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天使の誘惑

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(※ガイア視点です)

エリザベス王女と義兄上を視界に入れつつ、適当に舞踏会を過ごしていた。

愛しのベアトリーチェの頼みで、シリル・ローレンスが現れる可能性を考え、周囲を警戒しながら…。

シリル・ローレンスは、頭に花が咲いた、無神経で身勝手な男だ。人として最低限持たなくてはいけない、倫理観と責任感すら皆無。
ベアトリーチェの危惧している通り、身分を偽るくらい平気でやるだろ。
自分の言動は全て正義だと疑わないあの男は、罪の意識など一欠片も持たずに。

自国の王族に心底嫌われているにも関わらず、エリザベス王女への異常な執着を隠しもしない。
嫌悪や怒りに気づいていない…というよりも、そもそも自分が嫌われるという選択肢が頭に無いらしい。
どういう思考回路をしているのか…一度頭の中を開いて見てみたいものだ。

手段を選ばない異常なやり方は幼い頃から変わらず…。
エリザベス王女に接近するため、ベアトリーチェと婚約しようとしている…と、スペンサー公爵家の“影”に報告された時は、怒りでどうにかなると思った。
愚かなっ…エリザベス王女と婚約するためにベアトリーチェを利用しようとするなんて酷い侮辱だ。

ベアトリーチェは、僕だけの婚約者だ。
絶対に渡さない。
何があろうと、彼女のそばを離れる事はない。

過去にベアトリーチェが乗っている馬車を追って、スペンサー公爵邸にまで押し掛けて来た時があった。
すぐに門前払いをさせて、彼女に害が直接及ぶ事はなかったが…あの時のベアトリーチェは深刻な表情で僕に抱き付いてきた。

その様子を見て、僕は確信した。
シリル・ローレンスは、ベアトリーチェをずっと悩ませている…と。

ベアトリーチェの様子が、妙に落ち着いていて、大人びていて…とても痛々しく見えたからだ。
こんな乾いた表情になるまで、長い間一人で抱えていたのか…?

ベアトリーチェにこんな顔をさせるなんて…許さない。

…同時に、エリザベス王女と義兄上はベアトリーチェの特別であり、僕の大切な友人でもある。
僕らから幸せを奪う気なら、容赦はしない。

その内…利用する目的だけでなく、色目を使い、ベアトリーチェをも欲するようになったら……可能性は大いにある。
ああ…考えただけで冷えた怒りが込み上げてくる。


ーーーそうでなくとも、ベアトリーチェに色目を使う令息たちが多いというのにっ…!


日々魅力を増しながら成長している彼女は、社交デビューをしていないにも関わらず、令息たちからの視線を集めていた。

ある時は城で、またある時はお茶会で、そのまたある時はグレンヴィル、スペンサー両公爵家と関係がある家門と会った時…。

天使のように美しく、可愛らしいベアトリーチェ。
華奢で小柄な体型は庇護欲を誘い…そのうえ、しっかり女性らしい体つきをしている。
最近は可愛らしいだけではない……そう、色っぽいのだ。

ようやく胸に下着をつけてくれて安心したくらいに。
あの…『どうぞご自由にお触り下さい』と言わんばかりにアピールしてくる時期は、本当にきつかった。

胸に意識を向けないように足を視界に入れていたのだが……どうやら自分は、太ももが好きらしい。
これは良くない流れだった。

白く綺麗で、すべすべで柔らかく、細いのに肉感的で、極上の触り心地なのだ。
二人きりで完全に気が抜けていると、欲望に負け…ベアトリーチェのドレスを下着が見えそうなくらい上げて、太ももを撫で回してしまう。
ニーソックスの中にまで指を入れてしまった時、ベアトリーチェが戸惑いながらも喜んでいるように見えて…あれはなかなかの威力だった。
何がとは言わないが。

彼女は何をしても、無抵抗で全肯定して受け入れてくれる。
…むしろ、好きなだけ好きな事をしてくれと幸せそうに煽って、理性を溶かしてくる。


だが…それは僕とエリザベス王女に限定した話だ。


ベアトリーチェは他に対してはガードが固い方。
そこは安心できる。

心配な理由は…自分の容姿にあまり興味がなく、無防備な部分があるからだ。
エリザベス王女には過剰なまでに、賢い頭で思考を巡らせるのに……自分が周りを惹き付けるという考えがないのだ。

遠回しに気をつけて欲しいと伝えたら……彼女は変にドライな視点で物事を見る事があり、『王家と繋がりのある公爵家の娘だからでは…?それだけだと思いますよ』と、きょとんとした顔で言われた。

…駄目だ、ずっとそばで守らないと。


『(…今すぐビーチェに会いたい)』

婚約者がいるとわかっていても言い寄ってくる令嬢たちをあしらうのも、いい加減疲れてきた。

ポーカーフェイスの笑顔で対応し、内心うんざりしながら思う。
後々、ベアトリーチェを軽く見た事を、後悔するだろうな…と。

冷ややかな気分で、また周りに視線を投げると…エリザベス王女の元へ一人の侍女が近付いてきた。

耳打ちで何かを伝えると、エリザベス王女の表情が強張り、顔が青くなった。

ーーー何か問題が…?

僕はすぐにエリザベス王女の元に足を動かした。
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