幼女のお股がツルツルなので徳川幕府は滅亡するらしい

マルシラガ

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第三幕 子猫はもっと遊びたい

子猫は飄々と町をゆく

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「親分さん。姫さんの足取りはまだ掴めてねぇんで?」

 朝餉代わりの茶飯屋から出てきた『頭割ずわりの親分』こと十手持ちの藤次は、急に背後から声をかけられても驚くことなく袖に手を入れたまま歩き続けた。

「ふん。そうやって俺に探りを入れてくるところをみると、おまえらもまださっぱりなのかい」

 猿の面を頭に乗せた遊び人風の小男が、面とさして変わらぬ猿顔をにやけさせて親分の後について歩く。

「どうやら姫さんは隠れん坊が上手なようで、あっしらの仲間は誰も見かけてねぇですよ。それどころかあっしらの倍以上も人手を持っている北町奉行ですら碌な報告が入ってきてないようですぜ」

「はっ、北をあてにしてどうすんだ。あすこは『お笑い町奉行』だぞ」

「それでも何も手掛かりが無いよりはマシじゃないですかねぇ」

「ほぉ? そんじゃあ何かマシな手掛かりがあったのかい」

「……何もありやせんでした」

 頭割りの親分が肩越しに振り返って挑発するように片眉を上げながら訊くと、小猿は居心地が悪そうに俯いてそう答えた。

「ぷっ! ふはははは! おめぇまで俺を笑わせるな――。っ!?」

 さも可笑しそうに笑っていた親分が突然口を噤んで、これまでにない真顔になって立ち止まった。

「どうしやした親分」

 もう少しで背中にぶつかりそうになった小猿も慌てて足を止める。

「あの子供ガキ……愛姫じゃないか? 見ろ、似せ絵にそっくりじゃねぇか」

 親分の視線の先には青太郎たちと一緒にキョロキョロと周囲を見回しながら歩いている愛姫の姿があった。

 親分の背後から肩越しに愛姫を見た小猿が笑いを含んだ声で言う。

「おや、親分さんでも引っかかりやしたか」

「引っかかる? ってこたぁ、あれは違うのか」

「あれは猫柳家の子ですよ。先代将軍の末子が継いだド貧乏な旗本猫柳家の幼女家臣団でさぁ」

「あぁ、あれが『旗本ごっこ』の子供らか。聞いたことはあるが実物を見たのは初めてだ」

「北町の連中があの娘が愛姫だって報告を何本も奉行に上げたらしいのですがね、奉行とあの子らはどうやら家族ぐるみの付き合いがあるようで、奉行は次に猫柳の娘を愛姫だと報告した奴がいたら腹を切らせるって言ったそうですぜ」

「なんだ、そこまではっきり違うと分かってる子供か。寸の間でも喜んだのが馬鹿らしいな」

 頭割りの親分は苦々しげに唾を吐いた。

「そもそも本物の愛姫ならこうも無防備に外を出歩いてはいないんじゃないですかい?」

 違ぇねぇ。と親分は苦笑いをする。

「というか一緒にいるのは狐屋のバカ旦那じゃねぇか。何やってんだ」

「さぁ、バカのやることは見当もつきませんや。さらって身代金でも取れるならあんなのでも使い道があるんですけどねぇ」

「お? おめぇ狐屋の若旦那を攫うのかい? 面白れぇじゃねぇか、あの雷蔵とこうからやりあう覚悟があるなら、やりゃあいい」

「よしてくだせぇ。あっしはそこまで命知らずじゃありやせんぜ。くわばらくわばら」

 小猿はおどけて南無南無と手を擦り合わせた。

「それより小猿、いつまで俺の背中に張り付いていやがる。用事があるなら早く言え。そこにいられちゃ屁もできねぇだろうが」

「おっと、まだケツは締めててくだせぇよ? 風花の姉御から『近々お堀に四体の仏が浮かぶ』とのことです。これは前金で」

 小猿が親分の背後から手を伸ばすと親分の袖の中でチャリンと黄金色の音がした。

「分かった。いつものように浮かんだ仏は身元不明の入水自殺者って事で処理しておけばいいんだな」

「へい……って、親分。へぇしましたね? ケツは締めててくれって言ったのに」

「くふふふふ。しょうがねぇだろ。心高ぶる黄金こがねの音に思わずケツ穴が緩んじまったんだからよ。おっと危ないから早くどっか行きな。腹の中の第二陣がそこまで来てるぜ」

「恰好つけた言い方でなんて事言ってんですか。朝っぱらから最悪だよ、まったく……」

 小猿はただでさえ皺の多い顔を梅干しのようにしかめてブツブツと愚痴をこぼしながら裏路地へと消えていった。
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