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第二部
第六章 アルバート(inモブ女)、初めての大冒険!!!㉜『別室』
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三十二
少し経って職員のお姉さんは笑顔で帰って来た。
カウンターに取り残されたように待つ沢崎直に、とりあえずと移動を促す。
沢崎直と従者のヴィルは、お姉さんに連れられてカウンターの前から奥にある部屋へと誘われた。
先導役が笑顔のお姉さんだったことと、連れて行かれた雰囲気が平和的だったのと、連れて行かれたのが比較的近くの個室だったことを除けば、先程のクレーマーの男の人と同じような状況に思えなくもないが、連れて行かれた個室が応接室のような場所だったので、沢崎直はちょっとだけ安心した。
「こちらで少しお待ちください。」
お姉さんはそう告げて笑顔で去っていく。
(ここで急に怒られたりはしないと思うけど……。)
室内をキョロキョロと落ち着かない様子で確認しながら、沢崎直はお姉さんを待った。
お姉さんは言葉通り、今度はさほど時間を掛けずに個室へと戻ってくる。
室内に帰還したお姉さんが手に持っていたのは、先程の魔石と呼ばれるキレイな赤色の石を乗せた造りのいいトレイと、重量感のある布袋であった。
そして、そのお姉さんの後ろからは先程、荒事の対処に行ったはずの所長と見られる壮年の職員の男性もついてきた。男性の手には書類が握られている。
二人が沢崎直の待つ室内に到着すると、今度は職員のお姉さんではなく、所長と見られる壮年の男性が前に出た。
壮年の男性は、そわそわと立って待っていた沢崎直に椅子を勧め、自分もその正面に座った。
ヴィルは沢崎直の椅子の背後に立ったまま控えた。
お姉さんは荷物として持っていた魔石と、布袋を沢崎直の前に置くと、端に待機するように座った。
布袋からはじゃらっというような金属の音が響いた。
「あの魔石を持って来たのは、お前さんか?」
前置きなしに単刀直入に尋ねられて、沢崎直は素直に頷く。何か反論とか反抗とかしようという気など、僅かにも起こらないほどその壮年の男性職員(所長)は迫力があって、沢崎直は圧倒されるだけだった。
「は、はい!拾いました。光ってキレイだったので。」
それは海岸で貝殻を拾った時のようなセリフだが、沢崎直はこくこくと頷きながら目の前の人物の迫力に充てられて素直にそう答えていた。
目の前の人物の尋問のような質問は続く。
「何かその場所で他に見たか?」
(……他に?)
聞かれても思い当たる節などない。
そもそもあののどかな場所には、草と花と動物と虫くらいのモノしかいなかったし、あの場に不釣り合いな物騒なモノなど少なくとも沢崎直は見ていない。モンスターや、その痕跡などのことを尋ねられているのは分かるのだが、沢崎直にそんな記憶の持ち合わせはなかった。
「……ないと思うんですけど……。」
「そうか。いや、悪いな。モンスターが出没したなんて聞いたからな。色々、詳しい話を聞いておきたかったんだ。被害が出てからでは遅いだろ?」
確かに、街の安全を守る立場の人たちからしてみたら、少しでも情報を仕入れておきたいという気持ちは分かるので、沢崎直は頷いた。
「だ、大丈夫です。あの、お役に立てず、申し訳ありません。」
何なら、頭を下げた。
モンスターに遭遇しなかったのは沢崎直にとっては幸いだが、未確認であるというのは安全安心を脅かす要素の一つになる。反対に確認が出来たなら、このギルドで討伐依頼を出したりして、沢崎直なんかとは違う実力確かな冒険者が脅威を取り除くなり、騎士団の人が倒したりできるのだ。
街に住む者としても、腕の立つ人に安心安全を守ってもらいたい者としても、情報一つ持たず役に立てないことを申し訳なく思うのも本当だし、所長と見られる職員の男性の迫力にビビっていることも頭を下げた原因の一つだ。
沢崎直が縮こまっていることには気づかず、その男性は続ける。多分、細かいことは気にしない豪放磊落な人物なのだろう。
「この間も、近くの森でワイルドベアーが出たばかりだろ?もしも、厄介なモンスターならと、こっちも警戒しててな。」
急に出てきた『ワイルドベアー』という心臓に悪い言葉に、沢崎直はびくっと反応する。
目の前の人物は、そのワイルドベアーの一件と沢崎直の関わりを知るはずもないので、沢崎直の反応がただワイルドベアーという恐ろしいモンスターに怯えたものだと受け取ってくれていたようだ。
「あれは、どうやら倒されたようだから、安心しろ。」
安心させるように鷹揚に微笑んでくれる男性。そうして微笑むと、相手をとても力強い気持ちにさせる独特の笑顔であった。
だが、沢崎直の心はその笑顔ですら穏やかさを取り戻すことはできない。
(も、森のくまさん!いつまでも、ひっぱってくるぅぅぅ。)
異世界転生初日の出来事が、忘れた頃に再度沢崎直の前に浮上してくる。
自分がどさくさで倒しましたとは口が裂けても言えない沢崎直であった。
少し経って職員のお姉さんは笑顔で帰って来た。
カウンターに取り残されたように待つ沢崎直に、とりあえずと移動を促す。
沢崎直と従者のヴィルは、お姉さんに連れられてカウンターの前から奥にある部屋へと誘われた。
先導役が笑顔のお姉さんだったことと、連れて行かれた雰囲気が平和的だったのと、連れて行かれたのが比較的近くの個室だったことを除けば、先程のクレーマーの男の人と同じような状況に思えなくもないが、連れて行かれた個室が応接室のような場所だったので、沢崎直はちょっとだけ安心した。
「こちらで少しお待ちください。」
お姉さんはそう告げて笑顔で去っていく。
(ここで急に怒られたりはしないと思うけど……。)
室内をキョロキョロと落ち着かない様子で確認しながら、沢崎直はお姉さんを待った。
お姉さんは言葉通り、今度はさほど時間を掛けずに個室へと戻ってくる。
室内に帰還したお姉さんが手に持っていたのは、先程の魔石と呼ばれるキレイな赤色の石を乗せた造りのいいトレイと、重量感のある布袋であった。
そして、そのお姉さんの後ろからは先程、荒事の対処に行ったはずの所長と見られる壮年の職員の男性もついてきた。男性の手には書類が握られている。
二人が沢崎直の待つ室内に到着すると、今度は職員のお姉さんではなく、所長と見られる壮年の男性が前に出た。
壮年の男性は、そわそわと立って待っていた沢崎直に椅子を勧め、自分もその正面に座った。
ヴィルは沢崎直の椅子の背後に立ったまま控えた。
お姉さんは荷物として持っていた魔石と、布袋を沢崎直の前に置くと、端に待機するように座った。
布袋からはじゃらっというような金属の音が響いた。
「あの魔石を持って来たのは、お前さんか?」
前置きなしに単刀直入に尋ねられて、沢崎直は素直に頷く。何か反論とか反抗とかしようという気など、僅かにも起こらないほどその壮年の男性職員(所長)は迫力があって、沢崎直は圧倒されるだけだった。
「は、はい!拾いました。光ってキレイだったので。」
それは海岸で貝殻を拾った時のようなセリフだが、沢崎直はこくこくと頷きながら目の前の人物の迫力に充てられて素直にそう答えていた。
目の前の人物の尋問のような質問は続く。
「何かその場所で他に見たか?」
(……他に?)
聞かれても思い当たる節などない。
そもそもあののどかな場所には、草と花と動物と虫くらいのモノしかいなかったし、あの場に不釣り合いな物騒なモノなど少なくとも沢崎直は見ていない。モンスターや、その痕跡などのことを尋ねられているのは分かるのだが、沢崎直にそんな記憶の持ち合わせはなかった。
「……ないと思うんですけど……。」
「そうか。いや、悪いな。モンスターが出没したなんて聞いたからな。色々、詳しい話を聞いておきたかったんだ。被害が出てからでは遅いだろ?」
確かに、街の安全を守る立場の人たちからしてみたら、少しでも情報を仕入れておきたいという気持ちは分かるので、沢崎直は頷いた。
「だ、大丈夫です。あの、お役に立てず、申し訳ありません。」
何なら、頭を下げた。
モンスターに遭遇しなかったのは沢崎直にとっては幸いだが、未確認であるというのは安全安心を脅かす要素の一つになる。反対に確認が出来たなら、このギルドで討伐依頼を出したりして、沢崎直なんかとは違う実力確かな冒険者が脅威を取り除くなり、騎士団の人が倒したりできるのだ。
街に住む者としても、腕の立つ人に安心安全を守ってもらいたい者としても、情報一つ持たず役に立てないことを申し訳なく思うのも本当だし、所長と見られる職員の男性の迫力にビビっていることも頭を下げた原因の一つだ。
沢崎直が縮こまっていることには気づかず、その男性は続ける。多分、細かいことは気にしない豪放磊落な人物なのだろう。
「この間も、近くの森でワイルドベアーが出たばかりだろ?もしも、厄介なモンスターならと、こっちも警戒しててな。」
急に出てきた『ワイルドベアー』という心臓に悪い言葉に、沢崎直はびくっと反応する。
目の前の人物は、そのワイルドベアーの一件と沢崎直の関わりを知るはずもないので、沢崎直の反応がただワイルドベアーという恐ろしいモンスターに怯えたものだと受け取ってくれていたようだ。
「あれは、どうやら倒されたようだから、安心しろ。」
安心させるように鷹揚に微笑んでくれる男性。そうして微笑むと、相手をとても力強い気持ちにさせる独特の笑顔であった。
だが、沢崎直の心はその笑顔ですら穏やかさを取り戻すことはできない。
(も、森のくまさん!いつまでも、ひっぱってくるぅぅぅ。)
異世界転生初日の出来事が、忘れた頃に再度沢崎直の前に浮上してくる。
自分がどさくさで倒しましたとは口が裂けても言えない沢崎直であった。
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