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久方ぶりの授業だよ

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 ちゃちゃん、ちゃらん、ららん♪

 キォタナ魔法学園の、授業開始のチャイムが鳴り響き、俺は慌てて教室に滑り込んだ。

 遅刻寸前!

 ……なんか主人公ぽくて危険危険。


 急いで教室の一番後ろ、窓側の隅っこの席につく。
 隣には、瓶底眼鏡のトエが座っていた。


「わあ、登校してきた!
 お尻、よく持ったねえ」

 いやいやいや。
 朝いちばんの挨拶は、おはようじゃね?


「……おはよう、トエ。
 …………何か、知ってるのか?」

 声を低めた囁きに、トエの唇の両端があがる。


「皆いるかー!
 授業を始めるぞー!」

 白い歯をきらめかせながらテチが入ってきて、ちぇ、と唇を尖らせた俺は、真面目に教科書とノートを開いた。


 学生の時はさ、何でこんなことしなきゃならないんだよ、と思ってた。
 適当にさぼって、適当にしとこうと。

 社会人になったら、頑張って真面目に勉強して、ストレートで大学入って、ちゃんと卒業しておいたらよかったなあって思った。

 ような気がする! ので、俺は真面目に授業を受ける!


「皆、魔力最低クラスに入れられてしょんぼりしてると思う。
 魔力っていうのは、遺伝の要素が強いと思ってると思うが、そんなことないぞ!」

 え、そ、そうなの?
 俺、最初から絶望だと思ってた!

 目をまるくする俺に、テチは満足そうに頷いた。


「生まれつきっていうのも、確かにあるけどな。魔力ってのは、研鑽で上がってくことが多い。だからこの学園は階級制になってる。
 鍛えることで、魔力は上がる!
 皆、あきらめずに、がんばっていこーな!」

 白い歯きらんなテチに励まされた俺は、こくこく頷いて、拍手した。

 拍手したのは、俺だけだった。

 は、はずかし──!


 隣で瓶底眼鏡のトエが、肩を揺らして笑ってる。



 初めて聞く魔法の授業は、わくわくした。

 今世の記憶を思い出してみたけど、俺の最大の任務は、どうやってディーにくっついて、ディーに可愛がってもらって、ディーに頭をなでなでしてもらい、ディーに手を繋いでもらい、ディーにお尻をいじってもらうかだった。


 何の勉強もしてない……!
 ちょっとは勉強しろ────!!

 思わず拳を握るくらい、何の記憶もない。


 そりゃ、頭弱くなる。
 間違いない。

 さすが、残念な悪役!


 この世界、日本語でよかったな。
 読み書きできるの、絶対、前世持ちだからだそ!

 今世の俺にぷりぷりしながら、俺はゾイが恵んでくれた古本な教科書を覗き込む。

 俺は今のところ魔力が少ないから、派手な魔法は使えないみたいだけど、それでも指先から火を点けられるのとか、すごくね?

 魔法使いだ!!

 めちゃめちゃ目がきらきらしてたんだと思う。
 隣のトエが、吹きだして笑う。

「魔法学の初歩の初歩で、そんなに楽しそうにしてる子、初めて見たよ!」

「え、そ、そう?」

 えへへ。
 頭を掻いたら、瓶底眼鏡を揺らして、トエが笑う。

「褒めてないから」

「え──!」

「こらそこ! 初歩だからってさぼってるんじゃない!
 リユィ! 前に来て、この問題を解きなさい!」

「ぎゃあ!」

 ぴこんと跳びあがった俺は、項垂れた。
 教室中から、くすくす笑う声がする。

 仕方なく立ちあがって、黒板の前に立つ。

 うう、それだけでお腹痛いよ。
 前世からのトラウマかな。

『炎の魔法陣を強化する紋様を描け』

 問題を見あげた俺は、うんうん唸って、渾身の答えを描いた。


「どうだ!」

 胸を張った俺に、テチは白い歯を見せて笑う。


「全ッッ然、違う!!
 真面目に授業を聞くように!」


「ま、真面目に聞いてたのに──!!」

 俺の悲鳴に、教室の皆が笑った。



 真面目な学生初日は、トエのおかげで、大失敗みたいです。








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