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初めて欲しいもの

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(※ガイア視点です。全く十歳らしくありません…)

スペンサー公爵家の窮地を救い、父に気に入られ、笑いかけられている少女が妬ましかった。

僕と母には、厳しく、冷たいくせに…。

父の関心が、本来家族が受けるべき暖かなものが、他人に横取りされているとしか思えず、ベアトリーチェ・グレンヴィルを疑った。


ーーーだから、どうしようもない勘違いをして、恩人の少女に、失礼この上ない態度を取ってしまった。


…彼女の事を、所詮は蝶よ花よと甘やかされて育った、苦労を知らない箱入り娘だと思っていた。
薄っぺらい綺麗事を口叩き、自分が恵まれた立場の余裕からくる偽物の奥ゆかしさ。
自分を“綺麗”に見せ、味方を作るのが上手い……そんな風に誤解していた。

この手の輩は、表では周りを引き立て役にして恩着せがましい聖人を気取り、裏で自分の思う通りに糸を引いている、陰湿で傲慢な人間が多い。
人の苦痛や気持ちに共感できない、自分が“特別な選ばれた存在”だと、“勘違い”してしまう人間に多く見られる“症状”だ。

まだ計算でやっている訳ではないが、おそらく無意識にその片鱗を見せていると思い込んでいた。
エリザベス王女を助け、ご本人と王妃に気に入られている前例があるため、余計に…。

自分に危機が迫れば、きっと我が身のために周りを平気で切り捨てる、自分が一番可愛いタイプに決まっている…と。

僕はそんな意図込め、挑発的に嫌味を言って本性を引き出そうとしたが、彼女は…浅ましく怒ったり泣いたりしなかった。

ただ…彼女は困った様子で黙っていただけ。

その様子は、妙に落ち着いて見えて、無垢な傲慢さ等無く、想像していた反応と大分違っていた。

だが…アップルパイを運んできた侍女のおかげで、すぐに疑問と誤解が解けた。
侍女の言葉を裏付けるように、彼女が青白くなり、泣きそうな、焦った顔になった。
これは…この流れでこんな表情をするという事は、僕に嫌われると思ったのだろう…。


ーーーいじらしく、何と愛らしい事か…。


そんな言葉が、自然と頭に浮かんだ。

同時に…僕は何て浅ましく、歪んだ視点で物事を判断し、周りが見えていなかったのかと実感した。
自分の事しか考えていなかった…と、後悔し、反省した。

けれど…燻っていたものが無くなり、クリアな思考で今回の事を考え直す事が出来た。

…つまり、彼女は僕の事を純粋に好きだから助け、僕の安否がわかるまで不安な日々を過ごし、僕の事が知りたくて父を質問攻めにしていたという事になる…。

想像するだけで、胸が締め付けられた。

…それから、にわかにも信じがたい事だが、侍女の言葉が本当なら…父は、素振りを見せなかっただけで僕を大事に思っていた可能性がある…。
当然、今までの父の態度を考えると、すぐに受け入れられるものではない。
自分で確証を得られるまで信じる気はないが……仮にそうだと仮定しよう。

そうすると、納得がいく。
助けられた事で元々好意的に思っていた少女に、“実は”大事にしていた息子の話を毎回されたなら、更に彼女への好感度が上がるだろう。

父は、彼女を正しく理解して気に入ったのだ。

父とグレンヴィル公爵の仲が急に深まった理由も、それに関連付けて考えれば不思議ではない。
おそらく…自分の娘に対して、損得無しで評価する父を好意的に思ったのだろう。

………まだ、仮定の話で、全て受け入れた訳ではない…だけど、彼女の思いだけは本物だとわかる。

母以外に、僕に献身的な愛を向けてくれる人物が現れた事で、自分の見ていた色褪せた世界が、鮮やかに輝いて見えた。

そして…もっと、目の前の少女からの愛が欲しいと強く思った。


ーーーベアトリーチェ・グレンヴィルが欲しい。


僕の事が好きなのか、と問いかけた時の…あの表情が頭から離れない。
白い柔らかな頬を紅潮させ、綺麗な眉を困ったように下げ、魅惑的な瞳を潤ませ、可愛らしい口を半開きにして、表情を甘く蕩けさせていた。

見た瞬間、顔が、体が、熱くなった。

あの表情は嘘ではないし…他の令嬢のような薄っぺらい好意でもないと感じた。
となると…彼女は僕を思い慕い、羞恥を感じながらも、僕に夢中になっているという事になる。
あの表情を引き出したのは自分だと思うと、気分が高揚し、心がとても満たされている事に気がついた。

柔らかで暖かい何かが、胸からじわじわ広がり、体が包まれているような感覚がする。
…心地良い。

彼女は、僕が好きで、僕自身を見ていてくれて、僕の事を考えて助けてくれいた。

彼女は、スペンサー公爵家に恩を売り懐柔する訳ではなく…僕の事が『好き』…この理由だけで、非常事態だったとはいえ、八歳の公爵令嬢が危険を顧みず自ら馬車を降り、自分の事は二の次で馬車を貸してくれたのだ。

スペンサー公爵家のガイアではなく、だだのガイアのために危険を冒してくれた。

ああ…我ながら現金で酷い奴だが、恋に落ちるには十分過ぎる理由だった。



「父上、ベアトリーチェ様と婚約したいです」

そう言った時、父の表情が微かにゆるんだ気がした。
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