる。
黒い学生服は、ゲームで見たとおりの古風な感じ満載だ。
なんて、わかりやすい異世界転生!
「あー、えーと、きみは、佐鳥風磨くん?」
聞いた僕を見た高校生の口が、あんぐり開いた。
「出たぁああああぁあァアア────!!!!
世界一むかつくモブ!!!!!」
指された僕が悄気る前に、レトゥリアーレとキュトとグィザと獣人たちが前に出る。
「死ぬか」
「当然でしょ」
「殺す」
「ひめさま、守る」
口々に呟かれた言葉に、僕も高校生も跳びあがった。
「うっそ、キュトとレトゥリアーレだ!
はー! 生キュトすげえ!
生レトゥリアーレ、やばい!
拝もう」
真っ赤になって、キュトとレトゥリアーレを拝みだした高校生に、皆が顔を見合わせる。
僕はなんか、ともだちになれる気がしてきた!
「え、えと、佐鳥くん? 僕は──」
「知ってるよ! こんのクソが!!!
レトゥリアーレを殺すなんて、俺が絶対絶対絶対絶対、させねえんだからなぁああアァアアア!!!!」
額の血管が切れそうな勢いで叫ぶ高校生に、レトゥリアーレが剣を振り下ろそうとしたのを、キュトが慌てたように止める。
「いやいやいや、レトゥリアーレ守るって叫んでる子を、一撃で殺すのやめよう」
素晴らしい突っ込み!
「僕は、レトゥリアーレさまを生かし、しあわせにするために転生したのです!」
拳を握って叫ぶ僕に、高校生は目を瞬いた。
「え? そ、そうなの?
もしかしてあんたも異世界転生?」
僕はしっかり頷いた。
「世界一むかつくモブ、ルルは、レトゥリアーレさまの腕のなかで死にました。
エルフを全滅させ、レトゥリアーレさまを傷つけたことを、心から悔い、すべての闇の魔力と魂を捧げ、やり直したいと願った。
ゲームの知識を持ち、レトゥリアーレさまを世界で一番愛する僕が、ルルの魂を補完するために選ばれたのです」
おお! と目を輝かせて聞いていた高校生のオーラが、淀んだ。
「はあ?
ふっざけんな!!
世界一レトゥリアーレを愛してるのは俺だ!!!
俺は絶対に、お前の毒牙から、レトゥリアーレを守る!!!
そのために転生したんだからなぁあアァアアア──!!!」
ライバル、来た────!!
応援ありがとうございます!
183
お気に入りに追加
2,307
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる